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359.第五回世界映画祭

 東国からの帰路、リック一家は伝習隊、一部東国への滞在を希望したもの以外とともに高速鉄道でのんびり帰国した。


「東国は刺激的だったよね!」

「そりゃ毎日宴会だもん。映画撮りに来たのか酒場開きに来たのか解んなかったよ」

「でもリックさん、凄く楽しそうでしたわね!」

「そ、そ~よ。あの子達、すごくね、頭良かったよ?」


 色々ボウ帝国であった様なトラブル。

 詐欺、盗難、契約違反。

 その様な事はテッキ王国ではなかった。


 しかし皇帝の権威が強く、何かあればたやすく死罪になるボウ帝国では詐欺や犯罪が多かった。

 逆にその辺がゆるいテッキ王国では、契約も現場の働きにも何も問題がなかった。


「気候が厳しいテッキの方が、黙ってても資源に恵まれてるボウ帝国より、力を合わせてやってかないと生きていけないんだろうね」

「風土論?」


 ブロム嬢が、時々リック社長が言う、国民性は土地風土が作るという説かと聞いた。

「そうだね。土地が人を作り、人が土地を育てるものなんだ。

 俺達は俺達が育った西に帰ろう!」

「「「はい!」」~」


******


 後事を新進に託したテッキ王国建国史劇「建国記」だが、半年26回を通して視聴率は70%を超え、若手を指揮した総監督は国王から名誉大臣の称号を受けたとの報せが来た。

 今だ高級品であるテレビの普及率が低い、という問題のお陰でもあるのだが。


 無論、連日リック邸で盃を交わした若者たちも適切な報酬を得て次の仕事に向かっている。


「よかったよー!遠くで仕事した甲斐があったってもんだよ!」

「こっちはお前がいなくて寂しかったぞ?」

「じゃあ次はみんなで行こうよ!東国の屋敷の裏庭で夜に上映会やって、宴会して、楽しかったよ!」

「楽しそうね!」「お祭りみたい!」


 アックスとセワーシャの娘、ソラチムちゃん。

 デシアスとミーヒャーの息子、ヘルム君。

(みんなも瞬間移動で呼ぶべきだったかなー?)

 何度もそう思いつつ、小さい子にあまり便利な魔法を覚えさせるのも良くないと自制したリック社長。


「次に仕事かイベントがある時は、みんなで高速鉄道で東国見物ね?!」

 セワーシャが最適解を出してくれた。


「「「ハイ!!」」」

 成人間近なブロム嬢も元気に返事した。


「で、社長。次回作、どします?」

「一応あっちの二作の権利持ってるからさ」

「『荒武神伝説』は兎に角、国がからんでる『建国記』はウチだけで放送をどうこう出来ないでしょう。

『荒武神』も12回だけですから、ちょっとだけ新作を企画する時間稼ぎにしかなりませんし、いっそ今の放送に続けて新作を放送させるか決めましょうね?」

「…はーい」


 結局「建国記」は「キリエリア・テッキ国交樹立記念作品」と銘打って、キリエリア王立放送局で安息日の夜に放送された。

 しかしボウ帝国程西側諸国の人々に親しみが無かったためか、視聴率は伸びなかった。

 ただ本作をずっと観ていたものはこれを高く評価し、そして彼らが後に外交や商業に活躍する際にテッキ王国を理解する最良のテキストとなるのだが。


 一方「荒武神伝説」は安息日の昼、かつてトリック特技プロ製ショーウェイ超騎士団を放送した時間帯でひっそり放送された、が。

 40%の視聴率を記録した。


 当初商品化を意識していなかったが、トリック玩具に問い合わせが殺到したため、「変身マキノイド1」の衣装として発売、即完売。


 この状況をザナク財務卿経由でテッキ大使館に伝えたら、万単位で注文が来た!

「向うでは玩具を子供に買い与える習慣はあるとは知っていますが、どこまで高額なものを買えるかですけど…」

 リック社長は戸惑った。東国の物価はボウ帝国も随分上がったとはいえまだ安く、テッキ王国は更に安かったのだ。


「貴族が欲しがります!なので何か差別化して平民でも買える価格設定ができれば!」


(うわ。俺の策勉強してるのかな?)

 そう、過去貴族向けに高級包装オマケ付きで高額に、平民向けに袋詰めの人形を安価に販売したリック社長の商法を彼らは学んでいた。


(どこで知ったのやら)

等と疑問に思いつつ、過去同様に破壊される宮殿とセットにした高級品と、袋に入れただけの廉価盤を輸出した。

 採算割れしないギリギリの価格で発売したところ、秒で完売、追加注文が来た。

「毎度あり~」


******


 一方、今年開催される世界映画祭に向け、運営委員会が動き出した。


 ただ、近年のリック社長の活躍はテレビシリーズの、しかも子供向けの作品に絞られていたため、彼らがリック社長の作品に関心を向けることはなかった。


 むしろ彼らの視線はセプタニマ監督の新作に向けられた。


 だが。

 いつもの通り製作が延期され、自社の手に余ると判断したマッツォ社長が「全損」として製作中止、債権回収を口にし出すという事態に陥った。


 これにリック社長が待ったをかけた。

 何と彼は「ゴドランシリーズ継続のために」と私財から3億を貸し付けたのだ。


 これは理由付けに過ぎない。

 ゴドランシリーズは「ゴドランの分身」の成功によって続投が決まっていたのだ。

 その真意を汲み取ったマッツォ社長は、これを原資にセプさんの損失の穴埋めに回し、なんとか撮影を続ける事が出来たのだ。


 かくしてセプさん久々の超大作「王国泥棒」が完成した。

 王道の歴史劇で、豪華絢爛な衣装に大軍勢、実物大の城塞が炎上する様が描かれた。

「極北案内人」で天然色フィルムに対する「畏れ」が無くなったのか、極めて鮮烈な色合いで悲喜劇が、主人公達の破滅が描かれる。


 無論特技部も動員され、バーサタイル70が炎上する実物大の城塞や宮殿と逃げ惑う人々を合成し、言われなければそれと解らない特撮カットを生み出し続けた。


 製作費、破格の20億デナリに対し、興業収入80億デナリ。

 数年前までは製作費の10倍という昔の考えが強かった。

 しかし映画の観客が減った今では認識が変わった。

 数十億行けば大ヒットとなる今としては、超ヒットと呼べる結果を出す事となった。

 100億デナリに近い数字という方が世間の注目を集めたのだ。


 意気揚々、酒と肉、そしてチーフ助監のテンさんを連れて庭園鉄道でセプさんが来た。

「どうだい!ゴドランなんかじゃああは行かんだろう!」

 一同、実に微妙な表情になった。

 ゴキゲンなセプさんに、さしものデシアスですら苦笑するしかなかった。

「やっぱセプさんあってのヨーホーだ!」

「そーだろそーだろ!飲もう!」

 その夜は大層賑わった。

 事情を知ってか知らずか、セプさんは

「まだまだやろうぜ!アンタが二度も立てた白亜の殿堂は、世界の映画の頂点なんだ!」

そうリック社長を持ち上げ、一同はこれに応えた。


******


 だが、そんなヨーホー映画の恥ともいうべき事実は隠された。

 セプタニマ監督がゴドランに助けられたというのを恥と考えての事だ。


 そうとも知らない映画祭委員会。

 セプタニマ作品「王国泥棒」を最優秀作品賞に推す声が早くも高まっていた。


「こうして映画の夢が広がればいいんだよ」

「リックさんもその方が幸せそうですしね」


 だがそこに来客が。


「王国泥棒に出資したの、リック社長ですね?」

 事情通のとある委員氏が突き止めたのだ。


「バレたか。でも黙っててください。

 セプさんの自尊心が傷つきます」


「しかし我々には事実を公表する義実があります!」


 なんか半分自己陶酔みたいな気分で委員氏が言うと

「そんな義務はない!

 あっても俺が叩き潰す!

 世界映画祭そのものを叩き潰してもいいんだ!」

リック社長は激怒した。


 唖然とした委員氏。


「あなた自身は、莫大な資金を投資して何の見返りも無くて、悔しくないんですか?

 あなたは、いつも他人のために必死になって活躍して来たじゃないですか!

 普通であればもっと自分を売り出すと思うのですが?

 そう思わ…」

 そこまで口にした委員氏は、自分の浅慮に気付いた。


 とリック社長は落ち着きを取り戻して答えた。

「驚かせてしまい申し訳ありません。

 でも、全然そうは思わないんです。


 むしろ、映画全体が賑わえば、良い映画が出来れば。

 観客が増えて、みんなが喜んでくれれば。

 出した金なんか丸々帰って来なくても、出した甲斐があるってもんですよ」

 そう言うと、リック社長は笑った。


 少年の様に屈託のない笑顔で語るリック社長に、自分を含め兎角名誉欲が強い普通の映画人との違いを思い知らされた委員氏は、驚き、そして恥じた。


「…己の不明をお詫び申し上げます」


「映画祭、頑張って盛り上げて下さいね!」

 アイラ夫人は発泡ワインで彼を持て成した。


 それから委員氏は最近のトリック特技プロの動向を聞いてさらに驚いた。

「どれも全然クレジットされてないじゃないですか!」

「しなくていいよ。他人のお金で好きなミニチュア作ってぶっ壊して、それだけで幸せですよ」

「呆れたお人好しだ…」


 そして映画談義に花を咲かせ、委員氏はリック一家に深く頭を下げて辞した。


******


 この委員氏はその後リック社長について調べ、更に更に驚いた。

 表に出ていない活躍が多すぎた。


 それも映画だけではなく、内乱鎮圧や諸国条約締結、ボウ帝国とテッキ王国の戦争回避等々。

 テラニエ・マギカテラ紛争の和平に活躍した事は知られていたが、それどころではない活躍の数々と、それをあまり公言していない。

 そして、それこそがリック・トリックという人の哲学なのだと、あ


「何か報いるべきだ、彼の、折角の配慮を損なわない様に」


 彼は知り合いの委員とともに、テッキ王国のテレビ映画を見た。

 そこに描かれていたのは、まさに彼の今までの作品と変わる事がないダイナミズム、スペクタクル。

 勧善懲悪、歴史の無念、見終わった後の充実感であった。


「これがテッキ王国初のテレビ映画か。

 というかまんまリック作品だけどなあ、ははは!」


 苦境を乗り越え建国した英雄の物語も、神話の武人も、変わることなく優しさと厳しさを併せ持って世の悪に立ち向かっていた。


「折角新たに諸国条約に加盟し、我々の仲間となった国の映画だ。

 この二作に今後への期待も込めて特別賞を贈るべきだと思うが、どうだろう?」


 こうして「建国記」「荒武神伝説」の二作はノミネートされた。


******


 地球の裏側で二度目の諸国展示会と世界映画祭が開催された。


 テッキ王国の人々は、まだ見ぬ大陸西側の映画に見惚れ、感激し、文化も風習も異なりながら、変わる事の無い人間の心を描く物語に酔いしれた。


 そしてやはり「王国泥棒」の華麗で皮肉で過酷な結末に圧倒された。


 更に「建国記」「荒武神伝説」を編集したパノラマスクリーン立体音響に改めて圧倒された。

 西側諸国からの観客は、相変わらずテレビ作品なのにワイドスクリーンも意識した撮影を行っている事に

「あー、コレまたリック監督の指示かあ。あの人ほんとバカだよなー(いい意味で)」

と呆れつつ賛美しつつ、その変わらぬ作風に酔いしれた。


 かくして当初の下馬評の通り「王国泥棒」が最優秀作品賞を獲得し、特別賞は「建国記」に贈られることとなった。


 久々に晴れの舞台に出る事になった喜色満面のセプタニマ監督。

 そして自らの名が決して出る事の無い「建国記」に贈られた栄誉。


 リック社長はテレビの報道を前に、家族や仲間達と祝杯を上げたのであった。


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