292.「カタストロフィ」、健闘か苦戦か
大ヒット作「内海が広がる時」に続くパニック・スペクタクル巨編第二弾、「カタストロフィ・終末への挑戦」が公開された。
先ずは70mm6チャンネル、豪華仕様でのロードショー公開。
ヨーホー映画マークにショッキングな音響!
続く古代帝国遺跡の発掘、そこで報告される
「この地層に、花の種が無い。
植物が絶滅しているか、極めて少なくなっている。
古代帝国が滅亡した時期とほぼ重なる」
北方諸国、古代竜の化石発掘現場では研究者たちが驚きの事実を突き止めた。
「地層が無い?」
「はい。古代竜が絶滅した時期から数百万年、地層がないのです!」
「考えられるのは、激しい洪水で洗い流されたか、或いは氷に閉ざされたか…」
「何故、そんな地獄の様な事が起きたのでしょう?!」
「解らん。太陽の熱が極度に弱まったのか、或いは…
火山か、隕石の落下で暗雲が大地を覆ったのか!」
太古の地平に、巨大な爆発が起き、タイトルが現れる。
そして今。
タイトルバックは白黒画面に真っ赤な文字でクレジットが流れる。
巷説でささやかれる週末の姿、工場排水、ばい煙、都市にあふれる自動車。
そこに被さる、数百年前の「破滅の詩」と担がれた詩の朗読。
正直眉唾もいいとこだが、朗読する女優の声の不気味さが奇妙な説得力を持つ。
災害の爪痕、難民。滅亡した大国の遺跡、そして極大魔法の鎮魂塔。
終末が迫って来るかの様な音楽、主旋律を奏でる謎の音、ノコギリの背を弦で弾いた様な、もっと不思議な音。
かつて「スプラ・カピタリウス」や「スプラ・イントレピド」で魅力的な音楽を提供し、今では電子音楽で大活躍しているディーベス・シンセス師の作曲である。
物語は最初は薬害、食品保存料等極めて身近な話から始まり、都市部に大型化した虫や南方の毒を持つ生き物が発見され、焼却される。
主人公の町医者は煤塵が原因としか思えない気管支炎を持つ子供達を治療し、工場を訴える。
どうすべきか。ナンマ・イダーロ氏演じる主人公は
「規制を守る、それだけの事だ。
だがその規制が何故か、この10年で緩められてしまっている!
子供達の健康を犠牲にしてだ君!」
そして緩められた規制は赤潮、奇形児、異常な発育を示す子供の早世、更に農作物の減産を招き、王家では宰相が規制の再強化を訴える。
しかし各大臣は首を縦に振らない。
それぞれのバックについている大物貴族達、商会長が大臣に
「例え国王陛下の命であろうと首を縦に振るな!何でもいい、理屈を付け断れ!」
と命じる。
更に続く乱開発による山崩れ、異常気象が続く。
宇宙公社の衛星写真が異常な気流の乱れを捉える。
ここまでの事態となった事に責任を感じた宰相は、王命を受け、命令に背く大物貴族を処罰。
この事態を警告していた町医者の告訴を知り、対策や調査を命じる。
この場面で、スクさんはようやくカンゲース6世陛下との約束を果たせた、と感涙した。
途中から徐々に災害規模が大きくなり、ついに各国が秘密裏に進めていた極大魔法による発電、兵器化の工場が災害や事故で爆発、放射性降下物に襲われた街は死の街と化し、生存者は生きたまま腐敗していた。
若年失業者が増え、麻薬犯罪に手を出し、絶望と錯乱の中略奪や集団自殺が相次ぐ。
王都では他国に逃げる大渋滞が発生、無理に突っ走った自動車が爆発、渋滞は連鎖的な爆発を巻き起こし、王都の空を焦がした。
このままでは、世界はどうなるのか、本当に死滅するのか。
主人公は諸国条約会議で宣言する。
この辺の下りは、ショーキさんに無理やり引っ張られたリック社長が脚本も含めて書き上げたものだった。
「今、大陸はここにお集まりいただいた諸国の帝王の英断により、私達は破滅に立ち向かいつつあります。
しかし、例え一か所でも、いいですか?!
例え一か所でも!もし一ケ所でも!
極大魔法、世界の滅亡を意味する極大魔法を使用すれば!」
国境線は難民への暴力、略奪が起き、軍事衝突に。
そして戦争に拡大し、極大魔法を搭載したロケットが発射される。
ここは新撮で、地下に掘られたロケット発射口から炎が吹きあがり、人工衛星用と同じロケットが発射される。
山の斜面、コンクリート製の重い扉が滑り落ち、現れた発射口が炎を吐き、ロケットを発射する!
本当にコンクリート製の重いシャッターを作り、留め具を外して撮影している。
瞬時に粉砕される各国のランドマーク!
これは「世界最終戦争」の様な大規模なミニチュア撮影がもう出来なくなってしまっているため、建物の形に切り抜いた石膏の板に建物の写真を貼った「ナンチャッテミニチュア」を爆破し、高速度撮影している。
その直前まで実景を写し、爆発の瞬間で切り替えているため安価乍ら写実性は極めて高かった。
そして溶岩の巷と化す各国王都。
これは「世界最終戦争」「レイソン未来館」で未使用となった溶鉄や疑似溶岩の映像を多用している。
そして更に、極大魔法ロケット基地。そこに字幕が被る。
「基地は静止し、兵は死んだ。しかし、機械は-」
自動計算で尚も無人の荒野と化した敵国へロケットを発射し続ける。
「各国は滅亡しても、大陸は残るでしょう。
キリエリア。ゴルゴード。マギカ・テラ!ボウ帝国だった所!」
荒野と化した大地で、焼けただれた肌の人々が、物語序盤に登場した巨大な虫を捕まえ、更にそれを奪おうとする別の人々が争い、岩で相手の頭をかち割る。
「大地と大気は冷えて行き、そうしてもう晴れるはなくなる。
美しい乙女の輝き、それはもう輝くことはない」
例の詩が死の大地に覆いかぶさる様に響く。
場面は諸国条約で語る主人公に戻る。
「これは、あくまでも想像です。
誰も見た物は無い。
しかし、この地球に生きている人間は、そうなる危険性と一緒に生きているんです!
宰相閣下!政治とは何でしょう?
人間を人間として生存させる責任です。
その人間の生存自体が、壊滅の急坂を今!
加速度を付けて転がり落ちているんです!
神の心による大決断の政治を、私は宰相閣下に祈りを込めてお願い致します」
流石イダーロ氏、説得力ならぬ恐るべき納得力のある演説だった。
長かったけど。
一同が沈黙する中、スクさんに替わって宰相役のビクース氏が壇上に上がる。
「今、私は、諸国条約加盟国の皆さんに向かって冷厳な事実を告げなければなりません。
世界は今、まっしぐらに破局への道を辿っています。
この、燃え盛る文明の業火の中で、私達は、そして世界は!
本当に滅び去っていかなければならないのか。
嘗て地球上に覇を唱えながら滅亡していった古代竜と同じ運命を辿らなければいけないのか」
ビクース氏の落ち着いた演技が、ここで激しく一転する!
「断じて!!そうあってはなりません!!
我々貴族は、長い間皆さんにこう言い続けてきました。
国政を貴族に委ね、税を収めよ、そう言い続けてきました。
その上で得た物は一体何であったか!
飢餓への無力、環境破壊、そして天変地異だった。
我々貴族の傲慢さを深くお詫び申し上げます。
しかし、今からでも遅くないと思います」
貴族制、王政を否定するかの様な発言だが。
タイトルと一変して、今の幸福に暮らす人々の姿を背景にビクース氏の熱弁が続く。
「我々に必要なのは勇気であります!
見通しはあまりにも暗く、絶望的でもあります。
しかしその、絶望的な戦いを戦い抜いてこそ、本当の意味での!
人間賛歌の歌声を上げるのではありませんか!
後の世界の人達から、彼らは真の勇気あった人々と言われるために!
人間生存の新しい戦い、この苦難の戦いを、大陸中の人々と一つになって戦い抜こうではありませんか!」
諸国条約会議は拍手に包まれ、主人公は感極まる。
ビクース氏の演説もイダーロ氏に負けず劣らず長かった。
議事堂を背に主人公一行が去り、
「この物語りはたんなる想像の世界ではない。
こうあってははならない-
それが我々の願いである。」
と字幕が出て、映画は幕を閉じた。
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拍手が沸き起こった、しかし「海広」に比べると、その勢いは弱かった。
ヨーホー映画中央劇場の初日初回で挨拶が行われ、更にその後関係者の懇親会がホールで行われた。
「最後は強引だったのでは?」
「前作は科学的背景があったが今回は巷説の寄せ集めだからなあ」
中々に厳しい声も聞こえる。
「しかしこの映画は半分王命で、その巷説に対する反論として作られているのですよ?」
「最後の演説、ありゃ長かった!だが!あれこそイダーロ氏の文字通り独壇場だ!」
「長かったけど、スゴかった!」
「うんうん、長かった長かった!」
そして好意的??な意見も。
「やっぱ長いよね」
その長い超演説を書いた本人のリック社長も他人事みたいに言う。
「ビクースさんのも、長かったよ~」
「でも感動しました!」
「異世界の映画界ってのは、斜陽の中にあってこの情熱だもんね。
ホントすごいよねー」
「またあなたは他人事みたいに!」
夫婦間ではウケは良かった。
あくまで夫婦間では。
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ロードショーでの評判は翌日から世間に広まった。
「巷説の終末神話を現代になぞらえた怪作」
と揶揄する声もあれば、
「終末神話を学術的にとらえた未来への警告」
と評価する声もあった。
しかし
「起きる事象が一貫性が無いため物語が冗長」
「イダーロ氏の演技と破滅の詩の朗読に頼っている」
との厳しい指摘もあった。
特撮にしても
「『海広』の衝撃までは無かったか?」
「過去作の範疇を超えられないジレンマ」
という厳しい意見もあった。
数週間後に35mm4チャンネルの通常版が公開された。
折からの終末ブーム?で初日は満員だった。
やはり世間の不安を…
「というか怖いもの見たさかな?」
というのはリック社長。
その通りかもしれず、連日の満員となり、関係者を安堵させた。
しかし、客足は徐々に減り、待望のロングランに達したもののそれは1週間で終わった。
最終的な製作費1億デナリに対して、興行成績15億デナリ。
「内海が広がる時」の30億デナリの半分に留まった。
留まったというべきか、10億超えを果たしたというべきか。
しかし世間の評価というものは、決して足し算ではないのだ。
常に引き算なのだ。
もし楽しんで頂けたら、またご感想等などお聞かせ頂けたら大変な励みとなりますのでよろしくお願いいたします。
なお、活動報告・近況ノートにてモデルとなった実在の作品についての解説を行っていますので、ご興味をお持ちの方はご参照下さい。




