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282.「スプラグラディエ」

 昨年秋から放送中の「ヴェラトラヴィ」も冬には視聴率が下降気味で、50%を割る事もあった。

 なんとか地味さを回避すべく、恐竜の色も化石を調査して、生物感のある複数の色やわずかに残るまだらや縞の痕跡を再現してみたが、それも半年となると限界に達した観があった。


 しかし凶暴な肉食古代竜を保護しようと苦心する捕獲作戦、古代竜の孵化を守る戦い等バリエーションの増加、そして年末年始の過去の宇宙警備隊の巨大英雄客演とともに何とか50%台に回復しつつあった。


 そこにスプラシリーズ移動の話し。

 子供達は熱狂した。1時間、新しい巨大変身英雄に会える。

 しかも安息日の前夜にだ。嬉しくて仕方ない。


 そしてトリック玩具の児童向け雑誌や漫画誌が新巨大英雄を紹介する。


******


「やっぱ、鍛える話かな~?」

「三作に亘って主人公の成長を描いたからねー」

「ヴェラトラヴィは大人の英雄だったよね~」

「彼らは古代竜保護って難しい課題を20分で終わらせなきゃいけないから、逆に新鮮だったかもね」


 主人公の成長を描きたいばかりに、時として主人公が幼児退行でもしたかの様な失敗を演じる、そんな作品もあった。

 無論、作劇上破綻している訳ではない。

 子供に慢心と反省、克服を解らせるため、誇張してそう描いているのだ。


 専ら不思議な現象を特撮で魅せたり、それを学術的に解明し解決する過程を描くのが得意なアイディー夫人にとって、こういうアイロニーは苦手だった。


「あたし子供に共感される話、描けないんだよね~」

「『サリーとアン課題』って奴だね」


 無論この世界にそんな進んだ心理学は存在しない。


 しかし今や無数に世に送り出された変身英雄活劇、そしてアニメ。

 子供のための物語で様々な才能が必死に工夫を凝らして幾百の物語を描いている。

 時に論理的に破綻していても、子供の気持ちを勇気ややさしさに導くため、様々な取捨選択がされているのだ。


「今の変身英雄ブーム、児童心理学の壮大な社会実験なのになあ。

 研究する人いないかなあー、差別化するが楽になるかも知れないのになあ」


「ずいぶん難しいお話しになっちゃうのですね?」

 アイラ夫人がワインを運んで来る。

「今度のはもっと簡単だよ。

 宇宙侵略戦争で故郷も家族も仲間も全て失った英雄スプラグラディエが、地球を第二の故郷として守るんだ」


 最初地球を守りに来たスプラセプトが、凶悪な強敵を前に倒れ変身できなくなった。

 スプラセプトを助けに来たスプラグラディエだが、復讐のあまり無謀な戦いを挑みがちだ。

 彼の無茶や自暴自棄を諫め、共に敵を倒していき、ついに故郷を滅ぼした仇敵を討ち果たす。

 そして後半宇宙へ旅立ち、多くの星を救い宇宙侵略戦争を鎮める、という構想だ。


「もっとも、更に凶悪な無生物っぽい敵が地球防衛チームを全滅させて、スプラセプトすら死んで、スプラグラディエが一人で地球を守るって案もあるけどね」

「そ、それ、イヤ~」

「だよねー。

 余程製作費が出なくなったらそうせざるを得ないけど、そうならない様頑張ろう!」


 こうして「スプラグラディエ」の撮影が始まった。


******


 前作「スプラミティス」の最終回は、主人公を兄のように慕い、スプラミティスを絶対視していた少年が父を失う。

 主人公の恩人でもある国際輸送船の船長が怪獣と宇宙人の襲撃で死亡し、少年は絶望と失意、逆恨みにさいなまれる。


「君は弱虫だ!心のどこかでスプラミティスに助けて欲しいと思ってたんだ」

 主人公は少年に容赦ない言葉を投げかける。

「これを見給え。これはスプラ・ガイナから貰った神の様な力だ」

 変身バッチを少年に見せ

「そうだ。僕はスプラミティスだ。

 君にお父さんやスプラミティスの事を忘れて一人で生きていく大変な事を、君一人だけにはさせない。

 僕も一人の人間として生きて見せる」


 主人公は彼の心を救うため、自分がスプラミティスである事を告白し、神々に愛された力を母と慕うスプラ・ガイナへ帰す。


 空に現れたスプラ・ガイナが主人公に優しく語り掛ける。

「ルキスさん。とうとうあなたも見つけましたね。

 神の様な力の代りに、あなたは生きる喜びを知ったのよ。

 さようなら、スプラミティス」


 スプラ・ガイナは主人公の決意と、その勇敢な行動を讃え姿を消した。

 そして仇の宇宙人を高純度宇宙燃料基地へおびき出し銃撃、二人で力を合わせて消し炭となるまで焼き尽くした。


 少年の心は晴れ、一人で生きていく決意を固めた。


 主人公もDCNを離れ、一人修行の旅に戻る。

 王都の雑踏の中で小さい女の子とぶつかりそうになりながらも

「お!風船か。いいなあ!」

と笑顔を交わし、雑踏の中に一人の人間として混じっていく。


******


「いーい最終回じゃないの!」

 何故かセワーシャ夫人が喜んだ。


「大体はね、リックきゅんが考えたの。

 あたしじゃあんないい話、思いつかなかったよ~」

「はは。俺も異世界の記憶頼りなんだけどー。

 でもちょっと放り投げ過ぎだったかな?」


「何言ってんの!大事な使命を終えて今までの大変なしがらみがなくなるなんてステキよね!」

「お前、まだ神殿からアレコレ頼まれるからなあ」

「そーよ!全くテメェらで何とかしろっての!」

 色々相当溜っている元聖女様であった。


「しかしだ。スプラミティスは主人公と一心同体。

 その神々の様な連中に愛された力だけ返して、スプラミティスはどうなったんだ?」

「それは、暫くは子供達に考えて貰おう」


 リック社長は、あえて結論をボカした。


 後日、児童雑誌で「スプラミティスはどうなったのか考えよう!」と投票が行われたが、一番多かったのが「宇宙警備隊員として他の星を守っている」というもの。


「今はルキスと離れているけど、いつかまた一緒になって戦う」という声は意外と少なかった。

「う~、やっぱ難しかったかな~?」

 アイディー夫人は二つの魂が融合して生まれたスプラミティスから主人公が離れた今、スプラミティスは消えていると考えていた。


「他のシリーズの結末に引っ張られるよね。

 でも復活する事がるなら、ちゃんと主人公とまた一つになって、別々の道に向かう様独立する話を描きたいね」

 どうやら異世界ではそういう話は存在しなかった様である。


 この最終回は試写では微妙な反応だった。

 しかし、神懸った超人的な力を捨てて人間として戦う、という本作の隠れたテーマを結実させた爽快感は理解して貰えた様で、試写後にポツポツとそんな声が聞えて来た。


******


 そして「スプラグラディエ」の撮影が始まった。


「内海が広がる時」の影響を受けて、初回・二回目の連続で曇天、大洪水の特撮シーンが売りとなる。

 初回とあって津波を呼ぶ双子怪獣と、スプラグラディエの故郷を滅ぼした凶悪な宇宙人、三体出現と贅沢な構成だ。

 

 故郷を失った主人公、彼の怒りや憎しみを諫め、敵を冷静に見つめる様諭すスプラセプト、宇宙部隊CSSのバレッド隊長。

 初回では破れ、それでも地球の少年少女、友人の笑顔に包まれ、彼らを守るべくバレット隊長に教えを乞うグラディエ。

 彼はCSSに入隊する。


 CSSは衛星軌道上に基地が点在する。

 その姿は複数のロケットと、翼の様な太陽電池、そして円筒状の居住区が組み合わさった姿だ。


 CSSの宇宙迎撃艇サテラハスターは今までの銀色と異なり、地球と往還するため、硬化磁器を纏ったと設定し、白と黒を基調にして、明暗をきつくした照明で撮影された。

 前作のDCNのカラフルな未来兵器?とは180度違う方向で進化した。

 

 再度襲撃する怪獣、侵略者。

 襲撃する敵宇宙船団はCSSが迎撃する。

 怪獣母艦は地球に侵入、再び双子怪獣が暴れまわる。


 竜巻を起こし高潮で都会を水没させんとする双子怪獣。

 テレビでは珍しい、非常に手間がかかる洪水の特撮。

 現実の再現に拘った「海広」と違い、こちらは見かけ重視で、高層建築が高潮に殴り倒されて行く。


 特訓の末双子怪獣の旋回攻撃と同調した主人公が変身、宇宙人の妨害に遭いながらも双子怪獣の旋回の中心に回り込み、高速回転し怪獣の首を刎ね飛ばした!


 逃亡を図る侵略者をCSSが攻撃、グラディエに捕らえられた侵略者はボッコボコにされ必殺光線の藻屑と消えた。


 平和に戻った街、主人公を慕う兄妹が元気に遊ぶ。

「ストリ。この平和はお前が守ったんだ」

 一つの任務を終えた宇宙人たちは、地球を守る決意を新たにした。


******


 今まで以上に現実味を帯びた宇宙特撮、そして「海広」譲りの天変地異。

 ややもすると怪獣のインパクトが薄れがちながら、二大怪獣と宇宙人の波状攻撃。

 スプラセプトがまさかの敗北に、新英雄の苦闘と勝利。


「ずいぶんと苦い仕上がりになりましたね」

「『ヴェラトラヴィ』が割と優しさや知性に軸足を置いているんで、『スプラグラディエ』は激しさと厳しさに振り切りました」


 三回目では、何と主人公を慕う兄妹の父、母亡き後男手一つで二人を育てて来た父が兄妹の目の前で侵略星人に斬殺される。

 兄は宇宙人への復讐に燃えるが、主人公が彼の怒りを背負って侵略星人を討ち果たす。

 他にも両親が侵略星人に目の前で撲殺された少年が宇宙人への怒りに捕らわれる話、心優しい宇宙人と友達になった少年だがグラディエが宇宙人を殺してしまう話などが続いた。


 優しく、古代神話を諧謔的に扱ったコミカルな前作と一転して、悲惨で過酷な話が続く。


「『ヴェラトラヴィ』が終わりに近づいたら、軌道修正かなー」

 のほほんとリック社長はそう考えつつ、検討用台本を次々と書き上げた。


 自社用ではなく、テレビ版「海が広がる時」の台本である。


 安息日の夜に、映画の「海広」の様な息つく暇もない空想科学、重厚な政治科学物語を長々と語っても、そんなの誰も見なくなる。


 かつて居酒屋や食堂のテレビで「スプラQ」を大勢で見てわいわい楽しんだ様な、どこかゆるい楽しさがテレビ映画には求められる。

 緩すぎると台無しなので匙加減は必要だ。


 それに今やキリエリア国内各地から、いや他国からも人が集まる王都レイソンだ。

 舞台となるキリエリア、ゴルゴード、マギカ・テラ、更にアモルメやボウ帝国東南部にも許可を取って災害描写を増やした。


 どちらかと言うと惨劇と言うよりも、

「もし故郷に帰れなくなったら?故郷がなくなってしまったら?」

という郷愁の気持ちを込めて、郷土愛の裏返しの様に各地の崩壊を特撮で描こう、そう思いつつ26回半年分の構想をピヌス氏に渡し、台本として膨らませて行った。


 いくら劇場版のフィルムが使いまわせるとは言え、人間ドラマ即ち本編と密接なつながりが求められる以上、かなりの新撮特撮シーンが必要だ。

 ましてや各地ご当地名所旧跡が次々沈みます、お楽しみに、とあれば流用場面など全体の1、2割程度と考えた方が予算、スケジュール計算には良い。


 そう割り切って台本と特撮スケッチを考えるリック社長だった。


「あんま俺がやりすぎるとショーキさん怒るかなー?」

 と、ヘンな心配をしつつ。

 もし楽しんで頂けたら、またご感想等などお聞かせ頂けたら大変な励みとなりますのでよろしくお願いいたします。


 なお、活動報告・近況ノートにてモデルとなった実在の作品についての解説を行っていますので、ご興味をお持ちの方はご参照下さい。

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― 新着の感想 ―
>硬化磁器を纏った白黒の機体 スペースシャトルの耐熱タイルを思わせるリアリティ! 子供たちの目にはさぞ新鮮に映ることでしょう。
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