38.未来映画キャンセル、次は東国の恋愛映画だ!
王宮に呼び出されたリック少年は、遥か東の国との国交再開を祝う映画の製作だ。
そして、その希望を出したのは、既に王宮にいた使節団の先触れ。
妖艶な美女。
『如何でしょう?キリエリア製作の、東洋恋愛奇伝映画』
ボウ帝国語で問いかけるリック少年。
「リック・トリック監督。聞きしに勝るお方の様ですわね」
グランテラ大陸語で返す先触れの美女。
「いて!」
妻二人がリック少年をつねった。
「ちょ、まってよ」
「いいえ。あなたはそうやって誰でも虜にしてしまうんです!」
「妻を増やさないでよお~」
妻二人が小声でリック少年に釘を刺した。
「お若いのに随分おモテになる様ですわね」
と笑う先触れの美女。
「貴国に向かう途中の港で見た『キリエリア沖海戦』、『聖典』。
とても驚きましたわ。
あんな凄まじい映画を撮れるのであれば、きっと我が国でも親しまれている物語も映画にして頂けるのではと思ったのですが。
見事なお考えに更に驚きました」
『この世に人がいる限り、男女の恋の物語は必ず人の心を掴みます』
「流石、若くして二人の奥方を娶られているリック様」
妖艶な眼差しを贈る東国の美女、そして警戒心バリバリなアイラ・アイディー両夫人。
「え~、では自己紹介を。
『私はテラニエ帝国から亡命した平民のリック・トリックと申します』」
「ええ、存じております。授爵を何度も断ったとか」
二人の夫人に更なる緊張が走った!
「では私も。ボウ帝国・キリエリア王国国交再開使節団の一員、コーランと申します」
『東洋最高の美しき女優の御尊顔を拝しました事、深く感謝申し上げます』
リック少年はボウ帝国の言葉で相手の正体を伝えた。
「なんと!使節殿は女優であったか!」
「まったく、大した情報通です事…
国王陛下。私は使節殿から呼ばれて貴国の映画を学ぶよう申し付けられた芸人に御座います」
「道理で美しい方だと思っ…!」
王妃の氷の様な視線が王を刺した。
「ほほほ。光栄に存じます。
それにしてもリック様。国交浅き両国の橋渡しとなる映画への見解、実にお見事です。
私達は、古代の我が国の版図を定めた帝王の映画か、数百年前にグランテラから東国に辿り着いた貿易商の映画でも検討して頂ければと思っていたのですよ?」
「後は、貴国の古の高僧が西国に旅して聖なる経典を授かる話。
暴れ者の猿、どん欲な豚、怠け者の魚人を従えて」
「ほおお!あなたはよく我が国の物語を知っていらっしゃる!」
「色々調べましたが、浅い知識です。
しかし、まずは我が国へ貴国、遥か東の国へ憧れを持ってもらうために何が良いかと考え、白蛇の伝説をと思い至りました」
「白蛇姫をご存じですか!」
コーランは驚いた。役者の仮面を忘れて驚いた。
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白蛇姫。
東国に伝わる、伝奇物語である。
心正しい青年と、白蛇が魔力を得て美女に変化した白姫。
青年に恋した白姫は青年のために奮闘するが、人間の常識を知らない姫は青年を窮地に追いやってしまう。
自分の失敗を取り戻すため天界に助けを求める姫だが、化け物とののしられ追い返される。
姫が天界に行っている間に、姫の妖気を嗅ぎつけた魔導士が青年を巨大神殿に匿う。
激怒した姫は、魔力で巨大神殿を大洪水で襲うが、あまりの恐ろしさに神殿は青年を洪水に突き落とそうとする、それを見た姫は魔力を止め、自分が洪水に押し流されてしまう。
そして、故郷に戻る青年に蛇の姿で縋るも、塔に封じられた。青年も神官となって座したまま死んだ。
だがリック少年は言った。
「人の偏見は固く、強いものです。
しかし真実の愛があれば、偏見を乗り越えられるのではないでしょうか?
蛇の化身と、人の愛。心で結ばれる愛こそが尊い。
私は、この物語の結末を変えてしまいたいのです。
蛇の化身でも人を愛せる。人であっても、蛇の心を持つ者もいる。
互いを認め合い、求め合ってこその愛なのだ、と。
これを美しく格調高く、そして気に入って頂けた特殊技術で盛り上げる映画は如何かと愚考した次第です」
「あなたは、化け物との愛を認めるのですか?」
「話し合え、通じ合えればそれは化け物ではありません。
話しも通じず、相手から奪って潰す事しかできない人間の方が余程化け物よりたちが悪い」
「そうですか…」
コーランは、内心感動を抑えるのに必死だった。
「あなたの様な人こそ、この世界を平和へ導く人なのでしょうね…」
「いやそれ違います」
「へ?」
その間の抜けた反応の瞬間、彼女は抑えていた涙を流した。
「俺は特撮映画を撮りたいだけの小僧ですんで」
「「「違うでしょう!!」」」
コーランが、二人の妻が突っ込んだ!
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ある程度用意していた検討用の脚本と、ラフスケッチを元にした見せ場のピクトリアルスケッチが書かれた。
「随分ウキウキしてますね」
とやっかむアイラ夫人。
「そりゃ、制作費半分向こう持ちだからね。
初のカラ…天然色映画にはもってこいだよ!」
「え?あのフィルムを使うんですか?」
「つ~か~え~る~よ~、きゅう」
「「ディー」ちゃん!」
工房から戻ったアイディー夫人は死相を纏っていた。
「で~き~た~よ~…」
「だからムリすんなって言ったのに」
「そんなんじゃダメですよ!リックさんがずっと抱きしめなきゃディーちゃん工房に行っちゃうから!」
「そっか…ま、ディーは寝て!」
生々しい会話を挟みながら、アイディー夫人は手にしたフィルムをリック少年に差し出した。
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アイディー夫人が蘇った後、リック一家が集まった。
「ほにゃいくよぉ~」
映写機が宴会場、もとい集会場にフィルムを映し出す。
「「「うわああ~!!!」」」
王城周辺、クラン撮影所。
アイラが世話した自宅の庭の花々。
それは鮮やかな色彩で再現されていた。
「色だ!」「色だわ!」
「今までの白と黒とは全く違う世界だ!」
仲間達が興奮した。
王都駅を旅立つ鉄道。
聳える大聖堂。
聖堂内から撮影した、美しいステンドグラス。
一転して。
撮影所内、他の監督が取り組んでいる撮影風景。
強力な光魔法で照らされた特美倉庫。黒いながらも口の赤さが禍々しいゴドランのヌイグルミ。
破壊された後ながら、電飾が灯るミニチュア。
どの映像も、実用のレベルに達するものだった。
リック少年はアイディー夫人を抱きしめた。
「ありがとう。ごめんね、相当無理させたね」
「あ、ああ。無理したのは倉庫撮る時光魔法強く使ったからね~」
「そこかー?!」
だが抱きしめた力は緩むことは無かった。
「えへへ~」アイディー夫人も嬉しそうだった。
「よし!未来映画はお預けになったが、東国映画を天然色で撮影しよう!」
「「「何だってー???!!!」」」
「早速パイロットフィルムを企画するぞー!」
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「「寝てー!!」」
二人の夫人は、二昼夜寝ようとしなかったリック少年を無理やり寝台に押し込んだ。
翌朝。
スッキリしたリック少年。
「パイロットフィルム、無理だなあ」
「「無理しないで!」よお~!」
怒られた。
ヨーホー特殊技術科のメンバーを集めて、新作の計画を伝えた。
「皆さん。今まで俺達はパイロットフィルムで社の上層部を説得して長編映画の製作にGOを出させてきました。
でも今回はそれは出来ません」
「何でだよ監督よ!」
荒々しく聞いてきたのは、美術班、模型や背景を担当する班長アール・ポン。
「今回は天然色フィルムで撮影、公開するからです」
二人の夫人が、例のサンプルフィルムを投射する。
「「「おおー!!!」」」
「色だ!」「空が青いぞ!」「これはまた歴史が変わる!」
しかしポン班長は「光が弱いなあ」と。
「その通り。今までの白黒の感度と比べると、この天然色フィルムは感度が圧倒的に弱い。
その上、ゴドランの模型の色が全然違った色に見えてる。
ポンさんの言う通り、感度や色調が太陽光と特撮スタジオの光では全然違うんだ」
一同は、何を言っているのか理解できなかった。
「恐らくパイロットフィルムでそれを試行錯誤していたら、キリエリア、ボウ両国の国交再開祝典には映画全体の完成は間に合わない。
確実に撮影できる本編と同時並行で特撮をやって、ある程度妥協しなきゃ完成出来ない。
最低限のテスト撮影はやる。でもオプチカル合成みたいな難度の高いシーンは素材が出来た後に試行錯誤の繰り返しだ!」
合成班の班長、モン・ムーコは「監督に従いますよ!」と即答した。
美術班長アール・ポンは
「下手なフィルムを世間に晒すのだけゃ反対だ!」と言いつつ、
「だが、兎に角間に合わせりゃいいだけだ。
やる。決断した後の事ぁ後で考える、だな?」
と賛成の意をリック少年に向ける。
「それでお願いします。後、俺は監督じゃなく皆さんと同じ技師ですから」
本編監督はヨーホー社で選考中だ。
メロドラマを格調高く撮りつつ、特撮にある程度理解できる人。
なかなかいないよね、とリック少年は思った。
「是非やらせて下さい。この物語は面白いです!」
と名乗り出たのは、恋愛映画で数カットをオプチカルプリンターやミニチュアで助っ人した作品のハベスト監督。
元々、古典文学の戯曲を舞台劇にする手腕のある人で、人の情を描く力がある人だ。
「蛇の美女と誠実な男、元の伝説を打ち破って添い遂げられるのは素晴らしい!
この国でも東の国でも変わらない男女の愛と、それを隔てる壁をブチ破る特撮の大洪水!リッちゃん監督、特撮の方はよろしくお願いします!」
「監督はハッさんです。俺は特殊技術で…」
「特撮部門の監督でしょう?」
「え?」
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「リック君は監督。特撮部門の監督ですよ?」
「でも1本の映画に二人監督いたらダメでしょ?」
「特撮映画は例外です。あなたは本編監督に意見できるのよ」
社長が何か強烈な発言をブチ上げた。
こうして新作、東国の伝奇恋愛大作「白蛇姫 愛の伝説」は二人の監督を掲げた、今までにない異例の陣容で撮影を開始した。




