287.第二回世界映画祭
リック社長がお節介含みでヨーホー映像の新企画に首を突っ込んでいる最中。
西側諸国からすれば地球の裏側のさらに南方での諸国展示会は何とか成功裏に終わった。
経済規模からすれば前回のキリエリア展示会には及ばなかった。
その分遠い異国の地の人々、ボウ帝国の保守的な貴族達、有力商会に強い衝撃を与える事は出来た。
ただ、西側諸国には彼ら東国商人との取引に対する「破ったらコロス」と題された極秘の通達があった。
東国商人は相手を騙してナンボである。
不完全な、自分有利な、なんならいつでも無効にできる、契約書とも呼べない(彼らにとっては当たり前な)契約書。
接待漬けにして泥酔させて署名させる悪質な(彼らにとっては当たり前な)契約。
更には美人局を宿に送って不倫や不貞を世間にバラ撒くと脅す(彼らにとっては当たり前な)恐喝。
具体的な撃退法まで書いたメモを配布したが、それでも全体の2割が引っ掛かった。
無論それらは直ちにガタイ第三皇子に訴えられた。
例によってリック社長が同行して。
「こっこれは父皇帝陛下の配下の…」
「次やったら足から消し去るって伝えて下さいね?」
「いやいやいや!そんな事言った日には!」
「じゃ俺から直接」
「勝手にしろー!」
リック社長の脅しが効いたのか、果ては例によって皇帝の寝室で皇帝をふん縛ったのかは不明だが、関係者は処罰された。
それでもメモに書かれた
「商人は相手を値踏みしろ!」
という商売の鉄則を忘れたものは愚かな取引を行い、各国王家の主幹産業を売り渡す様な契約を結ばされそうになり、同じ様な訴えを続々起こしたのだった。
「この国の商人は仁義も契約もヘッタクレも何もないねえ」
「この国は大きい。大きすぎる。
故に縁も誼も役に立たぬのじゃ」
「俺この国に生まれなくてよかったよー」
「…言葉もない!」
結局商人の権限を越えた契約はガタイ皇子の命によって無効化された。
「俺、父陛下に殺されるよ~」
「絶対俺が守りますからさー」
「なんだか言葉が軽い~!」
だがこのリック社長の言葉は思わぬ形で守られる事になったのだが。
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そして世界映画祭。
当初はこのままボウ帝国で行われる予定だったが、余りに逸脱した商行為に対する警告として、西側各国は速攻でボウ帝国を引き揚げてしまった。
それでも残された鉄道や港湾、飛行場に宿泊施設。
ボウ帝国は大きな遺産を得たのであった。
西側から人さえ来てくれればの話だが。
国内で無謀な攻撃を仕掛けた商人の後ろ盾の貴族、何より現皇帝と西側諸国の間に立たされたガタイ第三皇子を放っておいて、カチン大臣は陳謝の行脚を名目にアモルメの映画祭に出席する事となり、ようやく開催の段取りが落ち着いた。
ボウ帝国の問題や会場変更の話はさて置き。
「盛り上がりに欠けるのです」
と、セシリア社長。
リック邸で、温泉を楽しんで英雄チームの家族と夕食を共にしている。
「毎度すまないなあリック。おお、ヘルムちゃんも元気だなあ」
「公爵閣下、畏れ多い限りです」
「ほ、本日は!お日柄も宜しゅう!」
「固くなるなデシアス殿、ミーヒャー殿。
ここの皆は国を救った英雄だ、儂が頭を下げるのがいい位なのだ」
「ホントよ。いつもリックさんには助けて貰ってばかり」
財務卿夫婦、公爵夫婦を迎えの夕食である。
普通、色々おかしくなる。
タダの夕食ではなく大規模な晩餐会となって参加人数やら序列やら献立や酒の格付けや含ませる意味付けやら…。
だがもっとオカシイのがリック社長だった。
「じゃ、そうしよ、お母さん!」
「ええ!」
「カンパーイ!」「「「カンパーイ!!!」」」
全部無視。
「主といると時々感覚がオカシくなる」「はい、旦那様…」
「でね、相談なんだけど」
セシリア社長の言うには。
「皇帝のいない帝国」の、実際に艦艇や飛行機を動員した上にリアルな特撮を見せ場にした前回に続き、今回も「内海が広がる時」の驚異の特撮が大賞受賞が確実だった。
とはいうものの。
「こうも特撮の空想話ばかりが受賞してしまっても…
人間の機微、人の宿痾や憎悪を丁寧に描いた作品が評価されなくなってしまう。
ですか?」
リック社長はどこかセプタニマ監督を思いつつ、セシリア社長に尋ねた。
「そうなのよ!映画って、そういう面も必要でしょ?」
(いやそれをヨーホー特撮の親玉がいうかねえお母さん)
と心の中で思いつつ。
「なにか、もっと人の機微を捕えた作品。
夢溢れる豪華で煌びやかな映画。
みんなが忘れられない歌や踊りが溢れる作品にもっと光を当てられないかしら?」
「まことじゃ。
今この物価高の中、かかる特撮大作はヨーホーで、リック殿の薫陶を得たものでしかなし得ない、独壇場となっておるしのう」
当たり前の様にカチン大臣もいる。
「前に聞いてましたけど!
これがリックさん家なんですね!?」
「そうだ。何と言うか、早く慣れてくれ」
「確かに一時王宮住まいだったりとかいろいろありましたけど…」
デシアス夫婦が何か言っている。
「うーん。
アモルメが主催なんだからあっちで何か考えればいいのになあ」
「かの国も良い映画を撮るのですけど、いかんせん我が国の様な超大作を撮る習慣がないのですよ」
「そうじゃのう。キリエリアの映画は、特にリック殿の特撮映画はじゃな、異常なのじゃよ」
「えー?!そりゃ寂しいですよ!
カチン閣下のお国でも『快猿王』以来全然特撮映画出来てないしー!」
「幾つも企画はあったのじゃ。
だが皆大金を手にした途端、奪って逃げてしもうたのじゃ」
「ヒデー!」
「それでですね。
何かもっと、全ての映画に光が当たる様な。
そんな企画、できないかしら?」
「国別で過去の最優秀作品を選定する、そんな案を出したのだが。
選ばれた作品が自国以外ではあまりに無名だったのだよ」
それら作品の資料が束ねられて出された。
「あら!この悲恋モノ。
聖典を題材にして今に置き換えたのね?面白そうじゃない!」
流石神殿歴の長いセワーシャ夫人、アモルメの名画に食い付いた。
「お?これ知ってるぞ!負け戦だったが東国の騎馬団を少数で食い止めた猛将の話だ!」
騎士団で人気の高かった大陸中央国の映画にアックスが興味津々だ。
「こ、これ。テラニエの映画だよね、芝居そのまんまの。
モノホーリー派に抗って殺された、天才の話。
同じ題材で昔のと今のがあるんだ~」
アイディーも食い付いてきた。
「私は、このボウ帝国の『傾国』、観てみたいです!
圧制による貧困の中、親に売られた売女が復讐のため皇妃に上り詰めてその国と皇帝を亡ぼす話!
うふふ!」
(アイラの暗黒面が表に出て来たー!)
「み、みなさん着眼点が素晴らしいわね、ほほほ…」
「だがな。
過去に幾多もある映画の中から人気ある物を上映するというのは、悪くはないが時間に限りがあるなあ」
「うむ。
いっそ会期が倍になって、題材ごとに4、5作を上映出来ればよいのだがのう」
なんとなくヒントっぽいものが浮かび上がって来た。
そして例によってリック社長が提案した。
「夜中に夜通し上映すれば?」
「「「死ぬぞー!!」」わー!」
「流石にお母さんたちに全部見てとは言いませんよ。
体力があり余ってる若い人で、過去の傑作を知らない人達のために。
他国の映画に触れる機会が無かった人のために。
題材別に各国で投票して、参加国の首位5作を目安に、夜間上映するのはどうですか?」
「見たい。見たいわ!でも!
お肌荒れそう。翌日は仕事になりません」
「儂は2本目で寝るなあ」
「リック殿?
そういうお誘いは出会った若い頃にして欲しかったものですよ?」
色々反応がありながらも、翌日にはセシリア社長、カチン大臣からこのアイデアが映画祭本部に提案され、実現される事になった。
題して
「古今東西名画オールナイト祭り」
当初こそ
「夜通し映画を連続して見る好事家などそうそう居るものか?」
「翌日は昼過ぎまで起きられまい。
翌日午前を捨てにかからねば付き合って等いられぬぞ?」
そう批判する実行委員もあれば。
「ほう、これは若いころ見たものだが、今となっては劇場そのままの撮影であろう」
「『キリエリア沖海戦』の前後では映画の定義すら違ってしまうのがよくわかるなあ」
「若輩者故この作品は存じ上げぬ。『聖典』、改めて見てみたいものだ」
前のめりになっている実行委員もいた。
「一つの試行錯誤として、旧作を知らない若い方のために、あるいは懐かしの名画に触れる為に、近接する旅館との往復を自由にして開催してはいかがでしょう?
時間も深夜に及ぶため道路を騎士団が封鎖して警備します」
(大事になっちゃったなあ)
言い出しっぺのリック社長はちょっと後悔した。
******
結果は。
「こんなに人が来るとはなあ!」
「今何時だ?みんな寝ないつもりか?」
上映開始時は大盛況であった。
そして、「キリエリア沖海戦」上映。
懐かしい白黒のヨーホー映画マークに、
「おおー!」
場内割れんばかりの拍手であった。
主演俳優であるスクさん、まだ若手だったマイちゃんのクレジットでまた拍手!
監督・特殊技術のリックのクレジットで大喝采。
中には叫び声をあげるものもいた。
そして名場面の始まりでまた拍手。敵の出撃を確認し、キリエリア全軍に出動を命じるスクさんでまた拍手。
エンドマークでは皆が声を上げて拍手を惜しまず贈った。
幕間の休憩時間、サロンは興奮した人々が飲み物を頼んでいた。
「いやあ!凄かった!
時々場末の劇場で掛かっていたと昔聞いた事がありますが、それ以外では見る事はありまんでしたから!」
若い貴族が興奮混じりに語る。
「4~5年前にテレビで放送したが、やはり大画面で見なければ迫力は解らぬものだなあ!」
壮年の貴族も満足げに語った。
この熱狂は日付が変わって尚続いた。
しかし、流石に明け方となると、眠りに落ちるものもいて、休憩中付き人に宿へと連れられて行ったのだった。
翌日。
「伯爵、昨夜は大分お疲れの様でしたが」
「君か。昨晩は世話になったな。家人を手配してくれたそうで感謝するよ。
名前を聞いていなかったね」
こうして、夜通し映画を楽しんで語り合うという不思議で新しい社交の場で、今まででは考えられなかった様な誼が数多く生まれ、それは国境を超えて、身分を超えて広まっていったのだった。
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このオールナイト興行は成功した。
深夜に亘る行事であり、警備の面から貴族と映画製作会社の役員以上のみ参加が許されたが、それでも深夜まで、若いものに限っては翌朝までも感動と興奮が続いた。
この試みは業界を駆け巡った。
そして劇場統合の嵐の中生き残った劇場にとって、その命脈を繋ぐ「安息日オールナイト」興行の走りとなり、映画に情熱を捧げる若者たちの出会いの場となるのであった。
この催しのため、忘れ去られかけた多くの名画が、中には単なる舞台撮影映画ながらも、その演目自体が忘れ去られた舞台が再発見され再評価される事になった。
この映画祭でも「常緑樹賞」としてオールナイトで上映された作品に対しジャンルごとに表彰される事となった。
(異世界の記憶にあるオールナイトって、ある意味スゲー)
面倒臭くて言い放ったアイデアが思わぬ方向にハジけて、今更ながらに驚くリック社長であった。
もし楽しんで頂けたら、またご感想等などお聞かせ頂けたら大変な励みとなりますのでよろしくお願いいたします。
なお、活動報告・近況ノートにてモデルとなった実在の作品についての解説を行っていますので、ご興味をお持ちの方はご参照下さい。




