281.幻の『トリック特技プロ創立10周年アワー』
トリック特技プロダクション創立10周年を迎えた冬。
トリアン薬品の宣伝部がヨーホー映画に出向き、マッツォ社長、セシリア社長、ショーキさん、カルちゃん、原作のフルさん、そしてリック嘱託、いやリック社長に質問した。
「ナイショの話でお願いしますけどね。
『内海が広がる時』をテレビで、出来れば1時間枠で出来ないかと思いまして。
あれだけ映画が当たったんだ。毎週キリエリアやゴルゴード、マギカ・テラの名所旧跡や大都市が沈みます、お楽しみに、って」
「そんな簡単に…映画も大変だったんですよ?どうですショーキ監督」
「やれと言われればやります!」
フルさんの反論を遮ったのはショーキさんだ。
後年
「やれと言われてやります、と答える以外の道は職業人には無いんだよ。
どうやるかは後で考える」
と宣言した彼だ。
断る道はなかった。
しかしフルさんは違った。
「私は拒否します。
原作の漫画はお読みになりましたか?
テレビ映画にしても、地学の説明だけの話、海底だけの話、政治だけの話。
45分でぶった切っても、面白い訳がない。
ましてや特撮の見せ場になるのは後半からです。
王都大地震の前に打ち切りになりますよ」
「だからそういう理詰めの話を短めに、予兆としての名所災害を前出しにしてですね」
「それはもう私の作品じゃありません。
他の誰かに書かせれば宜しい!」
席を立とうとしたフルさんをリック社長が止めた。
「人気が出た以上、結末を見届けるのも作者の責任じゃないですか?」
そう言われて、フルさんは考え込んだ。そして。
「…リック社長にお願いしてもいいのなら」
意外な返事だった。
「駄目でしょ!
俺がやったら毎回大地震でミニチュアぶっ壊し!
潜水艇大活躍!
スプラシリーズみたくなっちゃうよ?」
珍しく自己否定するリック社長だが、余程その驚きっぷりが面白かったのか
「ぶははは!いいですよ。
リック社長なら内海が隆起してキリエリアが一大帝国になってもお任せします!
主人公と婚約者のすれ違いメロドラマになっても許しましょう!
その代わり原作料はちゃんと下さいよ!」
(あー…こりゃ相当疲れてるなあ。
後から絶対色々恨み事言われるけど。
それも仕方ないや)
リック社長は、真に受けた。
「ちゃんと払います。
ですから、ちゃんと休んで下さい。
ダッチャーでもマギカ・テラでも、ゆっくりできる旅館にアゴアシ付きでご招待しますよ」
「ははは嬉しいなあ、じゃお願いしますよ!」
そう言ってフルさんは早々に立ち去ってしまった。
「時間がありません、すぐ製作見積とスケジュールに取り組みましょう!」
「いや、これはヨーホーテレビの作品ですので…」
「フルさんは私に任せてくれたんです。
なんなら20周年ついでにノンクレジット無給でもいいですんで、任された責任を全うさせて…」
その時、マッツォ社長が怒鳴った。
「あなたは安請け合いし過ぎる!自分を安売りしすぎる!
もっと自分の価値を認めるべきだ!
おんぶに抱っこな俺達も最低だが、あなたももっと俺達に訴えるべきだ!」
この、リック社長という人の、作品に対する意気込み。
それ以外への無頓着さ。
そしてマッツォ社長の、リック社長への感謝の念。
(迂闊にスプラシリーズを止めるとか言うべきじゃなかったなあ)
トリアン薬品の一同は激しく後悔した。
「兎に角ピヌス先生の旅費も含めてヨーホーの責任です!
あなたが自分で負担すべきものじゃありません!
それにキッチリあなたにも、トリック特技プロにも払うべきものは払います!」
マッツォ社長は目頭が熱くなっていた。
ショーキさんもリック社長の肩を優しく叩いた。
「ちゃんと人の厚意は受け取れよ、リッちゃん」
「わかりました。会社としてお受けします」
「お願いします!!」
マッツォ社長の顔がほころんだ。
「それはいいけど?」
今度はセシリア社長が怖い顔をトリアン製薬へ向けた。
「今まで長年お世話になったスプラシリーズにお役御免とは、少々つれなさ過ぎやしませんの?」
「その件ですが、ヨーホーテレビで空いている枠があれば、他社共同提供でも現状並みの予算を補填して…」
「空きなんてありますか?
もう3、いや2ケ月後ですよ?
リックさんももう製作に打ち込んでいるそうじゃないですか」
「そこは多少調整して…」
「まあまあセシリア社長。
打ち切られて当たり前のこの業界、後番組の行く先を案じて貰えるだけでもありがたい事ですよ」
「リックさん!
あなたさっき安売りするなって言われたばかりでしょ!」
セシリア社長が怒った。
もうそれは子を叱る母の様であった。
「叱られちゃったー」
「トリアンさん。
さっき同等の製作費を保証って言いましたね?」
この混乱をマッツォ社長が治めた。
「え、はい」
「それでしたら私に考えがありますので、とりあえずスプラシリーズへの出資は引き続きお願いします」
「考えとは?」
「今後の調整次第です。
今年のスプラシリーズはヨーホーテレビが責任を持って続けます」
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リック社長は自社で顛末を報告した。
「随分酷い言い分ね!」
「トリアンも二度目だからなあ。信用できなくなってきたな」
「ス、スポンサーなんてそんなもんだよ~」
「みなさん冷静になりましょう。
『スプラグラディエ』の製作は続けましょう。
そしてマッツォさんの考えに期待するしかありません」
体調が回復したミーヒャー夫人が復帰し、新番組と「ヴェラトラヴィ」後半の製作を仕切っていた。
リック社長の厳命で1日半日勤務、アイラ夫人と二人三脚である。
「最悪は損害賠償訴訟と、完成したフィルムの他局への売却だ。
先ずはミーヒャーさんの言う通りマッツォ社長の結論を待とう」
「こんなところでリックの頑張りが帰って来るとはねえ」
セワーシャ夫人はそう言うが、デシアス監督は納得行かなかった。
「そもそも主がおらねばヨーホー20周年の特撮2作は影も形も無かったのだ!
この程度で恩返し面されては適わん!」
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「そもそもリックさんがいなければヨーホー20周年の特撮2作は影も形も無かったのです!
この程度恩返しの内にもなりません!」
休前日19時台の新番組が決まらず、この時間にスプラシリーズを移動しようとマッツォ社長は局内、そしてスポンサーたちに掛け合った。
主演予定の俳優にスキャンダルがあり、製作が頓挫してしまったのだ。
そこそこ出演料が高かったのでヨーホーテレビとしても頭痛の種だったのだが。
「『スプラルジェント』の新作と『ヴェラトラヴィ』、トリック特技プロの巨大特撮英雄番組で1時間、子供達に休前日の夢の1時間をプレゼント!
そして安息日の19時から1時間で『内海の広がる時』!」
この特撮テレビ映画大攻勢は受け入れられた。
昨年末の、それまでパっとしなかったヨーホー映画20周年記念を大逆転でヒットさせた特撮の力に関係者もスポンサーも縋った。
そしてトリアン薬品を休前日のスポンサーに無理やり割り込ませて何とか製作費を捻出し、マッツォ社長はリック社長との約束を果たしたのだった。
「いやー助かりました。一時はスプラシリーズのタイトル外して別番組として売り出そうかと」
「それはやめて下さいって。
ところで提案があります」
「はて?」
「休前日19時の1時間、『トリック特技プロ創立10周年アワー』として銘打つのはどうでしょう?!」
「恥ずかしいのでヤです」
「まあ皆さんに聞いてみて下さいよ」
「だって秋にはヨーホーの巨大英雄始めるんでしょ?」
「それをリックさんにお願いしてもいいと思ってます」
兎に角自社に戻り仲間達に相談したところ
「やりましょう!スゴイわー!
スターになった気分ですー!!」
「自社2作1時間か!大したもんだな!」
「大きな花火じゃないですか!あなた素敵です!」
みんな賛成だったが。
「来年も続きゃ~い~けどね~」
「何よディー!縁起でもないわね!」
先が見えているアイディー夫人は違った様だ。
「いや、ディーの言う通りだ。
今年もマッツォさんの口利きで何とかなったんだ。
一歩間違えればスプラシリーズは9周年でオシマイだったんだよ」
「ほんとリックは目立つのキライよねえ」
「それが主という人なのだ」
こうしてこの1時間は「変身!特撮アワー!」に留める事とし、2作のアバンタイトルに「トリック特技プロダクション10周年記念作品」と、タイトル文字と同じオプチカル合成で銘打つ事となった。
そしてヨーホーテレビ、ヨーホー映像からトリック特技プロに、テレビ版『内海が広がる時』の製作協力が正式に発注される事となった。
リック社長はテレビ用のプロット集を纏め、温泉保養中のフクさんの下へ飛んで、
「あ~も~お任せしますよ~」
と半分温泉に溶けたフクさんから了解を得たのだった。
(これ絶対後で恨み言ネチネチ言われる奴だなあ)
ここは一丁、牽制に
「視聴率高かったら後半半年は『内海が広がった後に』をシリーズ化するそうですよー」
と言ってやろうかと思ったものの。
あまりにもノンビリした姿にそれを言うのは気の毒になって言葉を引っ込めた。
もし楽しんで頂けたら、またご感想等などお聞かせ頂けたら大変な励みとなりますのでよろしくお願いいたします。
なお、活動報告・近況ノートにてモデルとなった実在の作品についての解説を行っていますので、ご興味をお持ちの方はご参照下さい。




