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280.30周年と10周年

 超大作「内海が広がる時」は、カルちゃん監督の不満を幾つか解消して、創立20周年も過ぎた翌21年早々に全国公開された。


 ロードショーや試写による反響はかなりのものだった。

 延長公開を終えた結果、興行成績は過去最高だった「快猿王対ゴドラン」を遥かにしのぎ、「キリエリアの祭典」をも超え、何と世界各国で30億デナリを記録した。


「特撮やっててよかったよ!」

とショーキさん。


 フルクトゥ・ピヌス氏、フクちゃんはマンガがバカ売れし、所得税8割を記録した。

 一躍長者となったフクちゃんは

「リックさん、恨みますからね!」

と半笑いで言った。

 累進課税はリック嘱託が王国に献策したものだからだ。


******


 一方SF作家を標榜するフォルちゃんも潤っていた。

「マキナゴドラン」の大ヒットで金一封が出たからだ。


「ゴドラン対マキナゴドラン」も、その描写のシャープさ、決闘のスピーディーさで大ヒットした。

 製作費9千万デナリに対して、興業収入15億デナリ。

 前作「ゴドラン・トルドー・機械怪獣軍 極大魔法殲滅戦」の11億デナリを超える事が出来た。


 何より、マキナゴドランの主題曲がそれまでの怪獣音楽を完全に無視した、ビッグバンドによるノリノリの現代音楽だった。

 ゴドランの主題は鳴りを潜め、このスピーディでハイテンポな、金管楽器と打楽器主体の演奏が、完全に新怪獣マキナゴドランが主役であるかの様に嬉々として朗々として謳い上げていた。


 例の雑なコンテ通りに編集された無茶苦茶スピーディなマキナゴドランの光線ロケット滅多撃ちにノリノリの音楽である。


「ウヒャー!カッチョエー!ヒョー!」

 録音スタジオで演奏が終わり、リック助監はあまりのカッコよさにスタジオ外に飛び出してのたうち回っていた程だった。


 子供達は、そしてかつてゴドランに夢中になっていた青年たちは、今や入場料が昔の倍になった劇場に何度も通った。


 トリック玩具の精密なマキナゴドラン人形、そして「変身マキノイド1」もまたバカ売れした。

「年末のオモチャ再利用、予算が増えるねえ」とリック社長は喜色満面だった。


 なお、「内海が広がる時」に登場した深海潜水艇「ポセイドン」と「アトランタ」の模型も発売されたが、あまりに地味で現実的なデザインだったせいかイマイチ売れなかった。


 一方音盤は両作品とも売れまくった。

 今まで特撮音盤はナート師の独走だったが、今年ばかりはヴィンさんが絶好調だ。


「ゴドラン対マキナゴドラン」、あの劇中の祈祷歌…?ムード歌謡?、そして絶叫が入るマキナゴドランの主題歌。

 安価で短時間の主題歌二曲、それにタイトル曲とマキナゴドラン主題曲が入った廉価版は庶民層にバカ売れした。


 貴族層には毎度の通りほぼ劇伴全曲の長尺音盤が例年以上に売れた。


「内海が広がる時」も主題歌こそなかったが、主要数曲を収録した廉価版がバカ売れした。


******


 30周年が空けたヨーホー映画全社での論功行賞が社長会議で行われた。


「創立30周年ギリギリの立役者はリックさんですよ!」

「いや、俺は関係ないよ」

「何を言うんですか!

 海広の構想もスタッフ増強の工面も、マキナゴドランの造形もあの短期間での完成も、あなたがいなかったら無理でした。

 キチンと表彰させて下さい」


 いつもの様に、セシリア、マッツォ両社長とリック嘱託の押し問答。


「他の作品で30周年を飾ってくれた方々に申し訳ない。

 これから頼るべきは俺じゃない、彼らだし、ショーキさんやポリちゃんだ。

 フクちゃんやフォルさんみたいな才能だ。


 第一俺が逆恨みされちまいますよ」


 実際、セプタニマ監督なき今、他の監督たちが頑張った30周年。

 苦戦した挙句、左程のヒットを飛ばした作品が出なかったのだ。


 そこに、暮れになってリック嘱託の二企画が大ヒットを攫って行ってしまったのだ。


 一部ではリック嘱託に対して

「映画の道を終わらせてスタッフを予算の少ないテレビへ送り込んだ張本人」

という、まるで筋違いな陰口を叩く人もいる。

 まあテレビでスプラシリーズなどヒットさせている以上、色々やっかみたくもなるというものだろう。


 結局、30周年記念の祝賀はリック嘱託と英雄チームなしで祝われた。


 招待された各界の有力者や報道は

「リック監督は出席されていないのですか?」

「『内海が広がる時』も『ゴドラン対マキナゴドラン』もリック監督の作品では?」

 とマッツォ社長に詰めかけたが

「『内海』はカルタ・シルバ、ショーキ・ネクス両監督、『マキナゴドラン』はジュン・フェリチ、ポリタニオ・コスモ両監督の作品です。

 それぞれの発想はフルクトゥ・ピヌス先生、フルクトゥ・フォルティナ先生による物です。

 ヨーホー映画は彼らを表彰しました。

 それが全てです」


 知名度の高いリック監督不在とあって、報道は二作品四監督に光を宛てざるを得なかった。


 結果として、リック監督が不在でもヨーホー特撮の健在を示し、「ヨーホー映画新時代」を印象付ける事が出来たのであった。


******


「無欲は大欲に似たり、って言うけどさあ」

「マキナゴドランは主なくして有り得ぬ作品だったであろう!」

「いーかげんそれがリックだって悟んなさいよ!

 それよりデシアス!ミーちゃんどうしたのよ!」


 ジッセイダー家の長男、ヘルムちゃんは無事元気に生まれた。

 姉のマーニャちゃんがベッタベタに、両家の実家もベッタベタにひっついて喜んでいる。


「我が孫こそ時代の剣聖となるであろうー!うがー!」

 デシアスの父親がそう叫んだが

「我が息子は本人の志す道を進むのだ!父上であろうと邪魔だては許さぬ!」

とデシアスが反対した。


「…お前が言うなら、そうするか」

 あっさり引き下がった父親であった。


「せめて英雄にして大富豪リックさんのお嬢さんをお嫁さんにー!」

 今度はミーヒャー夫人の母親がフィーバーしたが

「当人同士の問題です!」

「そ、そうよね~」

 これまたあっさり引き下がった。


「色々案じてくれているのだろうが」

「大事なのはこの子の想いですよね?」

 夫婦で生まれたばかりのヘルムちゃんを慈しむ。


「かわいーよねー」

 お姉ちゃんになったマーニャちゃんも、赤ちゃんを眺めてニコニコしている。

「ふあぁ~」

「さあ、マーニャはパパとお休みだ」「ママがいい~」

 そういいつつ、うとうとするマーニャちゃん。


「すまない、ヘルムの夜泣きは君と家人に任る」

「いいのよ。マーニャちゃんをお願いね」


 実に仲良しな夫婦であった。


 そんなジッセイダー家を遠くから眺めつつ

(仲間の家族が増えて、喜びが増える。

 こんなうれしい事、これ以上ないよ!

 お父さん、お母さん。そして、もう一人のお父さん)


 心の中で亡き親達に感謝するリック社長だった。


******


 無事ヨーホー映画が30周年記念を果たし終え、年が明けた祝宴の後、ヨーホー特技プロでは、渋すぎる新作変身英雄番組が健闘しつつ中盤に差し掛かっていた。


「ヴェラトラヴィ」である。

 実際に化石が発掘された古代竜を再現したヌイグルミが毎回登場し、その生態にまで説明した作品だ。


 初期は凶悪な肉食竜とヴェラトラヴィの戦い。


 途中から平穏な草食竜を肉食竜から守る戦い。

 宇宙人が古代竜を怪獣兵器に使用しようとする悲劇。


 更には、肉食竜も何とか保護できないか予算確保に奮闘するコミカルな話。

 人工衛星で古代竜の生息地を探ろうとする宇宙公社と予算の無駄遣いだと批判する知識層の衝突なんていう異色作も打ち出された。


 アイディー夫人による多くのアイデアが変身英雄戦国時代に挑み、何とか視聴率は50%台を維持してきた。


 そして「スプラミティス」、多くの神々の様な超越者と戦い、あるいは寵愛を受け戦って来たスプラミティス。

 終盤は神話の中でも不条理と胸糞悪い話を彼が力技で大団円に持って行く大胆な物語が書かれた。


 これまた原案はアイディー夫人だが、若手脚本家がノリノリで翻案し陰鬱さを最後に吹き飛ばす物語として完成させた。

 冬至には6人のスプラルジェントと、他の宇宙警備隊の変身英雄も友情出演し、4放送局が並ぶ今では珍しくなった視聴率70%近くをはじき出した。



******


 この後を受けるトリアンアワーだが。

 スプラシリーズで行くか、他で行くか、年が明けてからトリアン薬品側で迷いが生じた。


 無論トリック特技プロでは次回作の企画としてスプラシリーズありきで特美デザイン、プロット製作は進めていた。


 そしてトンでもない事を言って来た。

「『内海が広がる時』、あれ、テレビで出来んものかね?」

「「「はあ?」」」


 こうして波乱のトリック特技プロ10周年記念作品が始まった。

 もし楽しんで頂けたら、またご感想等などお聞かせ頂けたら大変な励みとなりますのでよろしくお願いいたします。


 なお、活動報告・近況ノートにてモデルとなった実在の作品についての解説を行っていますので、ご興味をお持ちの方はご参照下さい。

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― 新着の感想 ―
ジジババが孫に浮かれてはしゃぐ姿は微笑ましいものです。 テレビ版かーこちらではどうなりますかねえ?
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