35.閑話 勇者の求婚
「カンゲース5世陛下の乾杯の下、キリエリア全ての民が英雄リック・トリック、聖女アイラ、魔導士アイディーの結婚を祝したのでありました!」
「チッキショー!!」
十数万デナリするラジオ受信機を勇者ツヨイダ・カッターが踏み潰した。
(穀潰しがァ!!高価な機械をぶっ壊しやがってェ!!)
テラニエ帝国の皇女アラウネが心の中で美しい眉間を皺だらけにした。
「あんな飯炊き小僧がなんでこんなに持ち上げられてんだよー!
クソっ!クソっ!」
(クソはお前だよ!!)
テラニエ帝国の皇女アラウネが心の中で美しい眉間を皺だらけにして白い額にブチ切れそうな青筋を立てた。
「ハアハア…負けちゃらんねえ。
皇女様ア!俺達も結婚式を挙げるぞ!!」
この瞬間、帝国宮殿の勇者居室の壁は破裂する様にひび割れたという。
「ァんだぁ?安普請だなあ」
(安普請はテメェのオツムだよ!!)
テラニエ帝国の皇女アラウネが心の中で美しい眉間を皺だらけにして白い額にブチ切れそうな青筋を立てつつ歯ぐきから血を流す勢いで奥歯を噛んだ。
「皇女と言えど私は俗世間の女に過ぎません。
世界をお救いになる勇者様であれば、やはり聖女を妻に迎えるのが筋かと」
「ンだぁ?聖女のナントカって女は逃げちまっただろがあ?」
例の極大魔法の実験は聖女が魔術の触媒に覇力を注ぎ、変化を観察する予定だった。
それをこのトンチキが短気を起こしで大爆発を起こした。
聖女はこのかんしゃく男が恐ろしくなって、村民に紛れてキリエリア王国へ逃げていた。
だがその事実は帝国は知らない。
王国は知っているが、監視しつつ聖女の自由にさせているのだ。
「じゃあやっぱりここは皇帝の血を引く皇女様がよお!」
「わたくしには婚約者が居ります」
(誰がテメェみたいな脳筋ドアホと結婚するかよ!!)
テラニエ帝国の皇女アラウネが心の中で美しい眉間を皺だらけにして白い額にブチ切れそうな青筋を立てつつ歯ぐきから血を流す勢いで奥歯を噛んで目を血走らせた。
「じゃあソイツと勝負だ!
俺が勝ったらお前を妻にしてやる!」
「私は婚約者である軍務卿令息に操を立てています故」
「だからソイツをブッ殺してやる!」
(テメェ一人で帝国と戦争する気かよボケェ!!)
テラニエ帝国の皇女アラウネが心の中で以下略。
「もしそうなれば勇者殿は帝国から他国へお引き取り頂く事になりますよ?」
「そーなったら帝国ごと…」
ブチっ!
という音がしたとかしないとか。
「魔王の本隊を目の前に真っ先に逃げ出したのは、どこのどなたですかァ?」
皇女、大激怒。
「逃げちゃいねえよ!俺はアイツらに勝ったんだ!」
「帝国軍全部置いて真っ先に逃げましたよねえェ?!」
「何言ってやがる。帰りの村々でも大宴会しただろ?俺は勝ったんだぜ!」
(コイツ、底抜けのド阿呆か、都合の悪い事は全部なかった事に出来るキ〇ガイか?!
もしかして…帝国が魔王軍に勝ったってウソに便乗して帝国を脅し…
いやいや、コイツにそんな頭は回らないわ)
「わかったろ?あんなチンケな飯炊き小僧なんかより俺の方が讃えられるべきだぜ!
さあ結婚だ!」
「その可否も含めて準備を致しますので、どうかお待ち願います」
「俺ぁ気が短ェんだ!あんまし待たせるとまたあの魔法ブっ放すぜ!」
(コイツ糞オブザ糞だ!
なんでこんな糞が異世界から来ちまったのよー!!)
そいつを自分が呼んだことを棚に上げて皇女アラウネは以下略。
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魔王軍討伐戦で押されてばかりだった軍務卿の、顔だけがイケメンな令息。
どこから洩れたか勇者が皇女を娶るために婚約者との決闘を口にしたと知るや。
「うひゃ~い!あのキ〇ガイ勇者がボクチンを殺しに来るう~!
皇女との婚約を解消しゅりゅっ!助けてママ~ン!」
「どひゃ~!一緒に逃げるのよボクチャ~ン!」
「げひょ~!待ってくれマイハニー!」
軍務卿一家が亡命した。
帝国中枢部はドえらい混乱に陥った。
(どうしてこうなった…
誰のせいでもありゃしねえ!みんな勇者が悪いのさアアッ!!)
皇女アラウネは怒髪天を貫いて背景と瞳に炎を燃やしていた。
そもそもテメェが異世界から、強井田勝太という人間の屑を呼び出しておきながら、その責任は全く感じていなかった。
「はっはっはー!アラウネ皇女様ァ!これで邪魔者は消え去ったなあ!」
(この糞があっ!)
勝手に他人を呼んでおいてこれである。
それでも皇女アラウネは必死に頭を廻して、言い訳をひねり出した。
「他に200人程婚約者候補がいますので、調整をお待ちください」
「ハァ?全員ブっ殺してやるぜ!」
(テメェを絶対ぶっ殺してやるー!)
帝国ではグダグダしている間に月日が過ぎた。
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結婚式から暫く、リックとアイラ、アイディーの三人は英雄チームの友人達とも離れて、三人だけで過ごした。
彼等が自らの魔術で延伸した鉄道で、王国内や他国を巡った。
領都も栄え、5階建ての王宮の様な駅舎や大商店が出来ていた。
その中が駅であり、列車は建物の中から出発した。
「ほえ~。やっぱり大建築の中から列車が出発するのって恰好いいよねー!」
正直、二人の夫人には男のロマンは理解できなかったが。
「リ…あなたのお陰ですよ」
アイラ夫人は正体を隠しつつ答えた。
「で!できれば高架にして建物を貫通して将来の延伸に備えよっかなあ~!
うにゃうにゃ、やっぱり鉄道は地下がいいのかな~?
で、でも外から見て出発するよって感じもぉ、旅の夢を掻き立てるんでしょ~?ね?ね?」
アイディー夫人はお構いなしに早口でまくし立てる。
(あちゃ~)そう思いつつも。
(これならみんな理解できないし、リックさんってバレないですよね)そうアイラ夫人は思った。
結果としてそうなったのだが。
天才少年結婚の話題は国内の誰もが知るところだった。
しかし、仲の良い姉弟の様な3人組が、まさか英雄リックと二人の妻と思う人はいなかった。
悲しいかな、リック少年は青年になっても小柄童顔のままで、強者や英雄の様な覇気は無かった。
オマケに、アイラ夫人もアイディー夫人も、聖女や大魔導士の称号の割には、控えめで目立たなかった。
そのお陰か、三人はどこへ行っても注目されたり取り囲まれたりすることなく旅を楽しめた。
もし復興した村や町に向かったり、鉄道延伸の際丁々発止した貴族達を訪ねていたら、或いは英雄の覇気を振りまくアックス達が同行していたら…
そんなのどかな旅は出来なかっただろう。
山では野獣、害獣を狩って調理し、宿の厨房で調理して振舞う。
「うおー!あの暴れ猪、こんなにうまいのか!」
「肉が固くねえ!」
「一度凍らせてゆっくり溶かして…そんな魔導士雇うだけで赤字だぜ!」
「このワインと南方の果実で煮込んだの、スゲェ美味いぞ!」
「兄ちゃん!姉ちゃん!ありがとよ!」
「カンパーイ!」「「「カンパーイ!!!」」」
海ではあまり食べられていなかった海藻や貝を安全に調理して振舞う。
「この貝は毒があるって聞いたけど、こうして蒸すと毒も消えるのか!」
「焼いても美味いぞ!」
「うはー!王都から来たって言う白いワインがよく合うぜ!」
「バカてめえそれすごい高い奴じゃねえか!」
「もう安くなったのよ。もう一杯どう?」
「なんだってー!」
「ワッハッハー!ワンモア!」
「リ…あなたの周りは、いつも笑顔が一杯ですね」
「むにゅむにゅ。カキなんて食中毒の原因だったのに、白ワインにあうよ~」
「焼いたり蒸したりするより生で食べる方が美味しいから、中毒が多くて嫌われたんだろうね。
でも蒸しても焼いても、出て来た汁も美味しいよ!」
「乾杯しましょ、あなた!」「ムグムグ!」
「「「カンパーイ!!!」」」
翌朝の目覚めは三人ともさわやかな物だったという。
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一方、王都郊外、デシアス邸では。
「今頃三人、行った先でもみくちゃにされてねえだろうなー」
「多分大丈夫よ」「何で?」
「あの子達、言っちゃ悪いけどそんな目立たないのよね」
「何言ってんだ?天下の英雄で大監督のリック様と二人の妻だぞ?」
「安心して、知らない人が見たら姉二人とカワイイ弟、ってとこよ」
「ブフウ!」
「デっデシアス!てってめぇ…リックをバカにす…ブフォ!」
「い、言い得て妙だな、セワーシャ!」
「ゲホゲホ!っハッハー!」
「何二人共、って、あはは!自分で、はは!言ってて、ヒドイわー!」
三人になっても賑やかであった。
「というか、俺を呼ぶな」
「え?何で?」
アックスの鈍さにデシアスは閉口した。
だが、どう突っ込むか悩み、追及しなかった。
「俺達も、いずれ結婚するだろうなあ。
そうなると、こうやって宴会、って訳にも行かなくなるんだろうか…」
「お前は貴族だからそうかもな」
「馬鹿垂れ!こういうのは夫人と家族に対する配慮って問題だ!」
「そんなの家族で仲良くなりゃいいだろうが」
「妻子が出来たらそうもいくまい!子供が出来ればなおの事だ」
「そういうもんか?」
英雄で仲間想いで頭も廻るアックスも、すぐ隣の聖女の熱い視線には鈍感だった。
一つ溜息をついたデシアスが言った。
「健康でいような。
この幸せな時間が長く続く様に。
そして、子供達に素敵な仲間たちの話を語り継ぐんだ。
お前達も良い友に恵まれる様にって、な」
「当たり前だぜ!」
解っちゃいねえなあ、と再びため息を吐くデシアスだった。
セワーシャは、何も言えなかった。
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帰って来た新婚さん達。
リック少年は早速次回作の構想に取り組んだ。
星空から攻めて来た、優れた魔道具を持つ異星人の軍団と戦う、未来の各国合同の騎士団の戦いという企画だ。




