325.アモルメ世界映画祭
リック達が宇宙SF映画の製作に夢中になっている頃、北の隣国アモルメで諸国展示会が開催された。
キリエリアは昨年からヨーホー映画に世界各地で撮影された記録映像を発注し、リック社長の長男、英雄ブライを案内人に探検隊を派遣し未知の世界を映像に記していった。
「父は宇宙映画に夢中ですので」
と、今回はヨーホー映像特技部と彼のクルス・ボランテスで撮影した映像、そしてキリエリア宇宙公社の研究結果を体験する映像を中心に出展する事となった。
親孝行な息子である。
展示会に多くの王家貴族、商人たちが外交に観光にやってきた。
無論、最先端技術を持ち、観光や娯楽においても最先端のキリエリアにも。
今やキリエリアとアモルメは高速鉄道で半日で往来できるまで時間的に近くなったのだ。
前回の条約祭典に続く賑わいにアモルメは勿論、キリエリアもまた多大な収入を得たのだった。
そして、来訪者のお楽しみは先進的な文物を見せる展示会だけでなく、その後に行われる世界映画祭も、であった。
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世界の映画の祭典に、アモルメだけでなくキリエリア、そして映画産業が活発になったボウ帝国も多くの作品を出展した。
アモルメからは興行成績はギリギリ黒字となったが評論家や映画愛好家に絶大な支持を受けたセプタニマ監督の「極北案内人」、キリエリアからはその弟子シルバ監督の「天険突破せよ」。
そして、マギカ・テラの「1799:太陽の外側へ」。
他の国々も傑作、佳作を上映。特に大陸中央諸国が独特の映画を送り出し、他国の興味を引いた。
娯楽部門ではショーウェイの「宇宙からの英雄達」、そしてヨーホー映像の「マグナ・パクスの最期」、何とか完成した「惑星攻防伝説」も上映された。
更に、特別上映として、「スプラフィニス」総集編、結局2時間になったものが上映された。
「オーミネス・エト・ユニバースム」も初回他計3回が上映された。
ビデオ合成部分は
「こんなこともあろうかと思って」
とリック社長がフィルム素材で合成して10回分の35mmフィルムもチャッカリ作成してあったのだ。
「モー!素晴らしかったのよ!
ボウ帝国も中央諸国もね、ホント素敵な作品が多くて!」
「お母さんが元気そうで何よりです」
セシリア夫人がリック邸で寛いでいる。
未だに引退させてもらえずお疲れの様子のザナク財務卿と一緒に。
「でも今回は『1799』に負けちゃったわね」
「賞総ざらいでしたからねえ」
最優秀映画賞はじめ、監督部門、音楽部門、特殊技術部門は「1799」だった。
辛うじて主演男優で「極北案内人」が、女優部門でアモルメの映画が獲得した。
「スプラフィニス」もテレビ映画部門では「ユニバースム」に譲った。
無論これもリックの作品だったが、壇上にホスト役の高位学士と王立学院長が立ち、英雄チームの姿はなかった。
他の宇宙映画三作も選外であった。
ショーウェイの「宇宙からの英雄達」も、面白く楽しめる作品だった。
特撮も短期で撮ったと思えない迫力や面白さがあった。
モーションコントロールカメラ無しで巨大なミニチュアが上空を飛び去る様を、手前と奥がピンボケする事も恐れず撮る。
激しい光線の応酬と爆発。多少ピアノ線で吊った火薬の燃えカスが画面でプラプラ揺れててもまったく気にしない。
地面スレスレで急上昇する主人公の小型宇宙船、その直後に地面から砂ぼこりが巻き上がる。
操演のピアノ線がたるんでセットの地面を打ち付けたのだがそれが逆に効果を生んだ!
細かい粗なんでどうでもいい。迫力第一、絵の面白さ第一。
リック社長が作った地球軍の戦艦三隻が編隊を組んで地球を背に飛んで来るカット、敵の攻撃による大爆発を背に進軍するカット。
それは素晴らしかった。
リック社長は劇場で転げまわりたくなるのを必死にこらえた。
最後の敵要塞動力部へ、宇宙クルーザーから小型戦闘機二機が左右に展開し、発進する場面。
地面に向かって飛ぶクルーザーの左右で爆発が花火の様に起こる中、炎を吐いて発進する。
リック監督はガタガタ震えていた。
更に要塞の地下ダクトに突入し、敵戦闘機はダクト側面や分岐に激突、緊急に閉ざされたシャッターを主人公達が通過した直後にシャッターが閉まり、敵が激突、爆発!
「っ~~~!!っ!ッ!~~!!」
声が出そうになるのを必死でこらえていた。
最後、助けを求めた惑星は敵諸共爆発、宇宙帆船に逃れた民は宇宙の果てに新天地を求め、地球からの招きを断り去っていく。
「~~~!~~~~~!」
ボロ泣きであった。
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「やっぱあれがスペオペって奴かあ」
「面白かったけど、なんとなく敵も味方も、宇宙っぽくなかったなあ」
「ありゃ歴史活劇って言うより、何だろな」
「ギャング映画だ!」「それだ!」「「ワハハハハ!」
そんな嘲笑する声が多い中で。
「うわーっ!負けだー!ショーウェーすげー!」
劇場のサロンでリックが吠えた。
「…そうかしら?どちらも何と言うか」
「でもさでもさ、色んなシーン、凄かったよ~」
「そうだよ!宇宙船が分離するシーン、対空砲火が後ろで爆発する中で分離とか!
活劇俳優とギャング俳優の最後の殺陣とか、男ババアが二人も出るとか!
排気ダクトは勿論、最後の地球がすっごく綺麗だったよー!!」
「男ババアって…」
もうその辺を転げまわりそうなリック社長をアイラ夫人が宥めた。
「リックさんのミニチュアも綺麗でしたね」
「地球を背にするカットとかもう!もー!ウキー!」
「り、リックきゅんがお猿になっちゃった~!」
(あれ、もしかしてスゴイ映画だったのか?)
(いや、何ていうか、でも確かに)
リック社長の発狂寸前の姿に、多くの客が戸惑った。
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ヨーホー映画にせよショーウェイにせよ得るものは無い世界映画祭ではあったが、好事家一同が映画祭終了後レイソンの映画博物館に
「宇宙映画の特別展などは無いのか」
と問い合わせて来た。
それを聞いたリック社長は、急遽空きスペースの壁を黒く覆い、反射素材を接着し宇宙っぽくディスプレイし、各作品の未来兵器のミニチュアやモーションコントロールカメラのモックアップを展示する様意見した。
勿論最優秀賞を獲得した「1799」の模型についても展示を計画した。
完璧主義者の監督に展示について打診したが、映画祭で最優秀賞を受賞して気前が良くなったのか、
「他の作品と別の区画で見学者から2m以上離れている事、室内の壁は黒、照明は最低限」
と細かい注文を付けつつも承知した。
この催しは海外の好事家だけでなく王家、貴族、学士、映画関係者、更に報道や平民の好事家、更にキリエリア内のマニアが予約して来た。
押し寄せる来客は、思わぬ景気をクランの地に齎した。
「これは外交の場にもなるわねえ」
暫く仕事を離れていたセシリア前社長は甥のため社交の場を持つ事にした。
色々政治的な対立や拮抗がある人が相手となれば、社交も大変な戦いなのだが、今回の来客は映画好きで友好的な人達だ。
旧交を温める、同窓会的な、気の置けない場であった。
彼女はジッセイダー騎士爵家を迎賓館に借り上げた。
貴族としては最下位ながらも、英雄チーム社交の場にも使える様に、リック社長が立派に仕上げた屋敷は社交の場としても文句はない。
「あわわ!私の趣味満載なのでどどどどうしましょ!」
立派な屋敷ではあったが、結局長年社交の機会は無く、更に英雄チーム一同はリック邸をリビングの様にして入り浸っていたので、ミーヒャー夫人との結婚まで大勢を招く事はなかった。
更に結婚後は彼女の趣味に覆い尽くされていた。
即ち名作映画のポスターやスターたちの写真、更にサインや彼女に送られた過去の衣装や台本。
まるで映画博物館別館の様であった。
「ふふふっ!そのままでいいのよ、その方がいいの」
「ははーっ!」
こうして急ぎデシアス邸は迎賓館兼映画博物館別館となり、日々晩餐会が催された。
家族はリック邸に引っ越し、マーニャちゃんとヘルムちゃん、ソラチムちゃんはブロムちゃんとお泊り会をする事になった。
「おじゃまします、暫くお世話になります」
「おにーちゃん!」
「おねーちゃ!」
「まあ、みんなかわいいわねー!」
「ハンマは修行中かあ。みんな大きくなったなあ」
世界映画祭のため帰宅していた英雄ブライとキャビーが面倒を見た。
こちらも小さな社交の場となった。
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この動きを聞いて、ヨーホー映画もクラン祭りを急遽開催する事とした。
貴族は剣聖の屋敷で晩餐会、セシリア前社長からかつての映画華やかなりし頃の逸話を楽しんだ。
その場には受賞を逃したものの高い評価を得たセプタニマ監督やその弟子シルバ監督も招かれ、更に世界的な探検家となった英雄ブライもお披露目された。
クラン祭りでも往年から今に至る歴代のスターたちが屋台を開き案内人となり、コンサートを開いた。
ジッセイダー家も、ミーヒャー夫人の実家であるウッツリー伯爵家も社交に祭りにと参加し、孫たちと楽しんだ。
「あ!ゴドランとスプラルジェントだ!」
大プールではお馴染みの怪獣ショーも行われ、久しく見る機会が無かった巨大英雄、怪獣の戦いを来客が、さらに付近住民も敷地外の見物席から楽しんだ。
この催しにはショーウェイ関係者も招かれ、更には国際テレビ、特美工房、17th世紀プロも招かれた。
「本当に夢の様!昔も今も変わらない、映画の素敵な賑わい!」
引退して数多くのしがらみから解放されたセシリア前社長は、このお祭り騒ぎを思う存分楽しんだ。
そしても社交の場に現れ、かつての映画華やかなりしころの逸話を語り、また、幸せな時を過ごしたのだ。
「ところでじゃが」
「リック殿はどこに?」
マキウリア女王陛下と、宰相となったカチン閣下が訪ねた。
例によってリック社長以下英雄チームの姿は、ジッセイダー夫婦以外は無かった。
リック社長は、ひたすら博物館展示やクラン祭りの裏方に徹していたのだ。
英雄アックスは言うに及ばずゴドランの中に。
セワーシャ夫人はお祭り中は看護、社交中は料理に配膳、酒の用意。
アイラ夫人は、子供達の世話。
アイディー夫人は来客の予約管理や動線の確保を指示していた。
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「ひー。疲れたよー」
嵐の様な祭典は終わり、リック社長以下は例によってリック邸で一息ついた。
一同は温泉でゆるりとくつろぎ、子供達を交えて宴会を開いた。
しかし、今回の大騒ぎは次なる大騒ぎの序章に過ぎなかった。




