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284.テレビ特撮、苦闘奮闘

 この年、昨年のアモルメでの条約祭典に続く諸国展示会が開催された。

 当初は条約祭典と同じアモルメで開催予定であったが、先の地震による津波被災地の復興支援のためボウ帝国東南部に変更されて開催されたのだ。


 多くの機材や建材は蒸気船や石油船で大陸東部へ運ばれた。


 石油動力による長距離航行が可能な鋼鉄艦と、上空から航路を確認できる飛行機、そしてその先を危険を冒して進むリック社長の長男、英雄ブライの駆るクルス・ボランテスによって発見された海路を船団が進んでいるのだ。


 一方、人は大陸横断鉄道、今では高速化された高速鉄道で東へ、更に重要人物は噴射式=ジェット飛行機で東へ向かった。


 昨年「ゴドラン対マキナゴドラン」の上映に合わせるかの様に開業したヨーホー運輸公社の旅館をはじめ、温暖な気候、豊かな温泉、そして夏には海水浴という新しい娯楽の場として多くの高層旅館が開業した。


 長閑だった漁村は復興を終え、その近くの原野には未来都市の様な諸国展示会場が建設された。


******


 ボウ帝国の辺境の人々が、いや前回の諸国展示会を知らないボウ帝国の帝室の人々ですら腰を抜かす未来都市の様な会場だが。


 それでも西側諸国は遠隔地のため、前回の様な気合の入った未来都市までは建てられずにいたのだった。


 ヨーホー映画もレイソン電機未来館では前回ほど力を入れる事が出来ず、前回のホリミラースクリーンに若干手を入れた設備でお茶を濁す事になった。


 上、左、右の三面スクリーンに連続した映像を映写し、その中央を20人の席を設けた無蓋客車が移動する、というものだ。


 映像は、宇宙開発と地球の姿を現したものだった。解像度の低い宇宙からの映像を、沿岸測量隊や航空写真から再現した、「内海が広がる時」同様の衛星映像の様なミニチュアで再現し、それを動く客車と音楽で体感するという趣向だ。


 多忙を極めるヨーホー映像の特技部に替わって、特撮はリック社長と少数の補佐。

 それでもこの20人乗り客車や3面映写機と特撮を嬉々として作り上げた。


 特に地震、地殻プレートについては息子である英雄ブライが空撮した映像も使われ、目に見えないと思われていた大地の裂け目、つなぎ目を観客にまざまざと見せつけた。


 客車は映像に合わせて上下左右に動き、観客は飛行機や宇宙ロケットに乗っているかの様な錯覚を楽しみ、6部屋、各3分の映像を満喫して次の部屋へと運ばれた。

 このパビリオンは例によって長蛇の列となった。


「芸がないと言われればそれまでですねえ」

「何を言うか!これは物凄い体験であったぞ!」

 関係者内覧会に参加したカチン大臣は大喜びであった。


「ああああれはななななんというかすごすごすご」

 展示会特使を命じられたガタイ第三皇子は足元フラフラであった。


(いやいや、ガタイ皇子殿下、あなた前回来てたでしょ?)

 リック社長は心の中で突っ込んだ。


 皇子殿下は兎に角、前回の西国での諸国展示会を知らなかったボウ帝国の来賓は皆が皆、驚きに包まれていた。


「いずれ我が国も西国の皆をアッと言わせる物を披露したいものじゃ」

「大臣閣下であればそれも夢じゃないでしょうね」

「見え透いた世辞は止せ」

「いえ…」


 ここまで西国との交流を築き上げたカチン大臣閣下ならばと思ったものの。

 この美しい才媛の、悩みに満ちた皮肉めいた笑顔を目の前にして、リック社長は言葉が出なかった。


 以前ボソっと話した周辺地域の多民族との抗争、それと同調する裏切り貴族との軋轢が改善していないのではないか。

 そう察した。


 ボウ帝国はこの地にパビリオン(仮設建築)ではなく帝国の宮殿を縮小した離宮を造営し、帝国の美術工芸を披露した。会期終了後は文字通り皇帝の離宮、そして迎賓館となる予定だ。


 この津波によって大被害を受けつつ人的被害を免れた地域は、皇帝はじめ世界の人々の来訪によって経済的に賑わう場所となるであろう。


 鉄道だけでなく、港湾施設に飛行場も開設し、ボウ帝国南部の要衝となっていく。

(いーのかなー?)


 鉄道工事はボウ帝国の従属国である南の諸国へも伸びていく。一大沿岸経済圏を成していくであろう。


「きっちり環境保護施策をやんないと国土や海がメッタメタになるだろなー」


 リック社長は環境保護、汚染防止などは無視され、遠からぬ日にこの一帯が地獄になるだろうと懸念した。


「そうはさせぬ。民を、国土を守るのが皇族の務めじゃ」

「ならば、辺境の民族との国交や懐柔に努め、戦乱の危険を避けて下さいね」

「…頭の痛い事を。いっそそちが我が国の宰相にならぬか?」

「やでーす。でもヤバかったら言って下さいね?」

「もう!全く…」


 一応周辺の蛮族、もとい異民族国家には諸国展示会へ招待を行ったが、返答はなかった。

 ただ、僅かな商人が平民に紛れて見学したとだけ、カチン大臣へ報告された。


******


 リック一家と英雄チーム3世帯で久々のボウ帝国ツアーを瞬間移動で楽しんだ後、仕事に戻った。


 やはり4年目ともなると巨大変身英雄も飽きられがちであり、視聴率は徐々に下がって行き、ついに50%を割った。


 特に19時半の「ヴェラトラヴィ」。

「スプラグラディエ」開始で一時持ち直したのだが、やはりその後下がった。

 リック社長はこれを見越し、放送開始早々から王立学院の地質学部に「古代竜の化石を展示しませんか?」と持ち掛けていた。


 全長10m程度、最大の首長竜で20m。

 嘗て「無かった事」にされていた古代竜の化石が再度発掘され保存され、そして組み立てられていた。


 これにリック社長が再現模型を半分サイズで提供し、王立学院に展示され、話題を呼んでいた。

 これを国内各地の大貴族領都や各地の美術館に移動し、展示する。


 この試みは成功し、人々に

「古代には巨大生物が実在した」

「怪獣ではないが古代竜はこんな姿をしていた」

という衝撃を与えた。

 

 この展示会の効果は、何とか最終クールに間に合い、60%近くまで回復したのだ。


 なおこの展示は諸国展示会にまで出張し、キリエリア王国館の一角で人気を集めた。


******


「これ以上はやりませんよ!」

「それは残念ねえ」


 当初からリック社長は諸国展示会への不参加を公言していたのだが、世間がそれを許すはずがなく、ここまで関わってしまった。

 遂には我が子英雄ブライが未開地探検に駆使しているクルス・ボランテスの試作品まで引っ張り出して展示する事になった。


「すまないね、ブライ」

「別にいいけど、私は展示会には行きませんよ!

 いつまたどこかで異常現象が起きてるかわからないんですからね」


 そう言いつつも彼が先導した大陸南方航路の発見なしには、今回の展示会はあり得なかった。


 そんな世界の大恩人である息子にリック社長は語った。

「焦るなよ。慎重にな。

 俺達家族にとって一番大事なのはお前の無事だ」


「心得ました。自分も、仲間も命を大事にします」

 英雄ブライはそう言うや現地の軍隊と協力しつつ旅立ってしまった。


 なお、キャピーちゃんは高度な機械仕掛けの人形劇の開発にご執心の模様で、諸国展示会では「進化した民族芸」として大舞台でナンシー女史と複雑な表情を操る人形劇を披露していた。


「ウチの子達、スゲエ」

「あなたの子ですから」

「だよね~」

「おにーちゃ、おねーちゃ、すごーい!」


 我が子の奮闘を讃えつつリック社長はキリエリア、ゴルゴード、アモルメの文化財のミニチュアを続々と作り上げ、「テレ海」後半を盛り上げる準備を仕込んでいた。


 古代遺跡の地母神ガイア像が地盤沈下で沈む。

 主人公の義弟が我が子を探すが、その地下した像の向うで見知らぬ女の子と、花園で遊んでいる。

 自分の子供時代を思い出し、それもすぐ消えてしまうと涙ぐむ義弟。


 ゴルゴード、かつての大帝国の帝都の復元された黄金楼閣が、人工池に沈む。

 冷静に考えれば有り得ない。激しい地震で池が溢れて枯渇するか楼閣が崩れる筈だ。

 しかしヨーホー特技部と相談し、液状化現象が起きて池に沈み込む、楼閣の頂点を飾る不死鳥が水に飲まれて悲鳴を上げる、そんな演出がなされた。


 丘に幾多の石柱を組んで築き上げられた修道院も崩壊した。

 夕日に照らされる中、石の柱が徐々に圧壊し、最後に崩れ落ちる様は、余りに美しく、儚かった。

 完成作品では避難が終わり無人となった修道院に祈祷歌が流れ、観る者の涙を誘った。


 この古都崩壊は幾多の精巧なミニチュアをリック社長が用意し、製作費はそれだけで3千万デナリ相当と宣伝された。


「材料費だけで5百万デナリはかかってるけどね」

「リックさん!あなたが作ってる時点で物凄い価値があるんですよ!

 いい加減自覚しなさい!」

 セシリア社長がボケるリック社長を諫めた。


「また怒られちゃったー」

「全く!あなたもう40過ぎでしょ?」


 まだ20前の青年みたいな、かつ童顔のリック社長を母親の様に叱るセシリア社長。

 ショーキさんたち特技部が噴き出す。

「ぶはは!リッちゃんはいつまでたってもリッちゃんだなあ」

「ヨーホー特撮も安泰だー!」

「「「わははは!」」」


******


 リック社長はじめ現場の努力を背に、「テレ海」の視聴率は下がって行った。

 やはり後半、国外に脱出したキリエリア、ゴルゴード、マギカ・テラ難民への差別や暴行の描写は、映画版よりも抑えた演出にしたとは言え、テレビには刺激的過ぎた。


 最終回は何とか50%に乗ったが、続編の目は無かった。

 大ヒットを記録した「内海が広がる時」の人気にあやかったトリアンアワーの目論見は、半年で終わった。


「そう言う訳で、また安息日にスプラシリーズを…」

「舐”め”ん”な”ー!!」


 リック社長が、今まで聞いた事のない声で叫んだ。


 トリアン薬品側が何を言っても、マッツォ社長が取り成しても、それっきりリック社長は腕を組んで目を瞑り、何も反応しなかった。


「では、『スプラグラディエ』はこのまま続投。

『ヴェラトラヴィ』終了後、ヨーホー映像の『彗星戦士レジオ』開始。

 先ず26話、好評なら1年間に延期」

 マッツォ社長が何とか場を仕切った。


「では安息日の新番組はどうするんですか?!」

「ヨーホーテレビの新番組を用意します」

「『内海が広がる時』みたいな対策が今から出来るんですか?」

「その規模は出来ませんが、何とか準備します」

「場合によってはキリエリア2やショーウェイに頼む事もありますよ?」


「ちょっと待って!」

 リック社長が声を上げた。

 一瞬トリアン川が助け舟かと期待した、が。


「スプラシリーズの権利は、放送局でもスポンサーでもなく、製作会社にある。

 この王国法務の判定に、異議は許しません」


(しまった!怒らせてはいけない人を怒らせてしまった!)

 トリアン薬品の宣伝部長は後悔した。


 せめて何とかとりつくろわねばと思ったが、リック社長が先に言葉を放った。

「今までこのちっぽけな商会とお取引頂いて感謝します。

 今の作品もまだ続きますが、それが終わった後。

 ご縁があればまたよろしくお願いします」


 深々と頭を下げたリック社長。

(あ。これ、絶縁だ)


 英雄リックの怒気を帯びた気迫を前に、トリアン薬品は何も言えずに下がった。


 もし楽しんで頂けたら、またご感想等などお聞かせ頂けたら大変な励みとなりますのでよろしくお願いいたします。


 なお、活動報告・近況ノートにてモデルとなった実在の作品についての解説を行っていますので、ご興味をお持ちの方はご参照下さい。

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