45.「白蛇姫」大ヒット!そして続く企画は?
リック監督、ハベスト監督、そして本編特撮領スタッフの苦心の成果。
世界初の天然色映画「白蛇姫 愛の伝説」は、まずは外交席上で期待以上の役割を果たした。
最初からリック青年が大陸横断鉄道を築いていれば映画は必要なかったという、物の本質を捕えられていない評論家もいた。
そもそもリック青年が母国語で使節団を歓迎し、東国文化に深い理解を示し、その上で皇族からも絶賛される映画を作ったからこそ、使節団は心を開き王国を信用したという事実を無視し、結果論だけで評価する、薄っぺらい意見である。
先ず本作は、リック監督不在中に、外務卿から
「外交に関わるものは本作を見よ。家族同伴も歓迎する」
と、結構な人数を招いた。
その家族から他の貴族達へ天然色映画の素晴らしさが伝わった。主に夫人たちから。
「素晴らしかったわ!」
「綺麗でしたわ!」
「東の国に行って見たいものですわね!」
恋愛映画だけあって、女性の評価は圧倒的であり、外務卿、財務卿の派閥から試写会を求める陳情が集まる事態となった。
根負けした財務卿は妻に頼んで特別試写会を開かざるを得ないほどだった。
無論セシリア社長の株は今まで以上に上がることになった。
更にボウ帝国使節来訪の話題に続いて、キリエリア王宮試写会での高い評価は周辺諸国でも話題となり、試写会を求める声が押しよせられた。
「機は熟しました。公開しましょう!」
こうして封切り日が決められ、中には貴族用の特別公開も設定された。
立体音響版が多数用意され、今迄キリエリアの少数の劇場でしか楽しめなかった立体音響装置が他国にも広められる事になった。
但し、今度はクラン撮影所での特別公開は行われなかった。
特撮以上の超大作「勇敢なる七騎士」の最後の撮影が続いていたためである。
その壮絶な戦いの撮影は、撮影所付近の森の中、村を再現したセットで魔導士を動員して降らせた豪雨の中で行われ、付近一帯激しくぬかるんでいたためだ。
それでも雨量が足りず撮影所の電動ポンプ、更にはリック青年謹製の火災鎮火用放水車までも駆り出されて、血を血で洗う、いや血を泥で洗う最後の戦いが撮影された。
そのため王都内では後に4チャンネル化する事を前提に2チャンネル劇場を増やして対応した。
果たして「白蛇姫 愛の伝説」は世界初の天然色映画として、更に東洋の煌びやかな衣装や街並を見ようと、例によって多くの人々が押しかけた。
「はああ~、とってもきれい!」
「あんな綺麗な服、着てみたいわあ~!」
「あの男、ナヨナヨしすぎよ!ステキだけど!」
「でも最後、すごくカッコよかったわあ!すてきだわあ!」
過去三作以上に、女性客の評価が無茶苦茶高かった。
一方
「ゴドラン出ないのかあ~」
「最後あのお姉ちゃんが怪獣に変身すると思ったのになー」
子供の評判はイマイチ…の様に見えた。
ゴドラン大好きな男の子たちは誰もが思い、誰もが口にしなかった事があったのだ。
「あのお姫様カワイイなー」
「あの侍女の女の子カワイイなー」
東西友好は、子供達をも確実に巻き込んでいた様だ。
例によって音盤も凄く売れた。
優しく美しく不思議な旋律は、今迄の堂々とした特撮音楽とは打って変わって、日々の暮らしの中で聞いても心地よいものであった。
特にコーランの歌う主題歌「白魚の歌」は、その果てしなく高く美しい歌声が聞く人の心を捉えた。
平民層で買える音盤として、歌2曲を音盤の両面にプレスした10分弱の商品が広く売られ、過去人気があった流行歌が数多く売れだした年である。
この主題歌と主題曲を表裏にプレスした音盤は、平民にも売れたのだった。
膨大に生産された上映施設は、ボウ帝国の使節団の要望もあって数セットが、プリントに至っては数十セットが鉄道に載せられて、使節団とリック監督と共に東へ向かった。
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いつのまにか、二週間の旅を守る駅、そして王家をも迎え入れる豪壮にして堅牢な駅や機関区、ラジオ中継塔等々が途中20ケ所に…
『帰りがけに建てました』
一瞬、理解が及ばず天を仰いだカチン皇女とコーラン嬢の背後に、銀河宇宙が広がった。
『な!何故そなたは王にならぬのか?!』
『カンゲース陛下の代りなど務まりませんって!
俺が国王になってたら、俺みたいな奴が他国やって来たら、怖くて国外にお引き取り願いますよ!』
呆れたコーランはアイラに助けを求めた。
『…アイちゃん。あなたの夫は自分を良く知らぬのではないか?』
もう撮影所仕込みの、アイちゃんコーちゃん呼びの仲である。
『それがリックさんなんですよ』
もうアイラ夫人の定型句になっていた。
『もしリックきゅんがその力をふるっちゃったらね。
百万、いんにゃ、数千万人が死んじゃうよ。
だから、ダメ』
いつもふにゃふにゃしているアイディー夫人。
滅多に見せない殺意を皇女に放った。
「御忠告、肝に銘じますわ」
コーラン嬢もカチン皇女も、リック一家は、キリエリアは敵に回したらダメだと改めて肝に銘じた。
『あの~、余、寂しいんだけど』
隣のテーブルでガタイ皇子が嘆いた。
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途中、様々な国の歓待を受け、外交行事を交わし…
「やっぱり思ってたのと違う!!」
各地で「魔王軍の進行を退かせた英雄来る!」との煽り文句で迎えられた使節団。
進路上の各国との交渉も、リック青年のお陰でスイスイ通った。
と言うか、どの国もビビリまくっていた。
「あー楽だ。でも、俺達要らねんじゃね?」
外務卿の選んだ外交団も、あまりに事がスイスイ進むので、無力感を感じていた。
そして、決死の覚悟で旅立った東西の使節団は当初の予想をはるかに超える成果を、予想の半分の期日でボウ帝国へ届けたのだった。
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「リック監督は何故あの様な映画を撮られたのですか?」
途中の駅で取材を受けた。
「伝説では、最後は白蛇姫は封印される筈ではなかったのですか?」
「それじゃ、かわいそうじゃないですか」
実に簡単な答えだった。
「伝承でも、青年は死ぬまで封印された場所に住んでいました。
結局、彼は白蛇姫を愛していたんですよ。
映画なんだから、二人が結ばれてもいいじゃないですか」
「監督は過去魔王軍と和解して戦いを終わらせたと聞きますが」
「ええ。会話は戦いを終わらせられます。
利害をすり合わせる為の譲歩は未来を切り開きます。
それが理不尽なものであったり、一方的な譲歩でない限り、道はある。
そう信じたいですね、綺麗な記者さん」
男装の女性記者にリック監督は微笑んだ。
同時に、二人の妻に尻をつねられた。
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「はあ~!綺麗~!」
「ゆめ、夢みたいだよ~!」
王都郊外の、広大な池に設けられた楼閣。
そこから見下ろす、正に映画で作ったミニチュアの、実物。
桃色の花が咲き乱れる湖畔。
「二人共ごめんね。色々外交行事に付き合わせちゃって」
「いいえ。それより、私達でよかったのかしら…」
「いや、君達だからよかったんじゃないか?」
二人共、小柄で黒髪。
東国の人にとっては親しみが持てる可愛らしさがある。
歓迎の式典では使節団の侍女たちが持て囃されたが、込み入った話は二人に集中した。
「俺は誇らしいよ!こんな愛されるカワイコちゃんが二人も俺の奥さんなんだって!」
「「もうー!!」」
二人の夫人は真っ赤だった。
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この後、外交団は1週間に亘って子細を詰めた。
鉄道警備体制の確認、監査基準と手段、監査団受け入れ体制。
通過国との地位協定。
母国人保護のための刑法確認。
そして新たに加えられた、「極大魔法禁止協定」。
当初「こんなんあるって言わん方がよくね?」と王国内で止められたが
「どっちみち知られるて。早くバラしてダメって言っとき!」と提案された。
鉄道が結ばれたら、極大魔法の情報も入って来るだろう。
そのため、使節団は「ゴドラン」のフィルムも持ってきて「この映画はあり得ないおとぎ話だが、極大魔法は実在する」と宣言した。
ボウ国軍務卿が
『こちらに禁じてそちらが約束を破れば?
そうでなくとも他の蛮族がその術を手に入れ我が国を襲えば?
我が帝国は座して待つ訳には行かぬ、直ちにその力を手に入れねばならぬ!』
観光旅行から引きずり出されたリック青年は
『どうぞご勝手に。
但しそちらが極大魔法を持ったら、こちらもボウ帝国全土を極大魔動で覆います。
人が焼けて中から腐り果てて死に、麦も米も生えない死の大地にします。
それでも宜しければ、どっちが先にくたばりおおせるか、国をかけた死のゲームの始まりです』
新婚旅行を中断させられた怒りか、たやすく広大な帝国を死の土地にして見せると宣言したリック青年に、
『周辺諸国が同意するのであれば、やぶさかではない』
と、妥協にならない妥協案を出した。
『貴国の事情は我が国の知る所ではない。
しかし他国が極大魔法を習得した場合、我らは貴国の防衛に協力する』
実際、テラニエが持っていた濃縮ウランはもう無い。
向う数年は原爆の脅威はない。しかし。
もし知らない所であのマヌケな勇者がそれを精製すれば、どこが狙われてもおかしくはない。
『あの外道の魔法で愛する妻を失ったら、俺はこの世を全部焼き尽くしても復讐するよ』
まだ見ぬ敵を見据えて、リック青年は宣言した。
この、誰にも止められない殺意を感じた一同は、条件付きで協定を結んだ。
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「散々だったね。ゴメンね」
帰路、リック青年は妻に詫びたが。
「とんでもないわ。皇女さまともコーラン様ともお友達になれました。
それにリックさんもお勤め以上の事をなされたじゃないですか?」
「でもアイラとアイディーと、もっと楽しみたかったよー!
あんな政治に首突っ込みたくなかったよー!」
「無理~。あれ何とかするの、リックきゅんでなきゃ無理よ~」
「そうですよ。難しい問題をあなたがあっという間に纏めたんです」
「そうだよ~、大好き~」「私もです!」
帰国後、使節団の報告に仰天した国王は、リック一家に褒章を与えようとした。
だが秒で断られた。
ほぼ瞬時で大陸横断鉄道を完成させた上、通過地点各国との国交まで目鼻を付けてしまったその偉業を無視しては、国の面子が立たない。
そこで、ヨーホー映画各社を通じ、技術開発費が億デナリ単位で投じられた。
これに喜んだリック青年曰く。
「よっしゃあ!ガラス磨くぞー!」
それを聞いた国王陛下はガッカリしたそうである。
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「ちょっと見ない内に大人っぽくなっちゃったわねえ」
ガッカリ気味のセシリア社長。
この頃のリック青年…成人し結婚したとは言え少年のころとあまり変わらない童顔なのだが。
遅い新婚旅行から帰って来たリック青年を見て、恐らく内面の変化を感じたのかもしれない。
「で、次回作ですけど!」
「その前に!
この大地が丸いってお話し。教育映画で作れないかしら?」
「え~?!」
「だって、この『地球騎士団』。そもそも『地球』って何って話から説明しなきゃ」
「ウワーッ!そっからか~ッ!」
セシリア社長に盛大なダメ出しを喰らったリック青年であった。
「どうせあなたの事だから、星空に向かう船とか映画にするのでしょう?
でしたら、そもそもこの大地が星空に浮かぶ一つの星だって、映画で教えなさい」
「はーい!」
「素直ねえ。うふふ」
またも教育映画に取り組むリック監督であった。




