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321.トリック特技プロの新時代

 いよいよその週が来た。


 新番組「OVI」がマギカ・テラでは週末の夜に、王立放送局で平日の夜に開始された。


 マギカ・テラでは初回視聴率、

「60%です!」

「「「うおおー!!!」」」

「ようやった!ようやったぞ!」

 同時視聴でマキウリア女王陛下が17th世紀プロの面々を讃えた。


 マギカ・テラでも民営放送局が他国の人気テレビ映画を放送しながらもこの視聴率、嘗ての「スプラQ」を思わせる数字だ。


 だが、この日この場にはリック監督始め英雄チームは出席しなかった。

 この栄誉は、今17th世紀プロで頑張っている後輩たちにこそに与えられるべき、と考えたからだ。


 そして数日後のキリエリア王立放送局での初回視聴率、55%。

 ショーウェイテレビが全国ネットワークに成長した今、4局が争う中、報道と教養、後は他国との放送提携を行う王立放送局としては、しかも平日の夜としては異例の高視聴率。

 大成功だった。


「流石『1799』スタッフの新作だ!」

 この成功を世間はそう評した。


******


 そしてキリエリアでは同じ週、安息日の19時に、久々に「スプラシリーズ」の名を冠した空想活劇、「スプラフィニス」も放送された。


 今まであちこちで報道された、モーションコントロールカメラによる映像だが、これに光線の合成が入るやら爆発が合成されるやら。

 更に本編にも惑星連合の大会議場で実物大セットの様な合成が被せられ、スケール感を増している。


 そして主人公達傭兵隊。

 かつてペルソネクエスシリーズで主役を張った、ムチャクチャ気障な若手俳優がアクションも熱弁も、本気で当たる!


 特撮も凄いが、彼の気障な演技も凄い。

 更に傭兵隊長、倒産した大手映画商会の敵役アクション俳優だが、この外連味も凄い。


「いやー、何回圧倒されたことやら」

「何言ってんですかカントクー!

 トレートさん以上の、アンタの情熱に圧倒されたのはコッチだぜ!」

「おー!そうだそうだ!

 俺には仲間達が色々世話になった恩義もあるからな!」


 放送日の同時視聴で、主演の変身英雄役者、そして大人気だった活劇映画の敵役がリック監督を持ち上げた。

 敵役俳優が言う通り、「ゴドラン対トルドー」の一件以来、倒産した撮影所のスタッフたちの再雇用等にリック監督は色々斡旋したり支援したり尽くしていた。


 そして敵に強硬接舷、しかし敵は降伏せず、最後まで敵意を燃やして自爆。

 後味が悪い戦いの結末だが、主人公達荒くれものは戦いが長引く事に覚悟を決めて第一回目の放送が終わった。


「速報です、視聴率62%!」

「「「ウオー!!!」」」

「やりましたよリックさん!久々の60%越えだ!有難うございますー!!」


 マッツオ社長が大喜びだ。


 トリアン薬品が色々と躊躇して大人気作品を放てず、ショーウェイですら変身英雄モノの存続に苦心している今。


 かつての様な大ヒット作品が無くなってしまっての60%台。

 こちらも大台に乗った。


 17th世紀プロとトリック特技プロの師弟対決は、四捨五入すれば肩を並べる程になった。

 いや、今では未来兵器志向のファンが人形特撮シリーズを讃え、怪獣志向のファンがスプラシリーズを讃えている。


 そういう連中は、怪獣が崇高か、未来兵器が現実的か、全く異なる方向性で相手を批判しているのだが、それは20年以上経たないと笑い話にならない程。


 彼らの言説は、テレビ映画を報道する写真雑誌に記載され、時代の証言として残された。


 それは、趣味人の承認欲求の業の不可さと虚しさを記す焼き印となってしまった。


 そんな好事家の言説とは全く異世界かの様に、玩具店ではどちら作品の未来兵器の完成模型、組立模型ともトリック玩具の手によって、仲良く並んでいたのだった。


「毎度ありー」

 リック社長の声が聞こえる様な売れ行きだったそうだ。


******


「スプラフィニス」が高視聴率を維持している中、「オーミネス・エト・ユニバースム(人と宇宙)」が上梓した。

 そして本編を含め撮影開始。


「スプラフィニス」の撮影も後半に入り、敵本星へ惑星連合が迫り、途中で宇宙の大艦隊戦を繰り広げつつ、破滅しつつある敵を描いていく。


 奇しくも「ユニバースム」でも考古学や天文学の見地から天体や文明の盛衰を描いている。


「リックさんの書く物語って、異世界の学問や考え方を下敷きにしているのですね」

「いいや、俺はただ派手なぶっ壊しや未来兵器を見たいだけだよ」

 リック監督はアイラ夫人にそう答えたが。


「それだけじゃ英雄賛美に終わるじゃないですか。

 そうならない下敷きに、こういう学問があるのではないでしょうか?」

 アイラ夫人はリック監督の素養、そして人柄も当然よく知って、愛していた。


 それでもリック監督は恥ずかしそうに言う。

「はは。否定できないね。

 でも俺は学士じゃないよ、特撮好きなだけだよ」


******


 その第一回目の試写が行われた。


 カメラが宇宙に向かい、嘗てその存在が疑問視されていた、赤や紫、色彩豊かな「星雲」が画面に向かってきては過ぎ去っていく。


 その中に、植物の種の様な光が向かっていく。


 最初に現れる字幕は、リック社長の原案を再構成し現在考えられる最新の理論で説明した学士、カルロス・サガン学士の名。

 それに続くタイトル。

「オーミネス・エト」が小さく現れ、それに続く「ユニバースム」が大きく映される。


 地球上の海辺で彼が「想像力で宇宙へ旅立ちましょう」と、植物の種を吹き、それが空に舞うと、種は星空へ向かう宇宙船となる。

 ビデオ合成ではなく70mmオプチカル合成。


 そして、この10年で建設された各国の学院による巨大な望遠鏡、トリック光学製、つまりリック社長の発案で撮影された星座、星雲。


 それら素材を用いた美麗な天体ショー。


 学士は淡々と、これら星雲の規模、地球との距離を説明する。


 それら星雲の姿は写真をそのまま使ったものもあれば、画面手前に迫る感じを再現するため作画で再現され何層かに分けて描かれたものもあった。

 写真にしてもモーションコントロールカメラで回転を付けられ


「想像の宇宙船」は広大な、席と卓上の僅かなモニター、その向こうに美しい宇宙を映し出す大スクリーンがあるだけの純白なセット。


 第一回目は、地上の海岸から始まり、今までに得られた知識や観測結果を糧に宇宙の果てを旅し、太陽へ、地球へ戻って来る「想像の旅」が描かれた。


 そして、最も身近な天体、地球と太陽の関係を証明した古代の学士の話。

 古代に様々な知が集まった街の今をロケしつつ、その地下にある失われた大図書館の遺跡に足を踏み入れれば…


 そこからは簡易ビデオ合成で、ミニチュアで再現された大図書館の中で学士が優れた知の集積を称える。


 宇宙の映像から、古代史、算術に話題が飛びつつ話題を広げつつも、学士の話は「如何に人が宇宙を知る試みを重ねて来たか」という一つの好奇心に収束し、観るものを知の世界に誘った。


 豊穣を称える古代文明の、今や不毛の荒野となった大地。

 巨大な建築物があった古代遺跡。


 資源の枯渇による衰退を説明する学士、その説を誰も否定できない、不毛の荒野が空撮で果てしなく映し出される。


 神殿音楽の追悼曲がその悲劇性を激しく訴える。


 この1話、そして続けての2話の試写もまた喝采を浴びた。


「これは人間の知識の結晶だ!」

「これを観れば学の無いものも宇宙の姿を知り得る!」

「何と言う解りやすく、親しみやすい知の深淵か!」

「この映画が我が若き頃にあれば!」


 特に、過去に難解な学説や試験に煮え湯を飲まされた学士たちは絶賛した。


 皆が主演であり原作の学士を讃えた。

 しかし、当惑したのは学士本人。


 トリック特技プロは製作協力の数多くの一行の中に埋もれていた。


 そして本当の原作者であるリック社長や協力者のアイディー夫人の名前は全く無かったのだ。


「この作品の主役は人類の知と宇宙そのもの。

 学士殿は兎に角、裏方が目立つのはよくない」

とリック社長は判断し、製作もキリエリア王立放送局とした。

 著作権はシッカリ取ったけど。


******


 同時に「スプラフィニス」の撮影も好調。

 1クール後半、地球に肉薄し、防衛要塞を強襲した敵軍。

 だが無理すぎる長征が仇となり惑星連合に殲滅され、敵本星が徹底抗戦を宣言してしまった。


 主人公たちの傭兵艦コスモスは敵の植民星を解放しつつ、「戦いこそ正義」と頑なに信じる敵の価値観に打ちのめされる。


 遂には今は亡き開拓惑星で最初に和睦した司令官が決起し、死滅する母星から難民を脱出させる。

 敵の皇帝と最高評議会は決起から逃れつつも、反撃か逃亡か潜伏かで揉めて自滅する。


 更に惑星連合と和睦し、市民の脱出を指揮する司令官も部下から「裏切り者!」と射殺されてしまう。


 惑星連合は、また主人公達傭兵隊も、異なる価値観を持った敵市民を救助した事を激しく後悔しつつも、

「人間が人間である限り好奇心は治まらないさ。

 これからも未知の宇宙を旅して、知らない奴と会って戦って和解を繰り返すより無いんだ」


 と、新しい歴史、未知の宇宙に向けて旅立つのだった。


「トラス司令官様可哀そう~!!」

「救いないじゃんコレ!」

 敵にしてほとんど主人公より主人公らしい、敵市民脱出を主導した悲劇の英雄に人気が集まる。

 特に女性陣から。


 そして、かつてペルソネクエスを演じた主人公も陽気で気障な台詞回しにアクション、そして時折見せる寂し気、悲し気な演技に人気が過熱した。

 特に女性陣から。


「こりゃ人気の半分は女性陣のお陰だねえ」

「こういう特撮モノ、SFモノにあまり関心なかった女性陣を取り込んだのは大きいですよ?」

「俳優陣の頑張りの賜物ですよ」


 マッツォ社長はこの人気を讃えつつ、後半半年の延長を訴えたが、

「また別の考えますよ」

 と、リック社長は新たな企画に取り組むのだった。


 そして「ユニバースム」も放送を開始した。

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