352.路線変更、製作費中抜きは許さない!
この年諸国展示会が中央諸国の中で高速鉄道の基地駅がある国で開催された。
この行事は異文化国、異民族である中央諸国に改めて衝撃を与えた。
だが、技術や資本力の差は埋めがたく、過去の諸国展示会に比べると印象の薄いものとなった。
そして、世界映画祭も開催された。
注目の作品は主催国の、出稼ぎに行くべきか悩みつつ、留学して先進国(名言されていないがモデルはキリエリア)の暮らしに疲れて帰国する少女の物語。
ただこの内容は西側諸国にとっても、ボウ帝国にとってもあまりに当たり前になってしまった問題なので、高齢者を除いてあまり共感を呼ばなかった。
その一方で西側諸国一押しの「宇宙帝国の滅亡」、東側諸国一押しの「龍神と二賢王 怪魔征伐」。
そしてこれらは映画芸術と呼ぶべきか疑問を呈する評論家。
多々評価が分かれる中、「宇宙帝国の滅亡」が辛勝した。
ショーキ監督の快挙に、リック社長たちトリック特技プロは、極上の発泡ワインや熟成蒸留酒を贈った。
そして曰く。
「今や俺なんか特撮の神様じゃない、ショーキさんが特撮の神様だ!」
「お前!俺に面倒な称号を押し付けんなよ!」
「俺だってイヤですよ!」
「ははは!何をいってやがる、この…おっとっと」
リック監督は知らなかった。
二度目の特別賞で特殊技術功労章を受章していたことを。
「どうせあの人は壇上に登ることも、受賞する事も拒否するであろうよ」
「そうじゃそうじゃ、後で贈って世にも珍しい特撮の神様の驚いた顔を拝ませてもらうとしようではないか!」
特別審査員のマキウリア女王とカチン大臣が共謀して事を進めたのだ。
そして特別賞が自宅に届いた時の顔を、一同が目撃して爆笑し、そのまま大宴会に突入したのだった。
******
世界の映画の頂点の章を受章したリック監督の新作、子供向け新作、巨大変身英雄「マキナヒーローズV」が放送開始された。
流石の世界映画祭特別賞受賞とは言え今まで通りの作風に、爆発的な人気は出なかった。
しかし概ね好評だった。
視聴率は今ではそれを維持する事も難しい40%後半を維持し、人気番組と言える様になった。
「この程度でいいんだよ。子供達は見てくれているよ。
あのウルサイナントカって奴も金出してくれるだろうし」
実に素っ気ないリック社長。
「えらく現金ね、リックさん」
「なんかね、そういう風になっちゃうんだよあのナントカ言う人相手だと。
っ趣味で仕事してるって言うか、作品に愛情が無いっていうか」
「う~ん、結構執着してる気がするよ~」
「あくまで俺の気のせいだよ」
だが、ある意味、リック監督の直感は正しかった。
放送開始後、ナントカ氏が役員に昇進した。
「後は任せるぞ!」
彼は現場から一切の手を引き、役員待遇を甘受した。
すると後任の新人局長が
「やはり変身英雄が教師というのは無理がある。
主人公を軍に入れ、戦いに特化っしたドラマに変更しよう!」
と言い出した。
「やはりそう思いますか!
私もそう思ってたんですよ」
これにトリック特技プロの若手企画員が同調した。
この時、
「「「あ」」」
英雄チーム一同は頭を抱えた。
******
「舐めるなー!!」
リック社長が激怒した。
「これは若者たちと主人公の対話なんだ!
若い視聴者との会話なんだ!
それをやめるって事の意味は解ってるんだろうな?
今までの視聴者を一方的に切り捨てるって事だ!
裏切るって事なんだぞー!」
久々にブチ切れたリック社長に、新局長と企画部員がビビリまくった!
「路線変更、つまりこの作品は大失敗だったって事だな?
よし!打ち切ろう!今納品分で終わりだ!いいな?!」
「ちょ、待って下さい!」
「そうですよ!折角後半年の延長が決まっ…」
新人企画部員に対して今度はデシアス監督が激怒した。
「若造!それはお前が決めた訳じゃ無かろう!
主の企画と構想が導き出した結果だ!
お前はそれを解って、情熱をもって交渉していると胸を張って言えるか?」
「そりゃ勿論!世界のトリック特技プロですからね!」
だが、この企画部員は単なる伝書鳩であり、リック社長以下英雄チームとナントカ氏に媚びへつらうだけの無能と見抜かれていた。
「もういい!お前は二度と我らの前に顔を出すな!」
すると若手企画部員は一転して偉そうに宣言した。
「それは不当解雇だ!訴えるぞ!」
「お前が今まで配達屋以外の何をした?
こっちは全てわかった上で解雇するのだ!
言動不一致の記録も全部取ってある!
二度と主の前に姿を現すな!」
この若手は訴えたが。
即座にトリック特技プロ側の勤務実績が提出された。
この企画員はただの伝言係に過ぎず、企画員としての役割をはたしていない事が立証され、訴えは即日却下された。
反面、「マキナヒーローズV」の視聴率はじわじわ上がっていった。
この結末に、新任局長は真っ先に不明を詫びた。
「先日の発言は私の無能によるものでした。
撤回します。そしてお詫び申し上げます!」
リック監督は優しく、そして絶対に許さないという信念をもって答えた。
「路線変更ってさ。
それまで見てくれた視聴者への裏切りなんだよ。
もっと面白くするための工夫は大事だけど、作品そのものを別物にしちゃう真似は、絶対やっちゃ駄目だ!
それをやる位なら、一端終わらせてね。
別作品として再開した方がマシだよ」
******
「宇宙帝国」シリーズ第二作、「宇宙帝国の滅亡・裏切りの惑星」の製作が発表された。
その内容は…
皇帝を斬殺し、人工天体要塞を破壊した主人公と学団。
しかしその学団の若き研究員が他人の意志を支配する理論を確立し、帝国版図の反対側に第二の辺境惑星を開拓する。
そこを本拠に彼は反乱を起こし、第三勢力を名乗る。
反乱軍の首魁が主人公を追い詰め、第二辺境惑星が宇宙帝国の第三軸となり、主人公は辛くも脱出したものの先行きが不安なまま閉幕。
企画としては続編を匂わせて終わる超大作。
やや不安含みであった。
なお、この作品には既にリック社長は関与していなかった。
「リッちゃんがいないのは寂しいなあ」
ショーキ監督は寂し気に語った。
******
そのリック社長は「マキナヒーローズV」後半の対応に必死だった。
あのナントカ氏が出世して現場を一顧だにしなくなってから、今度は予算が減らされてしまったのだ。
「約束違わない?」
そう問われた放送局だが、予算は変わらっていなかったのだ。
だが、プロデューサー費として今まで以上に持って行ってしまったナントカ氏が原因だと新編成部長は言えなかった。
「今まで通りの予算で製作するからね。
契約に変更は許さないし、もし正式に変更するなら訴訟を起こして製作は中断するよ?」
「それこそ…いや、それは視聴者への裏切りじゃないんですか?」
新任局長は以前のリック社長の剣幕の怖さを知っていて恐る恐る訪ねた。
「視聴者だとか、立場だとかを盾に製作会社に悪条件を不法に強制するのは視聴者に対する心構え以前に」
その瞬間、新局長は心臓が止まりそうになった。
「犯罪だよ?」
即座にミーヒャー専務は王国法務に訴状を提出、法務官吏は騎士団を伴いキリエリア2を包囲し、ナントカ氏に出頭を命じた。
「内部的な手違いでした。お騒がせしました」
シレっとナントカ氏は口上を延べるが。
「ではその手違いの詳細、誰が誰に何を命じたのかを詳細に調査し公文書として記録し、トリック特技プロに不利益があれば損害賠償を請求しましょう」
リック社長の国法への、数えきれない貢献を知っている官吏は、恩人に不義を働いた賊を逃がすつもりはなかった。
「ですから手違いだと!」
「そんな言い訳で言い逃れできると思うなよ?!」
こうして役員に就任早々、ナントカ氏はキリエリア2に1億デナリという損失を与え、さらに多くの役員にも疑義が及び、製作費の上納、性接待、個人崇拝などという実態が明らかになった。
キリエリア2は放送局の資格を剥奪された。
「ひひひ、折角アイツ出世したのに、自分で自分の首絞めたね、ヒヒ!」
「相手が放送局や放送法を作ったリックさんですもの。
いつもどこかでリックさんを見下していたんでしょうね。
自業自得です」
「ひ…アイラ~、こわいよ~」
「あら、ごめんなさいねふふふ」
「こわい~」
珍しく怒り心頭のアイラ夫人に怯えるアイディー夫人。
だがリック社長にとって、二人は愛すべき妻だった。
「アイラは俺のために怒ってくれているんだよ。
二人ともありがとね」
毒舌家のアイディー夫人は兎に角、普段人を悪く言わないアイラ夫人も黒い笑顔で愚か者の結末を祝った。
そんなナントカ氏とのいつもの?遣り取りを経て、結局「マキナヒーローズV」は著作権ごとヨーホーテレビ…ではなく、ショーウェイテレビが買い取った。
「王国法が製作費を旧キリエリア2から回収してくれますので、ウチは丸儲けです!
リックさんには今まで通り現場を指揮して頂ければ結構です!」
買い取り工作を仕切ったトレート部長が深々と頭を下げた。
「いえいえい!この作品を救って下さったのはトレートさんですってば!
こちらこそ感謝しますよ!」
謙虚すぎるトレート部長に、リック社長は逆に恐縮するのだった。
こうして「マキナヒーローズV」の放送と撮影は続いていった。




