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41.「白蛇姫 愛の伝説」製作発表

 ボウ帝国使節団到着。

 王都は「なんだかよくわからんけど、めでたい」と大騒ぎだった。


 しかし、王城内では静かな戦いが始まっていた。


******


「この国の内情や如何に?」


 使節団が先触れであるコーラン嬢に報告を命じた。


「恐るべき知恵者がおります。

 しかし、悪意無く、平和裏に、対等に迫れば害はないかと。

 かの者は敵意を許さず、友好を尊びます」


「あの映画の監督が、か?聞けばまだ未成年、子供だとか」

「その子供が、恐るべき発展をこの国に齎しているのです」


 コーラン嬢は使節団の代表に頭を下げつつ報告を続けた。


「お前が言うのだ。警戒しよう。

 色々聞かせておくれ」


 代表はそう言って、コーラン嬢と盃を交わした。


******


 会見の場では、先ずボウ帝国が主張した。


・今迄国交が停止したのは、グランテラ大陸側が始めた魔王軍討伐戦を始めたのが原因だ。

・国交を再開したのだから、グランテラ大陸側はボウ帝国に有利な条件、関税、販売価格で国交を再開せよ、という命令に近い申し出だった。


「リック君の言う通りだなあ」


 これは王国も事前にリック監督から助言を受けていた。

 そこで、戦争を始めたのは他国なので断絶前と同じ条件で国交を再開しよう、無理にとは言わない、と強く跳ね返した。


 ただしこれでは平行線となる。

 一応抗弁しつつ、ボウ帝国は更なる特権を要求し、キリエリアも今まで以上の優遇措置を求め、千日手を演じた。


 その間、使節と貴族との饗宴が持たれ、笑顔と祝杯の裏側で暗闘が演じられた。


 外交とはそうしたものである。


******


 両国が笑顔の下で殴り合う戦いの末、キリエリア側から妥協案が提案された。


・キリエリア王国には魔王軍討伐の責任は一切無い

・食料、資源は国交停止前の条件、関税で貿易を再開する。

 以後の関税は自国が設定し、相手国の干渉を排除する。


「それは妥協ではなく、遠路を往来する我が国への屈辱にしかなりますまい」

「左様。

 その懸念を解消するため、我が国は次の約束を果たす」


・キリエリア王国はボウ帝国との往復を高速化する貿易路を確保する。


 更に国王は条件を追加した。


・両国は駐在国の方を順守し、相手国内で違法を犯した場合は相手国の裁きを受ける。

 但し事前に両国は法を明文化し、相互に合意を得なければならない。

 相手国に明文化された法が無い場合、複数の国で明文化された法に基づいて裁くものとする。


 一体どういう意味か使節団は理解できなかった。

 しかし使節団長は冷静に答えた。

「高速な貿易路、とは?」

「今後、貴国を。いや、世界を変える道、とだけ言おう」

「それは、港から王都までを結んだ、あの鉄道と言うものかしら?」

「一つはその通りである」


 使節団長は表情を崩さず続けた。

「この大地の半分を渡る鉄道を、貴国が作るというのですか?

 それはあまりにも無謀では…」


「約束しよう。

 その鉄道は世界を変えるであろう。

 そして数年後にはそれをさらに超える、新しい道が生まれるであろう」


「もう一つ、貴国の言う『法』とは?」

「こちらに用意してある」

 と、厚さ30cmほどある本を5冊、使節団に渡した。


「貴国においても犯罪を取り締まる『法』を明文化して提出して頂きたい。


「貴国の『法』や如何に?」

「我が国においては皇帝陛下が法である」

「明文化されておらねば、グランテラ大陸の共通法にて抗弁する事になる」

「我が国の権威を否定するつもりか!」

「ならば明文化を急がれるがよい。両国の習慣に会わぬ部分があれば、別途補足条項を設けよう」


 使節団は、自国の要求を一歩的に宣言するつもりだった自らの甘さを後悔した。


「以前の条件に戻す点は承知した。

 それ以外については持ち帰らせて貰おう」


「では、国交再開、基本はそれでよろしいかな?遠き友人よ」


「余程優れた外交官をお持ちなのですね」

「ああ。すぐお目にかける故、楽しみにして欲しい」


 国王は自信タップリに、美しき使節団長、ボウ帝国皇女、カチン姫に宣言した。


 カチン姫は笑顔で応じつつ、内心焦りと屈辱に震えていた。

 一団の中で聞いていたコーラン嬢は、予測していた着地点にたどりつけたものだと複雑な思いで居た。


******


 ヨーホー映画社では使節団の到着に合わせて「白蛇姫 愛の伝説」の製作発表会を用意していた。


 クラン撮影所では、天然色撮影のためボウ帝国の500年前…ではなく、古風と今風が折衷した様な街のセットが組まれていた。


 街並を抜け、隣接する特撮スタジオ、愛称0番スタジオに向かうと、その中は白蛇姫の邸宅のセットが組まれていた。

 奥には古風な邸宅、その手前には泉と、そこに浮かぶ白い蓮の花。


 カチン姫一行を迎えるのは、東国風の撮影用衣装をまとったセシリア社長と俳優陣。

 本編、特撮スタッフも監督と各チームの責任者は東国衣装だ。


 使節団一行と隔てられたスタジオの壁側には報道陣。


「この度、キリエリア、ボウ両国の国交再開を記念した映画『白蛇姫 愛の伝説』の製作を発表致します!」


 照明が落とされ、銀幕に真紅の映像が映し出される。

「色だ!」「赤いな」「これが噂の天然色か?」


 東国の弦楽器の調べに続いて、赤い映像、東国の模様が編まれた絨毯の上に

「キリエリア王国・ボウ帝国 国交回復記念映画」と金の文字が現れた。

「「「おお…」」」

 報道陣だけではなく、使節団からも声が漏れた。


 弦楽器の独奏が盛り上がり、ヨーホー社の光芒が、濃紺を背景に虹色に輝いた!

「「「おおー!!!」」」

 今度は歓声が上がった。


 そして、東国風の主題が流れ、コーラン嬢の美しいスキャットが流れる。

 東国の湖の風景が映し出され、タイトルクレジットが浮かび上がった。


「我が国だ!」「いつの間に?」「あれが特撮なのか?!」

 使節団が騒めく。


 美しい、のどかな風景が映し出され、東国の街並が続き、コーラン演じる白蛇姫が現れる。

「主演 東国最高の名優 コーラン」とクレジットされると、カチン姫が銀幕に拍手を贈った。周りもそれに続いた。


「東国の美しき姫は一人の誠実な男に恋を捧げた。しかし彼女は、人では無かった」

 赤い照明の中、苦しみ悶える白蛇姫はみるみる小さくなり、蛇と化した。

 これはブルーバック合成と蛇のアニメーション、そして実写の蛇を切りつないだ映像をワンショットで見せたものだ。


 二人を引き裂く高位神官、これも実は英雄アックスが演じているが、これにコーランが迫る。

「女の命は恋です!私は一生彼に命を捧げます!」

「くどい!化け物は去れ!」

 長いひげをつけて後ろ姿で演じる英雄アックス。

 その瞬間、怒りの形相に染まる白蛇姫。


「愛する男と引き裂かれた女の執念が今嵐となって襲い掛かる」


 そこから特撮スペクタクルに切り替わる。

 若者を匿った大寺院が大洪水に襲われる。白蛇姫が呪文を唱える。崩れる大寺院。

 山上の楼閣から蹴り落とされる若者、それを見て狼狽え、侍女に叩かれる白蛇姫!


 荒ぶる音楽!迫る大洪水。


「遥か遠方、ボウ帝国に伝わる愛の伝説。

 世界初の天然色映像と、世界にその名をとどろかせたヨーホー特殊撮影技術陣が送る驚異の一大スペクタクル!

『白蛇姫 愛の伝説』は、今年度最高と讃えられるでしょう!」


 わずか3分の予告編。

 しかし、圧倒的な色彩美、そして特撮スペクタクル。


 照明がともされると、大喝采が起った。

 カチン姫も夢中で拍手を贈った。


 壇上に主演のコーラン、白蛇姫の侍女役の愛らしい女優が立った。

 続いて誠実な若者を演じる美男俳優ユーベンス・センペリ。「聖典」でバベル王を諫めた理性的な忠臣を演じた俳優が続いた。

 ハベスト監督、そしてリック特技監督、音楽のエクリス師も壇上に上がった。


 セシリア社長が一同を紹介し、

「実績あるわたくしのヨーホー映画公社は、ただいまから世界最初の天然色映画、そして我が国最初のボウ帝国を舞台にした映画『白蛇姫 愛の伝説』の製作に全力を注ぎます。

 両国の友好と発展を祈るこの一作に、皆様是非ご期待下さい!」


 拍手喝采がスタジオの中で響いた。


******


 嵐の様な拍手喝采が、使節団や記者団が過ぎ去った後、リック特技監督が自宅で呆然としていた。

「アー。何とかここまで上手く行ったかなー」

「本当にお疲れ様です。あなたは映画監督どころか、外務卿以上の働きをなさったのだから」


 アイラ夫人はリック少年が国王や国家首脳とボウ帝国との国交指針をどうすべきか詰めているのを横から見ていた。

 アイディー夫人はその間カラーフィルムの感度改善やブルーバック撮影施設の照明改善に努めていた。


「この映画で多くの人がまた幸せになるんですね」

「映画だけじゃないけどね」

「ええ…でもあなたは色々抱えすぎです!」

「アイディーが帰って来たら一緒に温泉で休もうね」


「はい。明日から大変ですからね」

 抱き合う二人に、アイディー夫人が重なった。

「ふぃ~。準備してきたよ~」

「「ありがとう、ディー!」ちゃん!」


******


 迎賓館に戻ったカチン姫は震えていた。

「何?!何よあの凄く綺麗な映画!!

 ステキよ!凄くステキ!!綺麗だったわー!!

 絶対あの映画をボウに持ち帰るわよー!!」


 発泡ワインを煽りつつ興奮を抑えられない姫を前に、コーラン嬢は満足げだった。

「お気に召した様で安堵しましたわ、お姉様」

「ありがとうねコーラン。あなたもとってもステキで綺麗だったわ~!

 これで安心して次の国に行けるわ!

 映画の方はホントよろしくね!」


 二人は異父姉妹であったが、これはボウ帝国では秘匿されていた。


「でも本当に1万km近い鉄道が我が国に来たら…恐ろしい事になるわね」


 コーランも才媛だが姉のカチンも傑出した頭脳を持っていた。

 それ故、鉄道という革命的な輸送交通手段が齎すものの大きさに、脅威を感じていた。

 使節の一部を急ぎ帰国させ、輸出品の選定や関税の設定、更に商法や刑法の明文化等の対策を打診したのだった。


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