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46.閑話 皇女大激怒

 ボウ帝国、外交使節団の報告会。

『してカチンよ、グランテラ最大のテラニエ帝国の報告が僅か1行とはどゆ事?』


 父である皇帝の問いに

『あの様な野蛮で下衆で穢れた輩には一瞥の価値もないと判断しました』

 カチン皇女は冷ややかに答えた。


 そりゃそうである。


******


 東国の優れた工芸品や非日常的な食品。茶葉や香辛料、そして美しい絹。

 それらは高額で取引される、宝物であった。

 帝国がウッカリ始めてしまった魔王軍との戦争は、グランテラ大陸からその宝物を消し去る失策でもあった。


 それが向こうから交易再開を求めてやって来た。

 これは千載一遇のチャンスだった筈だ。


 しかし、魔王軍との講和をキリエリアが行ったという事実を伏せる為、テラニエ帝国は他国との交流を制限していた。

 そのせいか、他国が全力で歓迎し、良い雰囲気の中国交を回復していたことを知らなかった。


 そのため、テラニエは大戦前の商人を迎える程度の扱いしかしなかったのだ。

『随分と控えめな歓迎なのですね』

『皇女様、これでは商人と地方領主の商談と変わらないレベルです』

『嘗められたものね。いいえ、それ以前にこの帝国。

 他国の動向すら掴んでいないとは…』


 歓迎行事は、外務貴族による会食程度であり、衛兵も僅かであった。


「ヨウ!こりゃあカワイイなあオイ!」

 そこに、宮殿内に軟禁されていた勇者ツヨイダ・カッターが出てきてしまった。


「ほお!日本っぽい子じゃん?

 俺ゃあ、こういう女が大好きなんだ!」


 カチン皇女の中で、何かがカチンと来た。


「どうだ?俺の女にしてやろうか?」


 カチン皇女の中で、何かがブチンと切れた。


「どうやらテラニエは我が国との国交はお望みでない模様。

 無駄なお手間を取らせてしまいましたね。

 只今を以て今後一切ボウ帝国はこの国のお手を煩わせることはないでしょう」

 そう言い放つと、使節団一行は即座に宮殿を去った。


 翌日には、僅かに行き来していたボウ帝国の商人が全て引き揚げていた。


 少ないとはいえ、高級品の仕入れが止まってしまった市場に動揺が広がった。

 商人達は皇帝からの叱責を恐れ、その事実を隠したため、貴族達に回る筈だった輸入品が入らなくなったと知れ渡ったのは随分遅れての事となった。


******


「総額で2億デナリの損失。お前はどう捉えるか?」

 皇帝は皇女に問いかける。


「使節団を普通の商人の様にあしらった、外交判断の失敗です」

 皇女はむべも無く答える。


「勇者殿が使節団の長、ボウ帝国皇女カチン姫に無礼を働いたそうだが?」

「あのマヌケの抹殺をお命じにならなかった、我が国の失策です」


「お前が呼び寄せた勇者であろうが!」

「それをお命じになったのは、父上でしょう?!」


 インペリアル親娘喧嘩である。


「お前が!」「父上が!」「お前が!」「父上が!」

 この口論を聞いて、数人の高位貴族が

「自領が凶作で」「放射線障害が確認されましたので」「死んだ祖母ちゃんが蘇ったので」

 と、帝都から自領に戻った。


 壮絶なバトルを繰り広げた皇女は侍女も遠ざけて部屋に籠ると。

「ムッキー!!ムキムキキー!!グギギギー!!」

 寝台で七転八倒した。

「ゴロズー!ムッゴロズー!!あのグゾガギャー!ブッゴロブッゴロー!」

 無茶苦茶深酒し、二日酔いでぶっ潰れたそうだ。


******


 他国の干渉を避けるのと他国の動向を知るのとは別である。

 そんな当たり前のことを建議した皇女。

「うわっ酒臭ェ!」

 と皇帝に嫌な顔をされつつ、魔王軍討伐戦以前の様に間諜を各国に派遣した。

 その結果。


「キリエリア、ボウ帝国まで鉄道敷いたってよ」

「グッギー!!ムギギギー!!アガガガー!!!」

「娘が狂ったー!!」


 帝国はキリエリアに一歩二歩どころではなく、万歩億歩後れを取った。


「テメェのせいだー!鉄道敷けよオラァ!!」

 怒りは勇者ツヨイダに向けられた。

「アァ?要はまっすぐ道を作りゃあいいんだろ?」

「んな訳あるかぁー!道ってのはなあー!!デコボコじゃあ役に立たねえんだよオラァー!!」

 その顔は鬼の様であった。


「カワイイ顔が台無しだぜ皇女様」

「誰が台無しにしたと思ってんだゴルァアアア!!」

 その顔はゴドランの様であった。


「そんじゃあ、地下にトンネル掘りゃあいいんだろ?

 ウルトラスーパードリルハリケー…」

「待てこのドアホ!んなもんブっ放したら地上が…」

「ンッ!!」


 この日、帝都から海岸まで地震が発生した。

 リック青年曰く「異世界の日本なら震度3、話題になる程度かな?」だそうだが、彼の記憶にある日本では震度5、人が立っていられなくなる程の地震でも家はなかなか壊れない。

 だが、この世界はそんな堅固な家はなかった。


 勇者がブッ放した魔法は地上の家屋を崩し、多くの負傷者を出した。

 放射線障害の恐怖から帝国を逃げ出した帝国民がキリエリアで幸せに暮らしている事を知った人々は、我も我もと帝国から逃げ出した。


 このことを知った王国、いやリック青年は海軍に頼み込んで救助艦隊を派遣した。

 今や人体構造を知って、数年前では奇跡とされるレベルの治癒が出来る様になった魔導士達を率いて怪我人の治癒を行った。


 彼らは、帰国を望まなかった。


「ムギギギー!!ウガアアアー!グギャアアアー!!

 ブッゴロズー!あんの糞餓鬼ャアアア!ブッコロブッコロー!!!」

 皇女は暗殺、呪殺のプロを集め、勇者ツヨイダの暗殺に全力を注いだ。


 食事に毒を入れる。

 女の肌に毒を塗る。

 居室に呪詛の魔方陣を描く。

 毒矢を射る。


 マヌケな勇者は全くそれに気づかなかった。

 しかし、勇者召喚の際に付与してしまった「勇者の加護」がそれを全て防いだ。


「ウッキッキー!ウホウホー!!ムギャッギャー!!」

「うわー!皇女殿下ご乱心ー!!」

「ブッコロブッコローブッコロー!!!」

「取り押さえろー!!」

「ムッキー!」


******


「テラニエ帝国の第一皇女が容量療養のため、修道院に御移りになられました」


 王家からテラニエ帝国の情報を聞いたリック青年は、

「あー。その方がその人のためかもね~」

のんびりと答えた。


「でももしかしたら、あのバカタレがもっとやらかすかもなあ~。そん時ゃ!」

 と、不穏な事まで言った。


******


 国交回復後、大陸横断鉄道が従来の数倍の交易品を両国に齎した。

 その利益はすさまじく、貴族から商人へ、そして鉄道を運営するヨーホー社へ、更に従業員へと金が回った。


 キリエリアは貴族や商人に過度な富が集中することを恐れ、従業員保護の法律を厳しく定めた。

 違反したらこの好況から追い出されるとあって、商人達は法を守った。

 周辺各国も「キリエリアがそう言うんなら、そうしよ?」と従った。


 富を持った平民達。

 彼らは仕事に就くために読み書き計算を習い、世の中の在り方を習った。


 幾度かの大ヒットを飛ばしたリック青年の私財は、教育という利益の無い事業に消えた…かに思えた。

 しかし、これは非常に重要な事だった。


 教育を怠った国で暴動が起きた。

 学が無いのに富を得た労働者が結束し、「もっと給料くれ!」と暴動を起こしたのだ。

 騎士団が、軍が鎮圧に乗り出すと更に事態が悪化したのでその国はキリエリアに助けを求めた。

「ちゃいよーっ!」

 国の判断を待たずリック青年が暴徒を麻痺させた。


「働き場が潰れちゃったら仕事も何もないでしょ?」


 更にその国の財務卿に

「働き手がいなくなったら貿易も何もないでしょ?」

 と仲介した。


 両者は交渉し、今更ながらにキリエリアと同じレベルの労働法規を守る事、守らなかったら他国と連携して罰則を与える事を約束した。


 こうして富の循環は多くの国を潤した。

 テラニエ帝国を除いては。


******


 鉄道も無え。電気も無え。頼みの勇者は何もしねえ。

 俺ゃこんな帝国イヤだー。


 そう思った帝国民は、密かに逃げた。

 気が付けば、幾つかの村が無人となり、町では若者を中心に姿を消す者が増えた。


 記録によれば、国民の1割が各国、特にキリエリアに亡命した。

 しかも若者が中心だった。これは労働人口の激減、そして動員戦力の激減を意味していた。


******


 一方。


 療養というか修道院で規則正しく憂いの無い生活を繰り返す皇女。


「おはなきれい」


 可憐な少女の笑顔を取り戻していたという。

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