361.「ピオネル・スパティアリス(宇宙開拓者)」
「ゴドラン・キメラヒドラ・再戦!」公開初日。
劇場も警備員を雇い、スタッフも巡回して解散を訴え、翌朝日の出と共に行列がゾロゾロと出来た。
リック社長たちは招待席だ。
今回は初期案や美術、そして音楽にガッチリ関わっているので関係者待遇だった。
とはいっても音楽ほぼ過去のゴドランの主題とキメラヒドラの主題、そして王国軍の主題の再演奏だった。
目を、いや耳を引いたのは宇宙細胞メーバスの主題で、かつて「白蛇姫 愛の伝説」で多用したノコギリの背を弦で奏で、これに無音階の主題が不定形の怪物の不気味さを表した。
一応クレジット上ナート師が作曲ということにしているがリック社長が異世界の記憶で原曲を描いているのは周知の事実である。
鍍金の鱗を纏った新キメラヒドラは何度かテレビで紹介され、雑誌にも登場したが、やはり凄まじいインパクトがあった。
新怪獣メーバスを前座にしつつ、これも結構なインパクトがあった。
このシーンもリック社長が撮影したものだが、過去企画が流れた事への敵討ちの様な奇妙なこだわりを感じる出来だ。
そしてこのメーバスが大量に出現、ギラギラ輝くキメラヒドラに一蹴され、空中で炎上する!
キメラヒドラは上空からゴドランの周囲を旋回、ここは高層建築群の周囲を旋回するキメラヒドラとオープンのミニチュアセットがモーションコントロールカメラで撮影され合成させた壮大なシーンだ。
高層建築に囲まれ見え隠れするゴドランに、未来社会の描写の進化を感じる。
キメラヒドラはゴドランに突っ込み、後方の高層建築をなぎ倒す!
後から聞けばポリさん担当のカットだったそうだが、
「これからはアイツの時代で、俺は一線を引くかな?」
などと寂しい事を言い出していた。
「そんな事言わないでよ!ショーキさんあってのヨーホー特撮でしょう?!」
「そんな事言うならもっと一緒にやろうぜ?デっちゃんも一緒によ!」
そう言われては無碍に断れず、かと言ってテレビで自由に出来る時間も減ってしまい、悩むリック社長であった。
二回戦、夜の王都での決闘。
地上の高層建築の輝きと、照明を反射させて金銀に輝くキメラヒドラの美しい出で立ち。
爆発の度にキメラヒドラも輝き、息を飲む様な美しさだ。
しかしゴドランはやっぱり強かった、
例によって宇宙へ逃げようとするキメラヒドラを放射線火炎で追い打ちし、空中で爆発するキメラヒドラ。
そして朝日が昇る中、海へ帰っていくゴドラン。
劇場は喝采に包まれ、観客は新たな怪獣決戦に充分満足した。
例によってリック社長たちは観客席から喝采を送るのであった。
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本作もそこそこにヒットし、特に高層建築上空からゴドランを狙うキメラヒドラ、夜景の中輝くキメラヒドラの名カットは幾度もテレビで放送された。
ヨーホー映画は早速「ゴドラ・マハラ 再戦!」の企画に着手した。
そしてトリック特技プロの「スプラベラータ」も人気を維持し、1年の延長が決まった。
決め手になったのは、やはり善悪巨大宇宙人同士の決闘だ。
今まであまりしゃべらなかった巨大英雄が会話する。
その台詞が物語を盛り上げ、人気を押し上げたのだ。
やはりレスリングのスターたちの様に、人気宇宙人たちが心通わせる様は子供の、特に男子の人気を掴んでいった様だ。
反面、防衛隊や怪獣の出番がほぼなくなりつつあった。
新しいスプラルジェントの活躍にリック社長は
「これは若手の勝利だ、1年以上続くよ」
そう言って多くの事を若手スタッフに任せる様になった。
彼の読みは正しく、本作は敵の人気宇宙人を含め発光部分や音声再生機能を仕込んだリアルな造形の人形が売れ、2年目に突入した。
「だがこれは自分のやりたかった特撮じゃないな。
これはこれで彼らに任せよう」
そう思い、彼は「ゴドラ・マハラ 再戦!」を手伝いつつも次の企画を考えた。
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冬。
英雄ブライが帰国して来た。
どうやらアタシノラバ夫人がお目出度の様だ。
彼女の実家へと向かったところ
「質の高い病院があるというお前の故郷へ行け。
そこで孫を元気に育ててから顔を見せてくれ」
と義理の親に言われて飛んで戻って来たそうだ。
そして、ロクに挨拶もせず冒険へと戻って行った。
「俺もついにおじいさんかあー」
「私もおばあちゃんですね?」
どうみても30手前っぽい夫婦が笑顔に包まれる。
「アイツも早く婚約者だけでも何とかしないと」
「好きにさせるって言ったのアンタでしょ?」
アックスとセワーシャ夫婦の長男、ハンマ氏は騎士団を率いる立場で引く手あまたながら、
「未だ武の道半ばの身」と婚約者を取ろうとしない。
「ウチのにも困ったものだ」
「色々手伝ってくれるのは嬉しいけどねえ…」
デシアスとミーヒャー夫婦の長女、マーニャ嬢はマギカ・テラを中心に活躍するリック社長の長女キャピー嬢の人形劇団の世話役を行ったり、劇団の仕事が無い時は母ミーヒャー専務を手伝ったりしていた。
「それで、お義父様に見て頂きたい物があるのです」
未知の種族と会って会話するという、極めて高い語学力を求められる仕事上、西側諸国の言葉も流暢になった義理の娘が差し出したのは、英雄ブライの手記。
「直接お義父様のお仕事には関係ないかも知れませんが、道中彼はよく言ってました。
同じ地球の上なのに、まるで宇宙の星々を巡り歩いているみたいだって」
書かれていたのは探検の記録ではなかった。
彼がクルス・ボランテスではなく宇宙船に乗って星を旅し、未知の世界、未知の暮らし、未知の哲学を持った人々と知り合い、更に未知の世界へ向かっていく、彼の心の冒険記であった。
「好き放題させて貰っているので、せめて作品の足しにして貰えればと言っていました」
そこには彼が如何に未知の人々を観察し、注意して接し、時に禁忌を犯し掛け必死に償う失敗譚もあり、未知の自然現象に襲われる苦労話もあり、旅団や軍艦と合流し随行した時に学んだ集団行動の厳しさや憧れについて語られていた。
「これ~、このまま映画かテレビにしてもい~よ~!
流石ブライちゃ~ん!!」
アイディー夫人が興奮した。
「主人公が宇宙戦艦の艦長なのは、海軍と合流した時の経験からか。
俺はてっきり一匹狼が性に合ってるもんだとばかり思ってたなあ」
内容はテレビシリーズ半年分が楽に撮れる物語と、更に半年分のシノプシスが書かれていた。
「好き勝手に解釈してくれても構わない、ヒントになるだけでもいいって彼は託してくれました」
「照れ屋さんめ。
よし、これで新作を企画しよう。親子二代の合作だ!」
彼は「宇宙帝国の崩壊」三部作以降遠ざかっていた宇宙SF作品に再度意欲を燃やした。
知り合いのSF作家たちに声を掛け本作の感想を聞き、1年シリーズに出来ないか打診したのだ。
「本物の冒険家が書いているだけにあまり手を入れたくはないが…」
「宇宙船が恒星間、銀河間を往来するワープ理論も、リックさんが撮った『スプラフィニス』の設定で問題ないでしょう」
何だかんだ我が子は見ていてくれたんだなあ、とリック社長は感慨にふけった。
「敢えて言うなら宇宙船が各惑星に着陸するのではなく、大気圏降下用小型艇に乗り換えるか、いっそ瞬間転移させるかだなあ、リックさんみたいに」
「ははは。その方が英雄ブライ氏も喜ぶかもしれませんね!」
「軍隊にしては女性が多いな」
「恐らくトリック特技プロの中の良さをモデルにしてるんでしょう」
「アニメスタジオだと女性はいてもあそこまで和気あいあいとはしてませんからな」
「怒られますよ?」
「わはははは!」
「宇宙語学の権威は恐らく御夫人がモデルなのでしょう」
「異民族で女性が活躍する社会。素晴らしい男女平等の世界ですなあ」
「エンジニアが女性というのはアイディー夫人でしょうか?」
「色々聞かされるとこっち迄恥ずかしくなるなあ」
「あなたの会社はそれ自体それだけ魅力的って事ですよ」
こうして構想が固められていった。
最後に
「宇宙船のデザインは、リックさんが責任を持ってやるべきでしょう」
「いっそ大気圏の制約がない、自由な形がよいのでは?」
「それには宛てがあります」
「「あ~~」」
異世界の異国のテレビシリーズに登場するもので、地上ではありえない姿の宇宙船だった。
舞台は20世紀、超光速航行を可能とする反物質動力を手にした人類は宇宙の真の姿を求め、未知の文明、未知の世界を探索する計画を立てた。
そして未知の世界に挑むのがNCSプロベクトス。
巨大な円盤状の司令・戦闘・住居部分と、円柱状の反物質機関区、亜空間発生装置である左右二本の長い直方体、それらが機関区からの支柱で連結された宇宙船だ。
早速リック社長はミニチュア製作に取り組み、モーションコントロールカメラを駆使し、贅沢にも70mmフィルムでその航海場面、惑星を通過する場面、亜空間航行の場面を撮影した。
その表面は防弾魔法を展開するため複雑なパネル塗装が成され、後にトリック玩具を困らせる事になった。
敵対する武力第一主義の勢力との小競り合い、宇宙に広がる異民族と共存する宇宙艦隊の描写も例によって仲間達によって艦隊に演じられ、未知の惑星への着陸、様々な時代の様相を呈する異文化との接触、そして過去フィルムの流用だが未知の宇宙現象との遭遇を10分程度の映像にした。
勿論日中は「スプラベラータ」が撮影中なので、夜にコッソリとリック社長が撮影した。このパイロットフィルムだけで結構な予算がかかったが、その額はナイショにされた。
こうして我が子が自分の夢を託した手記を元に、新シリーズ「ピオネル・スパティアリス(宇宙開拓者)」の企画がヨーホーテレビに持ち込まれ、休前日の夜、大人のドラマとして放送される事が決まった。
そのタイトル冒頭には「原作:ブライ・トリック」と誇らしげに書かれる事となった。




