322.次なる宇宙SFの企画
試写で高評価を得た「オーミネス・エト・ユニバースム」が放送を開始した。
夜9時という遅い時間ながら、しかも報道と教育を専らとする王立放送局、今までの視聴率20%から、何と倍以上の50%に跳ね上がった。
それは、今までの学術教育番組とは全く違うスタイル、確かに学術を説明しながら、さながらSF映画の様に、冒険映画の様に、そして時に歴史映画の様に、人間の知性と宇宙の関係を描いた。
前評判の高さもあり、新聞や雑誌は絶賛した。
この世間の注目振りに、全面的に製作協力した王立学院は大はしゃぎだった。
本作の原作ともいうべき書籍の売れ行きも好調で、これらの功績で番組ホストのサガン学士氏は高い学位を授かった。
その学位授与の祝賀会、王立放送局や出版会社も招かれて開催されたが、その場にリック社長達はいなかった。
トリック特技プロの新作品、その企画が難航していたのだ。
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「スプラフィニス」も世間を驚かせ、何かと引用される事があって著作権料、そして玩具の売れ行きも好調。
主人公の乗艦コスモスの玩具もさることながら、数話に1回登場する巨大戦艦、更には敵の恐竜を思わせる紫の戦艦もまた売れた。
「こんな事ならもっと艦種を増やせばよかったかも、護衛艦とか巡洋艦とか」
「主よ、特美にそんな余裕はなかったのだ…気持ちはわかるが」
「戦艦が艦載機を満載して機送艦を兼ねてたのはムリがあったなあ」
それでも気合で色を変えたり舷側に書かれた所属惑星の紋章を張り替えたりと差別化を図っていて、そこは模型でも選択可能になっていた。
「ガストローXVを思い出すなあ」
「ほんとリックはこういうメカもの大好きだよなあ」
「その為に特撮をやっているのだ!えっへん」
そんな人気に支えられつつも、懐具合は苦しかった。
なにせモーションコントロールカメラの開発費が億単位だ。
何とか赤字にならずに済んだが、やはり初期投資の回収が精いっぱいだ。
加えて撮影に掛かる手間が大きすぎて、即座に続編とはいかなかった。
最終回は敵勢力の母星爆発のスペクタクルもあって、トリック特技プロとしては珍しく放送直前の納品となったりもした。
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そんな中、一つの企画がSF作家のフルクトゥ・フォルティナ氏、フクさんから持ち掛けられた。
宇宙人との戦争で滅亡しつつある地球を救うため、宇宙の果てから齎された新エネルギーで地球を破滅から救う、という企画だ。
「新エネルギーを搭載した宇宙戦艦を舞台に、敵の大宇宙艦隊の攻撃をひたすらかわし、惑星破壊兵器で汚染された地球を救う超科学装置を取りに行く、って話なんだけどね。
複雑な機械の塊みたいな戦艦をアニメで書くのは大変でしょう。
特撮で出来ないかなあって」
「出来なくはないけど、これはアニメの方がいいかも知れない」
「アンタが撮ったマグナ・パクスみたいなゴツい戦艦を毎回書いていたら作画班死んじゃうよ?!」
「う~ん。
敵側を魅力的に見せないと、困難を克服して地球を救うってのが弱くなる。
だから敵の宇宙艦隊の艦種を増やし、機能的に見せた方がいい。
汎用戦闘艦、高速突撃艦、機送艦、新鋭大戦艦。
宇宙戦闘機も高速戦闘機、雷撃機、重爆撃機とか」
「よくそんなスラスラ出て来るなあ!」
「異世界で、まさにそういうアニメがあったんだ」
「それ、成功した?」
「裏番組に負けて打ち切り」
「駄目じゃん!」
「でも再放送とかでムチャクチャ人気出て劇場公開もされたよ?」
「何だそれ?」
フクさんには理解できない異世界の紆余曲折を説明したが、
「まあ何だ。その気合は解ったよ」
何とか腑に落ちた様だ。
「アニメは作画が大変だけど、自由度は高い。
俺はアニメで成功して欲しい、アニメに、特撮のライバルにもっと成長して欲しい」
フクさんはリック社長の助言に感謝しつつ、アニメスタジオを回った。
その中で、ショーウェイ動画の中でもメカニック大好き、「1799」大好きなアニメーターが手を上げた。
そのまま話が運んでショーウェイテレビで製作が決定したのだ。
なお、この一作はリック社長の言う通り大ヒットした。
そして巨大ロボットアニメに宇宙戦艦を組み合わせる作品が増えたのだった。
だがフクさんは後に語った。
「この企画、リッちゃんとやりたかったんだけどねえ…」
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リック社長に協力を求めたのはアニメだけではなかった。
ヨーホー映像特技部は、創立25周年企画として近未来戦記「マグナ・パクスの最期」の企画を立ち上げた。
テレビ映画「戦争の世紀」でも特に人気のあった、ヒノデ帝国最大の戦艦を、国家の威信のためだけに多くの乗員もろとも勝つ見込みのない戦いに向かわせるという一説。
この壮絶な悲劇を新撮するという企画だ。
やはり「大西洋 連合艦隊の最期」での同型艦の沈没シーンを流用するだけではスタッフ一同納得がいかなかった様だ。
本編では実物大セットも作るための予算が計上された。
白亜の殿堂でこの企画を見せられたリック社長。
「俺がいる時にやりたかったねえ」
「似たようなことやったじゃねえか」
確かに同型艦ベラトロの沈没は相当気合を入れて撮影したのだが。
「で、今この企画ならみんなでやり切れるでしょう。
俺を呼んだのは?」
リック社長にショーキ監督が答える。
「この映画、あのモーションコントロールカメラの出番、あるかねえ」
「ないねー」
即答であった。
「近未来戦記は、そんなSF的でバリバリな、じゃなくて、どこか長閑な方がいいと思う。
未来の思い出、みたいな。
こんな悲劇起こしちゃいけないよ、そんな寓話として一歩引いた感じがいいんじゃないかと思う。
精々、最初の『大西洋の嵐』で軍港攻撃の時、クレーンで吊ったカメラで撮影した程度が刺激としてはいいんじゃないか。
個人的にはそう思うんだ」
リック監督の想いに、ショーキさんは頷いて同意した。
「やっぱそうかー、そうだよなあ。
いえね、周りからモーションコントロール使え使えってうるさいんだよ」
「やっぱり」
使って貰えれば原価回収になるのだが、そのため映画の持ち味が損なわれては本末転倒だとリック社長は考えた。
「もしクレーン撮影が難しければ、無人飛行カメラな方がいいかもね」
「ああ、あの『ユニバースム』で使ったってヤツか!」
「70mm乗せるのは無理だけどね」
「そりゃそうだけど、35mmでもありがたいよ!」
こうして、トリック特技プロはヨーホー創立25周年記念の一隅に協力会社として名を記す事になった。
「で、リッちゃんは次どうすんだい?」
「それがまだ決まってなくてねえ」
「リッちゃんならいくらでも異世界の記憶って引き出しがあるだろ?」
「それでも実際に撮影するとなると、相当の愛と情熱が要るからねえ」
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リック社長はまずは。
「次回作は、時間を往来する船で、古代竜の時代に地球に来た侵略者と戦う話ってどうかな」
「時間を往来する船?」
「全くわからん」
「難しいわねー」
「時間遡上って、学術的にできるのかねえ~?」
前作「スプラフィニス」では、ワープ航法、光の速さを超えて別の銀河へ瞬間的に移動するという理論は何とか納得した天才アイディー夫人も、時間旅行はピンとこなかった。
「時間旅行は難しいかー」
リック社長はこの企画を断念した。
結局、ヨーホーテレビから「次作も宇宙モノで、より爽快感のあるもので頼みますよ」と注文された。
「ショーウェイみたいに歴史剣戟を宇宙でやるのも手だなあ」
そして考え出されたのが「宇宙移民団」。
汚染と戦争で母星を失った人類が新たなる故郷を求めてさまよう物語で、主役は巨大戦闘艦のクルーとなる。
毎回不思議な惑星や、ゲストの名優演じる異星人との接触、宿敵の機械帝国との抗戦、様々な寓話が描かれる。
聖典の寓話から神話、民間の伝承などから「ユニバースム」で書かれた最新学説まで取り入れた半年間のシリーズだ。
この企画を見た英雄チーム曰く。
「『スプラフィニス』の逆バージョンだな」
「でも各話の一話完結性が高い。
戦う話と、会話や知恵を競う話が交互だな」
「前のはみんな荒くれものでギラギラしてたけど、これは女性陣も多くて落ち着いたドラマが期待できそうねえ」
「また色んなスター様に会えるかも!」
「妻よ…」
反応は様々だが悪くなかった。
「どことなく、宇宙の『エクソダス』みたいですね?」
アイラ夫人の指摘が一番的を得ていたかも知れない。
リック社長には、異世界の記憶や哲学がありながら、子供のころに親しんだ聖典の精神も深く刻まれていたのだ。
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このシリーズは「スプラプレグリナス(超巡礼者)」と題された。
主役となるのは、宇宙重装艦ステラアルカ、その他母星を失った惑星艦隊の生き残りと宇宙移民船団。
母星以下惑星連合は過剰な開発、内紛、更に宿敵である機械軍団によって幾つもの惑星を失い、ついに母星を放棄し新天地を求めて旅立つ。
重装艦は機送艦と戦艦を足して巨大化させた様な存在で、艦体中央に広大な居住区と武装区画、艦載機工場等を備え、戦闘時には武装を露出させ、艦載機を艦体左右の発信口から射出する。
武装化・発艦シーンだけでなく、戦闘シーンもライブラリフィルムを多用する予定だ。
リック社長はアイディー夫人だけでなくセワーシャ夫人やミーヒャー夫人にもアイデアを求め、様々な寓話からコメディ、ロマンスに至るプロットを企画書に纏め、ヨーホーで出演可能な俳優のリクエストも出してヨーホーテレビに提出した。
「これ、前作よりイケるんじゃないですかね?」
「うーん。
ヒットって何が観客に刺さったのか、結局終わってみても解らないんだよね」
兎に角OKが出され、トリック特技プロは製作に入った。




