358.「荒武神伝説」、東国の夢
「宇宙帝国の滅亡」三部作に取り組んでいたヨーホー特撮は、久しぶりにゴドランの新作を公開した。
「ゴドランの分身」封切り。
やはり徹夜を企む若者がいたと聞き、リックは彼らを解散させる為、瞬間的に帰国した。
すると既にショーキ監督が
「お前ら帰れ!徹夜なんかしたら風邪ひいて映画どころじゃなくなるぞ!
帰れねえってんなら宿の割引券やるから、近くのいい宿に泊まれ!」
と大盤振る舞いの説得を訴えていた。
「ショーキさん!来てたんですか!」
「何だよ!リッちゃんこそ東の果てじゃなかったのか!
いやさ、社長からこんなの貰ってさ」
「社長が?」
ファンを徹夜行列させないための宿泊割引券は社長の差し入れだそうだ。
「社長、明日も初回は開場と同時に来るってさ」
「いい事だー!」
リック社長は嬉しかった。
初日の挨拶なら兎に角、今までファンの行列に社長が出向くなんてことはなかった。
それが社長が一人の人として、ファンに会いに来る、ファンの体を案じてくれている。
嬉しくてたまらなかった。
何より、彼も一人の特撮ファンであり、自作であっても他人の作品であっても応援したい気持ちが一杯だった、それが報われた様な気がしたのだ。
初日前夜のちょっとしたイベントが、関係者の意識を変化させている、リック社長にはそう感じられた。
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翌朝、初回をトリック特技プロ一同は鑑賞した。
新怪獣との格闘や大破壊は凄い。
トリック特技プロでもミニチュアの精度やオープン撮影による現実味は進化している、しかしヨーホー特技部は更に現場中継垂直飛行機の視線で、ミニチュアの中をモーションコントロールカメラを走らせた。
格闘する怪獣や破壊される高層建築は合成ではめ込められ、周囲のミニチュアと一体化している。
ミニチュアを撮影しているモーションコントロールカメラの動きと、怪獣決闘を撮影しているモーションコントロールカメラの動きが電算機の制御で完全に一体化しているからこそのシーンだ。
怪獣格闘をダイナミックに見せるため、進化した特撮が惜しげもなく披露された。
最後、進化を極めんとして崩壊しつつある自らの分身。
分身であり仇敵を放射線火炎で焼き尽くし、ゴドランは海へ去る。
「生物の進化」「遺伝子操作という命への冒涜」というSF的な話題を軸に、怪獣対決と学士のエゴ、国家間対立というバランスの取れた内容が疾走する様な速さで描かれた。
着実に進化し、現実味を一層帯びて来た特撮も好評だった。
最終的に2億の制作費に対し20億を稼いだ。
特にアモルメでは「ゴドラン対プロメテ・ゴドラン」と改題され、5億の利益を齎した。
やはりアモルメでは破滅に向かう題材が愛される様だ。
こうして4年ぶりのゴドランは成功に終わった。
ただ、その祝賀会にはリック社長たちの姿はなかった。本作には全く関与していなかったからだ。
「でもなあ、最初にSF作家と話してくれ、って言ってくれたのはリッちゃんなんだよなあ」
この世界でのゴドランの親であるリック社長がいない事を、ショーキさんは寂しく思った。
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テッキ王国で、王国初の自作テレビ映画「建国記」が放送開始された。
冒頭映し出されたのは、荒廃した国土と、繁栄する当時の東大陸の大帝国の大宮殿。
後に王となる英雄が夢の中で神託を得、同志ともに決起する。
荒廃した風景や大宮殿にはミニチュアやグラスワークによる簡単な一発撮りが行われ、神託は古い35mmのヨーホーバーサタイルが幻想的な効果を描いた。
そして地方反乱、建国の第一歩となる勝利の戦い。
これもエキストラを多重露出で大軍勢に見せている。
そこまでが第一回目。
試写では多くの現地関係者が歓喜し、同時視聴も飛び込んで来た60%超え確実の報に一同は喝采を上げた。
主演のテッキ俳優氏、撮影中はよく理解できていなかった様だが、ラッシュを見て仰天し、今では誇らし気に振舞っている様にすら見える。
放送局での同時視聴ではまたまた国王が突然来場、リック社長を絶賛するも
『俺…私は直接関わっていません、栄誉は彼らにこそあります』
と現地の見習いと伝習隊を紹介した。
王は一人ずつ激励し、まさかのお声がけに一同は感涙した。
視聴率は後日発表され、何と70%超。
「『スプラQ』の頃を思い出すなあ」
テレビ放送が立ち上がったばかりの初々しさをテッキ王国に感じたリック社長が感慨にふける。
そして元々彼が呼ばれるきっかけになった巨大英雄作品「荒武神伝説」。
王家の伝承たる「建国記」に遠慮し、1週遅れでスタートした。
こちらも70%超の大人気。
「何とか国交のお役に立てたかな?」
古代の遺跡から出土された鎧をデザインモチーフにした身長5mの巨大武神。
この国の昔話にある勧善懲悪の物語の締めとして現れ、善良な乙女の涙や純真な子供の祈りに応える。
地方の土着信仰によくある柔和な顔の像が悪の驕りに接する時、凶悪な形相に変化し、侵略者の城や悪徳領主の宮殿を襲い、魔獣を操り国に害をなす邪教の神殿に立ち向かう。
時に実物大の武神が敵兵を蹴り飛ばす。
本編や実写と特撮の切り替えをリック社長は巧みに指示し、異国の若者たちにコツを教える。
ミニチュアの破壊、編集、そしてリック社長得意のゴドラン風の音楽を作曲し、現地の楽士を指導する。
無論、現地の民俗音楽を取り入れ、善良な人々の祈りの主題に組み入れる。
最後、悪を滅ぼしながらも怒りを収めない荒武神に祈る乙女や子供達の祈りの主題が、強大な荒武神の怒りを解き、その体は土くれに、水の泡に、雪に、花びらにと溶けて消える。
「時に力弱いものの祈りは、強大な力よりも強いんだよ」
祈りの主題を書き上げたリック社長は、学士たちに異世界の教訓を伝えた。
その結果演奏された祈りの主題は4部それぞれ違うものとなったが、どれも素晴らしい曲となった。
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リック社長は実に嬉々としてこれらをこなしていった。
そしてその様子を間近で見ていた彼らは、まさに乾いた砂の様に知識を吸い込んでいった。
そして彼らはほどなくして指示を待つことなく撮影に臨み、時には自ら撮影しスタッフに指示を与える様になり、僅か半年の間に自己流ながら撮影技術を身に着けていたのだった。
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情熱溢れる若い映画人は、夜になってもスタジオを離れようとしなかった。
そこでリック社長は二人の夫人と相談し、修業後に彼らを自宅に招く事にした。
「自由参加の研修、ってね」
「みなさん来てくれるかしら?」
「来るでしょ、ね~?」
全員来た。
研修という名目なので、裏庭を仮設劇場にしてテッキ王国では公開されていない過去の特撮作品を鑑賞し、撮影方法を解説する事にした。
すると彼らは感激し、撮影方法だけでなく、如何にして空想物語を思いついたのかをリック社長に問い詰めた。
(異世界の記憶です、ってだけじゃ駄目だなー)
それから毎日撮影が終わると研修と言う名の宴会となった。
アイディー夫人も撮影法やフィルムの扱いについての説明に参加し、アイラ夫人は情熱的な若者たちに酒を振舞い、彼らも肉に鳥に魚などを土産に持ち寄って、更に伝習隊の仲間達もやって来て大騒ぎとなった。
既に成人近くなったブロム嬢も給仕に勤しんだ。
母親譲りの美貌を持つ彼女は現地スタッフの密かな憧れであったのだが、本人は「暮らすならキリエリアがいいなー」だそうだ。
この連日の騒ぎに付近の住民も何事かと集まり、ついにはリック邸の裏庭は一大星空特撮劇場となり、子供達も目を輝かせて集まり、連日お祭り騒ぎとなってしまったのだ。
『今日は何ー?!』
『西の国にはすぷらるじぇんとって凄い英雄がいるんだって!』
『俺見た!旅の商人の映画会で4つ見た!』
(こりゃテレビ作品もやらないとなあ)
時にスプラルジェントやエキスペクラリ、トレスヒーローなどを上映すると子供達が爆発した。
『うわー!』『カッコイー!』『こんないっぱい英雄がいるんだー!』
そんな姿も、東国の若い映画人にとっては驚きだったのだ。
「これからは君達がこの子達にこんな夢を見せる番なんだぞ?」
『『『ハイ!!!』』』
なお、時々カチン大臣や今やすっかり大御所女優となったコーラン夫人も紛れていたのだが、リック社長は敢えて無視…
「つれないのう」
「いやいや!いまここでカチン大臣でございって言ったらみんな大パニックですよ!」
「ふふふ。もう気付いている子もいるみたいですよ?」
流石に映画を志すだけあって隣国の大臣と大女優の顔を覚えている者が居住まいを糺している。
そんな若者にちょっかいを掛けに盃を持って駆け寄る二人であった。
「あー!暗殺されても知らんからね?!」
無論この一帯には護衛が潜伏し万一も許さぬ守りであったのだが。
長年敵対していた隣国の姫がホイホイ親し気にやってきたのだ。
一瞬で酔いを醒ましてしまった若者たちに、何故か申し訳なく思うリック社長であった。
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12回分の撮影を終え、思う存分テッキ王国の伝統建築を武神が大破壊する様を撮影したリック社長。
最終回の納品を終えると、彼は半年の滞在を切り上げ帰国した。
撮影が終わった「荒武神伝説」のスタッフが「建国記」にそのまま参入し、自国の歴史を自国のスタッフだけで撮り上げられる様になったのだ。
テッキの若い映画人は短い間ながらもよく学び、何より映画の、特撮の魅力に深く嵌り、去り行くリック一家に涙を流して感謝した。
『楽しかった!毎日夢の様でした!』
『リックさんはこの国を平和にしてくれただけじゃない、俺たちに素晴らしい夢を見せてくれたんです!』
『俺たちだけじゃないよ!毎晩凄く夢中になって特撮を見てたあの子供達!
あの子達が俺たちに何をすべきか教えてくれたんだ!』
帰国する前の最後の晩に、教え子たちが集まってくれた。
既に荷物を引き揚げ、空き家になった借り住まいだが、毎日特撮映画大会を楽しんだご近所様達も酒と料理を持ち寄ってお礼に来てくれた。
『わざわざありがとう。
じゃあ、最後にまたみんなで楽しもっか!』
『『『おおー!!!』』』
子供達のために、「スプラ9戦士・惑星を救え」を上映し、宴を始めた。
子供達は知らないスプラルジェントもいたみたいで、そんな彼らがカッコよく戦う場面に、ミニチュア破壊やアクションと絡めて繰り出す光線技に夢中になった。
子供達だけでなく、僅か半年で成長した現地スタッフたちも夢中だ。
「礼は言葉に尽くせぬな」
「うを!!」
また国王が来た。
猛勉強したのか、西国語で語り掛けて来た。
「暗殺されても知りませんよ?」
「お主がいる。そんな事万に一つもあり得ぬ」
「随分ご信頼頂いている様で、こっちの寿命が縮みますよ」
「はっはっは!許せ!」
流石に自国の王とあってその正体に気付く住民も多かった。
『畏まるな!皆で飲んで食って素晴らしい特撮を楽しもうではないか!』
『『『ははーっ!!!』』』
「いい王様だなあ」
リックは感心した。しかもこの王様、イケメンだった。
そして国王陛下曰く。
「この屋敷を空けておく。また来てくれ。
そして皆が楽しめる映画を撮ってくれ」
リック社長はテッキ国王ブゲー陛下と約束を交わし、その後も時々特撮指導や自社作品のセールスに訪れ、この家で宴会つき上映会を行った。
そして不在時はこの屋敷は特撮博物館となり、大広間にはトリック特技プロの第一スタジオを再現した模型が置かれ、現地の学芸員が定期上映会を行う様になったのだ。
怪獣たちや巨大英雄たちのヌイグルミの複製や未来兵器の複製が寄贈され、テッキ王国で放送される事となった特撮シリーズの防衛隊の基地のセットが再現され、子供達にとっては夢の国、映画を志す若者にとっては学びの場となった。
テッキ王国各地から、そしてボウ帝国からも人が来る様になり、リック社長たちを迎えてくれた住民達は彼ら相手に商売を成功させ、住民達は改めてリック社長に感謝するのだった。
この後、彼らテッキ映画人は自国の歴史映画だけでなく、キリエリアの様な未来社会を舞台にした巨大英雄特撮、宇宙SF特撮にも挑んで行くのだった。




