296.巨大特撮、去り行く姿
数多くの変身英雄モノは、相変わらずテレビの平日から安息日の19時台を賑わせていた。
5人エクエスで人気絶頂のペルソネクエスシリーズも5年目。
毎年劇場映画もアニメ映画の併営で人気を博していた。
アニメも変身英雄、しかし大人ではなく宇宙から来た少年が地球人となって、いざ敵の攻撃を前にすると変身する、スプラルジェント的な作品が多かった。
しかし昨年から変化があった。
それが変わったのは、「マキナゴドラン」でフルクトゥ・フォルティナ氏が「SF」を唱え出してからだ。
同じマンガ仲間が「マキナデウサーΩ」というゴーレムマンガを発案したところ、リック社長がトレート氏に、トレート氏からアニメ部に展開して、マンガと同時進行でアニメ化し、これが安息日の夜に大ヒットしたのだ。
作者氏曰く
「自動車が高くて買えないけど、巨大な鉄の足を安く売ってくれれば自動車並みに早く走って原稿届けに行けるのに」
と思ったそうだ。
この「マキナデウサーΩ」、安息日の19時に子供向け番組がなくなった隙間にショーウェイテレビが入り込んで、瞬く間にでペルソネクエスと並ぶ人気作品に成長した。
そして何よりアニメは特撮より安い。
「ちゃんと動画技師さんの給料と労働条件、守ってね!」
リック社長とアラク技師の約束は守られている。
安息日19時に、近未来戦記1時間枠を企画していたマッツォ氏は無念がった。
「何で特撮企画にしなかったんですか!」
「だってウチはテレビ撤退するしアニメはヨーホー映画の埒外でしょ?」
そう言われるとグーの音も出なかった。
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一方でファッションアニメの大失敗で、少女向けジャンルは売れないと言われ始めた。
この考え方にトリック玩具出版部は反論した。
「女の子も活躍したい!」
原作者にとって無念に終わった例のアニメ、いっそ実写化してはどうかとリック社長は原作者嬢を励まし、ヨーホーテレビに勧めるも、一度失敗した企画に再挑戦する事は無かった。
これに目を付けたトレート氏はヨーホーテレビに断った上で実写化し、また別の作者による変身少女アニメまで企画した。
これまた人気を集めた。
両方とも成功し、平日夜に視聴率は40%、競合時間帯で一番の視聴率を稼ぐまでに成長した。
主人公のファッションも倒産した映画会社の衣装職人を呼んで、自由奔放なデザインの服をテレビに披露し、少女達を虜にした。
職人は職人を呼び、ファッションショーの明暗や幻想的な背景を演出出来るスタッフがショーウェイに呼ばれ、後々ショーウェイや倒産したジャイエン系で活躍する事となった。
ヨーホーテレビ製作、ショーウェイ協力製作の「インヴェンス・ヴィルフェレス(巨大鉄人)」も奮闘した。
原案はマンガ家のペトロ氏とクレジットしつつも、台本はリック社長、本編はテンさんが監督を務めた。
特撮スタジオは大プールとトリック特技プロのものを予約システム上の隙を見て使い、インスさん独特のアップショット、オープン撮影、手前のカメラギリギリと背景にしかミニチュアを置かないリーズナブルなセット設計等々、予算に収まる範囲で最高の効果を上げた。
本編は、政治を電子計算機に任せた結果、計算機が
「人間を存続させると地球が死滅する。人類を排除、根絶する」
と攻撃を始める衝撃のドラマとなった。
スプラシリーズと違う、未来軍ではなく現用兵器を過去のフィルムから使ったヤケにリアルな軍隊シーン。
敵ゴーレムによって両親と姉を結婚式直前に殺された孤独な少年と、彼と出会い心を通わせる事を選んだインヴェンス・ヴィルフェレスの友情。
更には敵計算機が犯罪者を集め編成した殺戮軍と、優秀な生え抜きの軍人との頭脳戦。
これらが1話完結で入り乱れ、番組終盤の鋼鉄の巨人同士の決闘を盛り上げる。
特に軍隊描写や政治、学士の会議等はテンさんならではの重厚な演出で
「これはショーウェイじゃ出来ないなあ」
とインス監督が舌を巻くほどだった。
10%にまで落ちた休前日19時半の視聴率が50%に戻った。
「これがヨーホーか、リックさんの作品だったら!」
マッツォ社長は悔しがった。
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色々好調なトリック玩具。
ショーウェイからこのインヴェンス・ヴィルフェレス、そして大人気作マキナデウサーΩの玩具化が熱望された。
実写のインヴェンス・ヴィルフェレスは兎に角、マキナデウサーΩはアニメであって、「中に入る」人間のプロポーションを無視している。
人気の「変身マキノイド1」では再現が難しい。
何とか頑張ったが、足を長く、二の腕と腿を銀色の薄い別素材にする必要があったため、明らかに他のヒーローより背が高くなった。
それでも人気だったが、安定感は無かった。
もっと別の商品展開は出来ないか。
しかし、ゴーレムは色々尖っている。樹脂だと折れるし、子供を傷つける。
「子供を怪我させたらトリック玩具はオシマイだよ」
かといって軟質な素材では劣化の問題がある。塗装も剥がれ易い。
子供に買ってあげられる程度の価格。
かつ、耐久性や安全性を考慮し、かなりの耐久性を誇る玩具。
なにより強くカッコイイ「インヴェンス・ヴィルフェレス」や「マキナデウサーΩ」の魅力を子供達に楽しんでもらう玩具。
「出来るかなあ?」
とリック社長が試したのは、金属の鋳物。
尖がった部品はゴム素材や軟質樹脂素材で塗装ではなく成形色。
しかし本体は金属製で塗装も金属用の頑丈なもの、更に銀色部分は無塗装で金属感を主張させた、豪華な感じを感じさせるものだ。
かつて自らが立ち上げたレイソン工業に相談し、金型製作や鋳造を安価で引き受けて貰えた。
こうして金属鋳物のゴーレム人形が開発された。
ショーウェイで最初にこれを採用した事に敬意を表し、「マキナデウサーΩ」の劇中で未来の超硬質金属と設定された「超鋼鉄」と名付けられた金属人形。
マキナデウサーΩも、インヴィンス・ヴィルフェレスも売れた。バカ売れした。
変身ベルトや変身マキノイド1に続く人気商品となった。
マキナデウサーは腕がロケットとなって発射するロケットパンチが、インヴィンス・ヴィルフェレスは変形して飛行機っぽくなるのが子供の心を掴んだ。
13回こっきりの穴埋め企画だった「インヴィンス・ヴィルフェレス」は、気付けば「スプラ・ファブラ」と並び60%台を記録し続ける人気番組に成長していた。
「延長、出来ませんかね?」
「ショーウェイ組はやるでしょう。でもウチのスプラは終わります」
「折角往年の視聴率まで盛り返せてるんだ、スプラシリーズも」
「俺たちはマギカ・テラへ行きますよ」
リック社長はスプラシリーズの原案や台本、特美を指示しつつ、フラフラっとマギカ・テラへ足を運んでいた。
企画進行中の超大作「1799:太陽の外側へ」の進捗をキッチリ確認していたのだ。
「ああ…いよいよそっちに行くんですか」
マッツォ社長はまたしても悔しがった。
「物好き女王様の採算度外視ってフツーじゃあり得ない企画ですからねー」
「ウチでは、いやキリエリアではできない物だろうか?」
今更ながらにマッツォ社長は聞いた。
出来なくはない、10億位ひねり出せるだろうとは思って聞いたが。
「いやいや、今までの特撮映画だって正直フツーだったら通らない企画ですよ。
セシリア社長や、新しい映画を求めていた人々がいたから出来たんです。
今は、どうでしょうね」
実力ではなく、今ここにいる人々の思いが20年前より衰えてしまっている。
リック社長は言外にそう宣言しているのだ、マッツォ社長はそう思った。
まあ、この映画が成功したら、『映画の歴史が変わる』って妻が言ってましたけど」
「映画の歴史が、変わる…」
その当事者となる機会を逃したことを、重ね重ね悔やむマッツォ社長だった。
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既にヘンシンアワー2作は最終回を撮影していた。
「スプラ・ファブラ」では過去主役を張った6人のスプラルジェントとセンティアの7人が惑星破壊ロケット基地で宇宙怪獣軍団と大乱闘。
流石にスタジオでは収まりきらないので大プールでの撮影となった。
数日に及ぶ撮影の向う側で、住民サービスのため設けられた見学席は連日子供達が押し寄せて、スタートの掛け声と共に元気な声援が付近一帯に響いた。
それこそ爆発音すらかき消さんばかりに。
遂に連続爆発を起こすロケット基地。
侵略軍団は宇宙船で逃亡を図るが、スプラルジェント以外の宇宙警備隊に阻まれ、大地に叩きつけられ大爆発!
20人近い巨大英雄が揃う。
ヌイグルミ俳優だけでは間に合わず、アックス氏とデシアス監督が騎士団に希望者を募って集めた。
「テメェら!特美倉庫から出たら子供達が見てるぞ!
英雄として振舞え!ボサっと立ってんじゃないぞ!
手足をダラけさせんじゃねえ!御前試合だと思え!
いや!地球を守るつもりで振舞え!」
中々に厳しい条件だが、それでも希望者は集まった。
特に子供を持つ騎士が熱望したため、優先的に採用した。
子供達が巨大変身英雄の勢ぞろいを前に、声が枯れるまで声援を送る。
「俺さあ。怪獣じゃなくてスプラルジェントやりたいかも」
アックスが悔しそうに言うのをリック社長が宥める。
「40を超えたら人生迷わない迷わない!」
「でもあの声援は、羨ましいぜ」
撮影が終わって尚続く声援に、巨大英雄達は手を振って応える。
「ハイヨーイ!スタート!スプラルジェント、ポーズ!」
デシアス監督がアドリブで号令をかける。
例によっていつのまにかポリちゃん監督がカメラを乗っ取って煽りで撮影している。
クレーンからは声援を送る子供達と変身英雄達を俯瞰で撮影している。
製作順に次々とポーズを決めて、特美倉庫へと走り去っていく変身英雄達。
いつもと違って撮影の合間も気を抜けず、ヘロヘロになったヌイグルミ俳優達をセワーシャ夫人が涼ませ、栄養ドリンクを振舞う。
そんな舞台裏は兎に角。
エキスペクラリが、スプラルジェント二世が。
ルキスマキナAが、途中で地球の地底から宇宙へ飛び立った(という筋立てにした)ヴェラトラヴィが、去っていく。
必死に声を上げ、夢中で手を振る子供達。
(あの子達は、当面はこれが最後だって解ってるのかなあ)
とうとう最後の巨大英雄、センティアが去った。
10年に亘るスプラルジェントの、トリック特技プロの歴史の区切りに相応しい撮影風景だった。
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スタジオ内では、地球と人類の未来を懸けてインヴィンス・ヴィルフェレスとその生みの親である巨大電子計算機が激しいロケット弾の攻防を続け、インヴィンス・ヴィルフェレスは巨大電子計算機との接続を試みる。
全身を次々と爆破されながら、友人である少年に自らの頭脳と記憶を託し、巨大計算機の端末に接続、自らの計算結果を産みの親に伝える。
新たに入力されたデータをもとに検証作業に入り、攻撃を停止する巨大計算機。
「検証結果、人類の可能性、判定不能。
人類抹殺計画、停止。
全ての検証結果を算出後、人類に提出する。
次の入力を、待つ…」
巨大計算機は停止した。
そして手足を失いつつ、全身から炎を噴き上げつつインヴィンス・ヴィルフェレスは巨大計算機の再度の攻撃を防ぐため、ジェット噴射で巨大計算機に突撃した。
インヴィンス・ヴィルフェレスと共に戦った少年の、頭脳連携ヘルメットに
「さようなら友よ。君と人類の未来を信じる」
と声が聞こえ、大きな友達は巨大計算機に激突して爆発四散した。
こうして、二つの短い物語は幕を閉じた。
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「終わっちゃったねえ…終わっちゃったねえ!」
巨大英雄達が去り、興奮を胸に帰っていく子供達を前に、リック社長は男泣きしていた。
「本当にさ、これで、お終いなの?かなあ~?」
アイディー夫人も半泣きで聞いてくる。
「リックさんはもっと特撮がやりたいんでしょう?
終わらせるつもりなんかないんじゃないですか?」
アイラ夫人は意外とケロっという。
「今見てくれている子供達が、今まで見てくれた大人達が、また新しいゴドランやスプラルジェントを見たい!って言ってくれた時!
俺はやるよ!」
「いや今でも次やってくれって言われてるじゃないか!」
「主の事だ。次の事も考えているのであろう」
「でも旦那様!我が社の社員の給料が!」
「それも考えてあるよ」
「はあ。あの女王陛下のトコいくのね?
温泉はステキだけど、あそこ寒いのよねー」
「俺たちの特撮は!まだ!
ちょっとだけ続くんじゃよ?」
「「「何それ???」」」
異世界の流行語をちょっと行ってみたけど空振りしたリック社長であった。
もし楽しんで頂けたら、またご感想等などお聞かせ頂けたら大変な励みとなりますのでよろしくお願いいたします。
なお、活動報告・近況ノートにてモデルとなった実在の作品についての解説を行っていますので、ご興味をお持ちの方はご参照下さい。




