283.テレビ版「内海が広がる時」
気心の知れた仲間と、勝手知ったる自社でのスプラシリーズの新作が撮影が開始された。
しかし、トリアンアワーではない枠での新作「スプラグラディエ」。
スプラミティスの、スプラセプト譲りの真紅の体に頭の角、肩の鎧が好評だったので、このスタイルの変化球として頭には翼を広げた鳳の様な、冠の様な角が乗るデザインとなった。
胴からひざ下に掛けて体をシャープに見せる銀の線は残り、変身ベルトこそないが、デザインの締めとしてベルトのバックルに当たる位置にスプラグラディエの紋章、スプラクリスタが立体物で付けられた。
特美デザイン、アイディー夫人と練り上げたプロットで製作を開始、既に初期1クール13本の撮影を効率よくこなしていた。
順調に進む製作現場とは裏腹に、リック社長は思っていた。
(10年前とは違う、現実的な物語、写実性に特化した特撮。
これ、相当シビアで夢のない話になってないかな?
これを観た子供達やお客さん、みんながこれからの世の中を良くして行こう、またスプラシリーズ見よう、そう思ってくれるだろうかな?)
そう疑問に思いつつも。
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そんなリック社長が求める姿とは正反対にも見えるテレビ版「内海が広がる時」も、新たなるトリアンアワー、それも1時間枠に拡大(後半は既存のスポンサーとの共同提供枠)で製作は進んでいた。
製作発表は話題になった。
映画版と異なり、主人公と婚約者が青春ドラマで活躍中の俳優になり、二人がほぼ出ずっぱりで物語の中心となる。
メロドラマ要素を足したい、というトリアン薬品の要請であった。
映画では半分神懸った預言者として振舞った、内海沿岸部沈没を予知した科学者だが、主人公の人生の先輩として、あるいは諸国を巡って知り合った旧友や古都を愛する人間味あふれる人物として描かれる事になった。
そしてその場を飾った、各地の名所旧跡のミニチュア群。
製作発表用のレプリカであり、撮影に於いては予備やロングで使われる。
また映画同様2隻の深海調査艇「ポセイドン」と「アトランタ」も映画以上に活躍する。
「なんだかスプラルジェントみたいだなあ」
と揶揄する記者もいたそうだ。
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製作発表に先んじてテレビ版「海広」、略して「テレ海」の特撮班の撮影が始まった。
初回や二回目は、半分が映画同様、海底調査の話だった。
後半は一転して地上、キリエリア北西の主人公の故郷、巨大な古城で有名な街で大地震が起き、2回に分けて古城が壊滅する。
一般的な街並みが地震で崩れる様は映画の帝都震災の一部を再度撮影した様であったが、古城崩壊は相当規模のミニチュアをロングで、アップで崩壊させていく。
円塔や城壁の石組みが再現され、山の斜面が地滑りを起こすと塔も壁も石組みがバラバラとなって崩れ落ちる。
青い空と緑の丘の間に聳える白い石の壁、黒いスレートの尖塔や屋敷が崩れていく。
山頂部の主殿の崩壊は、内部の広間のミニチュアまで作られ、最終的に主人公の幼馴染や旧友たち、故郷の街と共に完全に崩れ去ってしまう。
キリエリア国内で多くの人々愛され、ふるさとの典型的な姿と愛された歴史ある街が、ミニチュアとはいえ崩れ去り、この作品の中では永遠に姿を消してしまったのだ。
一連の特撮は大プールで行われ、オープン撮影ならではの迫力を見せた。
この先行撮影シーンは製作発表会でも上映され、現代的な王都の破壊とは違った衝撃を出席者に披露した。
本編の撮影も開始された。
カルちゃん監督は映画の次回作の構想を求めて参加せず、特撮経験があるジュンちゃん監督、テンさん監督たちヨーホーの中堅監督が何話かを纏めて撮影する。
海底調査を終わった主人公に故郷壊滅、幼馴染死亡が知らされる。
そして見合い話。
ヒロイン、映画より童顔でカワイイ。
脇を固める王国の調査機関には、過去ヨーホー特撮でもおなじみの顔もいて安心感が広がる。
軍の副官、あるいは「スプラQ」で主役を務めたユーちゃん。
宰相役も過去近未来戦記でマイちゃんの上官役を演じた大俳優カッリディス・ビクース氏に交代している。
そんなビークス氏から
「テレビでこうやって演技できるのも、リックさんのお膳立てのお陰ですよ。
あなたはヨーホー映画全員の、大恩人です!」
そう言われた。
「そんな事は…」
リック社長は何故か言葉が続かなかった。
気が付けば、彼は自覚がないまま涙を流していた。
王国の上層部は、過去の特撮映画そのままに重厚な俳優陣によって描かれた。
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初期数話はリック社長の検討用台本を元に撮影用台本が書かれたが、
「もっと我々の社会が根底から崩れ去っていく、心の不安さ、怖さを訴えられないか?」
との意見が上がり、
「じゃあ、あの凄い人に手伝いをお願いしよう」
ショーウェイの「人造戦士メカニコス」で、機械の英雄が正義と悪のはざまに悩み、彼を抹殺せんとする破壊の戦士にすら「何のために生まれて来たのか」と蹉跌を負わせた脚本家を呼び、支援を頼み込んだ。
小さな島が沈む話だったが、人間のエゴを煮詰め、唯一抗った少年が最後濁流にのまれ消えていく壮絶な話だった。
「やっぱり、天才だ…」
「ええ、俺は天才だから」
脚本家氏は堂々と言い放った。
どうやら他のテレビ映画では態度が悪いと途中で追い出された事もあるそうだ。
結局このテレビシリーズは時にメロドラマ、すれ違いを、時に王国による重大な決断や非情な取捨選択を、更にはこの脚本家氏による結構残酷で悲劇的な物語を交えて台本が書き上げられた。
並行して作られたミニチュアも、ポリちゃん監督、デシアス監督、そして次回作構想中のショーキさんもローテーションに加わり、26回で製作費1億デナリ、映画と同じ予算で製作が続けられた。
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テレビ版はご当地が次々と被災するとあって、海底調査、潜水艇の活躍場面が結構増えた。
ポセイドン号は映画未使用のカットをふんだんに使えた。
それでもテレビ映画である以上40数分で抑揚をつける必要があり、浮上できなくなるとか私財を海外に持ち出そうとして沈没した船を探すとか追加撮影が必要になる。
そこで映画版では後半少し登場したアトランタ号が活躍する事になり、時には2隻で協力して危機を脱するという、17th世紀の人形特撮みたいな物語も挿入された。
更にはそれなりの大きさや重量がある調査艇を空輸する大型水上輸送機クロノスまで登場する。
こういうのが大好きなリック社長は嬉々としてミニチュアを作成し、例によって子供達が注目する中庭園鉄道で大プールに運び込んで撮影した。
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そして崩れ去る全国各地。
一体何棟の大型商店や高速道路を突き崩したか。
映画用に作られた地震用のミニチュア台座、自動車のタイヤの上に舞台の板を敷き、工場で使う振動装置で板を揺する装置がそのまま最初に撮影された古城の街同様、ゴルゴードの王城や華麗な貴族館、各地の歴史的な大神殿、古代遺跡の大神像等を崩し去っていく。
「カーット!OK!」
「あー…俺の実家、この大神殿の近くなんだよなあ…」
「先に言えよ!お前の実家も撮ってやったのに!」
「潰されたくないですよ!ははは…」
崩れ去ったミニチュアに、普段ならサッサと片付けに入るスタッフも感情移入してしまっている。
災害描写は原作や映画同様、マギカ・テラ国境線にも及ぶ。
交通の要衝であり、幾度もの条約祭典で発展した国境駅前の目抜き通りが、雪化粧され並び立つ高層建築が大洪水で潰え去るシーンの撮影は、例によっていつのまにかやってきたマキウリア女王陛下が見守る中行われた。
「どうする?リックさん?」
監督のポリちゃんが困ったように相談する。
「予定通り行こう。女王陛下もそれを見に来たんだ」
「畏れ多いって言うかさあ。知りませんよ?
ハーイ!用ー意!スタート!」
洪水用の水槽がスロープを滑り落ち、大通りを囲む高層建築の隙間からあふれ出し、水の量が増していき、ついに高層建築が崩れ始める!
泥水を意にも介さず、滅びゆく自国の姿に女王陛下は
「例え特撮と解っていても、模型に過ぎぬと解っていても。
辛いものよのう…」
「こんな事は起きません。
しかし、もし故郷が滅びる事があったらどう思うか。
これは寓話なんですよ」
「おとぎ話か…本当にお主は…
うむ。我が国に欲しい男よ」
「行きませんて」
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春が来た。
スプラシリーズはトリアンアワーを離れ、休前日へ引っ越す。
トリアンアワーはトリック特技プロも製作協力として名を連ねる「内海の広がる時」が放送される。
まず休前日の、「スプラグラディエ」第一回。
その前にアスペル師作曲の短いファンファーレとともに「変身!特撮アワー!」の、ヨーホーバーサタイルを使った光学合成によるタイトル。
そして続いて、青く光る星空?惑星の様な球体が爆発し、深紅の巨大英雄が現れ、タイトル文字。
その下には
「トリック特技プロ創立10周年作品」と銘打たれていた。
二大怪獣対スプラセプト、宇宙人による敗北、スプラグラディエの助太刀、衛星軌道上の宇宙戦争、大洪水にスプラグラディエ敗北、息も吐かせぬ驚きの連続で次回に続く!
ヨーホーテレビでの、初回放送観賞会に齎された視聴率の速報値、65%。
好スタートだ。
続く「ヴェラトラヴィ」、60%台に回復。
一時期50%台に落ちていたが、巨大英雄アワー効果で視聴率が上がった。
「初回は70%欲しかったなあ」
リック社長は満足行っていない様子だった。
「結構特撮も気合を入れたのだがなあ」
高潮の特撮を指揮したデシアス監督もやや残念そうだ。
しかし1回目の放送を見るためヨーホーテレビに集まった関係者、スポンサーは視聴率回復に大喜びであった。
ようやくお出かけできる様になった赤ちゃん、ヘルムちゃんを抱きながらミーヒャー夫人が喜ぶ。
「昔と違って、今は4局競合の時代です。
スプラシリーズも再開後4作目です。
それで他局を圧倒しての65%。
速報値でこれですから70%近く行くでしょう。
快挙ですよ!」
「そうだね。
俺達は出来る事をやって行こう。
新しい英雄の活躍を祝して、乾杯!!」
「「「乾杯ー!!!」」」
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そして翌日。
「テレ海」初回観賞会。
「速報出ました!70%超えです!」
「「「おおー!!!」」」
「ありがとう!リックさん!」
「いやいや、これはヨーホー作品じゃないですか」
「あの難しい原作の導入部分をこれだけ1時間娯楽番組に仕立て上げたのは、リックさんの技量ですよ!」
「いやいや。映画という下敷きあっての応用技ですって」
テレビでは、10年以上続く安定の「週末にあいましょう」が穏やかに流れていた。
最後にヒットを飛ばしたヨーホー映画20周年記念に続き、トリック特技プロも幸先の良い10周年記念を迎えた。
この時はそう思えた。
もし楽しんで頂けたら、またご感想等などお聞かせ頂けたら大変な励みとなりますのでよろしくお願いいたします。
なお、活動報告・近況ノートにてモデルとなった実在の作品についての解説を行っていますので、ご興味をお持ちの方はご参照下さい。




