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286.ヨーホー特撮三方奮迅

 リック社長がヨーホー映像を訪れて間もなく、「パニック・スペクタクル路線」第二弾と銘打たれて、「カタストロフィ・終末への抵抗」の製作発表が行われた。


 今、世間で無責任に巻き散らかされている終末=カタストロフ論に対し、雑多に指摘されている様々な社会問題を正面から捕え、いかに破滅的な悲劇を回避させるかを訴える。

 それがこの映画の主題だ。


 キリエリアではリック社長の奔走で無謀な開発や環境汚染には厳しい監査や厳罰が定められている。


 物価安定策や最低賃金の取り決め等、

「まるで地獄を見て来た様な」

子細な規約と。


 何よりも経営者がそれを破った場合の

「自殺を選んだ方がマシ」

とまで言われた過酷な刑罰が定められていた。


 だが、これを無視すれば。

 映画ではその最悪の事態を想定し映像化される。


 これは王家から

「『海広』も終末ブームの共犯みたいなもんだからナントカしろ」

という無言の圧力もあった。


 神殿からも

「そんな聖典の曲解を許さずバシっと否定しろ」

という要望まで寄せられていた。


******


 今でこそキリエリアでも、キリエリアに倣った法を布き、産業や開発による問題などは起きていない。


 しかし。


 海洋汚染による沿岸住民の奇病発生、奇形児増加。

 石油流出による海上火災と沿岸部の窒息、二次災害。

 森林伐採、乱開発による山崩れ、下流の土砂災害。

 煤塵増加による大都市での疫病?多発。

 気温上昇による凶作、飢餓。


 終末論者はこれら人為的な災害、企業の怠惰による災害が起きる可能性を煽っている。

 それ自体は悪い事ではない、世の経営者に対する管理の目として機能するだろう。


 しかし、時に聖典にそれらしい箇所があればそれを引用し、あるいは古代神話、古代の叙事詩、果ては数百年前の観光案内の散文を無理やり解釈して怪奇性を煽り、面白おかしく騒ぎ立てている。


 なのでこの映画では

「これらは先人が、滅亡した古代帝国が犯した過ちを、後世の我々に繰り返さぬ様に神話になぞらえた警告である!」

 と逆手に取って、実際に起きるであろう問題の原因は何か、そしてこれからどうするべきかを訴える構成にしている。


 主人公、環境衛生学という新しい学問を掲げる町医者が面白半分な扇動を否定し、理性的に一つ一つの解決策を提案していく内容にしている。


 この町医者には「海広」の宰相を熱演したナンマ・イダーロ氏が引き続き出演した。

 関係者一同の支持によるものだった。


 困難な政局に立ち向かうのは宰相ではなく、国王陛下自らである。

 その国王陛下を演じるのが、ヨーホー特撮皆勤賞のスクさん。


 何とカンゲース陛下自らお忍びで白亜の殿堂にやって来て

「映画の中とは言え、世界を正しく導いて欲しい」

 と固く握手を交わし、男爵位に過ぎなかったスクさんは地に跪き涙を流した。


 主人公はテレビにフィルムを売り込むカメラマンで、各地の異常現象を撮影し、町医者の警告を世間に告発する役を演じる。

 その恋人で、奇形児や飢餓に怯える世の中で出産を決意するヒロインは、「テレ海」で可憐な魅力を存分に発揮した人気女優。


 この纏まりのない散文の様なストーリーを何とか纏めた様な、背骨の細い企画。

 多くの監督がオファーを断ったが、近未来戦記をリック監督とともに完成させたシンチェリ・モンスロトンド監督、シンちゃんが請けた。

 彼は特技部とともに、映画で描かれる人為的災害についての研究をショーキさんと共に始めた。


 製作発表が終わり、特撮協力として呼ばれるリック社長。

「傍から見たら二匹目の泥鰌って感じだけど、話の持って行き方は素晴らしい。

 凄く真剣な映画になってるよ。

 こりゃー俺の出る幕ないよね」

「そうは行かんぞリッちゃん!」

 ショーキ監督に首根っこを掴まれ、がっちりと学術考証に、特撮プラン設計に、引きずり回されるリック社長であった。


******


 そして、栄えあるゴドラン誕生10周年記念映画、「マキナゴドランの復讐」。

 ヨーホー特撮初の、女性脚本家によるゴドラン映画である。


 家畜や害獣の頭脳を人間の手で操作し獣害を亡くす研究をした天才学士が、権威主義に支配され動脈硬化を起こした未来の王立学院から追放され実業界へ転身する。


 その学士が古代竜の生き残りを操作し、ゴドランに敗れたマキナゴドランの残骸を修復し社会への復讐を企む。


 頭脳操作実験で事故死した娘をも機械的に蘇らせ、マキナゴドランの頭脳に仕立て上げて。


 この破滅的な物語の主役は、最初のゴドランで悲劇的な科学者を演じたアゲンス・テッテ氏。

 静かな狂気を燃やす、かつての正義感を失った天才のもう一つの姿である。


 狂った父を持つ悲劇のヒロインは「スプラグラディエ」で衛星警備隊員を演じる新人女優が起用された。


 監督は「最後の怪獣映画」と言われた「全怪獣総攻撃」以来のテンちゃん。

 音楽もトルドーで流用されたのを除けば久々のナート師。


 まさに最初のゴドランの布陣だ。


 当初、特技監督もリック監督にとの要望が寄せられたが、リック監督は「他社だしー」と逃げまくり、結局「カタストロフ」と掛け持ちでショーキさんとなった。


 製作費は7千万デナリに減った。

 前作は被災地復興支援、そして諸国展示会の協賛費用に加えヨーホー運輸直営の旅館のタイアップ等色々、リック社長が資金源を用意していて9千万デナリに達したのだが、本作はそこまで手が回っていなかった。


 節約できたのは、マキナゴドランが前作の改造で済んだ、という事程度だ。

「色々アレだから、ゴドランくらいは新しいの作るよ」

「駄目よリックさん」

「俺からゴドランへの誕生日プレゼントと思ってよ」

「…全くもう!」


 前作で全身に火薬を仕込まれ激闘し、ヨレヨレとなったゴドラン。

 リック社長の私財と工作力で新調され、どことなく初代の禍々しさを蘇らせていた。


******


 最後がテレビの「彗星戦士レジオ」。

 スプラルジェントよりも人工的な感じがする、宇宙の技術で作られた鎧とでもいう感じのデザインだが。


 何と大胆にも手足が青い。赤や緑の差し色もあり、合成したら抜けてしまう。


「金がないからそんなに合成ブン回せないしねえ」


 必殺技は光線ではなく、両手から放つ「彗星ロケットマイト」。

 腕の周りに太い輪を付けて、その周囲に曳光弾、電気で発射する火薬玉を付けて怪獣…この作品では星獣という宇宙怪獣となる、そいつに向けてボンボン発射するというものだ。


「うん。ショーキさんらしい必殺技だねえー」

「何だよリッちゃん、イヤミか?」

「褒め言葉だよ、ボンボコ爆破しちゃってよ!」

「そっか。おう、任せとけ」


 実際放送されたレジオのロケットマイトは気が狂ったみたいにボンボコ発射してボンボコ敵の星獣をドゲバカボワーンと爆破しまくった。

 無論爆発するのは発泡樹脂で作った星獣のミニチュアで、爆発前に戦記で閃光を発する電球を埋め込んである。


 ポリさんが監督した回は、助っ人に入ってもらった「スプラステラ」同様、設定にも脚本にもない「今考えた光線」が炸裂した。

 ミニチュアもふんだんに建ててフィルムと予算をガバガバ喰って、セシリア社長に怒られていた。


******


 この「彗星戦士レジオ」。

 色々設定が過去の作品と被っていた。


 主人公が侵略者により故郷の星を失った宇宙人の家族。

 変身して戦うのが兄、妹、末弟の少年。

 トリック特技プロの「トレスヒーロー」と似ていて、違うのは末弟が子供、そして未熟な主人公を導く父母、祖父が健在な事。

 3人とも彗星戦士へ変身するが、巨大化するのは長男だけ。


 故郷が滅ぼされた流浪の民というのも「スプラグラディエ」と似ている。


 しかし、家族で地球で平和に暮らしているという点。

「孤独感がなくていいよね。

 悩みを打ち明けられる家族がいる。空気が厳しくない、暖かい。

 脚本次第でいくらでも面白くなるよ」


 リック社長は気にせず、むしろどういうドラマになるか楽しみにしていた。


 そして全く違うのは。

 何しろ怪獣、もとい星獣。

「なんじゃこりゃ」

 リック社長は呆れた。

 かつて「ルキスマキナA」で見た様な、銀色のぶよぶよして一部が極度にカラフルな物体だった。


「これはヨーホー怪獣じゃないよ、ウチが前にダメ出しした様な奴だ!」


 リック社長は共同制作の立場を使って抗議した。

「俺が今から全部作るからコレはやめてくれ!」

「ちょっと待ってくれ!今そんな事言われても!」

 若い製作担当が応じたが。


「一部は、コレとコレはカッコイイからいいよ、ちょっと創獣に似すぎかな、色を変えればいい。

 でも他がヒドい。

 こんなんじゃゴドランと一緒にフィルムに写せないよ!」

 その一部とはかつて「スプラステラ」の「創獣」をデザインした才能ある人の作品だ。


 この人を怒らせたら取り返しがつかない、そもそもヨーホーテレビが巨大英雄を作る事になった経緯を知っていた製作担当氏は急ぎマッツォ社長に報告。

 結局脚本の特性に合わせたデザインをリック社長が描き直してヨーホー怪獣らしいデザインに仕上げた。


「いやいや、こんなの作れませんよ」

「じゃあ俺が作る!」

 全身のバランスを原型をとどめない程変えてしまい、鋭角の角や翼、ドリル、そして電飾を作り直す。


「もう寝て下さい!」

「また怒られちゃったー!」

 深夜のリック邸にアイラ夫人が雷を落とすのであった。


******


 仕上がった星獣軍団を前にしてヨーホー特技部は唖然とした。

「随分バけたなあ…」


 しかしなおもリック社長は塗料を手に…

「ちょちょ!リッちゃん!」

「いや、仕上がりがペカペカしすぎでしょ、もちょっと陰影付ければね」

「俺達がやるから!あんた色々やりすぎだ!」

 ショーキさんが止めに入った。


「違うよ!特撮は特美が半分だよ!

 不細工なダイコンが見栄切って誰がチャンネルそのままにするんだよ?!

 二枚目だってスッピンじゃカメラ回せないでしょ?!

 これでも最初よりマシになったけど、まだ映画の怪獣に追いついてない!」


 特撮は特美が半分。

 この言葉を、一同は多忙にかまけて怪獣デザインを蔑ろにしていた事を自覚させられた。

「すまないなあ。手間かけさせちまった」

「初めてのテレビは色々勝手が違うからね。

 気付いた奴が手を入れるしかないよ」


 こうして、生物感と人工感が適度に入り混じった「星獣」が新たな巨大英雄レジオの敵として猛威を振るう事となるのだった。


******


 この、社長とか監督とか外注とかの関係を全く気にせず、ただ目の前の被写体をカッコよく、立派に見せたいという願い。

 テレビ作品、毎週放送という条件に、ある意味麻痺していた一同の意識を改めさせた。


 そこで引っ張り出されたのが、「全怪獣総攻撃」以降の企画案で出された未使用怪獣のデザイン。

 ゴドランと対比出来る様に色彩や光沢等に配慮したデザインだ。

 宇宙怪獣ジーガス、甲虫怪獣メガルマト、蝦蟇怪獣テラニウス。

 リック社長に批判された外部デザイナーの作品よりと違い、ヨーホー特撮らしいデザインだ。


 これらが映画に出しても違和感ないレベルに

「カッコイイねえ!俺が手伝うよ!」

「だからリックさんは黙って見てて下さいよ!」

今や独立したとはいえ、ヨーホー特美育ちのペンゴ・ケーゾ氏率いる造形工房の手で仕上げられた。


 そして客演するのは、ゴドラン、そしてキメラヒドラ、更にマキナゴドラン。

「映画の怪獣がテレビに登場!」というのが「彗星戦士レジオ」の売りの一つであり、子供達はその活躍に期待した。


 もし楽しんで頂けたら、またご感想等などお聞かせ頂けたら大変な励みとなりますのでよろしくお願いいたします。


 なお、活動報告・近況ノートにてモデルとなった実在の作品についての解説を行っていますので、ご興味をお持ちの方はご参照下さい。

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