295.宇宙の戦記と鋼鉄の戦記
「スプラグラディエ」終盤の構想が決まり、それに伴い次回作も手直しして撮影に入った。
今トリック特技プロはキリエリアやゴルゴード各地のヨーホー系大商店でスプラルジェントショーを定期的に開催している。
時には商売敵のショーウェイ大商会とも、新大商店が完成し同居が決まった際などにはペルソネクエスとの共同ショーまでも行っている。
テレビで一緒になる事が無いスプラルジェントとペルソネクエス、更にゴドランの共演は子供にとってそれこそ鼻血モノであった。
そのため、過去のスプラルジェント達のヌイグルミは多くのストックが出来ている。
なにせゴム製なので、劣化は起きる。特に人間の体で最も伸縮の激しい膝、肘。
バキバキにひび割れる。
リック社長は劣化スーツの新調費用を両商会に請求しつつ、何とか被膜を塗ったり切って貼り繋いだりと、涙ぐましい努力をしつつ使用可能なスーツの数を稼いでいた。
「社長、っていいますかリックさん。
何そんな涙ぐましい事をあなた本人がやってんですか?
そんな時間あったらですね…」
「このスーツはね。
子供達の声援を受けた、本当の、本物のスプラステラなんだよ。
トレスヒーローなんだよ。ゴドランなんだよ。
いつかまたテレビで、大商会で活躍するんだ。
もしかしたら敵に、ヨーホーの英雄に改造されるかもしれない。
せめてもっと活躍して貰うために、出来れば博物館で展示する時のためにも、ちゃんとした姿で子供達に会える様、直したいんだよ」
声をかけたミーヒャー夫人は
(効率とか、言葉だけじゃない。
何かを大事に思い続ける気持ちがこの人にあるんだ。
私の旦那様は、この人の心を。
『主君』と思ったんだわ)
そう思うと、何も言えなかった、いや。
「アイラ様が怒る前に休んで下さいね」
とだけ笑顔混じりに言った。
こんなリック社長の努力のお陰か、結構な予算とヌイグルミが次回作のために蓄積されて行った。
(何十億って資産がトリック特技プロだけでもあるのに。
一体リックさん本人には王国予算の何年分が蓄積されているのやら)
王国予算の数年分程度、例えば数千億程度であれば王国から監察官が来る筈なのは、貴族出身のミーヒャー夫人は知っている。
それとなく聞いてみたら
「国が10回傾いても何とか支援できる位かな?
でも全部債権とか特許料とかに過ぎないから、世界のみんなが潰れちゃったらスッテンテンだけどね」
などと恐ろしい事を言っていた。
(思わず粗相しそうになりましたわー!!)
何故そんな人がスプラルジェントの膝や肘の修理をしたり、マキナゴドランを自分で作ったりしているのか。
(好きだからとしか言えませんわねー!!)
何かを悟った様なミーヒャー夫人だった。
そして覚悟を新たにした。
「だからといって放漫経営を許してはいけません!
社長自ら予算捻出に尽力しているのです!
私も浪費や不正、隠蔽が無いか厳しく見て、質を維持しつつ節約のためにどうするか考えなければ!」
「浪費や隠蔽は数千億デナリなんかあっという間に食い尽くすからねー」
「ひぇえええ!」
何故か修理したエキスペクラリを手にしたリック社長がいたりする、微笑ましいトリック特技プロの日常であった。
「主よ!我が妻をあまり驚かせないで頂きたい!」
「あー、ごめんね。あまりにも素敵な意見が聞えたから。
金は無駄遣いすればどんな人気作品を送った商会も1年で破綻するからね」
「そんなバカでかい話を見て来た様に…」
「見て来たわけじゃないけど、まあ知ってるからさ」
「もっと恐ろしいですわー!!」
「こら!リックさん!ミー様を驚かせちゃいけません!」
「またアイラに怒られたー」
微笑ましいトリック特技プロの日常であった。
******
大帝国も制しそうなリック社長も頭が上がらないアイラ夫人の励ましで「スプラグラディエ」最終クールは健闘した。
「彗星戦士レジオ」の最終回3部作の健闘もあった。
両作の最終回、同時視聴会の出席者はトリック特技プロこそ多かったが、もっと多く出席する筈のヨーホー映画側はまばらだった。
トリアン薬品の宣伝部すらも顔を出していない。
それでもマッツォ、セシリア両社長、そして特技部にテンさん、ジュンさんは来てくれた。
「63%です!」
「「「おー!」」」速報に拍手が起きた。
その拍手がヨーホー映像にとっては次に続くものではない、ましてやリック社長が一人で何とかした結果に過ぎない、自分達の明日に繋がるものではないとみんなが知っていた。
それでも拍手し歓声が起きた。
それは純粋にリック社長への感謝の拍手と歓声だった。
******
翌週、同じ様に同時視聴が行われた。
リック社長がスプラシリーズ最終作として企画した、低予算作品「スプラ・ファブラ(超物語)」だ。
地球防衛軍VDIの銀河探索隊XG、その宇宙船ステラルゴ号。
その巨大な機送艦は、色々と好調なトリック玩具の協力を得て精巧なミニチュアが巨大感たっぷりに撮影された。
とても低予算とは思えない堂々とした未来兵器の姿だった。
その向かう先は、文明があると目された惑星、だが、死滅寸前だった。
XGのメンバーは絶望の淵の中戦いを鼓舞する男を見る。
「あなたはプロセラ隊員!」
過去に何回か客演して貰ったプロセラ隊員はじめ多くのスプラルジェントを演じた俳優が登場するのが本作の見所でもあった。
過去スプラルジェント達を苦しめた怪獣たちが廃墟と化した都市を破壊する。
「私と共に戦った地球の若者は最後まであきらめなかった。
君達も故郷を守るため、侵略者に愛する人々を無残に殺させないために、戦え!」
変身するスプラルジェント、対峙する3大怪獣を次々葬る。
更に現れる怪獣。
スプラルジェントは力が尽きかけ、倒れた。
「戦え!俺達も一緒に戦う!」
XG隊員が鼓舞し、停止した発電装置を起動し、反撃した。
ステラルゴ号からも艦載機コメータ、変形戦車ステラサウリアが出撃、攻撃する。
そこにセンティア、スプラセプトも駆け付け、三大スプラルジェントが怪獣軍団を抹殺した!
逃げ去る侵略者の宇宙船をも
「お父さんの仇!」
「お母さんの仇!」
「出ていけ!この星から出ていけ!」
住民達が撃った光線砲で粉砕した。
戦いが終わってプロセラ隊員、いやスプラルジェントは
「今この銀河は侵略者が無数の平和な星を我がものとするため戦争を仕掛けている。
もし君達が宇宙の果てまで旅をしたいのなら、君達の友たる人々を救ってほしい」
そう言うや、センティア、スプラセプトと共に宇宙へと去った。
「62%です!」
「「「おおー!!!」」」
裏番組も色々と支持層を得ているため、どの作品でもかつての様な70%超えは中々厳しくなっている。
続いて19時半から放送された少女向け「ヘンシン」、つまりファッションで変身するアニメだが、一回目は田舎から王都に来た娘がパン屋の頑固親父に洒落た御菓子を作る様に勧め、傾きかけた店を立て直す話だった。
絵が酷かった。
「話は面白いんだけどなあー」「ええ、でも絵が」「絵がねえ~」
結局速報は出ず、後日10%台という悲惨な数字が伝えられた。
それが原因かは知らないが、製作者が内紛を起こし、13話で打ち切るという連絡が入った。
「いや、これ慣れるとクセになるか…慣れないかぁ」
「パパ、これ怖いー」
ブロムちゃんがテレビから逃げる。
「頑張ってるんだけどなあ」
「でもこれマンガ描いてる方も相当不満でしょう?」
原作の漫画の主人公は愛らしく、ファッションも素晴らしい。
だがアニメはそのレベルまで全く届いていない。
時々、剣戟歴史劇みたいな止め画になって、正直怖い。
「これは切られるねえ。でも後2ケ月だよ。後番組どうすんだろね」
「あなた、お客さんです」
「留守って言って」
「トレートさんですよ?」
「え?」
******
「すみません!安息日の夜に!」
「もしかして俺があのアニメ見てると思って?」
「はい!居ても立ってもいられずに!」
「…インスさんですか」
ヨーホーに属していたリック社長から見たらライバル会社であるショーウェイ。
今でも大予算、大特撮のスプラシリーズと同等の人気を誇る低予算、無特撮のペルソネクエスシリーズの発起人であるトレート部長。
いくら番組が人気が出ても、相変わらず部長のままである。
「イヤだねえ、会社って」
「いやいや、ヨーホー30周年の立役者じゃないですか」
「いいえ。俺は策を考え、みんなが実行してこの数年持ちこたえたんです」
そうは言う物の、やはりリック社長あっての30周年だという事は業界には知れ渡っている。
「リックさん。いっそウチに…」
「そっちには行きませんよー。予算が少なすぎ」
非情なリック社長であった。
「あ…ああ!申し訳ありません!!」
「いやいや、あなたが謝る話じゃないでしょう?
でも映画から予算を削ったら裸踊りしか撮れないんですよ」
今、かつての大映画商会の一部が、女優の裸を映画にして場末の劇場で糊口を凌いでいる。
それは兎に角、トレート氏が本題を切り出した。
「もし、ヨーホーテレビの休前日の夜に空きが出来てしまっているなら、我が社でお世話になっている奴を使って貰えませんか?」
「え?あのアニメの後番組、ですか?」
「はい!お世話になってるインス君から聞きまして!」
リック社長は暫く考えて答えた。
「解りました。
でも俺の会社じゃなくて、いっそショーウェイの名前を前に出してやりましょうよ!」
******
翌日、マッツォ社長を招いてインスさんに聞くには
「いや、俺の企画じゃなくて、トレートさんが助言してくれたんですよ」
「やっぱりねー」
「わかってたんだ!」
「そりゃもう」
曰く、ペルソネクエスやメカニコス、アニメのマキナビオルグ007の原作者氏が
「電子計算機の性能が発達したら人間を排除する事もあるんじゃないか?」
と考えたそうだ。
それを聞いたトレート部長が原作者氏と話し、考えたのが。
諸国条約が進化した世界政府。
その行政を行う巨大電子計算機が
「このまま人間が増え発展すると地球は死の星になる」
と判断し、人類抹殺ゴーレムを製造する。
しかし自分の分身として作った最高級のゴーレムが
「地球の発展を、失敗を繰り返しながら統制出来るのは、失敗の痛みが解る人間だけだ」
と判断して反旗を翻す、という物語だ。
「おっしゃあーー!!それ決定!!13話ブチ込む!スタジオと特美は何とかする!」
「「えー??」」
「時間ないよ!早速動こう!」
「ありがとうリックさん!
やるぞ!みんなトットと動け!」
「「「はい!!」」」
しかし後に残ったマッツォ社長は。
猛烈な勢いで出て行った一同を眺めつつ、無念に思っていた。
(あのショーウェイの様な情熱がヨーホー特技部に、いやヨーホーテレビにあれば、「彗星戦士レジオ」はもっと続いたのでは?
その熱意が視聴率に反映されていれば、休前日の夜、ヘンシンアワーはもっと続いたのでは?)
もし楽しんで頂けたら、またご感想等などお聞かせ頂けたら大変な励みとなりますのでよろしくお願いいたします。
なお、活動報告・近況ノートにてモデルとなった実在の作品についての解説を行っていますので、ご興味をお持ちの方はご参照下さい。




