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271.災害と人災と、協力する意味

 王都大地震の映像は娯楽の枠を飛び越えてしまった。

「皇帝のいない帝国」の様な、半分現実に足を突っ込んだ様な「社会シュミレーション映画」に成長してしまった。


 ラッシュフィルムを見た関係者は、架空の物語と解っていながら

「もしこれが本当にこうなったら…そうならない事を祈る!」

そう思わずにはいられなかった。


******


 本編、特撮ともに撮影が続く。


 内海中央の海底には巨大な海溝が存在し、これが大陸の南北を地底に引きずり込もうと動いている、それが確認された。


 特撮班は海底の異変「乱泥流」を、膨大な冷却材、二酸化炭素を凍らせたドライアイスを使って潜水艇がその現場を発見する、地味ながら極めて重要なシーンが撮影された。


 この場面の前後。

 海底調査潜水艇がミニチュアだけでなく実物大でも製作され、軍艦に搭載され、海に降ろされる場面まで実写で撮影された。


 王都大震災では、降り注ぐガラスが人々に降り注ぎ、血塗れになる場面。

 自動車が次々激突し、逃げられず生きたまま焼かれる親子など、目をそらしたい場面が容赦なく撮影された。


 南北両岸では互いに相手側に行けば助かると盲信し、幾多の漁船が国の制止を振り切って脱出した。


 しかし、途中で発生した何度目かの津波で沿岸部諸共海の藻屑と消えた。

 全員溺死した。


 津波、いや、水は海底の泥を巻き上げ沿岸部に流れ込んだ。

 みるみる水かさが膝上に、肩に上がっていき、最初は小走りだった避難民を押し流した。

 泥水は街を押し流し、家を押し流す。流された家々がぶつかり合いひしめき合って潰れ、避難勧告を無視して港に集まった人々はあっという間に泥水に足を奪われた。

 押し寄せる泥水は一転して引き潮となり、人も家も沖合に攫われて行った。

 この津波も膨大な死者を出した。


 当初この部分は「白蛇姫 愛の伝説」の様な、上から大水が覆いかぶさる場面を想定したが、

「そうはなりません、もっと地味で恐ろしかった事が解ったのです」

という、先の津波の記録を取り入れ、逆に恐ろしい絵となった。


******


 そして国境地帯、マギカ・テラ王国が国の「槍」と讃えるモンテネグロ山の大噴火。

 その大噴火シーン。


 最初0番スタジオにミニチュアを組む予定だったが

「空が暗い。夜景と違って模型じみて見える!」

とのカルちゃん監督の指摘で、急ぎ大プールへ引っ越し。


「今じゃ周り住宅街で、大噴火させたら大騒ぎになっちゃうよ?」

と心配するショーキさんだが、

「俺達の方が先にスタジオ作ったんだ!」

と息巻くカルちゃん。


(それ作ったのリッちゃんだけどな)


「後から来たヤツは撮影所に文句言わせねえ!」

(そのルール作ったのもリッちゃんだけどな)


 ところどころ心の中で突っ込みつつ口に出さないショーキさんであった。

 だが、その心意気に打たれた。


 そして、助監督勢が周囲の住宅に断りを入れて、大噴火シーンが撮影された!

 山頂部が吹き飛び、爆炎が火口を照らし、粉塵が怖ろしい勢いで吹き上がり、空の一部を覆い隠す。


 だが。

「やっぱり空が暗い、ホリゾントじゃダメだ」

「…郊外にオープンセット建てますかね」

「予算の許す範囲で」


 こうして、ネグロ山の噴火はオープン撮影となり、ショーキさん入魂の大爆発はネグロ山の山頂部を一瞬で吹き飛ばす大爆発へと進化した。

 そして更に二度、三度と爆発が続き、止めとばかりに山頂部から溶岩、下から照明で光が、蒸気で熱が現わされる、透明塗料の溶岩が流れ出るダメ押しまで撮影された。

 これも諸国展示会での新技を応用したものだ。


 この噴火シーンに、カルちゃん監督は触発された。


 本編で、主人公の婚約者が噴火のため鉄道が運休し、主人公と離れ離れになる場面。


「太陽を消せー!」

 カルちゃんが無茶を言った。

 撮影現場一帯に煙を焚いて、特撮カットの夥しい爆発を受けた筈の被災地一体が晴天から曇天に変貌する様を再現させた。


 石油、ゴム等が膨大に焚かれ、黒煙がロケ現場を覆った。

 スタッフも、婚約者を探し求める主人公も、膨大な仕出しも真っ黒となった。


 そのため仕出しへの追加手当が大変な事になった。

 リック嘱託はこの話を聞いて参加者へうがい場を急ぎ供出し、体調不良が無いか入念に確認した。


「災害映画で人死にが出たらどうすんだよ!」

「それぐらいしなきゃ内海沿岸部の最後は描けない!」

 リック嘱託が訴えたが、半分精神がイッちゃってるカルちゃんは聞かない。


「解ったよ。

 誰かが死ぬくらいなら、そんな映画撮るべきじゃない!」


「何言ってんだよ?!」


「これは俺の信念だ。

 もし怪我人や病人が出たら。

 撮影中止を社長、いや!…国王陛下に訴える」


「アンタの企画だろう!」

「人を殺したり害したりして撮る映画なんか、俺は考えてないし撮りたくもない!」


 リック嘱託の忠告に、渋々黙ったカルちゃんであった。


******


 この後も多くの特撮カットが必要だった。

 そのため特撮班は3班で撮影を進めた。

 自社のテレビの予算がショボくて手持ち無沙汰となった国際特撮も、旧ジャイエン組も参加した一大プロジェクトとなった。


 ネグロ山噴火で大陸横断鉄道も、北方諸国との交通も止まってしまい、世界各国は深刻な物不足と物価高に見舞われた。


 諸国条約は被災各国を見捨てるか、救うかを検討した。

 南北両岸も近隣諸国へ避難民の収容を頼み始めた。


 王家は国宝をも使節に持たせた。

 それを有難く受け取り、使節を下がらせた相手国の外務卿と部下が言う。

 外務卿が受け取ったキリエリア国宝を眺めながら

「引き取るのならこういうものだけにして欲しい」


 そして臣下が外務卿に訴える。

「ゴルゴードからも同じ依頼が来ています」

「もし数万もの避難民を受け入れたら、我が国の中に別の国が出来てしまう!」

と無情にも呟く。


******


 結局各国は有能なキリエリア産業の囲い込みを始めた。

 工場と技術者の移転、労働者はその次に、と。


 そして避難民を待ち受けていたのは、粗末な収容施設と猛烈な差別。

 集団暴力、強姦、搾取が横行した。


 そのため武器を取った避難民と収容先で武力抗争が勃発した。

 少なからずキリエリアと共に避難したマギカ・テラの住民、魔力の強い民や巨躯の民が、暴力を振るった収容先の民へ逆に殺戮と強姦を繰り広げ、収容国軍が難民キャンプを爆撃し始めた。


 天災から逃れた先に人災。


 騒乱の中、大陸プレートの各地で噴火が発生し、各地が大地震に襲われた。

 これを予知する知恵はキリエリアにはあったのだ。

 あったはずだったのだが、各国の恐怖心や差別の心がそれを行う余裕を奪ってしまったのだ。


 内海沿岸部は激震に襲われ、大規模な沈没を始めた。

 内海沿岸部だけでなく、大陸西部北部にも地震が発生した。


 キリエリア、ゴルゴードは僅かな山岳地帯を残し、濁流へ大地を引き裂かれて行った。


 高原地帯が海に向かって動いていく。

 巨大な山脈が海に身を投じる。


 この辺もオープン撮影となった。


 人工衛星が現在の内海部の映像を地上に送信する。


 冒頭の巨大な、人工衛星視点での、内海沿岸部の最期。

 ゴルゴード王都が巨大な海水湖となっている。

 ダッチャー領の最西部が小さな島となった以外、海となっている。

 内海最東端から内陸部にかけて、火山の噴煙が続いている。


 此処は最初煙を実際に出す撮影プランだったが、

「なんだか蒸気機関車の煙の方が迫力あるなあ」

 と却下された。


 第二案として用意されていた、樹脂と薬物を混ぜて素早く膨らむ素材を使い、そこに下から閃光を当てて高速撮影し、更に雲を作画合成する事で現実っぽい映像に仕立てる案が撮影され、OKとなった。


 南北両岸の名所旧跡が崩れ去り、海に呑まれて行く。


 それでも主人公と婚約者は南へ、北へと向かって旅立つ。

 いつか世界のどこかで再会を果たすという、最後の望みを託したのだった。


 避難民を乗せた仮設列車が地の果てへと走って行き、映画は終わる。


******


「いつも楽しいヨーホー映画」とは思えない、かなり残酷な物語であった。

 そして本当に災害が起きた時、この映画が人々に恐怖心をあおってしまわないか、キリエリア王立第一放送局で討論会は撮影された。


「この様な過剰な災害描写は観客に恐怖を与え、万一本当に災害が起きた際に人々をパニックに陥れる、社会に対する犯罪なのです!

 今からでも公開を中止すべきです!」


 したり顔の識者(自称)が得意げに言う。


 しかし、若きマンガ家氏はひるまない。


「あの災害描写が過剰と言うならそれは知識の欠如、無知と言わざるを得ない。

 私も映画スタッフも被災地への調査、建築会社との震災試験を経て撮影しており、それは過去何回か発表しているのだが。

 それを無視して恐怖を煽るのであれば、扇動家はそちらの方ではないのか?」


 遠まわしに「お前がバカだ」と言われた識者(自称)はそれにすら気付かず感情的に批判を繰り返す。


「愚者は見たくないものも聞きたくない事も認識し得ない。


 それよりもこの映画は防災と別の観点も訴えたいと思っている。


 今までの様な経済発展が続かない事が確実な今。

 もし不満を抱えた難民が多発したら、それを他国が迎えるのか?

 カンゲース5世陛下の様な寛大さが今あるのか?」


 思わぬ反論に何も言えぬ識者(自称)を前に、若き彼は雄弁に語る。


「そのための諸国条約であろう!」

 そう宣言したのは、何故か乱入していたマキウリア女王陛下だった。


「じょ、女王陛下ー!!」

 一同は席を降り跪いた。


「よいよい。それよりも。

 生き残るため争うより、共に生きる為助ける、その方が効率よいと訴えたのが英雄リック殿ではないか!」


 論議の流れが変わった。


 この後語られたのは「最悪の分断」と「最良の融和」の両極端を比較し、どの様な条件でこの途中段階に分かれるのか、というかなり実務的な論議に移った。


 そこで最優先されたのは「避難民の振舞い」「避難場所の治安維持」等々。


「まさに既に撮影された難民保護地での擾乱の描写そのものじゃ。

 その方、若き見ながら優れた見識の持ち主よ。

 えー…」


「畏れ多くも申し上げます。

 一介のマンガ家、フルクトゥ・ピヌスと申します」

「そうか。ピヌス殿。

 流石リック殿の認めた英才よ。

 あの様な辛い場面を描いたのは何故か?

 忌憚なく申せ」


「申し上げます!」


 マンガ作家氏は恐縮しつつ発言した。


「当初は大地の異変、そして世界で栄華を誇るこの国が危機に瀕したらどうなるか、その事しか考えていませんでした。

 しかし!書き進めているうちに。

 これから必ず来るであろう不況、その結果かなりの確率で訪れる諸国条約の不調和音を考えました。

 そうなる前にぜひ考えて欲しい。

 防災もさることながら、国際協調、世界が手を結ぶ事によってしか得られないものの大切さを、今一度再認識して欲しい。

 そう愚考した次第です」


 と、原作者氏(と、この案の構想に協力したリック社長)は強く訴えた。


「見事な心構えじゃ!そちの如き英才こそがこれからの世の中を幸福に導くと世は信じる。

 これからも能く世のためにその才を捧げよ!」


 こうしてこの座談会はマキウリア女王陛下ショーと化して終わった。


 なお、どこでも気ままに表れるマキウリア女王陛下のお陰で、討論会を企画したキリエリア第一放送局の編成局長は寿命が百年縮んだそうだ。

 生きてるけど。

 もし楽しんで頂けたら、またご感想等などお聞かせ頂けたら大変な励みとなりますのでよろしくお願いいたします。


 なお、活動報告・近況ノートにてモデルとなった実在の作品についての解説を行っていますので、ご興味をお持ちの方はご参照下さい。

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