333.ゴドラン周辺の雑音が
白亜の殿堂には、高さが従来の3倍近い、高層建築のミニチュアが並んでいた。
その周囲には、高架線が二層並び、その下には高速鉄道が交差していた。
「準備!スモーク!」
ミニチュアの照明をにじませる様に、カメラの奥に煙がたかれる。
「特効ヨーイ!自動車、動いて!」
ミニチュアの道路を、灯を付けた自動車が動き出す。
「カメラ、スターッ!」
70mmカメラが回り出す。
「ハイヨーイ!スターッ!!」
ガチーン!とカチンコが鳴る。
奥のミニチュアが火花を発して崩れる。
そして、続いてゴドランが現れる!
手前で爆発が起こり、その姿が明らかになる!
「はいカーット!オッケー!!」
現場が安堵に包まれる。
夜の王都レイソン襲撃場面の撮影だ。
条約祭典や世界展示会の際、最後に開発された王都北辺は港町デンガナ方面への玄関口となり、高層建築群が並び立ち、その未来的な情景は王都の新名所となっていた。
その情景が精密な現地調査の上、巨大な模型となって大プールに再現されている。
しかし深夜遅くまで爆音をボンボン響かせるわけにもいかず、スタッフの就業規則もあって、撮影できる時間に限りがあった。
日中は0番スタジオ内に、壁面がほぼガラス張り、しかも内部が大きな吹き抜けになっている高層建築が聳えていた。
「はいヨーイ!スターッ!!」
煌めく内装がまぶしい吹き抜け、無論手前側は作られておらず、70mmカメラが待ち受けている。
ゴドランが奥の壁面をブチ破って、下層階の高級食堂や吹き抜け内の噴水を蹂躙しながら侵入して来た。
怪獣が高層建築の中を突き進む。
こんな絵面はリック監督ですら撮った事がない。
宇宙船の鉄骨群の中では「スプラトリテス」が先にやったが。
「デカい建物の中で怪獣が暴れたら面白いだろ?」
とのショーキ監督の発想だった。
外側からのショット、外壁をぶち抜いて出て来て、その後ろでこの建築が崩壊するカットは夜に大プールで行う。
トリック特技プロ第二スタジオでも、地上用迷彩、土色と緑のまだら模様に軍の紋章を付けた噴射式戦闘機の離陸場面、更に垂直飛行機隊の出撃シーンが夜間に撮影された。
「こっちも凄いねえ!」
リック社長は自作を抜け出してショーキさんの陣中見舞いに伺ってはミーヒャー専務に引きずり戻された。
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撮影が進むとテレビで「復活!ゴドラン対スプラルジェント!」という感じの特集番組まで組まれて、高視聴率を稼いだ。
ヨーホーテレビのものは宣伝色が強く、撮影風景などが積極的に紹介された。
既に特報が上映されている「ゴドランの復活」は、特報に使用されたシーンに限り撮影風景が流され、反対に「スプラトリテス」では最新話の撮影まで紹介していた。
王立放送局が企画したものはリック社長も助言し、何とライバル関係にあるショーウェイにも許可を取り、子供向け歴史活劇や「フォルティ・ステラ」シリーズに「ペルソネクエス」シリーズ、今や別会社になった17th世紀プロの人形特撮も紹介した。
トレート部長、ルーイン夫人、エンリケ社長やカコイー局長にもインタビューを行い、更に多くのトリック玩具製品もケアリア領で展示されているものを紹介、子供目線からの証言をケアリア伯爵たち4人が語った。
果ては「宇宙迎撃戦」の頃の宇宙開発公社、王立学院の担当者、「オーミネス・エト・ユニバースム」の作者サガン学士までもが出演した。
本作では近未来戦記シリーズ、「白蛇姫」「天地開闢」や「ゴーダ」「快猿王」等の歴史神話映画まで紹介し、まさに特撮映画全体の歴史や、空想映画が子供達にどう愛されて来たかを広い目で描いた、映画史の一ジャンルを記録した偉大な一篇となった。
それもその筈、王立学院に新設された映画学部有志が王立放送局に持ち込んだ企画だったのだ。
何と視聴率60%。この放送は世間の怪獣映画、いや特撮映画を見る目を僅かながらに変えたのかもしれない。
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第二スタジオ行き鉄道がクラン駅前の踏切を通過すると住民達が手を振って送ってくれる。
住民達だけでなく、わざわざ遠方から見物に来た人も多くなってきた。
「なんだか盛り上がってるねえ」
「誇らしいな!みな主の仕業だ」
「なんだか交通の邪魔になって気が引けるよ」
「いやいや!これこそ素晴らしい仕業だ」
等と言いつつ、蒸気機関車から電車に変えた「怪獣列車」でリック社長一行は第二スタジオまで往復した。
新作への期待が高まる中、過去の怪獣人形も再版され、元々の造作の良さから人気が再燃した。
復刻音盤や名曲集も売れた。
リック社長はふと思った。
「あれ?SFブームとこいったの?」
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SFブームはアニメでは活発だった。
あの宇宙戦艦アニメが人気の末、総集編映画となっていた。
更に完全新作が製作されたが、何と前作の主人公たちが全員死ぬ!という、悲劇だった。
今まで子供向け活劇の主人公が死んで終わり、というのは子供には残酷すぎるので敬遠されていたが、それをやったのだ。
お涙頂戴を推したのは有名な芸能プロデューサー。
だが、未来兵器デザインや物語指導で参加したあるマンガ家氏が
「若者は戦争で死ぬべきではない!」
と反駁した。
本作は第一作とは逆にテレビアニメ化され、そちらでは全員死亡の悲劇は避けられた。
しかしこれは「ご都合主義」とファンに批判される結果になってしまった。
「中々難しいもんだねえ」
と言いつつ、リック社長はトリック玩具から発売された、主役とは別の新型宇宙戦艦隊の模型を作りつつ、このアニメのビデオ録画を繰り返し見ていた。
「これもスゲーカッチョイー!!」
このご都合主義的宇宙戦艦に反旗を翻すかの様に、ゴーレムもの、それも軍の兵器として大量に生産され、悪も正義も無く、人間同士が生死を賭けて戦うアニメも作られた。
「アニメは自由度が高いねえ」
「でも迫力はないよね」
「そうかな?
若者や子供の目にどう映るかは俺たちにはわからないし、俺には迫力ある様に見えるよ?」
今度は敵のゴーレムの模型をところどころ汚し塗りし、部隊番号やメンテナンスの注意書き等のシールを貼りつつビデオ鑑賞。
「リックさんもアニメを撮りますか?」
「いや、俺は特撮がやりたい。
特撮でアニメより魅力的な映像を送り出す、アニメも特撮とは違う方法論で戦う。
これからもそれで行くよ」
なお、今見ている戦争映画的なゴーレムアニメの作画は酷かった。
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一足先に公開、いや放送開始した「スプラテリトス」。
復活ブーム真っ最中に、イベントを経て盛り上がったところで放送開始とあって、第一話は往年を思わせる65%超えを記録した。
「スプラQ」の頃とはテレビの普及率は比べ物にならない。
放送局も4局となり、40%行けば成功、50%で大人気番組と言われた。
トリック特技プロ作品は近年となっても初回で60%を超え、その後も50%台を維持している。
それだけの注目が集まり、スポンサーは高視聴率に歓喜し、第一回目の同時視聴は祝宴へと移った。
その後も60%台を維持し、下がっても50%台と見積もって、「スプラテリトス」はもう半年、計1年の延長が決定した。
「主よ、そろそろゴドランの音楽であろう」
デシアス監督が、アックス氏がリック社長の背中を押す。
「ああ、じゃ行って来るよ!」
リック社長はナート師と共に「ゴドランの復活」の音楽に取り組む事になった。
そして、自社の新番組の企画にも。
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この辺りまでは万事快調だった。
だが、こちらの世界も外野が騒ぎ始めた。
ヨーホー演劇プロから
「主演女優の歌を劇中で流せ!」
「ゴドラン好きを自称する俳優を無理にでも出せ!」
更にヨーホー映画の事業部門からも
「ファンを動員して避難民を大がかりに演じさせるイベントをやれ!」
「スポンサーの看板を出せ!」
更に更に、宣伝部まで
「実物大ゴドランを作って街を練り歩かせろ!」
と色々な無茶を言い出して来た。
マッツォ社長は
「映画は映画人が撮るものだ、外野が口を出すのはやめるべきだ!」
と反対したが、
「出来る限りはやりましょう」
と本編特撮両監督は合意した。
気を良くした外野陣が身を乗り出すが。
「俳優やファンを集めての話はなんとかできますが、ヘンに緊張感を削ぐ位なら画面の端で我慢して貰いますよ?」
と、テンさんが渋々承知する。
「架空の看板のシーン撮り足すんならヨーホー中央劇場周辺に出すけどさ、今度はヨーホー劇場も他の看板も派手にぶっ潰すからな?」
ショーキさんもノリノリだ。
リック社長もちょくちょく呼び出されて打ち合わせに参加した。
「やっぱさー!久々みんなで一緒にやりたいよ!」
とショーキさんが嘆いた。
「そうだね。こうしてると、10年以上前、分社化前に戻ったみたいだよ」
テンさんも、やりたい、やってくれとまでは言わなかったが、同じ気持ちを抱いて頷いた。
「そう言って貰えるのはうれしいねえ。
こんな感じで意見出すだけならいいけどさ。
監督はさ、今のみんなを率いてるのはテンさん、ショーキさんだよ」
「そうか、そうだよな」
「リッちゃんの言う通りだ」
「俺もこれから音楽に入るよ。
全く縁が切れる訳じゃない。
一緒に頑張ろう!
若い人たちの情熱に負けちゃ、このブームも一瞬で終わる。
そうなったら数年前のSFブームの二の舞だよ?
姿形も何にもなくなっちゃうんだ。
そうならないためにもさ。
頑張ろう!」
そう言うと、どこからともなくマイちゃんが子分を引きつれ酒を持って来た。
そして宴会になった。
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両監督は外野の注文に答える事とした。
避難する王都民を後目にサロンから高級酒を持ち出して飲みだす乞食たちのシーンを事前に配する。
高速鉄道を尻尾で振り払ったら、距離感を無視してスポンサーの看板が居並ぶヨーホー映画本社中央劇場付近に激突!
初代ゴドランを見て、喜ぶ乞食たち、その劇場の真後ろに鉄道がブチ破って来て、大爆発!
そのまま看板のある建物群も連続爆発するという一種不条理な場面が出来上がった。
ラッシュを見たリック社長とショーキさん、テンさん以下が思わず笑い出す結果となった。
「ここさ、後ろ側の残響音最強にしてさ、お客さん驚かしてやろうよ!」
「いいなそれ!」
こうして外野の声に「一応は」答えた。
ゴドラン好きを自称する有名人やスターが
「このカットはアップにしてくれ」
「話は通ってる筈だ」
と出しゃばろうとするが、テンさんは
「演出案や映画の雰囲気を崩すなら出演いただかなくて結構です。
画面の隅で狂気したりゴドランにケンカふっかけようとする芝居なら黙ってますけど」
と、多少の妥協を示す程度だった。
そして実物大ゴドランは流石に無理だが、宣伝に使える様解体組立できる10m大のゴドランを作り、軍の攻撃でゴドランの体表に爆発が起きる場面では上半身だけが撮影に使われた。
ただこれは結構な予算を喰った。
そのためリック社長の入れ知恵で、撮影終了後コレはヨーホー映像からヨーホー映画宣伝部に売却され、各地の宣伝に、また各種イベントに使う様契約が交わされる事となった。
この売却益は興行成績に加算される事となり、損失をいくらか取り返した。
「リッちゃんには励まされたからねえ!」
テンさんが苦笑する。
「俺もそう思うよ」
ショーキさんも頷く。
こうして映画会社だけでは金集めも難しくなったこの時代に、「ゴドランの復活」はなんとか関係者を手玉に取りつつクランクアップへひた走った。




