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270.王都、地獄と化す

 宇宙映画として破格の4億円という超大作となった「1799:太陽の外側へ」。


 しかし、正確な宇宙描写を重んじるため最長1年間の研究期間が設けられることになり、17th世紀プロの製作首脳陣はキリエリア王立学院、魔導士協会、宇宙開発公社で研修を受ける事になった。


 その間、彼らは映画製作も出来ない状態に置かれる。

 これは会社の存亡に関わる事態だ。


 結局研修を受ける主要メンバー以外の面々は、特撮班はヨーホー映像へ、人形班はトリック特技プロの本編へ出稼ぎに行く事となった。


「セプさん仕込みのカルちゃんとこに流儀が違う人を送り込んだら大揉めになるからね」


 こうして早速クランのトリック特技プロのスタジオに入ったマギカ・テラの若者たち。

 人の背より高いヌイグルミが格闘するセットの、天井の高さ。そして広大さに仰天していた。


 あと、セットの舞台の低さにも。


******


 そしてカルちゃん監督と特撮場面についてすり合わせが行われた。

 内海海底の深海探索、南北王都大震災、大港湾大津波、マギカ・テラ国境のネグロ山大噴火等の特撮場面が設計された。


「これ、デタラメじゃないよね?」

 師匠譲りの完璧主義と聞いてショーキさんは色々な資料を持ってきている。


「コイツが現在軍で開発中の深海調査潜水艦の試作案。

 ホントは操作用の機械の腕が付いてるけど、流石に軍事機密だって怒られたんで省略してあるよ」


「そもそもこんな順番で地震が起きるのか?」

「原作者のマンガ家さんと地質学の先生に聞いたら、数百年に一度レベルでは起き得るってさ。

 ただ、この作品自体が地殻変動の時間を数百倍に早めて設定してあるから」


「それこそあり得るのかねえ」

「リッっちゃん曰く、トンネル効果、ってヤツで物の影響が早まる事があるとかいうぞ」


 未知の用語に両監督は固まった。

 

「ゴドランが大商店を叩き壊す様な映像じゃダメだ。

 地震災害が説得力なきゃ映画が成り立たない。

 一度どれほどのものが撮れるか試してみてよ」


 そう言われるんじゃないかと思って色々準備を仕込んでいたショーキさん。

 既にリック嘱託のお墨付きも得ているので、早速セッティングを行った。


 トリック特技プロ出向中のキューちゃんが呼び戻され、最初は縦揺れで木造4~5階建ての建築が崩れる場面が撮影され、続いて来る横揺れで大建築や王都周回鉄道が崩れる様が撮影された。


 面白かったのは、リック嘱託のささやきもあってこれらの撮影に王都の騎士団、王国の防災担当、更に王立学院の建築学士たちまで見学に押し寄せた事だ。


「はいヨーイ!スターッ!!電線!」

 地面が揺れ、建物手前の電線が倒れあちこちで閃光が光る!

「建物電気!崩して!煙!」

 建物の各地でも閃光が光り、内側に崩れ去る、崩れた建物から物凄い土煙が上がる!

「ガス!」

 そしてアチコチから炎が上がる!

「自動車!」

 手前の道を走っていた自動車もぶつかり、爆発が広がる!


 数秒の出来事だった。

「「「ほおお~!!!」」」

 思わず観客、いや見学者から歓声が沸き起こった。


「後はラッシュだな…」

 カルちゃん監督が呟く。

 どうやら撮影自体には文句がない様だ。


「あ~、ちょっと土煙が弱かったかなー。抑えでもう一回撮るか!」

「「はーい!」」

「え?」「今のをもう一回?」


 テキパキと崩れたセットを片付けるスタッフと、撮影やり直しに驚く見学者が実に対照的だ。


 更に日を改めて王都環状鉄道の崩壊、鉄道の脱線と衝突、旧城壁街の古い低層住宅の崩壊等も撮影された。


 それぞれ縮尺が異なるミニチュアが設計され特美倉庫で作られ、スタジオに設置されて、崩れやすくするための細工が施されて行く。


「ヨーイ!スターッ!!」

 そして惜しげもなく潰れていく。

「カーット!抑えでもう1回!」


 予算があるせいか、本当に気に入らないのか、あるいはセプさん組だったカルちゃん監督への当てつけか、ショーキさんは色々なカットを2テイク分撮影した。


 撮影された70mmフィルムは、粗編集を経て試写室で上映されていく。


「いいか、お前らニセモノにうつつを抜かしちゃダメだぞ、特にゴドランなんぞにゃなあ!」


 そういいつつ何だかんだとリック邸に酒や肉を持って行って盛り上がっていたセプちゃん。

(あれは本心だったのか、何か思う所があっての発言だったのだろうか)

 カルちゃん監督は色々な疑問が頭の中で巡った。


(しかし、空が暗いな…本編の撮影は疑似夜景じゃダメかもな)


 同時に全く別の事も考えるカルちゃん監督。

 特撮について考えると同時に、本編の撮影プランも色々見直す事になった。


******


 この物語の基本となる学説は、プレートテクトニクス理論。


 即ち地球の表面である近くは、灼熱のマントルの上に浮かぶものであり、長い年月をかけて移動する。

 離れ合ったりぶつかり合ったり、マントルの対流の中で遥か地底から沸き上がり、遥か海底に沈んでいき、その姿を変えていく、というものだ。


 その僅かなぶつかりや、引きずられた時地底に出来たひび割れが崩れる事こそが地震となり、人間の街を猛烈な力で破壊する。


 まだ世界の全貌は断片的な映像でしか判らないが、それでも大胆にも太古の地球が今の地球の姿になるまでのミニチュアが作成され、撮影された。


 当初は地図で描こうとしたが、

「どうせなら観客にもっとわかりやすく、地球の姿を見せよう」

 過去諸国展示会や「海底神殿0」の冒頭などで地球の姿を描いた実績を買ってセプちゃんが決意した。


 そして内海にクローズアップし、離れていた両岸が近づき、マギカ・テラ国境地帯の大山脈が生まれ現在の海岸線が生まれる。


 広大な0番スタジオに広大な衛星写真のミニチュアが作られ、そこに作画合成で雲が合成された。


 この衝撃的な地球と西側世界の誕生が、タイトル前の画面となる。


 この巨大なミニチュアは、内海の沿岸部が海溝に引きずり込まれ各地が分断され沈没し、最後には今より遥かに広がり大西洋の一部の様になった姿まで改造されつつ撮影される。


「学説で見るのと、こうして宇宙にいるかの様にしてみるんじゃあ全然違うなあ」

「これが、この巨大な大地が、例え作り物であったとしても。

 動いているというのは確かに信じられない。

 それが本当なら、この大地の、地球の力はもう人間の動向出来るものじゃない!」

「人間って、小さいなあ…」


 学士たちがこの巨大なセットを前に呆然とし尽くす。


 そこに、妙に声のカン高い学士が宣言した。

「我々も成すべき事をしましょう。

 プレートテクトニクス理論を説明するアニメーション映画、これを早く完成させましょう」


 途中、震災対応を一手に担う宰相閣下を前に地震発生の仕組みを説明する学士役を本人自ら買ってくれた方だ。


 部分的乍らも徐々に王都大震災のラッシュが仕上がって来た。

 更に火災の映像が夜の大プールで撮影された。


 デンガナ軍港の石油基地爆発火災、王都中心部の大規模建築群の火災。

 中には火炎放射器を使って、気圧差により避難民を炎が焼き尽くす残酷な場面も撮影された。


 撮影には久々に魔導士が動員され、余りの火炎の熱からカメラマンと高額な70mmカメラを守るため空気の層を必死に作った。


 ミニチュアの中を火炎が走る場面は、「世界最終戦争」以来だ。


******


 一方で、カルちゃん監督も本編の撮影を進めていた。


 主役は若き潜水艇乗り、内海沿岸世界の破滅を予告する地質学者がいるのだが、この地質学者がかつて「商会長シリーズ」で幇間たいこもちを演じた番頭的な喜劇俳優、ロレール・センムー氏だった。


 大俳優の風格も付いて来て間もないが、今度は世界の中心部とも言える内海世界の破滅を世界に警告する役とあって、半ば狂気に満ちた役どころを演じている。


 世界の半分が壊滅する、それを一刻も早く世界に伝えるのが己の役目と信じなりふりを構わぬその姿は、正に狂人であった。


 カルちゃん監督も、この壮大な物語に徐々に狂人の様に現場を指揮した。

 怒号が絶えない、厳しい職場だ。


 そして宰相役を演じるのは、当初マイちゃんが打診されたが断られた。

「なんかな、そろそろセプさんが帰ってきそうな気がするんだ。すまないな」


 そして替わって演じる事になったのは、倒産した他社のアクション映画で活躍していた、外連味溢れる芝居に定評があったナンマ・イダーロ氏だ。

 何と言うか、この人がこういうんだからそうだろ、と思わせる、説得力を超えた納得力?がある、凄みのある俳優だ。


「もうこれ絶対子供怖がるよね」

 思わずリック嘱託が零した。


 そして特撮映画皆勤賞のスクさん。

 何とキリエリア国王陛下役である。ちゃんとカンゲース6世陛下の承認済みだ。


 大地の異変に悪い予感を感じ、地質学士に地震予知研究を命じ、最後に山岳地帯と他国への脱出を命じる、辛い重役を演じる。


 王都大地震の際、王城前広場に殺到する避難民の知らせを受ける場面。


「ただちに王城正門を開けよ!

 国王陛下代理、宰相命令である!

 直ちに門を開け避難民を王城に収容せよ!」


 この映画を象徴するかの様な、王の権威よりも民の生存を尊重する決断を下す場面である。

 ヨーホー出身ではなく各社を渡り歩いた気骨ある、それでいて人を手玉に取る不思議な御仁であったのだが。


 何しろ、台詞を覚えてない。

 下手したら脚本すら読んでない。


 この撮影も、助監督が大きなカンペをカメラの外側に掲げて撮影された。

 しかも、カンペと台詞があってない!

 しかし妙な納得力がある!


 この難物を相手に、完璧主義のカルちゃんも「ハイ、OK」と言わざるを得なかった。


******


 そして、王城前広場…を想定した、王城内郭北門の夜間ロケでは、膨大な人数が騎士団と押し合う地獄絵図が撮影された。


 周囲は火災なので、城門の周囲で焚火がくべられ、赤い照明で照らされた。

 この準備だけで物凄い物量だが、更に火災防止のため消火団が待機し、知らないものが見たら何か事件があったのではと腰を抜かすレベルであった。


 ここに完成作では更に特撮が加わる。

 このロケ現場を空撮した写真を参考に、本当の王城内郭正門前広場の拡大写真に、群衆の映像が合成…ではなく、何と人物の写真を切り出して、写真の裏から針を刺し、それに人物の写真を張り、僅かに動かすという原始的な手法が取られた。


 更に旧城壁街の未整備地区の惨状。

 縮尺の大きいミニチュアがその重量を生かして崩れ落ちていく。

 ガラスが砕け、電線が閃光を発する、崩れる建物の中で炎が上がる。


 この前を避難民が逃げて走っていく、中にはミニチュアの建物から逃げて出る人もいる。

 この合成を助監のポリさんが合成のベテラン、ポンさんとともに仕上げた。


「あの地域は元々消火が不可能な地域なのです!」

 無責任にも言い放つ防災団長の言葉に絶望する宰相。


 炎が被災者の逃げ道を塞ぎ、老若男女を焼き尽くす地獄絵図だ。


******


 こうして関係者向けの試写に用意された王都大震災の本編、特撮の速報フィルムは正に地獄絵図として仕上がり、同時に各国の上位貴族や学士を大いに刺激したのだった。


 ショーキさんも、当初特撮に懐疑的だったカルちゃん監督も、手ごたえを感じた瞬間だった。

 もし楽しんで頂けたら、またご感想等などお聞かせ頂けたら大変な励みとなりますのでよろしくお願いいたします。


 なお、活動報告・近況ノートにてモデルとなった実在の作品についての解説を行っていますので、ご興味をお持ちの方はご参照下さい。

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