298.トリック特技プロ、マギカ・テラへ?
テレビ向け巨大英雄映画の撮影が終わった時点で、リック社長は社員、ヨーホー出向組、ショーウェイ出向組、そして旧ジャイエン他の復帰組へ、今後の指示を発した。
ショーウェイ出向組は巨大英雄に替わって来るゴーレム特撮への参加。
これは「インヴェンス・ヴィルフェレス」が成功するという確信あっての事だ。
旧ジャイエン他組は、トリック特技プロと一緒に次回作、マギカ・テラの大作への参加を勧められ、事情があるもの以外は賛成した。
キリエリアを離れられない事情があるものはヨーホー映画へ推薦状を出す事にした。
ヨーホー映画では近未来戦争のテレビ大作の撮影が始まっていて、テレビの規模に収まらないセットやロケに苦戦している。
他社とは言え経験ある映画技師の参加は喉から手が出る程欲しい物だった。
そして自社。
「『1799:太陽の外側へ』は前代未聞の製作規模になる。
本編、特撮とも全く人手が足りない。
何しろ人間が未だかつて見た事の無い世界を描くんだ。
俺達はこれを全面的に下働きする!」
「「「下働き???」」」
「何をどうとるかは17th世紀のみんなが続々纏めている。
俺たちは優秀な人達の手足となるんだ!」
「いやいや主よ!
それ考えたの主であろう?」
「いいや、向うのみんなだ」
「そ、そっかな~?」
「そうなの!」
「リックさん?あなたは自分の評価が低すぎます。
基本的な考えは全てあなたとディーさんが考えたんでしょう?」
「ディー、どう思う?」
「ん~~。基本を考えるのとさ、撮影をどうやるか考えるのは、別だよ」
「一応俺もディーも企画協力で名前と金は出るよ」
「ならいいです」
「リックが全部やっても出来ちゃうけど、それじゃダメ。
色々な人に先々を考えて欲しい、って事?」
「ああ。キリエリアだけ技術を蓄えてもダメだよ。
俺たち人間族以上に魔法を使えて、当然発想力が違うマギカ・テラと一緒になって、色々な先の物が作れるようになっていく。
そう信じたいね」
リック社長らしい、そう考えつつも一同はその先が気になった。
「リックさあ、仮に1~2年『1799』に関わって、その間キリエリアはどうなる?
その後みんながキリエリアに戻ってさ、前みたいにトリアンアワーがスプラシリーズを待ってくれている訳でもないだろ?」
「アックス、これは俺の見立てにすぎないけど、『1799』は成功する。
でもあまりに大予算過ぎて誰も追いつけない。
俺たち以外にはね?」
「巨大英雄の次は、宇宙特撮ブームが来る、それを狙う、って事か?」
「来るんじゃなくて来させる。
勿論テレビの枠じゃ超大作って扱いでも百分の一程度だろうけど、その範囲で何が出来るかを見据えるんだよ」
「主よ…難しい事を言ってくれるな」
共にマギカ・テラに往来しているデシアス監督にとっても、「1799」の規模は規格外過ぎたのだ。
「後は…これからアニメも賑わって来るだろうし、マンガなんかはもう凄い事になり始めている」
「そもそも『1799』もマンガから始まってますものねえ」
マンガ誌発刊の起爆剤となった天才マンガ家氏はずっとマギカ・テラで豪邸を与えられて映像設計をひたすら描き、スタッフと共に先端技術のその先を学び続けている。
王立学院が新たに創立した工学部に無理やり復学させ、修業完了の証しを与えた程である。
17th世紀のスタッフも修業完了まで行かず「学外講座修了」の認定を受けるまでに学び、論文を提出していた。
こんな怪挙、いや快挙もスタッフに宇宙工学の基礎を学ばせる決断を下し、1億デナリもの予算を投じたマキウリア女王陛下の賜物である。
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そんな研鑚を積み、専門家と共に描き上げた宇宙船、宇宙基地のデザインは革命的なものだった。
地球と往来する、地球の空を飛べる宇宙船は三角形の翼と底面が真っ黒な耐熱素材、上面は真っ白の飛行機だ。
打ち上げ時に底面にロケットを抱えて第二宇宙速度に達するとロケットを切り離す。
その翼には、実在する「キリエリア宇宙開発公社」の紋章と文字が。
宇宙基地は17th世紀プロの映画に登場したものよりさらに進化した、四角い筒が輪を描き、その中心部は回転しない無重力区画、筒の部分は回転し人工重力を生み出すという「宇宙迎撃戦」の頃の構想を復活させたもの。
しかし面白いのはその輪が二つ作られ、しかもその半分は鉄骨のみ、つまり建設中。
完成部分は「キリエリア宇宙開発公社」「レイソン工業」「レイソン電機」「マギカ・テラ運輸公社」といった実在の団体、そしてこれまた実在する大旅館、大食堂が使用している設定で、案内ロビーには各社の紋章や独特の字体による商号が掲げられている。
宇宙基地の床は曲面を描き、回転していながら立っている人、座っている案内嬢は転がり落ちる事なく安定してたたずむ。
この場面の撮影用デザインも出来ていて、緩やかな曲面のセットで、達人は底面に立ち、座っている案内嬢は腰をベルトで固定して背中に固定具を入れて撮影する。
セットでなくカメラが移動し、立っていても演技者がよろけない自然な様を写すのだ。
「このシーンだけでどんだけ予算かけるんだろ」
「無駄な宴の4、5回分もあれば行けるものよ」
またマキウリア女王がイキナリそこにいた。
同様の人工重力の場面は月連絡船や外惑星探査船の場面にも存在する。
宇宙基地とは逆にセットを回転させカメラを固定して人が無重力空間で筋力を維持する場面等を設計している。
「皆星空を旅するなどという絵空事に、大真面目なのじゃ。
それこそ恐るべき計算を瞬時に書き上げてのう」
女王陛下自らが呆れつつ讃える様に、この作品の設計はキリエリア王立学院、宇宙開発公社が
「遠い将来、人間は宇宙をどうすべきか、どこまで出来るか」
という思考実験を兼ねて予算を注ぎ込んで参加して来た。
これにリック社長もアイディー夫人も助言している。
「惑星間航行なんて100年、いや200年経っても行われる筈はないよ。
費用に見合う利益なんかある訳がないんだ」
一刀両断だった。
「例え地球の外側の惑星に膨大な資源が眠っていたとしても、持って帰る費用が膨大過ぎるんだよ。
だから、可能性があるとしたら、それは学術調査だけなんだ。
そこにいくら予算を注ぎ込めるか。
それは100年後、200年後の社会の財力と好奇心、それを可能にする技術次第だろうね」
「ならば100年後に賭けよう。夢を描くのは英雄リック殿の得意であろう?」
「「「そうだそうだ」」」
並みいる学院、技師、魔道具師たちの熱意は凄かった。
キリエリアも、マギカ・テラも。
そしてリック社長とアイディー夫人がどこまで高速な宇宙船を建造できるかを大まかに説明し、必要な費用を計算し…
関係者の絶望を買った。
逆に、安価に宇宙を突き進める推進力さえあれば、という
「もしも」
の話を繰り返し、宇宙船や宇宙基地の外装、内装のデザインにも参加して来た。
居並ぶ学士たちもその方が楽しかったのだろう。
宇宙基地内の旅館の内装や地球との通信サービス、出来合いの高級料理を真空包装の上冷凍し、宇宙では電子料理機で加熱するだけに省力化した食事。
無重力区画でのペースト状の肉、麦、飲料という食事。
宇宙船の無重力トイレは数百行に及ぶ注意書きを読まないと大変な事になるという冗談の様な説明書が子細に設計されている。
「ブッ!誰だよこんなの書いたの」
リック社長が噴き出した途端、一部の学士たちがこぶしを握って勝ち誇った。
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本編の準備も進んだ。
宇宙探査船の船長がキリエリアの俳優で、副官がマギカ・テラ。
宇宙探査船派遣の原因となる、月面の謎の物体の発掘現場に向かう科学者がアモルメ。
そして船長よりも個性的で印象に残る、探査船統制電子計算機。
この声は、実際に電子楽器を改造した電気音声で演じられる。
とは言え、俳優の声を電子楽器で再生するという手の込んだ使い方だ。
他の出演者はボウ帝国の帝都周辺や東南諸国を含め各国から専門用語を扱える俳優が集められた。
中には過去の人形特撮に声で参加した俳優の姿もあった。
脚本は、「神が授けた知恵の実とは何か」という宗教的なものに。
宇宙からの大隕石の衝突で地上の古代竜が死滅する中、謎の多面体に触れたネズミの様な動物が生存し、同じくその多面体に触れた類人猿が岩を投げ他の動物を倒し、火を使う。
そして人間は宇宙へ、機械もまた人間の様に考え、進化する。
監督はアモルメの巨匠が招かれた。
監督曰く。
「色々学術の未来を学ぶ内に、キリエリアで計算機が人間の様な心を持つ話に触れて、動物の人間の差は何か、機械と人間の差は何かと考えました」
(それペトロさんの作品だなあ)
リック監督は黙って聞いた。
撮影は本作品用に巨大なスタジオが建設された。
高さが何と3倍はある。
ミノタウロス族がアクションドラマを撮影出来る程だ。
「何考えてんのコレ?」
「打倒キリエリアじゃ」
(ウソだなあ)
無重力演出のため、デカイ円環状のセットを組んで回転させるためだろうなとリック社長は理解した。
それにしても奥行きも凄い。
照明も強烈だ。
「これなら10m以上のミニチュアも撮影出来るなあ」
撮影計画では更にそれを長時間露光、シャッタースピードを遅くして、明暗を際立たせて宇宙船の白と影の黒を際立たせる予定だ。
更に宇宙船が操演で動くのではなく、金属の支持棒をカメラとミニチュアの反対側に建て、カメラがこれに接近して撮影する。
単純にそれだけではピンとがズレるので、その動きを何回も繰り返しつつピントを合わせ、接近してもピンとがずれない、ミニチュア感が皆無で巨大感のある映像が撮影出来る。
その為に動きとピント補正を行う機械が考案された。
(モーションコントロールカメラの先駆けだ。
これだけで俺が作ったら3千万デナリは消えるなあ)
リック社長がやりたくても出来なかった事が、ここで実現している。
その部分のテスト撮影も終わっていて、無事成功している。
特撮部分のテスト撮影は17th世紀スタッフが過去とは全く異なる方法に戸惑いつつ慣熟運転しつつある。
本編も当初17th世紀スタッフがメインとなる計画だったが、俳優の演技指導等に難があり、マギカ・テラの映画公社が仕切る事となった。
それでも北国流で完璧主義なアモルメの監督のこだわりは凄く、マギカ・テラ映画公社も撮影準備段階で音を上げ始めている始末だ。
「いっそお主が監督せんか?」
「いや、俺だとなあなあで妥協するからダメですよ。
ああいう個性や才能とぶつかって、底力って培われて行くもんじゃないですか?」
「厳しいのう」
リック社長は戯言をマキウリア女王陛下と交わしつつも。
「この作品だけ、って言う訳ではないですよね。
映画にしろ、宇宙開発にしろ、機械工業にしろ」
「勿論じゃ。
いつまでもキリエリアだけに、お主らだけにこの世界を引っ張ってもらおうとは思わぬ、思ってもならぬ。
これは妾からの、先行投資じゃ」
建設されて行く本編セット。
未来の住環境を埋め尽くすのは、テレビ画面、いや電子計算機から出力される情報や映像通信器、夥しい電気表示機=ディスプレイ、モニター。
当初キリエリア宇宙公社とレイソン電機が製作した小型テレビモニターを膨大に使用した試作品が設えられたが、監督が
「走査線が写る。
未来に生きるものでなくても、今の私達でも走査線を見る事は出来ないし、何よりどことなく貧乏臭い」
と却下し、結局「宇宙迎撃戦」同様小型スクリーン映像に変更したのだ。
「スゴイ贅沢な話だなあ」
「走査線とは何じゃ?」
リック社長はアナログ電波によるテレビ映像と、将来実現したいと考えている液晶デジタル画面の違いを、物凄くかいつまんで説明した。
「それはいつ商品化するのですか!!」
「試作の予定は?!」
「電球よりはるかに小さい発光体とは?!」
「うわあ」
気付けば学士たちが後ろに群れを成していた。
この熱気を直に感じて、リック社長は嬉しかった。
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その翌日、マギカ・テラ映画公社からリック邸に通知が入った。
「リック・トリック及びトリック特技プロダクション社員の、マギカ・テラ映画公社スタジオへの立ち入りを禁止する」
と。
もし楽しんで頂けたら、またご感想等などお聞かせ頂けたら大変な励みとなりますのでよろしくお願いいたします。
なお、活動報告・近況ノートにてモデルとなった実在の作品についての解説を行っていますので、ご興味をお持ちの方はご参照下さい。




