362.終わらないかの様に見えたお祭り
リック社長の新作、我が子英雄ブライ原作によるテレビ1時間シリーズ、「ピオネル・スパティアリス(宇宙開拓者)」は好評を博した。
未知の人類との出会いと理解、そして旅立ち。その繰り返し。
どことなく「コスモ:1700」に似た感じだが、受動的で悲劇的な雰囲気の漂う「コスモ:1700」と違い、宇宙開拓の夢を抱いた「ピオネル・スパティアリス」のクルーたちは陽気だ。
彼らは敵と戦うのではない。
対話と知識と愛情で対立や問題を乗り越え、未知の世界への旅を続けていく。
そこには英雄ブライが探検において現地人を最大限尊重するという信念が込められていた。
キャスティングは陽気な作風を重んじる為、軽妙な会話劇を挟んでシリアスになり過ぎない様調整された。
クルーたちには地球人だけではなく異星人もいる。
文化風習が異なるものもいる。勿論女性も、優秀な子供もいる。
身長3mの巨人族もレギュラーなため、宇宙船の艦橋のセットは天井が高い。
これも色々な国の色々な階層を惹き付ける人気の的だった。
異種族、女性が男たちと変わらぬ、時に優れた働きをするのも、英雄ブライのメモにあった宇宙船クルーのノリを反映したものだ。
台本に起こしたリック社長とアイディー夫人は、最初は視聴者となるマギカ・テラや東国の人を意識しているのかと思っていた。
だが、長く書いているうちに、それが自分達トリック特技プロをモデルにしているのだと気づき、
「なんだか気恥ずかしくなった!」
と話している。
ただ、時には敵対勢力との戦い、反乱戦艦と対決し、理屈の通らない巨大な物体との総力戦を余儀なくされる事もある。
そういった戦いの話は壮大な特撮が駆使され、敵艦や僚艦が活躍する。
後年、英雄ブライ曰く
「あんまり戦いの話ばっかり注目されたくはないなあ。
あれは父の趣味だけど、まあ息抜きにはなったかな?」
だそうだ。
こうしてNCSプロベクトスの、この後長きにわたる航海は順調に始まった。
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とはいえ既に人気番組「スプラベラータ」に注力している中、スタッフは外注に頼らざるを得なかったのだが。
多くのスタッフが再集結してくれた。
必要な人員や空きスタジオが揃うまでリック社長は独力で特美に取り組み、幾多の敵勢力艦、同型艦やバリエーション艦に小型艦のミニチュアを作り上げ、製作決定から本製作まで半年待つことにした。
そして撮影開始。週二本の製作が始まったトリック特技プロは、往年の賑わいを取り戻したかの様であった。
この宇宙船の冒険は1年の放送を大好評の末に終えた。
勿論放送延長が求められたが、製作体制が追い付かず、一旦休止とした。
程無くして英雄リックが我が子に会いに戻って来て、手記の続きを父に託した。
そこから2期の企画が開始された。
更に特撮を主体としたエピソードでトリック特技プロ単独製作、独自配給で劇場版が新作され、スプラシリーズに続く新たなトリック特技プロの顔となった。
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ただ、何かにつけてリック社長は
「これは息子の原案と、異世界の偉大な創造者の発想を合わせたものだ。
息子にも異世界の創造者にも済まない事をしたが、人間の目指す理想社会の一つの形としてこの形をとった」
と申し訳なさそうに語った。
この点については英雄ブライは全く気にしていなかった。
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ゴドラン再戦シリーズもまた人気を繋ぎ、「ゴドランの分身」を含め5作が製作された。
人気は徐々に減り、シリーズものの宿命を感じさせた。
その最終作は「ゴドラン死す!」となるところをリック社長とテンさん監督が猛烈に反対した。
「本当に二度と復活させないなら、それでもいい。
そんな訳ないでしょ?」
「人間の進化とゴドランは常に光と影なんです。
人間がいる限り、文明が進む限りゴドランはいます」
最初のゴドランを撮った二人を前に、誰も反論出来なかった。
ゴドランが進化した亜種に倒され、共に極大魔法が過熱して爆死する構想を変更した。
亜種を倒したゴドランが死期を悟り、極大魔法の過熱が収まらなくなった自分を大洋の海峡、人間の手の届かない世界へ向けて、暗く冷たい嘗ての己の住処へ、地球の中へと帰っていく、という話に変更した。
「死んだか死んでないか解らない」
というものだ。
「やっぱりリッちゃんがいないと企画が締まらないなあ!」
ショーキ監督も同意した。
最終作とあって「ゴドラン大地に還る」はヨーホー映画にとって満足が行く成績、製作費5億、興行成績60億を挙げて終わった。
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「スプラベラータ」も2年のロングランを終え、人気が落ち着いた辺りで無難に終了していた。
若手スタッフは次回作に超騎士団的な要素と「武器」を加え、新作「スプラアルマトゥーラ(超装甲)」を世に送り出した。
3人のスプラ戦士が腕に武器を装着して戦う。
半年後には敵だった2人を加え5人に増え、腕に続いて肩に装着する武器を追加し、トリック玩具的にもオイシイ展開が人気を呼んだ。
リック社長は主に「ピオネル・スパティアリス」に注力した。
時折怪獣が出る話や防衛隊が出る話だけスプラシリーズに顔を出し、直接ミニチュアを創ったり撮ったりした。
(やっぱり社長は怪獣と未来兵器が好きなんだなあ)
若手スタッフは申し訳なく感じてはいた。
その反面、自分達の企画が成功し、視聴率を維持し、玩具の売上も好調。
成功の積み重ねに自信を付けていった。
だが、リック社長は全部曲げっぱなしではなかった。
台本とラッシュフィルムだけは全て目を通し、子供にとって悪影響が出そうな場面、不道徳や悪趣味に走る場面には撮り直しを命じた。
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それから数年後。
リック社長、いや、リック少年が「魔王軍討伐」を平定して40年以上過ぎた。
特撮作品も人気シリーズであったゴドラン、スプラルジェントは暫し休止していた。
無論ヨーホー映画の特技部も、トリック特技プロも、人気シリーズ休止中でも大作映画の本編に使われる特撮場面、テレビ広告の光学合成には腕を振るい、スタッフを活躍させた。
毎年、軍の企画する近未来戦記や過去の戦記映画にも活躍してきた。
それもキリエリアだけではない。
アモルメ王国でも、ボウ帝国でも、そしてテッキ王国でも新進気鋭の若者たちが特撮を学び自国へ持ち帰り、しかし大作となるとその指揮をキリエリアへ頼む段階まで進化して来た。
「『ゴーダ』とか『快猿王』とか、あれからすぐ特撮の華が東方諸国に花開くと思ったものですけどねえ」
そう漏らすのは、今ではショーウェイの特撮陣の主となった、「特撮監督」のインス監督。
ヨーホー映画では「特技監督」、トリック特技プロでは「特殊技術」と、微妙に肩書が違っていた。
「まあまあ。
そもそも毎年継続的に子供向けを中心に、毎度毎度。
高層建築や宮殿をドシドシ立てちゃバンバカぶっ潰しー、
飛行機がギュンギュン飛んでベシベシ落っことされてー、
怪獣や巨大英雄がドガチャカ戦うー、
って映画やテレビ撮ってる方が世界じゃ異常なんですって」
現地スタッフや関係者との調整、そして汚職排除のため協力しに来たリック社長が意見を述べるが。
(その異常やってるのあなたでしょ?)
とは言えなかった。
インス監督も毎年、最初の2~3回、しかもトリック特技プロに大部分を頼みながら超騎士団シリーズの巨大戦艦、巨大ゴーレムの出動、合体、必殺技を世に送り出しているのだ。
1年のシリーズの残り50回は特撮班ではなく本編班がミニチュアも碌に用意せず撮り上げているが。
「我が国でもいずれスプラシリーズや超騎士団シリーズの様な、子供を夢中にする映画を世に送り出そうではないか!」
「うわ!また大臣が!」
「つれないのう」
「ははーっ!」
時々フラっと現場に来るカチン大臣。
インス監督は恐縮しまくっている。
「でもね、ムリだと思いますよ?」
「何故?」
「だってこっちの国、子供におもちゃ買ってあげないじゃないでしょ?」
「それと映画と何が…あ、ああ…」
「そう。結構キリエリアの特撮ってウチの玩具会社が何億も出してるんですよ」
ボウ帝国で中々特撮作品が長続きしないのは、安定した収入、継続した経営が出来ないからに他ならなかった。
「まあ、異国文化の紹介と合わせて、例えば西側諸国の過ぎ越しの祭りに、今年も農作業に勉学に勤しめ、っておもちゃ買ってあげる習慣でも付けたらいいんじゃないかなあ?」
その後、何故かキリエリアのリック邸にミゼレ祭司が泣きながらリック社長とセワーシャ夫人に感謝を捧げに来たとか。
ミゼレ祭司、かつてボウ帝国での布教で現地との強い関係が今でもあるそうな。
「私関係ないわよ!」
「しかしボウ帝国では布教のために聖女様が関わった作品を贈りたいと申してきています!」
「拡大解釈もいいとこだわー!」
「まあまあ秘蔵のトリック特技プロパイロットフィルム集ビデオあげますから」
「おおー!幻の聖女様出演のパイロットフィルムがー!」
「この人ホントマニアだなあ」
とりあえず、ボウ帝国の玩具需要は若干高まった。
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なお、マギカ・テラでは17th世紀プロが間諜活劇に、時にヨーホー映画に対抗する様な怪獣映画、SF怪奇映画にスタッフを送り出し、豊潤な予算を得て目の覚める様な映像を送り出していた。
17th世紀プロの陣中見舞いに来たリック社長。
「ここは国営鉱山が無茶苦茶強いからなー」
「何を言うか。お主の愛した特撮のための、ささやかな贈り物にすぎぬわ」
「うわ!また来た!」
「つれないのう」
今度はマキウリア女王陛下が来た。
映画先進国となったキリエリアは頂点として。
マギカ・テラの映画界もマキウリア女王陛下の投資とリック社長の指導で成長し、今や映画はこの国の重要な産業に育ち、17th世紀プロも彼がいなくても廻っている。
これにアモルメ、ボウ帝国が続き、今テッキ王国が成長中だ。
北方諸国や大陸中央諸国は大規模では無いものの、各国、各地方、各民族の物語を美しくも情緒豊かにフィルムに刻み込んでいる。
リック監督、そして彼に触発された多くの映画人が世界を飛び回って広げた特撮映画は、既にこの世界にとって特撮だけではなく、映画文化、映画芸術として充分に花を開かせていた。
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時間は緩やかに過ぎていった。
それは楽しく、終わる事のないお祭りの様だった。
しかし、人の命に終わりがある限り、お祭りにもいつか終わりは来るものだった。




