297.去り行く巨大英雄を称える夜に
テレビ黎明期の黄金時間であったトリアンアワー、安息日の19時から21時。
その輝きは今やキリエリア2の歴史長編とショーウェイテレビのゴーレムアニメに人気が奪われた。
トリアンアワーを長く賑わせたトリック特技プロのスプラシリーズは休前日19時から1時間、子供の夢をギュっと集めた様なヘンシンアワーとなったが、それも紆余曲折の末、2年で終わった。
しかしその最終回は、終わる作品、先の無い作品とはとても思えない情熱が込められた作品だった。
「最終回は確かに終わる物語だ。
気合を入れても意味が無さそうに見える。
だけど、今まで応援してくれたお客さんに対して、物語の結末をしっかり届けるのは作り手の義務なんだ!」
かつて17th世紀シリーズでリック社長が拘った最終回。
「彗星戦士レジオ」もブッタ斬りの話になる所を3話自分で撮ってキチンと完結させた。
今回もキッチリ2作の物語を盛り上げ、終わらせた。
予算もカツカツの中、最後の花火を子供たちに、一緒に見ている親たちに、そしてかつて怪獣少年だった若い社会の担い手たちに向けて出来る限りの派手な花火を打ち上げた。
番組の最後には、最後の撮影の際にアドリブで撮影された子供達の姿と、手を振る英雄達が数十秒流され
「今までの声援ありがとう! 未来は君達の物だ!」
と字幕が流れた。
二作続けての終了、そして来週は普通の大人向けドラマ。またしても子供達は大泣きする事になった。
最終回はマッツォ社長とセシリア社長の発案で、今までのスプラシリーズのキャスト、スタッフを招待しての大宴会を兼ねた同時視聴となった。
後半に特撮班を手伝ってくれたショーウェイ、そして倒産したジャイエンの才能と実力あるスタッフも招かれた。
無論、一時ヨーホー、トリック特技プロ流の特撮を手伝ったマギカ・テラの17th世紀プロの面々も。
招待に応じてくれた人、多忙で来られず丁寧な返答と差し入れを贈ってくれた人、無関心な人、様々だった。
それでもかつての変身英雄の変身前の姿を演じたスターさん達が揃い、かつての隊員服で別れの盃を交わした。
「『スプラ・ファブラ』速報!67%です!」
「「「うおおおー!!!」」」
拍手喝采が起きた。今では殆ど聞くことがなくなった70%超えは必至だ。
「『インヴェンス・ヴィルフェレス』速報!65%、最高試聴率です!」
「「「やったぞー!!!」」」
「「「うおー!!!」」」
ライバルのヨーホーテレビで今では本家ペルソネクエスでも難しい60%超えを果たし、トレート部長、インス監督達が声を上げた。
「いやー!ウチの若手を…いやもう若くないですけど世話して貰って、感謝します!」
何とショーウェイの社長まで参加してくれた。
相変わらず鶏を〆た様な甲高い声で。
本来ならヨーホー映画も役員一同で迎えるべきなのだが、ヨーホー側は現場と古参役員が少々程度、寂しいものだった。
しかし、リック社長が来る以前からいる古参役員はライバル社の人々に深く頭を下げた。
「失礼ながら新参の御社に敵対する様な目を向けていた事もありましたが、今こうして助けて頂いているのが不思議であり、何より嬉しく思います」
参加してくれた役員達は丁寧に接している。
放送が終わった後は、楽団が変身英雄の主題歌を演奏し、あの頭モジャモジャな歌手が半分酔っ払いながらもメドレー形式で歌っている。
かつて自分が出演した作品の主題歌になると、出演者や脚本家が壇上に上がって、手をつないで一同に礼を捧げ、拍手を浴びる。
そんなやり取りが20作品以上続き、演奏がアスペル師による「スプラ・ファブラ」の終曲になり、リック社長が壇上に引きずり上げられる。
「俺よりセシリア社長が!」
「この時間帯を引っ張って来たのはあなたですよ!覚悟を決めなさい!」
そう言われてはと、散々断って来た締めの言葉を言わされた。
「えー。
安息日と休前日で11年何とかやって来た楽しい時間も一区切りです。
また近いうちに帰って来ますんで…」
「「「うおー!!!」」」
拍手と歓声が沸き起こった。
「え?」
「帰ってこいー!」「絶対だぞー!」「嘘ついたら許さねえぞー!」
涙混じりに叫ぶ声。
「何だよ!当たり前みたいに言うなよー!」
「だったら続けて下さいよー!」
叫んでいるのはショーキさんとマッツォ社長か。
「まあまあ。
特撮はこれから大きく変わります。
より金がかかるか、撮り方やり方次第で何とか今の規模で続けられるか。
でも俺は!もっと特撮を続けますよ!」
「「「うおー!!!」」」
更に声が上がった。
(なので「1799:太陽の外側へ」へのご支援をお願いします…って言えないよね)
瞬時に判断したリック社長。
「皆さんも、特撮の、いや、映画の無限の可能性を信じて下さい!
新しい作品を子供達、いや、若者も老人も夢中にする作品を、特撮でも本編でも撮り続けましょう!」
「「「おー!!!」」」「「「よく言ったー!!!」」」
そしてリック社長はセシリア社長、マッツォ社長、ショーウェイのマグナ・フルメ社長、トレート部長、インス監督、元ジャイエンのアッカリダ監督を壇上に呼んで握手を交わし、出席者に頭を下げた。
かつてライバルだった各社の人々が壇上で笑顔を交わし合っている。
変身英雄の、壮大な一つの物語が終わりを告げた…
かの様に見えた。
ヨーホー映画本社のある中央劇場の外に出れば、そこには物凄い人だかりが!
「ありがとうー!」
「スプラルジェントー!ありがとうー!さようならー!」
「凄かったー!」
貴族が、平民が、大商会の社長たちが。
子供も大人も、待っていた。
多くの人が涙を浮かべて感極まっていた。
どうやらこの最終回同時視聴宴会の話が知られていたらしい。
(これは…せめて後半年頑張るべきだったんだろうか)
リック社長は後悔した、一瞬。
(いや。次の世界に入らないと。ここに来てくれた人達にもっと凄い体験をして貰うために!)
一瞬で後悔を断ち切った。
そして目の前の人々をどうするか…
「リックさん!皆さんをホールに入れられませんか?!」
先ず声を上げたのはトレート部長だった。
「こんな夜中まで俺たちを待ってくれたんです!
お客さんあっての俺たちです!
何よりもお客さん達にお礼を言わなきゃ!」
「あ…」
時間は21時半。放送終了から1時間半。
本社の外にこんなに応援してくれるファンがいるのなら、もっと早く歓迎しなければいけなかった。
トレート部長の言葉に己の未熟を悔いたリック社長だった。
「マッツォ社長、ホールを我が社で借ります!飲食物も全て我が社が支払います。
この皆さんを、大事なお客さんをホールへ案内する様劇場に手配願えませんか?」
「しかし、突然そう言われても…」
「やりますわよマッツォさん。私達も手伝いましょう!」
反応の鈍いマッツォ社長より先にセシリア社長が動いた。
「お集まり頂きましたファンの皆様、本日は遅くまでご声援を頂きましてありがとうございました。
ご愛顧にお答えしまして、ささやかながら1時間程、劇場ホールにてお礼を申し上げ糖存じます。
お時間の許す限り、どうかホールにてお体を温めて、暫しご歓談をお楽しみ下さい」
アイラ夫人がすでに放送用の拡声器に向かい、ファンをホールへ案内した。
「ありがとうございます!どうぞこちらへ!」
英雄チームも誘導し、セワーシャ夫人とミーヒャー夫人が飲み物を手配した。
突発的な、ファン主体の変身ヒーローお別れ会が開かれた。
帰路につかんとしていた主演達に急遽手当が配られ、隊員服でファンたちに挨拶する場が設けられた。
中には手当を断り嬉々として隊員に戻る俳優もいた。
「こういう事にはお金を惜しみませんのね?」
「いや、まだまだだよ。
トレートさんの方が先に動いた。
お客さんが第一だっていう意識は、俺たち、ヨーホーよりショーウェイの方がずっと上だ。
そもそも本社前にファンが集まり始めた時点で手を打ててないのがヨーホーの駄目なところだよ」
集まったファンの中には、内乱鎮圧で活躍した子爵家、男爵家もいた。
最初の特撮映画、「キリエリア沖海戦」からフィルムを買い集めている収集家の伯爵家もいた。
しかし誰も貴族位を振りかざすことなく、驚きの映像を楽しみ愛する人として本社の外で待っていてくれたのだ。
「出来る事に限りはあるけど、俺はまだまだだ」
もしもの時のためにと持って来た最後の撮影風景を編集し、アスペル師の音楽を重ねたフィルムを上映し、ファンへの暫しの別れのサービスとして、この突発的な宴は日付の変わらない内に終わった。
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この宴、ちょっとした出費となったがトリック特技プロは
「屁とも思いませんわ」
とミーヒャー夫人が事も無げに処理した。
「それよりも、やっぱりトレートさんは素敵な方ですね」
「ああ。俺なんか周りが見えない、ただの特撮バカだ。
全く恥ずかしいよ。
お客さん第一の姿勢は、もっともっと見習わなけりゃ」
同じころ、ヨーホーでも社長会で本件が緊急会議に懸けられた。
「ファンサービスと言っても過剰なサービスを…」
と新参の声が出かけ、マッツォ社長の空気が変わった瞬間。
「この事態を予測しなかった、いえ、本社周辺にファンの皆様が集まっていたことを我々に知らせなかった本社事業部の落ち度です」
古参の誠実な役員が言葉を遮った。
マッツォ社長は落ち着いて、ゆっくり語った。
「我が社は、古来の劇場、興行主との癒着を断つ経営を目指して来た。
それ故協力者への過剰な援助や利益供与を厳に禁じて来た。
しかし昨晩は全く別の問題だ!
今まで我々の、リック社長の作品とは言え我々が深くかかわって雇用も世話して貰った作品を愛してくれ、一言も何も要求する事の無かった人達への接し方なのだ!」
最後の方は流石に熱を帯びていた。
その言葉を受け継ぐ様にセシリア社長が意見した。
「それだけではありません。
あの場には、ライバルであり共に宴席を囲む事も無かったショーウェイ、ジャエンの方々もいたのです。
外の様子がもっと早く知らされていれば、皆さんの振舞も、ファンの方々への感謝の表し方も変わっていたでしょうね?」
「返す言葉もございません」
「しかし今回に味を占めて何かある度本社前に集まるファンが増えたりしませんかね?」
「リック社長からの提案ですが、ファンの団体に意見を聞き、事前にファンの皆様に対する感謝イベントを立ち上げてはどうか、と」
「「「ほお~!!」」」
転んでもタダでは起きないリック社長であった。
内乱鎮圧を率いた若手貴族と言い、セシリア社長の地方療養用の劇場と言い。
リック社長がファンサービスとして発案した企画は、色々後々世の中を僅かづつ動かすのだった。
もし楽しんで頂けたら、またご感想等などお聞かせ頂けたら大変な励みとなりますのでよろしくお願いいたします。
なお、活動報告・近況ノートにてモデルとなった実在の作品についての解説を行っていますので、ご興味をお持ちの方はご参照下さい。




