360.ゴドラン、スプラルジェント、復活再び
諸国展示会の熱気も、世界映画祭のセプタニマ監督久々の受賞の歓喜も落ち着いた頃。
昨年の「ゴドランの分身」のまあまあの成功によって、ヨーホー映画は毎年または隔年でゴドランをラインナップに乗せる事とした。
ただその内容は消極的だった。
過去の人気怪獣の復活と、ゴドランとの再戦。
その検討対象となったのは、キメラヒドラ、マハラ、マキナゴドランという有名どころ。
予算規模もまあまあの規模を維持するのが一杯との事で、「ゴドランの分身」並み。
復活怪獣再戦シリーズの第一弾に選ばれたのは、キメラヒドラ。
またまた宇宙から飛来するが、今度はゴドランと初の一騎打ちとする予定だ。
どんな物語にするか、「宇宙人の手先はよそう」と、一匹狼感を出す事にしたのだが、何故来るか、どう展開するかで思い悩んだ。
「って訳でリッちゃんさあ」
酒持って来たのはショーキさんとポリちゃんのダブル監督。
「まあ、何故キメラヒドラがわざわざ地球にくるかだけど、やっぱり生物や熱や気体みたいな資源を喰らって繁殖して、宇宙に分身を飛ばすってトコかなあ」
「生物の本能ですか」
「奴も種の維持のため必死なんですよ」
リック社長のアイデアは、
宇宙探査機が回収した岩塊が実はキメラヒドラの卵であった。
序盤に他の宇宙細胞が巨大化してゴドランと一戦を交え、ゴドランはこれを焼き尽くした。
しかし、更にその細胞が大量に出現し、ゴドランが闘志を燃やしたにキメラヒドラ現れ宇宙細胞を一掃し、宿敵ゴドランと再び相まみえる
…という話にした。
「あったなあ、宇宙細胞って企画」
過去「技術的に難しい」と見送られた宇宙細胞怪獣メーバスの企画を復活させたのだ。
トリック化学はアイディー夫人の発案で多くの化学素材を生み出し、怪獣の材料となる人工樹脂も軽く丈夫になった。
無論、水の中でも色々な用途に耐えるフィルム素材が出来、これを水槽の中で操演し合成する構想だ。
炎上するシーンは大型の宇宙細胞を下から風魔法を送って浮かびあげ、それを燃やす。
テスト撮影は
「俺が言い出しっぺだし」
とリック社長がチャチャッと撮り上げ、キメラヒドラの光線を受けて爆発炎上するメーバスの場面を、眼下の市街地との合成を含めて完成させてしまった。
このパイロットフィルムは役員にも好評で
「これで一本出来るんじゃないか?」
とまで言わせた。
「いやいや、前座の怪獣ですから」
そして敵役のキメラヒドラ。
最初のヌイグルミは「彗星戦士レジオ」にゲスト出演した後に廃棄することが決定していたが、それをリック社長が回収し、修繕して保存して映画博物館に寄贈していた。
これを参考に新しいヌイグルミが作られたのだが、新作の鱗は金の蒸着素材で鱗が作られ、光を反射してまばゆく輝いていた。
「こりゃ撮影が大変だなあ!」
「でもやり甲斐はありますよ」
「再登場ですからインパクトないとね!」
蒸着素材を提案したリック社長がかつて「エキスペクラリ」で起きたハプニングを色々説明した。
中に人が入る3m大のキメラヒドラもさることながら、今回は新機軸も導入された。
機械の腕を内蔵し、同じ動きを何度も再現できる1m大モデルも作られ、モーションコントロールカメラと併用される。
これによって暴れまわりながら都市を蹂躙する様が多様な視線で描くことが出来るのだ。
無論、決闘場面は伝統の操演班が大活躍する事となる。
表情が様々に変化させられる巨大ゴドラン胸像も活躍する。
これまたリック社長が自費で購入し、修理して維持した上でヨーホー映画へ返却したものだ。
相変わらずのリック社長の自社作品の様な肩入れ振りにショーキ監督は感謝した。
「リッちゃんのお陰で随分助かったよ!」
これら造形物は製作発表会で会場を賑わせ、新作への期待を高めた。
この「ゴドラン・キメラヒドラ・再戦!」も好評で子の後マハラ、マキナゴドランと対戦する新作が続々作られた。
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新作発表に続いて過去作がテレビで放送されると高視聴率。安息日午前という子供達にとって第二のゴールデンタイムとなった時間で20%以上稼いでいる。
その一方で特撮作品ではなくアニメ作品にその座を譲った安息日の夜は40%を維持する事も難しくなっていた。
これを好機と捉えたヨーホーテレビは
「今四度のスプラルジェント復活を!」
と言い出した。
今までスプラシリーズとしては何度か復活と中断を繰り返してきて、その休止期にも巨大変身英雄作品を断続的に世に送り出し、夫々好評を得ているトリック特技プロなのだが、今度はヨーホー映画が企画するゴドランシリーズの復活に合わせる形で3年、4年と続けられる安定したシリーズを、との注文だった。
「やりたかった事はやり尽くした。
でもこうして声を掛けて貰えるというのは大変な事だよ。
いっそ若いスタッフに企画も全部任せて、俺はデシアスと並んで特殊技術として参加しよっかなあ」
等と言いつつ企画案を幾つか書き上げていた。
だが、過去二回では「兎に角街の中で怪獣相手に暴れるスプラルジェントが見たい」という純粋な要望だったが、今回は目新しさも求められた。
過去の神話の戦いを現代に蘇らせる、人間の手で生み出された巨人たちが争うといった新機軸を過去に送り出してしまったリック社長は、企画を若手に求めた。
若手文芸員たちは
「いやいや!社長の新機軸ですけど、あれ半年とかで終わらせるの勿体なかったですよ!」
「『マキナヒーロース・クインケ』も39回以上あっても良かったんじゃないですか?」
「いっそ1作で2、3年続けられる作品を目指しましょう!」
(俺はダラダラ続くより長くても1年でバシっと完結する作品の方が性に合っているけど、彼らに任せる以上やらせよう!)
こうして新作スプラルジェントは、宇宙の各惑星が覇を競い侵略戦争を繰り返し、その尖兵として巨大変身宇宙人や、それが使役する怪獣で侵略対象を制圧するという、敵宇宙人にもヒーロー性を持たせることとした。
「スプラセプト」を格闘作品寄りにした内容だ。
防衛隊も登場するが、あくまでも主役は新スプラルジェントと敵侵略者。
敵の卑劣さに激怒しつつ上げ足を取られるスプラルジェントや、強く正しい心を持つスプラルジェントに艦かされ軍門に下る宇宙人も登場し、時折タッグを組んで戦う事もある。
「…レスリングだなあ」「だねえ」
「技を魅力的に見せる山場が必要だなあ」
企画書には技の案も出されていた。
空間を捻じ曲げる技、全身を回転させ相手を切断する技、敵をバリヤーに閉じ込め、放たれた光線を何度も反射され痛めつけられる技等々…。
「ほう、よく考えるなあ」
こうして新スプラルジェント、「スプラベラータ」が企画され…
「怪獣があんまり出ないんですか?」
怪獣を使役する宇宙人を増やして製作が決まった。
先ず26話、結果によって1年延長。
製作費は、これも「スプラ・テリトス」よりも下げられそうになったが、
「こちらも無理して製作するつもりはありませんよ」
とリック社長は引かず、同条件での製作開始となった。
「また世話になりますよ!」
かつてトリック特技プロを「卒業」した仲間達を外注で呼び込み、多くの宇宙人の、ウェットスーツを母体とした、スプラルジェントのバリエーションの様な宇宙人が続々製作された。
過去の宇宙人も再登場し、スプラルジェントへのリベンジマッチを企む。
製作費に比べ物価は確実に上がっており、さらに合理的に数話並行撮影が行われる。
特撮の見せ場となる格闘前のランドマーク破壊も絞られる事となり、嫌が応にも不敵な宇宙人と主人公スプラベラータとの変身前の台詞の応酬や格闘に比重が置かれる。
怪獣が出る話は防衛隊対怪獣も描かれ、宇宙人対スプラベラータの話は技の描写が主体となる。
こうして従来と若干色合いの異なるスプラシリーズが安息日の夜をにぎわせる事になったのだ。
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完成試写は初回2作が同時に行われた。
今までのシリーズと変わる事の無い特撮の迫力、第一回目では地球に送り出されるスプラベラータを見送る今までのスプラ9戦士も登場し、関係者に「ああ、スプラシリーズがまた帰って来たなあ」と安心させた。
変わったと言えば二回目で敵宇宙人と変身前のスプラベラータの「宿命の対決」が描かれ、月面基地での戦いが、技の応酬を主体として描かれた。
敵の技も、過去の怪獣が放った超能力を強化したもので、過去のスプラルジェントの助言を思い出し打ち破る事が出来た。
そこに防衛隊の反撃が加わり、水入りとなる。
この時戦った宇宙人は、後にスプラベラータの友となり、共に悪質侵略星人と戦う事になる。
しかし1話25分でキッチリ終わるのは、イベント的な前後編以外は厳守。
「ダラダラ決着が付かないと子供は飽きちゃうからね」
とはリック社長の矜持だった。
撮影は進み、放送開始もほぼ「ゴドラン・キメラヒドラ・再戦!」と同時期になり、数年ぶりの怪獣特撮ブームが再燃した。
ただ、「スプラベラータ」の予算節約のため撮影スケジュール組が合理化され、結果的に製作時間に余裕が出来た。
この時間を使ってリック社長は王都内外の学校向けに撮影見学会を行い、多くの子供達を夢中にさせた。
長い撮影準備と、一瞬で終わる撮影。
美術倉庫を見学させ、その間に撮影されたフィルムのラッシュを用意してスタッフたちと一緒に見る。
実物だとパッと爆発、ペチャっとなるミニチュアが、物凄い迫力に見え、子供達は感激する。
合わせて完成済の話の試写を行い、アイラ夫人たち女性陣が子供達にお菓子を配る。
見学に来た子供達は新作を応援してくれるだろうか、それより特撮の現場を楽しんでもらえただろうか。
集められる限り集めた過去のスプラルジェントも交えて記念撮影を行い、熱心に手を振りながら去っていく子供達を見送ってリック社長は思った。




