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289.「レジオ」の失敗

「レジオ」の半年での終了が決定した。

 不思議な事にヨーホー映像でこの事に不服を言ったり、悔しがる人はいなかった。

 中には食うために、門下のスタッフを喰わせるためにやむなく参加していた監督もいた。


「それじゃあ1年持つわけないよ」

 自社ほっぽらかしてヨーホー映像にかかりっきりだったリック社長が白亜の殿堂の食堂で香辛料と肉野菜の煮込み、リック社長発案の「カレーライス」を食べつつテンさんに愚痴る。


「不思議なモンでね。ゴドランも俺がやった時はキワモノだ、下手物だ、関わるな、なんて言われたよ。

 今じゃゴドランは世界的スターだ。その後輩のレジオが何でかキワモノか下手物扱いになってる。

 こういうのは変わらないのかもねえ」


 テンさんは落ち着いて返した。


「スプラルジェントもいい加減世界的スターを目指すかなあ」

「それがいいよ。

 他社からトルドーみたいな後追いも出りゃあリッちゃんも楽出来るだろ?」

「そう思ったんですけどねー」


 相変わらず他社で特撮スタジオを建てたり借りたりして特撮をやっている変身英雄は「エレメンタム」以後登場していない。後続の「マイスレオニス」で巨大な敵が時折登場するくらいだ。


******


 ヨーホー映画の社長会。

「レジオは失敗しました。それと、安息日の新作の方も失敗で、この秋には二本の新番組が必要です。


 リックさん。この場を借りてで申し訳ありませんが、レジオの後番組をお願いできませんか?」


 かつて1年で2作品、多い時にはマギカ・テラの人形特撮も含め3作品を放っていたトリック特技プロ。

 ましてや今はショーウェイで仕事が少なくなった特撮スタッフを抱えている。

 働き場所を確保しなければ生きていけない状況の筈だ。


 社長会にいた誰もがリック社長は自社作品が増える事を歓迎すると信じていた。

 しかし。


「現在トリック特技プロではスプラシリーズの終了を検討しています」

「「「え???」」」


「この4年近く、ひたすら毎週巨大変身英雄と怪獣の戦いばかりを撮って来ました。

 しかし、俺が目指していた特撮って、それだけじゃないんですよ。

 海底に行ったり宇宙に行ったり。

 未来を描いたり過去を再現したり。


 まともな撮影じゃ出来ない、不思議でスゴイ映像。

 それを撮るのが特撮の仕事です。


 今のままじゃ、それは出来ない。


 変身英雄モノはどこか他の独立プロに外注して、独自企画を売り込むか、今の17th世紀プロの企画の支援を全力で…」


「お待ちなさいリックさん!

 あなたはヨーホーから撤退するのですか?」

 セシリア社長も驚いた。


「今年の映画2作は引き続き協力しますが、『レジオ』の尻拭いは勘弁してほしいですね」

 歯に衣着せぬとはこの事だ。


「しかし貴社の看板テレビ映画まで外しては、多く抱えているスタッフに給料を払わせて行けるんですか?」


「もうぼちぼちマギカ・テラの方が宇宙映画の撮影に入ります。

 そちらはいくら人手があっても足りない。

 ウチの連中にとってもその方がいい経験になります」


 立て板に水の様にリック社長は淀む事無く答えた。


 リック社長に頼めばなんとかなるか、とどこかで甘く考えていた

「スプラシリーズはどうか!続けて下さい!」


 マッツォ社長が頭を下げた。

 映画会社最大手グループの長が一介の独立プロに頭を下げる姿は傍目には異常だったが、相手は特撮映画をこの世界に齎しただけでなく、映画の常識も、世の中の常識すらもたやすく変えてしまったバケモノだ。


 そんな事も理解できない上澄みなど、既にこの場には今はいなかった。


「何とか後半年。できれば1年…持つかなあー?」

「まずは半年で!」

「約束します」

「それで安息日の方ですが」

「まだあったんだ!」


******


 キリエリア2が「テレ海」初期の成功に学び、大予算で大作、歴史大作をぶつけて来た。

 新番組の大人向け人情ドラマが2クールで失速したのはそれが原因だった。

 仕掛け人は、あのナントカいう人。


「やっぱ無能なんかじゃない、遣り手だなああのナントカいう人」

 相変わらず人の顔と名前を覚えるのが苦手なリック社長だった。


「で、何か策はあるんですか?」

「大変消極的なんだが…

 近未来戦記をぶつけられないか、と」

「特撮は過去作の流用?」

「…恥ずかしいのですがその通りで」


「うーん。異世界の常識とこちらの常識は違うしなあ。

 そこをすり合わせつつ半年なり1年なり脚本を書き続けるのは、俺じゃないと…」

「無理ですか」

「あ!情報軍なら出来るかも!」


 リック社長の未来の記憶を映画化するにあたり、異世界の戦史を書き連ね、新設された陸海空軍を統合する情報軍と共有した過去がある。

「そうか!」

「でも結構映像化してない戦いとかあるし、陸戦も陸戦で大変だからね。

 何かあったら呼んでねー」


 気の抜けた掛け声だ。

 しかし彼がこういう時、必ずリック社長は良い知恵を与えてくれて何とかする。


「ありがとう!」

「でも『レジオ』の次はそっちで宜しくねー」

 そう言うやリック社長は消えた。


******


 変身英雄ブームについて、そろそろ限界が近づいている事を、トリック特技プロの一同、英雄チーム一家は薄々感じていた。


「ここにもう一つ不況が来ると、また色々物価が上がる。

 そうなると庶民や下級貴族の生活がひっ迫して映画やテレビどころじゃなくなる。

 俺達はそれに備えて身の振り方を考え、従業員の行き先を考えるべきだ」


 皆が頷いた。


「幸い俺の見たところ、17th世紀プロの新作は上手く行く。

 もしかしたら、ヨーホー映画を飛び越えて未来の指標になるかも知れない。

 歴史そのものになるかも知れない」


「そこまでか?!」


「ちょっと覗き見したけど、結構いい線行ってるよ。

 撮影に入れば物凄い人と技術が動く。特撮経験者は引く手あまただ。

 その後があるかどうかは、彼らの元締め次第だ。

 俺は好きにやるだけだけどね」


 一同は笑った。リック社長がそう言うなら、気楽に構える事とした。


 スプラシリーズの企画はリック社長とアイディー夫人で考えた。


 トリック玩具の児童雑誌で人気の企画をなぞらえる事となった。

 即ち、スプラルジェント、宇宙警備隊が宇宙の各地で繰り広げる戦いを、パノラミックに描く物語とした。

「でもさ、30分ずっとスプラルジェントのままでお芝居って、キツくない?」

 児童雑誌ではスプラルジェントたちが、変身後の姿で悩んだり悪に心を売りそうになったり、酔っ払って過去の失敗を嘆いたりしているのだが、それをそのまま撮影したら喜劇にしかならない。


「色々な星で彼らがその星の人の姿に変身して、ドラマ部分はあくまで俳優。

 宇宙侵略戦争で荒廃した文明惑星を、地球のVDIの『乳の道星雲探索隊』が訪ねて、スプラルジェントたちと共に戦って星々を救う。

 そんな話でどうかな?」


「そんなら安く済むかもね。

 毎回どんな星にするか考えなきゃ」


 二人のアイデアは尽きる事が無かった。


******


 さてその失敗に終わってしまった「彗星戦士レジオ」の最終回。

 当初後半半年へのイベント性盛り上げとして「機械星獣」マキナゴドランが飛んで来る筈だった。


 しかし、もう打ちきりなんだから早くマキナゴドランを新作映画用に改造して、過去の星獣を出して終わらせれば、脚本もリック監督の指摘でNGとなったものを星獣だけ変えて登場させればいいじゃないか。


 そんな方向に向かいつつあった。


「ダメだ!」

 リック社長が吠えた。


「見てくれた子供達にマキナゴドランが出るって言った以上!

 約束は守るべきだ!

 全額俺が出しても約束は守る!」


「ちょっと待ちなよリッちゃん。

 今更終わる作品に力注ぎ込むより、映画の方に注力するべきなんじゃないか?」とショーキさんは考えたが。


「これは今まで見てくれた子供達との約束なんだ。

 大人は、英雄は嘘を吐いちゃダメだ!」


「この予算じゃ厳しいな。リッちゃん、本編もやるつもりかい?」

 本編の、結構威勢の良い口ぶりだった監督も降りてしまった。

「最終回が2話構成になるなら…私も責任は持てないですよ」

 若手で色々センスの良い監督も降りてしまった。


「任せて欲しい。ギャラはいまのまま彼らに払って、俺はタダでいいよ」

「それは許しません。ちゃんと払わせてもらいますよ」

 セシリア社長が諫めた。

「それじゃ俺が無理いって割り込んだみたいだ!ギャラは要らない!」

「リックさん!」

「いまさら!…」


 そう言いつつも、様々な制約の中でやって来た人達の努力を蔑ろにする様な事は、リック社長にはそれ以上言えなかった。


「申し訳ない。降りた監督と同じ条件で、最終回3作を撮ります」

「お願いね」


 こうして最終3話は、最後で最強の敵としてマキナゴドランが予定通り登場する事となった。

 そして助演の敵役は。


 既にヌイグルミを廃棄するつもりで爆破炎上させたキメラヒドラ。

 そのヌイグルミをリック社長が何とか復元し、最後を飾らせる事にした。

 無論、彼は更に補修して博物館に展示するつもりでいるのだ。


 そして宇宙星獣ジーガス、甲虫星獣メガルマトがレジオとゴドランと壮絶な…ミニチュアを組む予算が無いので荒野のセットでひたすら爆発させる戦いと設計された。

 その時は。


「どんな終わりにする?」

「希望のある話にしたい。

 アルデ星人がマキナゴドランでレジオを一度は倒す。

 しかし彼らの同胞が宇宙に生きていて、こっちに逃げてこいと誘う。

 でもレジオファミリーが逃げれば奴等は追って来る。

 主人公は戦いを決意し!地球を守る!」


 この方針で、レジオはゴドランと協力してキメラヒドラやマキナゴドランを倒す。

 そして生き残ったファミリーたちの操る移民船ナヴィスペイの攻撃で、アルデ軍の地球攻撃宇宙基地は爆発四散する。


「こうして一家は地球を守り通した。

 ってどう?」

「それでいこう。キメラヒドラとか撮影が大変だけどなあ。

 リッちゃん色々助けてくれ」


 こうしてレジオの、半分で終わってしまった物語は、それでも終わりに向かって走り出した。


 もし楽しんで頂けたら、またご感想等などお聞かせ頂けたら大変な励みとなりますのでよろしくお願いいたします。


 なお、活動報告・近況ノートにてモデルとなった実在の作品についての解説を行っていますので、ご興味をお持ちの方はご参照下さい。

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― 新着の感想 ―
>ナントカ氏 この人仕事は出来るんですよね、仕事は。 性格がアレなだけで。 あーレジオはやはりこうなっちゃいましたかー
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