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3.パイロットフィルム

今回はサブタイトルそのまんま、パイロット版として3話を公開しました。

 キリエリア王国の魔王戦による被害は、テラニエ帝国が原因だった。


 帝国は百年前、当時ゴルゴード王国と名乗っていた際にキリエリアへの侵略戦争に敗れた。

 その結果国家が破綻し、その破綻を覆い隠すべく周辺の弱小国へ侵略を仕掛け、何とか帝国の態を整えた成り上がり国家だった。

 その延長線上で、伝承が失われた「魔王の領地」に鉱物資源を求め侵略した、それが「魔王軍の侵略」の実態だった。


 魔王曰く、太古の魔族人族の戦争で疲弊した両者が妥協し、不可侵条約を結んだのが今の「魔王の領地」だった。

 魔族は人族と違い、僅かな食糧でも魔鉱石から得られる力で生きていける種族との事だ。

 それを鉱物資源獲得のため帝国が攻め入り、古代の条約を無視した人族に激怒して開戦したという訳だ。


 おまけに魔族の中には空も飛ぶ者や海を突き進む者もいて、苦戦した帝国は、この大陸、グランテラ大陸で最高の権威を持つ汎神教に働きかけ、無理矢理キリエリア以下諸国を「人間と神を守り、悪魔を滅ぼす」と巻き込んだ。


 それを疑問視した英雄、当時わずか10歳だったリック少年がキリエリア王国の仲間(国王含む)とともに魔王の城に乗り込み、実態を明らかにし不可侵条約の復活と戦後復興を約束して戦争を終わらせた。


 実は彼は、テラニエ帝国が異世界から召喚した勇者同様、異世界から来た者だった。

 肉体と共に異世界から来たのではなく、魂だけがこの世界に呼び寄せられ、両親が死んだ時に元の世界の記憶を取り戻したそうだ。


 しかし帝国の勇者ツヨイダ・カッターは戦争を終わらせたリック少年とは真逆に、魔王軍の主力を前に敵前逃亡した。

 帝国はこの失態を隠すため、魔王軍に対する勝利を喧伝した。

 仲間を捨てて逃げだしたツヨイダは各地で凱旋したが、さぞかし虚しかったであろう。


 一方リック少年は故郷だったテラニエ帝国を捨て、キリエリア王国復興に尽力し、そのために開発した新技術で膨大な富を得た。

 そしてその利益をひそかに魔王との約束に費やし、キリエリアだけでなく魔王国にも膨大な利益と発展を齎した。

 鉄道の幾筋かは、魔王国へと向かい、魔族の栄養改善、魔力を帯びた鉱石を運んで行ったのだった。


 そして12歳。国王から授爵を打診された時。

 突然復興業を引退し、「特撮映画」を志した。


******


「なんだよリック!面白そうな事はじめるんだって?何だよ特撮って!」

「映画って、貴族の道楽じゃないの?何で今更そんな事を…」

「納得はいかんが、俺達はお前に返し切れない恩がある。

 手伝えることがあれば命じるがよい!」

「うひひ…リックのおせわするよ~」

 早速集まったのは英雄組だった。


「先ず、試しに今の技術で特撮映画、つまり模型を使ったり、二つのフィルムを組み合わせて実際には撮影不可能や、予算がかかりすぎる映画を実現する技術を売り込むんだ!」


 そう答えたリックの後ろには、百枚に近い膨大な絵が板に張り付けられていた。


 それは、キリエリア王国が百年前に、ゴルゴード王国を破った海戦、「キリエリア沖海戦」を題材にした映画の、各場面毎に描かれた絵。

 リックはこれをピクトリアルスケッチと呼んだ。


「お前って絵も描けるんだなあ」

「野営では美味い料理や酒を振舞い、高度な魔術で敵を翻弄し、復興では鉄道に鋼鉄船に飛行機。

 今度は絵まで描いて映画に挑むか」

「神様って不公平よねえ」

「リックきゅんは天才よ、うひひ」


 アイラが皆にお茶や酒を出した。

 落ち着いてその絵を見た一同が。


「ちょっとリック、こんな船が爆発する映画、一体いくらかかるのよ?!」

「大体4千万デナリかな?」

 リック曰く、彼が元居た世界では1デナリ約10円、つまり4億円という事だそうだ。


「まあ、お前の懐であればそれくらいは出せるだろうが、失敗したら痛いぞ?」

「んにゃ。リックきゅんの考えは、スゴい利益を出すよー、アタシ、ずっと手伝うからね~」


 人一倍世話焼きなセワーシャが、リックではなく事実上の妻、アイラを心配した。

「アイラ。もし失敗したら遠慮なく言ってね、恩返しするから!」

「セワーシャ様、私は貴女達になにもしてませんよ?」

「してんじゃん!鉄道が行き交ったり飛行機飛ばしたり、リックとアイラは王国全員の恩人よ!」

「じゃあ」

 と、アイラは答えた。


「私の愛するリックさんを、信じて下さい。

 そして応援して下さい」

 眼鏡の奥のつぶらな瞳は無敵だった。

「くうう!これが愛の魔法!」


「機材の扱いは任せろ。

 そこの絵で大体何を撮りたいか解った」

 デシアスは淡々と答えたが、これは当時の常識を超えた、理解力と創造力の賜物だった。

「流石剣聖!敵の動きを悟る力は映画でも無敵だな!」

「アックス、お前は何をする?」

「俺は力仕事と客寄せだ!」


 英雄アックスも脳筋ではなかった。

 リックが書いた絵、ピクトリアルスケッチと、その余白に書かれた模型操作方法、更には模型を浮かべる池の水面に荒波を立てる方法、更には撮影に使われる模型の大きさを把握して、「力仕事」と答えたのだ。


 そして、魔王討伐戦を通し陸軍との顔を強固につないだ。

 この映画は海軍の映画だ。陸軍としては面白くないだろう。

 そこで彼は「陸軍の皆も見てくれよな!」と宣伝する決意を固めたのだ。


「俺も社交界にでしゃばるか…」

 英雄組で一人貴族、まあ男爵令息なのだが、それでも魔王討伐で名の売れたデシアスも実働以外の援護を申し出た。


「私は神殿ね?」

「アタシは、頭の固い連中にリックきゅんのステキさを教えるよ~」

 セワーシャは神殿に、アイディーは王立魔導士会に売り込みをかけるつもりだった。


 彼らは本当に仲が良かったし、優秀だった。


******


 先ずリックは王城の防壁の外、街道に近い荒れ野を買った。

 街道に近いながら、防壁街なので安い買い物だった。

 その地はクランと呼ばれ、後に大文化地区になるのだが。


 そこに巨大な倉庫の様な建物、その壁を北側にして、南に巨大な池を作り、更にその近くに自宅を構えた。

 自宅は多くの人が訪れても大丈夫な様に、会議室や食堂が設けられ、更に地下深く掘った穴からは温泉が噴き出した。


「日本からの転生者に温泉は絶対必要です!」

 リック少年はふんぞり返って宣言した。


 そして英雄チームの仲間が集まり、キリエリア沖海戦当時の軍船の資料や軍服、海戦やその後の敵軍港殲滅の絵図、当時の地図が集められた。

 早速リックは模型の設計図を描き、今や鋼鉄艦を建造している造船所に検証を求め、魔法で木造模型を作り上げた。


 その大きさ、カメラ手前用の10m大、3m大、遠景用の1m大、遠近法を付けた砲門発火用の舷側模型、更には砲撃で吹き飛ぶマストや船内の部分的な模型までが瞬く間に作られた。


「魔法で模型作っちゃうと、なんか魂籠らないよねー」

「そういうものですか?」

「塗り間違えたり、出来た所をポキってやっちゃったり、失敗と成功を繰り返すと模型がなんてゆうか、可愛く思えるんだよ」


 細部に奥行きを持たせる為、リックは暗い色を塗っていく。

「こら!あんた監督でしょ?そういう細かい作業はひとに任せなさいって!」

「え~、これが楽しいのにー」

 時々細部にこだわるリックをセワーシャが注意する。そういう時は大抵リックがロクに休みを取ってない時だ。


「ありがとうねセワーシャさん」

「あんたもリックにガツン!っと…言えないわよねえ~」

 彼等彼女等は仲良しだ。お互いよくわかってる。


******


 準備を終え、模型を爆破するための火薬と発火装置-魔銀で作ったワイヤーに魔力を流し込み、火薬を熱し爆破する、横長の琴の様な装置、「リュート」にワイヤーを繋ぐ。


 手前に巨大な模型、奥に敵軍の小さい模型を用意し、風魔法を駆使し手前には大きなうねりの波を、奥には細かい波を起こす。


「シーン20、ゴルゴード艦隊砲撃開始、ヨーイ!」

 リックの号令に応えてカチンコを構えるのはアイラ。


 カメラがスタートの号令を待たずに回転数を上げる。

「スターッ!」

 響くカチンコ!

 リュートを爪弾く様に鉄のペンに魔力を込めた魔導士が弦をはじくと、プール奥の模型艦隊の砲が光った!

 そして大型のキリエリア艦の模型手前で大きな水飛沫を上げた!


 最初に広く低い水柱が上がり、その後にむくむくと大きな水柱が立ち上がる!


 これはプールの底に空気を送るポンプという機械を据え付け、二つの種類の水柱を生み出す風魔法をアイディーが順番に送っていたのだ。


******


 撮影は快調に続いた。

「シーン23、キリエリア旗艦砲撃開始!」

 手前を大きく、奥を小さく、遠近法を付けられて作られたミニチュア。

「はいヨーイ、スターッ!!」

 リュートが弾かれ、模型の大砲が火を放つ!


「シーン25、敵艦マスト被弾!」

 今度はマストだけ作られた大型模型の爆破だ。

 先程同様に「リュート」を技師が弾くと、マストを挟んで反対側に、見えない様にくっ付けられた火薬が爆発、マストがはじけ飛ぶ。


「カーット!ウホーっ!いいぞいいぞ!」

 リック少年は超ゴキゲンだ!


 こうして両軍の艦被弾、それも各部分が爆発したシーン、遠景で船全体が各部で爆発したシーンなどを撮影した。


 こうして撮影されたフィルムは、編集され、この時点では未だ世間では使われていなかった光学録音、即ちフィルムの脇に音声を再現する、音盤の様な溝が感光されそれを再生し音を出すシステムと合わせて、予定通り4千万デナリを費やし完成したのだった。


「これが完成品じゃないだろ?」

「ああ。これは試作品。完成作品のイメージを予め出資者に伝えるためのパイロット(試作)フィルムだよ!」

「これが…試作?!」


 英雄チームの前に上映された帆船大艦隊の激戦は、この世界の映画の常識を覆す、まさにその場にいるかの様な迫力に満ちたものだった。

 もしお楽しみ頂けたら星を増やしていただけるとヤル気が満ちます。


 またご感想を頂けると鼻血出る程嬉しく思います。

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