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299.予期せぬ事態を予測せよ

 リック監督はマギカ・テラの「1799:太陽の外側へ」への下請け参加を前提に商会の運営を考えていた。

 既に内示は出ており、17th世紀プロとマギカ・テラ映画公社によって担当部署の割り振りまで行われていた。


 しかし、向うの監督から「出入り禁止」を命じられた。


 これには最大の出資者であるマキウリア女王陛下が最大の殺意を以て撤回を求めたが、

「彼らが来ては、彼らの映画になってしまう。

 彼らが今まで積み上げて来た撮影技法は、彼らが考える映像のために積み上げられてきたもので、それは素晴らしい歴史かも知れない。


 しかし私は今まで見たことが無い、未来の現実をこの世に描き出す使命がある。


 私は従来の方法を一度否定し、全長千メートルの巨大な宇宙基地や宇宙船の姿を改めて思い描く必要がある。

 そこから始めなければ、未来の現実は見られない」

と答えた。


 一切物怖じせずに言い放った態度にマキウリア女王陛下もリックに言葉を伝えるだけとした。


「ああー!人材計画がー!」

「何だよこれ!恩知らずなんじゃないか?!」

「これ、ウチ潰れんじゃないの?」


「申し訳ない!国として大恩あるリックとの約束を反故にしてしまった!」

 わざわざ女王陛下自らリック邸に伝言に来ているのは、もう当たり前の様だ。


「ですから女王陛下が頭を下げないで下さい、ってかホイホイうちに来ていいんですか?

 またマキナグラ宰相に怒られません?」

「今違約金の支度をさせておる」

「いいですからそんなの!」


 しかしリック社長は多少驚きつつ、何か合点が行った様であった。


「アチラの監督からすれば、ウチのマネに嵌る様な事はしたくなかったんだろうねえ」


「リック殿、これを不義理とは思わぬのかえ?」


「あの監督はセプタニマ監督を敬愛して、映画と言うものに異常なまでに完璧を求めているそうだしね。

 だから頭の中からウチの流儀を追い払う必要があったんだろうね。

 不義理というよりも、言葉の通り新しい映像への挑戦だと俺は思うよ」


 ケロっと言いのけるリック社長に、女王陛下は目を丸くした。


「ね、ねえ。リックきゅん、今考えてる70mmオプチカルプリンタ、どーしよ?」

「『1799』では使わないだろうね、殆どは長時間露光や一発撮りで行くはずだ。

 でも『1799』以外にも70mm合成は色々必要になる。

『1799』が成功すれば、大予算を注ぎ込んだ大作の需要が高まるから、引き続き準備しようね」


「やるんだ~」

「やるよ!」

「もう色々考えておるのじゃなあ」

 少し呆れつつ、安心した女王陛下であった。


「ま、セット建設やミニチュア作成に人手はいるだろうけど、それもアテにしない様にしよう。

 俺達はもう一つの伝手を頼るよ」


******


 もう一つの伝手、については限られたものしか知らない。


 そのため、新聞や映画批評家はトリック特技プロが超大作を出入り禁止になったと聞いて恰好の餌と飛びついた。


「トリック特技プロ1799から出禁」

「リック監督破産の危機」

「砂利番と堕したキリエリア特撮、遂に終わる」

 砂利番とは、砂利=子供の番組という、児童向け番組前半に対する蔑称である。


 この報道を前にヨーホー映画社長会でも余剰人員の解雇を検討すべきではとの声が上がる程だった。

 無論マッツォ社長もセシリア社長も一蹴したが。


「今は言わせとこっか。

 新企画が成功したら告訴して賠償金ブンだくって潰す」

「あなた楽しそうですね?」

「ちょ、ちょっと二人共怖いよ~、うひ」

「ままもたのしそー」


 アイラ夫人もアイディー夫人も色々腹に据えかねていた様だ。


「ねえリック、もしかしてもう一つの伝手って…コッチ?」

 物凄く渋い顔をしたセワーシャ夫人。


「あ”-…」

 旦那のアックス氏も察した様だ。


「えー、社長、お客様ですよほほほ!」

 色々察したミーヒャー夫人が呼びに来た。


「うげえ!」

 聖女らしからぬ声を上げるセワーシャ夫人。


「英雄リック殿ー!!そしてセワ…あれ?」

 突然やって来たのは例によって神殿で随分出世したミゼレ祭司。


「セワーシャなら先程吐き気がすると帰宅しました。

 三人目かも知れませんね!」


「ガーン!!

 い、いや…

 英雄殿と聖女様の第二子がお生まれになるのは素晴らしい事でアリマス」


(くじけないなあ)

「聖女様が幸せならオッケーです!!」

(ホンットくじけないなあ)

 リック社長は感心した。


「で!

 この終末気分が世間を包む世相を一掃すべく!

 リック殿の企画!『脱奴隷記』の映画化をお願いいたし度!」

「って事は、製作費、何とかなりそうなんですねー」

「今のところ2億!」

「毎度ありー」


 実は「1799」が頓挫した時の保険として、リック社長は神殿に

「暗い世情を吹き飛ばす、聖典の希望溢れる映画どっすか?」

とセールスしていたのだ。


 流石に20年前の「聖典」の様に製作費2千万デナリとは行かず、最低1億と持ち掛けたが。


「今では『内海が広がる日』とか『大西洋 連合艦隊の最期』とか並みにしっかり予算を確保せねば、人の心を打つ映画なぞ出来よう筈がありません!

 そう各界に訴えた所意外と寄進が集まりまして!」


(やっぱ世の中あるところにはあるんだなー)


 世間は不景気に見えるが、大商会や大貴族は色々貯えている。

 しかしあまり蓄財しすぎると財務卿から租税の査察が来る。

 なので神殿への寄進、それも国王陛下が弟と親しむリック社長の映画へ出資すればお目こぼしもあろう、という打算である。


(まー、ある程度は緩くしないと反発も怖いしなー)


 そう思い、リック社長は有難く話に乗る事とした。


「しかし本来であればこういう話はヨーホー映画から来ると思っていたのですが」

「今度はヨーホー映画はノータッチか、ウチの下請けになってもらう予定だよ」

「随分強気ですなあ」

「ミゼレ祭司様の仰る通り、本来ならヨーホーが動くべきなのですが、目の前の事で一杯々々なんでしょうねえ」


 こういう時、マッツォ社長やセシリア社長のために、在籍する監督が色々な企画を持ち込むべきだった。

 しかし皆目の前の企画でカツカツなので、リック社長の言う通り一杯々々だった。


「まあ映画の事はリック殿に任せます。

 神殿としては、聖女殿を登場させて頂ければ」

(あ、コイツの趣味だ)

「はい?何か?」

「いえいえ、聖女セワーシャも聖女アイラも出演させますよ」


「え?」

(う、うげええ~)

 アイラ夫人が露骨にイヤな顔をし、遠くからセワーシャ夫人が嘔吐する気配がした。


(兄貴ん家も二人目だ!がんばったねえ)

 とりあえず社員の仕事が確保できて安心したリック社長であった。


******


「セワーシャ様、おめでとうございます!」

「よかったねえ~、うれしいよお~」

「ホント、魔力の高い方って凄いのね…」

「妻よ、お前も鍛えれば共に若く長寿で」

「あーミーヒャーさん魔導士レベルにまで魔力あるよ」

「「「何て???」」」


「はい。この商会の収支計算、フツーの頭脳じゃ付いて行けないんで、魔力を練って頭に身体強化を掛けてたんですよ」

「「なんだってー!!」」

「妙な魔力の高まりの正体は、それだったんですか!」


 実はミーヒャー夫人もフツーじゃなかった。


「デシアス、あんたミーちゃんに無理させてないでしょね?!」

 英雄チーム4夫人は仲良しである。


「待ってくれ!一応俺も魔力錬成には立ち合って体や頭に負担を掛け過ぎぬ様見張っていたのだ!」

「俺も見てたぞ。

 マーニャちゃんとヘルムちゃんの大事なお母さんだからな」

 デシアス監督とアックス氏がキッチリサポートしていた様だ。


「流石英雄チームの仲間だよ!」

「ウヒヒ。戦いが無くってもさ、仲間増えるって、嬉しいよね」

「はい!アイディー様!」

 なんか抱き合っている二人。頭脳強化にアイディー夫人も一枚噛んでいた様だ。


「で、私は映画の出演は産休で欠席ね?」

「安定したら出てよ」

「もう40なのヨー!!無理ー!」

「全然そうは見えないぞ!俺の妻は若くて美人なんだ!」

「ヤメテー!」

「そうよそうよ!」「製作費のためにさ、出てよ~」「右に同じです!」

 にこにこと、ニヤニヤと微笑むアイラ、アイディー両夫人。


「私が出るならあんたたちも出なさい!」

「「「え~」」」

「いいんじゃないか?」


 聖女セワーシャ、聖女アイラ、大魔導士アイディーとトリック特技プロ専務ミーヒャー夫人に、「全怪獣総攻撃」以来またもや女優としてのキャリアが積み重なる事となったのだ。


******


 リック社長は神殿だけではなく、各国の王家や大商会にも様々な映画の企画を売り込んでいた。


「もうお母さんも色々動くのが辛くなってる。

 仕事が取れたらヨーホー映像やヨーホーテレビに回すつもりだったんだ」

「リックはやっぱりリックだなあ」

「ま、『1799』がああいう選択をするってのは、予想以上だったけどね」

「それでも主は予想『以上』というのだな」


 出入り禁止になったが、17th世紀プロを背負ったエンリケ社長からは細かな報告が来る。

 やはり70mmフィルムの精緻な画質で宇宙特撮、オプチカルプリンタを使わない高画質な合成を行うために相当に緻密な撮影計画を組み上げている様だ。


「いい映画が出来れば、それはこの世界の特撮の質をもっと押し上げてくれるよ。

 俺はそのためにマギカ・テラのみんなに頑張ってもらいたいんだ」


「やはり主は主だなあ」

「で、コッチはどーすんのよ」

「何しろ超大作だ。

 先ずは今まで通り国際テレビの大作経験者、不足する分はヨーホー映像でやる気のある本編スタッフを集めよっか」


 こうして新作「エクソダス」の企画が急ぎ勧められ、独立プロ各社のスタジオとスタッフを巻き込んでの体制が組まれた。


******


「エクソダス」の製作協力が、各独立プロに求められた。

 超大作規模とあって、トリック特技プロだけでは賄いきれない部分はどうしてもあった。

 特に本編は顕著だ。


 それを聞きつけて飛んで来た監督が、巨匠イナカン・ヒゲカン氏。

 分社化後はスターさん達が所属するヨーホー演劇プロダクションの社長となり、後進育成に努めていた。

 倒産した他社のスターさん達とも色々縁が出来ている。

 ナンマ・イダーロ氏などはまさにその縁だった。


 リック社長とは「天地開闢」以来16年ぶりの仕事となる。

「ウチがリッちゃんの下請けになるとはなあ!」

「いえいえ、この映画は巨匠あってのものとなるんですよ!」


 チーフ助監はテンさん。

 超大作で大人数のロケ指揮とあってもこの人であれば問題ない。

 特撮との呼応もよくわかっている。


 特撮はデシアス監督、そして撮影プラン設計にリック社長が監修に入り、特美や本編セット、ロケーションにまで参加する。


 何しろヨーホー映像では合成のモンさんも特美のキューちゃんも、更にポリちゃんも特技監督をショーキさんと交代で受け持ち、特技部全体が近未来戦記テレビ映画とパニックスペクタクル新作に掛かり切りだ。


 ヨーホー映像への遠慮もあって自前のスタジオとロケ、独立系が維持していた元老舗のスタジオが用意され、撮影計画や予算割りが固まった。


 こうしてトリック特技プロが主体となって製作する超大作、「エクソダス」の製作が始まった。


 もし楽しんで頂けたら、またご感想等などお聞かせ頂けたら大変な励みとなりますのでよろしくお願いいたします。


 なお、活動報告・近況ノートにてモデルとなった実在の作品についての解説を行っていますので、ご興味をお持ちの方はご参照下さい。

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