294.異世界原作との決別
いよいよゴドラン誕生20周年記念作品、「マキナゴドランの復讐」が公開された。
例によって劇場は賑わい、子供達が集まり、色々な商品が売れていった。
しかし期待と言う物は一度高まると、それを下回れば「減った」と感じるものである。
映画の魅力が嘗て程の輝きを失い、それでもなお特撮映画はその魅力を守り続けたが、興行成績は8億。製作費の10倍は稼いだ。
ヨーホー映画グループはこれを「失敗作」と判定した。
「制作費の十倍稼いで失敗扱いされたら、そんな外道な仕事、誰もやりたくないよね」
「他に仕事の口があればだよ。
リッちゃんとこにサッサと付いてったデっちゃんが羨ましいねえ」
リック社長邸で、愚痴りに来たショーキ監督。
「リッちゃん家の酒は美味いねえ~!」
「飲みつくさないでよね!」
兎に角酒好きな監督である。
「もしかしたら、子供達の心の真ん中には、ゴドランはもういないのかなあ」
「信じたくねえけどさ。
『レジオ』、あれ上手くいかなかったのは、ホントにその所為なのかなあ」
「子供は新しいもの好きですからね」
ポリさんもいる。
「でもさ、特技部の仕事は続けなきゃ。
特技部だけじゃなくて、この白亜の殿堂の仲間の仕事は守らなきゃ」
「そんな事考えてくれてんのはさ、リッちゃんとおっ母さんと、総社長くらいかなあ」
おっ母さんとは言うまでもなくセシリア社長。
侯爵夫人に対しては随分な言い方だが、映画業界が厳しく倒産し失業する人、それも数多くの優れた技を持っている人達が商会の下働きや掃除夫に身を費やす中。
ヨーホー映画が雇用を守れているのは、ショーキさんが言うこの三人のお陰、そして古参の役員達のお陰だった。
「近未来戦記の方。あれ頑張ってよ」
「百万で十億の画を撮れって話だけどさ」
「大プールがあれば、何とかオープンでやれるさ」
「最近じゃ騒音がうるせえって声も上がっててなあ」
「そんなヤツ追い出せって!
赤ちゃんの為、てってんだったら防音の託児所建ててやるよ」
なお後日、ホントに建てた。
凄く居心地の良い託児所だった。
「検討用台本読んだけど、良く出来てるよ。
ただ、後半どこまでお客さんが見てくれるかだよね」
「なあリッちゃん。
敵国全部燃やしちまう気違いみたいな国なんて、本当にあんのかね?」
「古代の帝国なんて、女子供問わず種族根絶やしなんて当たり前でしょ?」
「これからの未来の話だぜ?」
「人間の血なんてモノはそうそう変わるもんじゃないよ」
「人間ってもんはそんなに!
いや…ケダモノになるもんだったねえ。
イヤだねえ」
ショーキさんも「魔王軍討伐戦」を知らない世代じゃない。
「特撮の見せ場ではあるけどね!」
ポリさんだけはやる気満々であった。
ヨーホー映像特技部は「未来戦記1時間番組」と「パニック・スペクタクル第三段」の二作に絞る事となった。
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半年前。
「スプラグラディエ」後半作成中から、トリック特技プロは、次回作の構想に取り掛かっていた。
この地球が属する銀河系、渦巻き状に無数の太陽と地球の様な惑星が集まる小宇宙を舞台に、スプラルジェントたちが戦う壮大な物語。
「スプラ・ファブラ(超物語)」の製作に入っていた。
「スプラグラディエ」や過去作で、過去のスプラルジェント達の登場回の人気が高いため、
「当分はウチから子供達への一区切りの贈り物だ。
毎回続々過去のスプラルジェント達が入れ替わりに登場して、侵略する事しかできない凶悪侵略星人どもをブっ倒す!」
舞台は地球から宇宙へ。
VDI(地球防衛軍)の宇宙探索隊XG(Explorator Galaxiae」、宇宙探索機送艦ステラアルゴが宇宙文明を探る。
その先々で滅ぼされそうな星々を彼らが、そして過去のスプラルジェント達が励まして、侵略星人軍団を撃退していく。
リック社長が、いや彼が愛した異世界の物語のメッセージを具現化した物語となった。
もう撤退を覚悟しているリック社長に何か意見出来る人など、ヨーホーにもトリアン薬品にもいなかった。
彼らの願いは
「本作が上手く行って延長して視聴率を守ってくれ!」
この一点だけだった。
そもそもその時点で噛み合ってないのだが、それはもっと後に最悪の形で明らかになる。
尚、この作品はトリック特技プロ作品なので、ヨーホー特技部班はヨーホー映像へ帰る事になる。
リック社長曰く
「ヨーホー映像はやっぱりテレビを、しかも子供向けテレビ映画を軽く見てる。
それが『レジオ』の失敗の根本的な原因だったのかも知れない」
と考えていて、もしヨーホー特技部が仕事に困るのであれば、自社の子供が主体の変身英雄モノでなく、人手不足が予想される「1799」へ推薦するつもりだった。
しかし。
「もうちょっとテレビで頑張りたい」
ポリちゃんはテレビの変身英雄への再チャレンジを訴えた。
「今更そう言われましても」
苦い顔でミーヒャー夫人が反論しようとするが。
「ミー。
俺達の古巣の仲間なんだ。
主も考え無しに引き受けた訳じゃないだろう?」
「ありがとうデシアス。
ミーヒャーさんにも余計な心配をかけたね。
26話を折半して担当する。
早く撮り上げてみんなで『1799』に参加しよう」
「はあ~。マギカ・テラ頼みですねえ。大丈夫なんでしょうか?」
「大丈夫だよ~」
ミーヒャー夫人の懸念にアイディー夫人が満足気に応えた。
「下手すりゃ…じゃなかったね、上手く言ったらさ、映画の歴史が変わるよ~」
「大魔導士様がそこまで仰るなら…
いやいや!映画というのは魅力一杯!
危険も一杯!」
期待に瞳を輝かせつつも警戒を怠らないミーヒャー夫人。
「流石デシアスの奥様だねー」
「しっかり者の妻が主のお役に立てて誇らしい!」
「いや~んご主人様ぁ~」
「そ、それよりさリックきゅん、『スプラグラディエ』の終わりだよ」
「あ!ああ…」
当初予定していた、グラディエ兄弟と宇宙警備隊が宇宙で侵略星人たちを撃破していく物語が新番組に流れ出てしまった。
その分、『スプラグラディエ』の物語は。
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次回作への誘導として、半分機械、半分生物という謎の「浮遊機獣」が操演でグラディエへ、地球へ襲い掛かる。
3クールの最後こそ、故郷を滅ぼした侵略星人のグラディエ兄弟殲滅作戦によって宇宙警備隊と敵対したグラディエ、しかし状況に疑問を感じた仲間達が弟スパティアを救出し、兄弟は宿敵を討ち果たす!
この戦いで宇宙警備隊の最高位レックスプラが兄弟を宇宙警備隊員として仲間に迎える。
しかし4クール目の最初で、宇宙レーダーにも反応しない謎の「浮遊機獣」がCSS西岸支部基地を抹殺し、隊員は全員死亡。
スプラセプト、バレット隊長も
「グラディエ!お前は不滅の命を持つスプラグラディエだ!お目の命はお前だけのものと思うな!行けー!」
主人公だけを脱出させ、基地と共に死亡。
更に地球に辿り着いた時には、弟、妹と慕う兄妹、そして恋人、友人は王都を襲った浮遊機獣の襲撃で行方不明。
次々告知される死亡者名簿に、大切な人の名前を見つけ、亡骸に会う事も叶わず主人公と兄は声も無く泣き崩れる。
次回作との差別化のために「孤独で過酷な戦い」を描く事にした。
「ちょっと酷過ぎるよ~!」嘆くアイディー夫人。
「本当の戦とはかかるものだ」
「いやいや!子供に本当の戦争を語ってどうするよ?!」
「なんとなく『帰って来た』に被らない?」
デシアス監督は兎に角、アックス氏もセワーシャ夫人も引いていた。
「リックさん。これ、異世界ではどうだったんですか?
もう人気も予算も尽きた末での結末だったみたいですが」
「そ~だよ、そ~だよ!」
リック監督は考えていった。
「その通りで、もう最後の最後、そんな状況で吐き出された熾烈な物語だったよ。
でも、その熾烈さは20年、30年後には解ってくれる人もいたみたいだね」
アイラ夫人は安心したように言った。
「私達には次回作もあります。違う選択肢もあるんじゃないですか?」
リック社長は溜息を吐いた。
「じゃあ、当初案を、もっと規模を小さくしよう。
何とか次回作への引きとなる様な」
「いえ、リックさんは、スプラグラディエに、ストリさんたちにどうなって欲しいんですか?」
「幸せになって欲しいけど、そうはいかないだろうね。
色々な災いが振ってかかる」
そう言いつつ考えた。
「でも、弟の、地球の少年には。
出来る事なら妹も元気で、幸せになって欲しい」
「じゃあ、そうするために考えましょうよ。
異世界の不幸な運命を変えましょうよ!」
今まであまりリック社長の仕事に口を挟む事が無かったアイラ夫人が力を込めて語った。
セワーシャ夫人も、ミーヒャー夫人も頷く。
今まで共にスプラシリーズや他の作品を共著したアイディー夫人は、涙をためている。
「俺は、異世界人なんかじゃない。
この世界に、今は死んじまった両親から生まれて、みんなと暮らして、俺の事を子供だって言ってくれた人がいて、今があるんだ。
グラディエ、ストリも同じだ!
俺は彼を不幸にしない。もっと考えるよ!
彼が守った人を、どう守り切れるか!」
時間は無い。
予算も限られている。
今まで彼は疑問があった異世界の原作には改変を加えて来た。
そのほとんどが打ち切られた作品であったり、不完全にならざるを得なかった事情を抱えた作品であった。
しかし、「スプラグラディエ」の、異世界の原作は過酷ながらも見事に物語を完結させていたのだ。
それを、異世界の特撮作品を愛して来た自分が、否定するかの様な仕事に挑む。
「それが、これからの俺の仕事だ!」
仲間達は、彼の独り言を暖かく包んだ。
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翌朝。
徹夜でリック社長は4クール目の検討用台本を書き上げた。
流石に今回だけは夫人たちも諫めなかった。
仇敵を倒した主人公、ストリは地球の人々に別れを告げる。
CSSを辞し、弟、妹、恋人と友人、恩人に別れを告げる。
恩師であるスプラセプトはその決心を試すため、死を掛けて変身、戦いを挑む。
スプラセプトが死を覚悟して技を放つ前に、スプラルジェントが割って入る。
グラディエは宇宙に旅立ち、星々で厳しい中生き残る子供達を励まし、守り、共に戦う。
次回作用に用意したプロットを惜しげもなく使う。
敵侵略者も考えられる限るの悪質な手で星々を滅ぼしてきている。
過剰な開発を推し進め、惑星を死の星と化し抵抗力を奪ってから征服する敵。
相互に裏切り者を忍ばせ、侵略する前に内紛で壊滅させて仲介者として支配する敵。
社会不安を煽り、そこに救世主然として降臨する敵。
そんな息が詰まりそうな世の中で、未来に絶望した子供達を主人公が励まし、戦い、死滅した故郷へ、時に弟スパティアと力を合わせ戦う。
多くの星で故郷の生存者と出会い、合流し、或いはその地で生きる決意をした人々と再会を誓い、故郷を目指す。
最終回は、砕け散った故郷を目の前に兄弟は決意し、新たな故郷、母星を探すため、弟と手分けして宇宙の果てを目指す。
グラディアは愛した人々がいる地球へ、別れを告げに戻っていく。
ある意味、異世界の作品よりも厳しい結末かも知れない。
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「よくもまあこんな外道な敵やら過酷な結末を考えつくもんだなあ」
「いやいや、聖典や歴史を学べばこのような寓話はある。
しかしそれを未来の学術や英雄譚と結びつける主の想像力は、比類なきものだ!」
「これ神官必読の書にしていいかしら?」
「「「それはダメ!」だ!!」」
「ぶひゃひゃひゃひゃ~!!」
英雄チームにとって、納得がいく、異世界の物語とは決別した締めくくりであった。
「あー、で、どー?」
一同は。
アイディー夫人も、アイラ夫人を見た。
「私の知っているあなたの作品ですね!」
一同は、アイラ夫人の言葉を笑顔で迎えた。
もし楽しんで頂けたら、またご感想等などお聞かせ頂けたら大変な励みとなりますのでよろしくお願いいたします。
なお、活動報告・近況ノートにてモデルとなった実在の作品についての解説を行っていますので、ご興味をお持ちの方はご参照下さい。




