47.未来を夢見る世の中
大都市の孤児。それは不潔で凶悪で、盗賊の予備軍とされてきた。
しかし今では「金の卵」扱いだ。
魔王軍討伐が和議で終わって数年。
リック青年の寄付で始められた孤児院の子供達を中心に貧民層を集めた学校は世間の注目を集めていた。
特に爆発的に拡大を続けている輸送業、製鉄業、鉱業から注文を集めていた。
これら成長産業にとって、貴族子弟の様に気を遣う必要もなく、彼等よりも高い計算能力を持つ子供達は貴重な即戦力だった。
王家はこれら産業に目を光らせ、子供達が搾取されていないかを厳しく取り締まった。
多くの商会は彼らの収入や労働条件を厳しく守ったが、時々ブラック環境を強制する馬鹿者が現れた。
孤児院学校では「こういう事もあろうかと」告発の手法を教えていた。
証拠を掴まれた商会は忽ち廃業、解散。商会長は賠償させられ投獄。
こうしてキリエリア王国はホワイト商会だけが成長を許される様になった。
しかし、欲が出る、というには少々厳しい言い方かもしれないが、各商会はここまで頭の良い若者を前に
「もっと専門的な事できね?」
と願った。
鉄道運行システム、製鉄技術、高度な会計技術、測量術、農業の中でも付加価値の高い作物の剪定や育成…
今までであれば先達の技を盗んでこそ一流、そう言われたものだが。
「前放射線映画あったじゃん?」
「あれムッチャ解りやすかった!」
「あんなカンジーで、出来ね?」
「頼んで見っぺ!」
******
「そーんーなーのー!
各商会で責任もってやれって!!」
例によってセシリア社長に呼び出されたリック青年は頭を抱えた。
「俺は未来空想映画の模型を作って居たいんですー!
色々な技術は各商会に教えたんですー!
それをもいっぺん頼って来んなー!!って断って下さい!」
「いやいや待て待てリック君」
と言うのは王立学院の、何と学院長。元公爵家の当主である。
王家に近い高貴なお方である。
「君が放射線映画と宇宙教育映画で見せた手腕、あれは余人の追随を許さぬ、いっそ教育の手本として研究すべき見事な物であった」
「載せられませんからね!」
「しばらく教育映画の手本として、我が門下を鍛えてくれないか?」
「いーやーでーすー!」
「報酬は5百万デナリで」
「要りません!」
「ななな何とをー!」
「ちょっとリック君!」
「どうしてもやれ、と言うなら俺は妻達とこの国を…」
「「待ってー!!」」
リック青年の最終発言を言わせまいと社長と学院長は全力で阻止した。
「東国外交で筋は通したつもりですけどねえ」
「歴史学部長と芸術学部長が声をそろえて嘆いていたよ。
こんな傑物が学院に居てくれたらなあ~~~~~~~~、って」
「嘆き長ッ!」
本当はもっと長かった。
「まあ、そこまで言われちゃ協力はしま…」
「「ホント?!」か?!」
「社長、教育映画部を立ち上げませんか?」
「教育映画専門…そんな才能持った人いるかしら?」
「ヨーホー社は製紙部門もあるんです、学院で教え上手の人とか、物の概念を絵に出来る名人にピクトリアルスケッチを書かせて、ウッコさんの動画工房に頼めばいいじゃないですか」
「あの彼ね?そんな事できるかしら?」
「動画って物凄い想像力や理解力、空間把握能力に概念を絵にする能力が必要なんですよ。
放射線障害について、俺の描いた概念図を速攻で理解しましたしね」
「何と!そんな傑物が!」
「でもウッコさんたちの夢は、自分達が描いた人物や獣が夢の冒険に駆け巡る物語を作る事です。
資金稼ぎに困っていたら、仕事をあげる。
それくらいの気持ちでやってみてはどうですか?」
「でも、ホンモノを映す必要もあるでしょ?その時は助けてくれるわよね?」
「特撮でなければできない場面なんて少ないですが、助言は出来ます。
そのくらいはやりますよ」
「「お願いします!!」」
王妹と公爵の二人に頭を下げられたリック青年。
「あんたねー!!何て人達に頭下げさせてんのよ!!」
家に来ていたセワーシャに怒られた。
こんな経緯があり、ヨーホー映画王立公社に教育映画部が発足した。
「概念の図形化」という難題もリック青年の指導で徐々に形を成し、仕事が中々来なかったウッコ動画工房にとって渡りに船という事もあり、半年の間に作品は増えていった。
「凄くね?」
「解りやすくて超うれP!」
「オラも買うべ!」
これら教育映画は売れた。
商会の小規模な屋内で上映されるため、トーキーセットと合わせて売れ、ヨーホー社にとってバカに出来ない分野となった。
ただ、このシリーズ、新人社会人の男女が老賢者に質問し、それに老賢者が答える動画が挟まるのだが。
新人娘が何故か妙に可愛らしい、というか性的だ。
「やべ、この世界に萌えを齎しちまった…俺のせいじゃないよね?」
妻二人は何も言わず、ジドーっとリック青年を見つめた。
「いやいやいや!人物デザインも俺じゃないし!
なんとなくセワーシャとアイラを足して二で割った感じだし!
ありゃウッコさんかスタッフの趣味でしょ?」
「前の宇宙教育映画で可愛い絵を描いたのは、リックさんですからね~~~~~~~」
「ね~~~~~~~」
「相槌長っ!!」
二人の機嫌を取るため、リック青年は王都でデートを楽しんだ。
夕食を取った食堂で
「何時か俺は月に行って魔物を倒して月の領主になるんだー!」
「俺も行くぞー!」「ロケットっていつできるかなー?」
近くの子供達がはしゃいでいる。
「5百年位時間を進めちゃったかあ~」
「それは良い事ではないのですか?」
「それは解らないよ」
過度な発展は社会に歪みを生む。
「でもでも!赤ちゃんで死ぬ子、少なくなったよ?!」
「ありがとうねアイディー。アイラ。
農村でも病院が増えたし、衛生教育も広がったのは君達のお陰だよ。
君たちは沢山の赤ちゃんの命を救ったんだ」
「えへへ~」「そんな事は…」
「この世の人は二ついて~、飲まぬ奴~と飲むバカと~、同じ人なら飲めや飲め~。
ハイ!、ランランラン…」
店には流行り歌が流れた。蓄音機が随分と安価になって、店で流せるくらいになったのだ。
リック青年の前には、愛する美しい妻二人の笑顔。
「俺は幸せになったもんだなあ…」
リック青年の幸せは、まだまだ続くのであった。
******
巨大な大陸の遥か遠方、8千km彼方のボウ帝国。
広大で肥沃な土地から上がる莫大な富を持つこの経済圏が鉄道でつながった。
2年かかっていた航路が僅か2週間でたどり着けるのだ。
そして、飛行機の往来も確保されて来た。
王国と強い同盟関係にある国で油田の掘削が行われ、石油が輸送されガソリンに精製され、飛行場と給油基地が出来た。
リック青年はこういう国の礎となる高度な産業もホイホイーっと設計していた。
だから教育映画まで頼まれて不平を言ったのだ。
不平を言ったのに、結局打開策まで教えるのがリック青年らしいと言えばらしいのだが。
飛行場にはラジオ中継所が建てられ、情報が伝わる速度は数年前とは比べ物にならない勢いで加速している。
そしてキリエリアの商人はボウ帝国で平民向けの映画館を開き、「白蛇姫 愛の伝説」はもちろんの事、「キリエリア沖海戦」「ゴドラン」「敗将」「勇敢なる七騎士」等の上映を始めて、大変に儲け出した。
獲得した外貨は更にヨーホー映画社に流れ込んでいった。
大陸の東西両端は、交通で、経済で、そして文化でも交流を広げていったのだ。
******
その一方でキリエリアの陸軍と海軍で幾度か協議が行われた。
飛行機の扱いについてだ。
「だーかーらー!
何で俺が呼ばれるんだよー!」
「今更何を言うかねリック殿!」
「発案者である以上、長い草鞋を履こうではないか、ハッハッハ!」
「戦争の話にあまり首は突っ込みたくないんですけどね~」
「まあ、参考意見を聞かせてくれないか?」
国王の仲介で、リック青年は意見した。
「じゃ、結論から。
海軍は200mの軍艦に滑走を設けて、潮風に耐え翼を折り畳められ、敵の船のドテっ腹に穴を空けられる『魚雷』を積んだ『艦載機』を、陸軍は地上戦力を直接援護す対地上戦闘機を。
新しく空軍を設けて敵戦闘機を制圧し、敵地の空から地上に爆弾を降らせる爆撃機を開発して下さい、以上!!
帰るよ、アイラ、アイディー!」
「ちょちょ!待ってー!!」
「今の飛行機工場なら俺の言った事は大体わかる筈です。費用もそちらから聞いて下さい。
ちなみに飛行機では空飛ぶ魔物の旋回能力に太刀打ちできません。
じゃ!」
そう言うや、秒でリック夫婦3人が消えた。
三軍のトップが相談し、リック青年の助言の真相を究明した。
その結果、「防衛戦では極めて効果的」との結論が出た。
また「旋回能力」に長ける魔物の討伐には、三機編隊または五機編隊で連携して戦うべしという戦法が考えられ、演習が行われた。
王都上空を飛ぶ編隊を眺めながらリック青年は「時代も変わるもんだねえ」と他人事の様に呟いたという。
******
編隊を組んで飛ぶ新鋭戦闘機。
東へ旅立つ双発の輸送機、そして鉄道。
その姿を眺めつつ日々働く王都の民。学校で読み書きを習う子供達。
リック青年が言った「時代が変わった」というのは、まさしくその通りであったのだが。




