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326.映画祭は終わらない

 世界映画祭では、革新的な発明であるモーションコントロールカメラを含め受賞を逃したリック社長であったが、その後の映画博物館やクラン祭りの大騒動では言葉には表し尽くせない喜びを実感した。


 それは、裏方に徹し表に出る事が無かった他の英雄チームも同じだった。

 大変忙しく疲れた数日間だったが。


「お祭りってのはただ招かれるより自分でやる方が絶対面白いよね」

「「ああ!!」」「「「ええ!」」」

 その様子を横で見ていた英雄ブライは何も言わなかった。


「あの楽しみを知っていたら、私は探検家にならなかったかもしれない」

と彼は後年呟いた。


******


 映画祭の賑わいが去り、ヨーホー創立35周年作品がそれぞれ苦戦健闘する中、「グラン・パクスの最期」は11億と善戦した。


「惑星攻防伝説」も色々低い評価を得ながらヒロインと宰相役の人気のお陰か8億と続いた。


 ショーウェイの「宇宙からの英雄達」は初日こそ大行列を成したがその後はガタっと客足が落ちた。

 5億程度に留まると思いきや、ボウ帝国で、なによりテッキ王国で新たに開業した映画館で大好評となり、更に3億を稼いだ。


 しかし、どちらも自社の体力の限界を感じさせる強行軍だった。

 尤も短期決戦を強いたこと自体、時間がかかる特撮映画にとって無茶な命令だったのかもしれない。

 そしてそれに見合わない、というか「SFブームだから10億越えは当たり前」という、これまた無茶な上の打算もあったが、これも当然ながら無理な話だった。


「1799」に始まったSFブームという打ち出の小槌は、幻想に終わろうとしていた。


 ただショーウェイは「宇宙からの英雄達」の続編を、より変身英雄っぽくしてテレビ映画として放送した。

 ミニチュアやセットは映画の流用。商魂たくましいショーウェイらしい。

 そこそこ視聴率を稼ぎ、トリック玩具の精巧な模型も売れて半年のシリーズは終えた。


 そして、世間を賑わせた宇宙SF映画は劇場からもテレビからも姿を消したのだ。


******


 映画博物館の特別展と臨時クラン祭りでクランの地は大いに賑わった。


 しかしその時、密かに各地でも賑わいがあった。

 この騒ぎを聞いた元二番館の経営陣、かつてリック社長がジャイエン系列劇場等を含めて統合・再生を図った劇場主たちが企画を立ち上げた。


 かつてのゴドランシリーズやヨーホー特撮を数日替わり三本立て、またはオールナイトで再上映を始めたのだ。


 世界映画祭で行われ、体力漲る好事家を楽しませたオールナイトを自分の劇場でも、と思いついたのだ。


 既に古いフィルムは化学反応で劣化していた。

 赤、緑、青の色彩の層で一番劣化しやすい青層が褪せた、赤っぽいフィルムでの上映だった。

 劇場によっては立体音響ですらない、モノラル音声での上映もあった。


 過去の上映でフィルムが傷付き、継ぎ直したためカットや台詞が飛んでしまうプリントもあった。


 酷い場合だと、大抵の映画は7~8巻のフィルムを二台の映写機で交互に投影するのだが、この巻の順番が入れ替わってしまい、レイソン電波塔に快猿王が昇り始めたらイキナリ悪の科学者の基地の中で暴れ出してしまうというハプニングがあって大爆笑が起きたりした。


 それでも変身ブームから怪獣に親しんだ子供達、最初の頃のゴドランを劇場で見る機会の少なかった学生たち、かつて安かった劇場に足しげく通った青年たちが各地の二番館に集まった。


「…っていう動きがあるそうだぞ?」

「主の功績が世代を超えて評価されたまでだ。

 今更驚くまでも無かろう」

「あのねデシアス、セプさんの作品でもここまでの熱意で迎えられる事なんて無かったのよ?

 そもそも若い人なんてセプさんの映画知らないし」

「ホントか?」

「社長の功績はそれだけスゴイって事ですよー!エッヘン!」

「妻よ、君が誇ってどうする?」


 わちゃわちゃしている一同を前に、リック社長はニコニコしているだけだ。


「やっぱりうれしいですか?」

「そりゃもう!昔お母さんやポンさん、モンさん、ここにいるみんなとあれこれやって来た仕事が、まだ生まれてなかったか小さかった子供に楽しんでもらえるってのは、それだけで有難い事だよ」


「自分の仕事、って言わないところがさ、リックきゅんだよね~」

「ホント、無欲よね」

「こりゃゴドラン復活とかスプラルジェント復活もあるかも」

「ゴメン、欲深いわ」


 セワーシャが呆れた。


 しかし、騒ぎは二番館上映だけでは終わらなかった。


******


「今一度熱く語ろう!

 怪獣たちが我々に示した悲劇を!

 スプラルジェントが我々に示した未来の夢と正義を!」


 こんな煽り文句と共に、一部地方で情熱的な映画祭が行われた。

 映画祭の地方版、それも特撮作品に特化した映画祭だった。


「リックさん、招待状が届いています」

 郵便を受け取ったアイラ夫人。アイディー夫人が開封する。


「これさ、タダの招待じゃないよ~。

 講演会やってって依頼だよ~、それも礼金付きだよ~」


 心当たりがないリック社長が驚いた。


「誰から?」

 差出人はサイト・ケアリア伯爵と、妻のセンタア夫人。


「あーそれ内乱の時、鎮圧に立ち上がった若い貴族じゃないかしら?」

 そこにいるのが当たり前の様にリック邸で子連れでくつろぐセワーシャ夫人が答えた。


「何とー!」


 かつて前国王陛下、リック社長を我が子と呼んでくれたカンゲース五世陛下が崩御された後に起きた内乱。

 その一味の中で、

「俺たちはフォルティ・ステラだ!スプラルジェントだ!」

と、反逆者である父親たちに反旗を翻し、反乱軍が勢力を整えるのを阻止した嫡男、令嬢、4人の功労者の内の二人だ。


「へー、結婚したんだー」

「夫人もその時の彼らの仲間よ」

「ほへー」「あのねえ…」

 相変わらず人の名前と顔を覚えるのが苦手なリック社長だった。


 講演の依頼には、映画祭の構想が書かれていた。

 なんと3日間に及び、ヨーホー特撮映画、スプラシリーズの上映会を終日行い、最後に講演会、更に有志は旅館を借り上げて夜通し特撮を語るという、若く無ければ死にそうな催しであった。


「こりゃ若くなきゃ出来ない催しねえ」

「そーだ、俺たちみたいなオッサンオバサンには無理だなあ」

「アックス今何っつった?」

「いやあセワーシャはいくつになっても綺麗だなあって」

「よし」


「どうします?お受けします?」

「モチロン!!」

「面白そうだから俺も行くぞ!」

「主が行くなら俺も行こう!」

「仕方ないわねえ」「じゃあ私達も」「子供達もお出かけさせましょう」

「あ、あたしも何か話してくれって!」

「ディーも行こうよ!」


 こうして英雄チーム一同家族連れで参加する事になった。


******


「俺んトコにも来たぞ」


 同じ依頼がヨーホー映像特技部にも来た。

 ショーキさん宛てだった。


「行くの?」

「そりゃ呼ばれりゃ行くさ。

 昔の仕事で一席ぶてって言われりゃ、そりゃ行かない訳にゃいかないだろ?」

 ショーキさんはこういう時答えない人じゃない。


「ゲストにポンさんもいるけど」

「まあ昔の話は俺も聞きたいしな」


 そこに。

「カントクー、何かの案内ですよー」

 今度はミルハ男爵領から、メッセー夫人と連名の公演以来だった。

「2ケ所の巡業か!リッちゃんとこにも来てるみたいだぞ」

「うーん。どっちも温泉無いなあ、ちょっと掘って来るか!」

「領主サマたち、トンでもない当たり籤引いたもんだなあ!」


 即日、リック社長は参加者が泊まる旅館に飛んで温泉を用意して、旅館を仰天させた。


******


 かくして、かつて内乱鎮圧に立ち上がったケアリア伯爵領都とミルハ男爵領で「甦れゴドラン!特撮映画祭」を開催した。

 ミルハ男爵は反乱鎮圧に立ち上がった格上のメッセー・リハクマ伯爵令嬢と夫婦になっていた。


「いい話だねえー」

「でもリックさん、あんまりホイホイ温泉とか開発すると他の貴族からもゴリ押しされてしまいませんか?」

「反乱鎮圧の遅すぎるお礼と、ご成婚と出産祝いだよ」

「そ~ゆ~事にしとこうよ~」

「はあ…」


 鉄道に揺られ旅路を楽しみ

「あー!お山の中に行くよー!」

「はやーい!はやーい!」

「はやいわねー、たのしーわねー」「おねーちゃ!」

 英雄ブライは探検の旅に戻ったが、キャピー嬢は同行した。


 領都駅では伯爵と夫人が緊張しまくって迎えた。

「この度は!御招きに応じて頂くだけでなく!

 何と領内に温泉まで引いて頂き!

 恐悦至極!」


「こちらこそ、昔の仕事を評価して頂いて大変ありがたく存じます」

 相手は貴族だが、リック社長達も英雄の称号持ちなので親しく言葉を交わせた。


 初日は領城に歓迎される。

 そして翌日。


 上映会場は、領主が買い上げた劇場。

 その一角は、ケアリア伯爵が子供のころから集めた宝物である、怪獣人形、未来兵器模型、劇場所有のポスターや宣伝材料。

 特撮映画以外の名画のポスターも展示され、更に今では古くなった映写機や蓄音機も展示されている。


「自宅に戻った気がするぞ」とデシアス監督。


 上映開始時間が近づくと、続々と若者が集まって来る。

 

「…何て言うか、独特の感じの集団ねえ」

「セワーシャ、ぶっちゃけて言うと?」

「絶対モテなさそう」


 確かに皆楽しそうではあるが、陰気な雰囲気と、何かねばりつく空気を醸していた。

「リック。コレ、あんたの所為じゃない?」

「知らないよ!」


 実は彼は知っていた。

 古今東西何であれ、趣味に嵌りすぎると身だしなみやら人付き合いが蔑ろになって、独特の空気を纏ってしまう事を。


 幸い、対人感覚が普通だったリック社長にしろ、貴族としての教育を受けたケアリア伯爵以下主催者夫婦もそうではなかった。


 だが、仲間想いのセワーシャ夫人も、そういう人がキライではないリック社長も、アイディー夫人の事は何も言わなかった。


 セワーシャの懸念は後々正しかった事が証明されるのだが、それは別の話。


 それはさておき、好事家が主催する、世界初の特撮映画祭は始まったのだ。

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― 新着の感想 ―
異世界のオタク集団がゾロゾロと……w この人たちの未来、少しは明るくなってほしいもんだと思いました。
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