274.周年記念作品
トリック特技プロでは新作の企画が続いていた。
ヨーホー映像では「海広」の撮影が怒号とともに続いていた。
そして、気付けばトリック特技プロは来年が創立10周年記念。
という事は、ヨーホー映画は今年創立30周年記念。
まあ、分社化とかいろいろあった。
同時に災害の年でもあり、世間ではお祭り騒ぎはいかがなものかと憚られた。
それでも何も無しという訳にも行かず、他の監督陣も色々な歴史劇を用意している。
ただ、超大作「海広」は年内後悔は困難と見られていた。
監督がセプタニマ監督譲りの完璧主義者のカルちゃんという事もあって、自然ゴドランに期待が寄せられたのだ。
「ゴドランは無理かしら?」
「無理です」
「考える余地もないのかしら?」
久々にリック邸にやって来たセシリア社長。温泉を堪能して早々に仕事の話である。
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ゴドラン、トルドー共演の続編を望む声は大きかった。
しかしジャイエン互助会が利益分配で揉めてしまった。
互助会立ち上げに非協力的だった元社員や大俳優たちが集まって来て、主導権を寄越す様言い出したのだ。
互助会もここで組織再編のために動けばよかったのかもしれない。
しかし縄張り争いとなってしまい、まともな折衝の場は設けられなかった。
このためアッカリダ監督は互助会に見切りをつけた。
「リックさん、ご助力頂いたのこんな馬鹿々々しい結果になってに申し訳ない!」
確かに後発組の言い分は一理も無い言いがかりだった。
だからこそリック社長は言いたかった。
「いや、少なくとも安定した環境にジャイエンの遺産を保管した功績は大きい。
今は斜陽の映画界でも、数年もすればかつての名作が残した力の大きさが、世間で必ず再評価されます。
これに投資する会社も出るでしょう。
あなたはその先鞭をつけたんです!」
アッカリダ監督や会頭を始め、互助会を抜けた実力あるスタッフは国際特撮と合流し、国際テレビと改称してマギカ・テラ、そしてアモルメへ製作協力(下請け)を売り出した。
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「こうなるとトルドーは火中の栗ね。これ以上手を出せないわ」
代替案として真っ先に出たのが「ゴドラン対スプラルジェント」だが、ナントカ氏が秒で断った。
例によって
「何故今ゴドランか」と言い出した。
交渉に駆り出されたリック社長。
「じゃあスプラシリーズからヨーホー映像は撤退します」
と、今では挨拶みたいになった定型句を放った。
「ははは、スプラシリーズも終わりだよね~」
「何他人事みたいに言ってんだ!お前の作品だろうが!」
「他人事だもんねー。
ウチもヨーホー映像の協力無きゃスプラシリーズなんてできないしー」
「ちょちょちょ待て待て待ってー!スプボンテ、クビー!!」
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それでもクビにならない位ナントカ氏は人気番組を多数抱えて第二放送局の視聴率を支えていたのだ。
そこでついに
「ヨーホーが作る作品はヨーホーで放送する」
とマッツォ社長によって製作会社引き揚げ宣言がなさた。
長年王国の週末を彩っていた国民のお楽しみだった「週末にあいましょう」「都会の季節」両作品がヨーホーテレビに引き上げる事となった。
この結果、トリアン薬品も激怒し、トリアンアワーまでもヨーホーテレビへ枠を移す事となった。
ナントカ氏は編成局長の座を失い、一介の製作部員に降格された。
週末夜の視聴率はヨーホーが60%を確保し、キリエリア2は10%台にまで落ち、これにショーウェイテレビが5%前後で続く結果となった。
キリエリア2は過去のスプラシリーズの権利を訴えたが、ナントカ氏の高圧的な発言が議事録に残り、法に反する脅迫として却下、企画立案や出資の経緯も鑑みてトリック特技プロへの帰属が認められた。
「あーあ。もーちょと融通が効けばあのナントカももっと成功したのになー」
「他人事みたいに言うなあ」
「だって他人事だもん。しかし今までの恩、ってのもあるしなあ」
そう思い、今や一介の部員となったナントカ氏…とではなく、「スプラQ」をともに立ち上げたカコイー局長に打診した結果、平日朝の子供向け教育番組の枠内で、ゴムスーツのヒーローと過去の怪獣のヌイグルミが単純に戦う、それも1週間かけて1~2匹を倒すという「帯番組」が決定した。
それが「ビラルーバ(紅の人)」。
デザインはリック社長がチャチャっと描き上げた。
1回5分、本編ナシ、ひたすら変身英雄と怪獣がド突き会うというものだ。
「それ、教育か?」
と思いつつ、若手スタッフの研修を兼ねて、近郊に一泊で一話=五回分を撮影する様頼んだ。
勿論予算も少なく、16mm。
新しい変身…いや、本編が無く変身もしない、イキナリ出て来る巨大…屋外で暴れるダケでセットも数少ないので巨大かどうだか、一応巨大らしい英雄が怪獣のヌイグルミとド突き会う。
それでも若いスタッフが夜中にこっそりスタジオに入って、光線技のポーズを撮影、怪獣もそれを受けて爆発寸前、なんてシーンを撮り、古いエリアル合成機を16mm用に改造して光線を書き足す。
更にあまりにも内容が無い事に呆れた監督?がリック社長に相談した。
せめて子供に何かを教えようと、リック監督が秒で撮影メモを描いた。
過去怪獣の特徴をビラルーバが思い出し、実在の動物をヒントに弱点を見出し、逆転して勝利するという内容に変えた。
かつて「1秒以内なら見逃す」ルールを使って、時にはスプラルジェントやスプラセプトが助けに来る回も撮った。
無論リック社長の入れ知恵で、誰も何も突っ込まなかった。
そんな現場の努力もあって、何故か大人気に。
「来年もお願いしますー!出来れば新英雄でー!」
「どうしてこうなった?!」
その後、この朝の教育番組「おはよう!子供アワー」で数年続く、毎年新英雄に交代する看板企画になってしまうとは、流石のリック社長も頭を抱える程に理解出来なかったのだった。
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一方、ゴドラン。
やはり内外から続投を望む声や出資の申し出が多く、マッツォ社長も断り切れずにいた。
よってわざわざセシリア社長がトリック特技プロに協力を求めに再びやって来た。
「1799と内海への支援、それにテレビの新作を抱えてゴドランはきついですよ」
「なんとかならないかしら?」
「企画が何かグっとくるもので、撮影も短期で済み、話題性がある…
前案が出たゴドランの息子か、その子供が人間の子供と弱いものに暴行するヤツをやっつけるテレビ外伝とか」
「それはいくらなんでもどうもねえ」
「じゃあ、トレスヒーローの後番組に考えられてた、スプラルジェントみたいな変身英雄がゴドランと協力して侵略者と戦う話にしては?」
「それならゴドランとスプラルジェントが共演するんでいいじゃない?」
「う~ん。
全怪獣共演、他社怪獣共演、そんで変身英雄共演って、独自性ないですよね」
「痛い所ね」
二人の夫人がワインを供する中、色々雑多な企画が検討されては消えていく。
結局そのまま夕食を共にし、ミーヒャ-夫人以外の英雄チームも集まっての宴となった。
「今の特技部にも考えて貰いましょう」
「じゃあ俺はトリック玩具のマンガ家さん達に声をかけてみます」
という事に決まった。
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セシリア社長が特技部に行けば
「マキナゴドランってどうでしょう?!」
と助監のポリちゃん。
「コラ!勝手な事言うな!今どこにそんな余裕あるんだよ!」
早速ショーキさんに怒られた。
「リッちゃんが本気出しゃ、行けるんじゃないっすか?」
「リッちゃんは他社の社長で、ヨーホーじゃ嘱託だ。
おんぶに抱っこ、って訳に行くかよ!」
「いや~、結構乗って来るんじゃないっすかね?」
「それはダメよ。
リックさんは今自社の番頭さんがお産で休んでるのよ」
「あ…」
彼ら特技部にとってデシアス監督は大先輩であった。
そして厳つい大先輩の可憐にしてとっても面白い奥方様は、トリック家の二夫人、セワーシャ夫人と並んでマドンナの様な存在だった。
「そりゃ、無理させちゃいけないなあ」
(やっぱり無理そうねえ)
セシリア社長は華を欠いた30周年を覚悟した。
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「ゴドランの敵は、ゴドランであるべきです!」
そう宣言したのは、学生…というにはトウの立ってる作家。
「あ!いろんな企画持って来た人!」
「相変わらず人の顔と名前覚えるの苦手ですねえリック監督!」
この人物。
過去のヨーホー特撮映画に触発され、「マハラ」や「怪星バベル」で色々アイデアを借用させて貰った作家さんだった。
今では学術空想小説を色々書いていらっしゃるそうだが、リック社長は特撮やアニメ、マンガにかかりっきりでその動向を無視していたのだ。
「もうちょっとSF小説にもアンテナを伸ばして下さいよ!」
「SF…ああ。あのムズカシイヤツ」
「アンタが切り開いだ分野でしょうが!」
どうやらSFとかいう学術空想は、ゴドランや地球騎士団がその嚆矢になって広まっているらしい。
「ピヌスさんから聞いてたけど、ホントSFに興味ないんだなあ」
「海広」の作者氏とも親交が深く、共にSFという世界を広げんと励まし合っている様である。
「だってあれはSFじゃない、これもSFじゃないとかうるさそうなんだもん」
「だったらSFの世界に飛び込めばいいじゃないですか」
「宇宙から別の星の人が来て、新技術で地球を襲ってそれを最新技術でやっつければSFでしょ?」
「それじゃあ『驚くべき発想』が無さ過ぎですよ!」
「俺は特撮屋だから、発想じゃなくて『驚くべき映像』でいいの!」
どうにも水と油に見えた両者だが。
「で、ゴドランの敵がゴドランって、鋼鉄製のゴドランでも出すの?」
「そう!まさにその通り!」
「マキナゴドランか、カッコイイなあ!」
「え?まだデザインとかないんですけど」
「俺が考える!」
機械ものとなるとノリノリなリック社長であった。
「でもそれだけだと弱いなあ。逆に対比になる神秘的な存在が欲しいなあ」
「マハラやベヒモドみたいな、伝説怪獣ですかね」
「もうゴドランは怪獣界の王様みたいで神秘もへったくれもないからね。
何かマキナゴドラン作っちゃった悪党がその土地で触れちゃいけないなんかを壊しちゃって、ゴドランと共闘する大怪獣を呼び覚ますみたいな…」
「それもうSFじゃねえなあ」
「だから俺は特撮屋なんだって!」
何だかノリが合うような合わないような二人である。
「だったらいっそ諸国展示会に合わせてボウ帝国南方でカイエンと一緒に戦ゃあいいんじゃないですかね?」
捨て鉢に言った。
「カイエンは兎に角、それはありだね」
「本気ですか?」
「東洋と言えば龍か、麒麟か…いいねえ」
(あ…ヤバイ奴に間違ったSFを植え付けてしまった!)
作家氏は後悔したが、遅かった。
「これでいくぞ!チャチャッと撮って、ヨーホー映画創立30周年に間に合わせてやる!あなたは功労者だ!えーと…」
「はあ。フルクトゥ・フォルティナですよ」
「フクさんね…あれ?海広のマンガ家さんと同じ名前ですか」
「じゃあフォルちゃんでも何でもいいですから覚えて下さいよ」
こうして、リック社長が自ら指揮するヨーホー創立30周年記念作品「ゴドラン対マキナゴドラン」の企画が始まった。
但し短期決戦で。




