27.始動、「G映画」!
「リック君。いよいよドラゴンの映画に撮り掛かれるわ!」
特撮スタジオの倉庫、彼は特殊美術倉庫、特美倉庫と呼んでいるが、そこにいきなりセシリア社長が現れて宣言した。
「予算は3千万デナリ。今の俺には手持ちがないんですが、出せますか?」
「出します!」
「随分ポンと出ますね。何かあったんですか?」
白亜の殿堂のファサード部、正面入り口門にあたる会議室でセシリア社長はリック少年達英雄チームに説明した。
「リック君。君が亡命者達の為に自費で作った村、そこの亡命者が国内鉄道や魔道機関工場への就職を志願したのよ。
全部で二千人。
それだけの労働力があれば、ヨーホーの本社は一層発展できるわ」
「それはよかった。
でもちゃんと労働条件は守って下さいよ?」
「うふふ。彼等の恨みを買ったら暴動が起きるわ」
悪戯っぽく笑う社長に、リック少年は安堵した。
「そこで、あなたの作った村を買い取ります。ヨーホー本社の社員寮にします」
「毎度あり~!」
出資が回収できた。いや、彼は回収するつもりは無かったが、この撮影所といい過去のパイロット作品と言い、先行投資はほぼ回収してきた。
今回もその一環だとリック少年は安堵した。
「そしてもう一点。
あなたの、あのアニメ?映画のお陰で放射線障害についての流言飛語はほぼ抑える事が出来ました。
でもまだまだ人々の不安はおさまりません」
それはそうだろう、この世界で初めての出来事だ。
「なので、いっそその不安を荒唐無稽な物語にまとめて包んで、本当に起きる事なんかじゃないのよって、みんなに思わせようと考えたのだけど、どう?」
どうって言われましても、と思いつつリック少年は頭をフル回転させた。
「つまりー。人々の不安を寓話に落とし込んで、物語の中で解決させたことにしちゃって、安心させようって事でしょうか?」
「そうそう」
「でもあの台本、最後にドラゴンの再来を示唆するセリフがあるんですけど」
「だから寓話なのよ。
帝国に対するいい牽制にもなるじゃない」
そういうものか?と思いつつもリック少年は決意した。
「ではこれから「ゴドラン」の製作に入ります!」
「あ、ちょっと待って」「はい?」
「題名は伏せて。帝国のインチキ映画みたいにニセモノが先に作られちゃ元も子もないでしょ?」
「じゃあ仮称、「G映画」で」
「いいわね!」
こうしてこの世界初の怪獣映画「ゴドラン」、今は秘匿されて「G映画」と銘打たれた作品の製作が始まった。
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「ゴドランだあ?俺は出ないぜ!」
とオファーを断ったのは、暴れ馬マイト・スオード。
「リっちゃんの頼みとは言え、俺は役者だ。
この映画の主役は、ゴドランって龍だろ?
俺は脇役は御免だぜ!」
「う~ん。ある意味本質を見抜いてるなあ。
わかった、時間取ってすまなかったねマイちゃん!」
「お前はお前でガンバレよ!」
「G」のキャスト、スタッフ選考が始まったが、リック監督が築き上げたクラン撮影所の映画陣は、わずかの時間でリック少年の手を離れて自分達の描きたい世界の為に夢中になっていた。
更に。
「随分子供っぽいおとぎ話じゃないですか」
「荒唐無稽過ぎますよね」
「これは、見世物映画、下手物ですねえ」
と、その内容に距離を置く者も多かった。
「う~ん。過去二作の実績もどっかいっちゃったなあ」
「戦史や聖典と、現代のおとぎ話じゃあ同じ土俵に立てないのかもなあ。
面白そうって思う奴がいないのは、結構マズイ問題じゃねえか?」
ゴドランのヌイグルミをムニムニ掴みながらアックスが慰めた。
「兎に角、撮り始めましょ?!
王都を破壊するゴドランを見たらみんな驚くわよー?!」
セワーシャも加わった。
「確かに今迄はパイロットフィルムの力で首脳部を黙らせていたが、今度はちょっと勝手が違ったな。
今からでも遅くない。巻き返そう!」
デシアスは撮影を促した。
「でも、本編の監督さんは決めたいな。
この壮大なウソの話を、大真面目に取り組んでくれる人…」
「ウッコさんに監督を頼んでは?」
「アイラ、あの人は絵描きだよ。
本編の監督ともなると俳優さんの調整や撮影スケジュール、ロケ撮影の段取りなんかの経験が大事なんだ」
「じゃあ、風景映画とかの監督さんでは?」
「やっぱりそうなるねえ」
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風景映画。
それは、まだ遠くの土地へ旅する事が難しい各地の平民にとって、見知らぬ土地、風光明媚な景色や変わった産物、美味しそうな料理を紹介する、疑似的な旅行体験だった。
これもリック少年が鉄道が開通する都度、王都から遠い領地を紹介するために美しい音楽と美しい映像を王都に紹介したのが始まりだった。
そしてそれを黙々と、各地の風景だけでなく歴史民俗を記録してきたのが、若手監督テンダー・レニス。
彼は「G映画」と書かれた台本を読むと
「全力を尽くします」と即答した。
「しかし特撮は解りませんのでリック監督にお任せします。
細かな調整や音楽設計については綿密に行いましょう。
後、繋いでみた後、追加で数コマ必要になるって事も考えなければ」
「そういうのが必要だと解りますか!」
偏見のない見積もり能力にリック監督は感心した。
「『キリエリア沖海戦』も『聖典』もリック監督が本編を指揮していたので、俳優の演技やカット割り、特撮部分とのつなぎが自然でした。
私では画面の明るさやゴドランと俳優達の位置関係をキッチリあわせるのは難しい。
打ち合わせつつ埋めていくしか方法が思いつきません」
「あなたに声をかけてよかった!!」
リック監督は、レニス監督を生涯の相棒だと期待した。
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しかし周りの映画人たちがレニス監督に色々言い始めた。
「今度の作品は軍記でも聖典でもないんだろ?
しかもバケモノが王都をブっ壊すってヒドい話じゃないか!
係わらない方が利口だぜ?」
「ゲテモノ撮ったらセプさんみたいな栄誉は授かれねえぞ?
俺達監督は自分の物語を世に送り出してナンボだ。
リッちゃん坊やの下働きでいいのかよ?」
「放射線が絡んでたら、色々帝国から苦情が来るかもしれないぞ?」
だが、レニス監督の心が動くことは無かった。
「映画の歴史を作ったトリック監督の指名に応えなければ監督失格です。
それにこの映画の主役は特撮であり、ゴドランです。
私は観客の視線を、特撮場面に誘導するのが使命です」
映画の世界は、撮影中は監督が一番偉い。
社長も偉いが、現場では監督が一番だ。
セプタニマ監督の横暴振りはとくに有名だが、他の監督も同じだ。
そういう存在である監督が、「特撮が主役だ」と言い出した。
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「お話、お受けいたします」
「敗将」の撮影を終え、セプタニマ監督の次回作の準備に忙しい名優、ゲオエテ・アニマが王立学院の古代龍学士役を引き受けた。
「私に話が来ないのは寂しい限りだよ、リっちゃん!」
スクリウス・ペルソナ男爵も出番が少ないながらもゴドラン防衛司令官役に名乗り出てくれて参加した。
主演は若い舞台俳優の中でも映画に興味を持ってくれた人達が参加してくれた。
中でも悲劇の魔導士を演じるアゲンス・テッテ氏は魅力的だった。
「極大魔法があれば世界を征服できる。
魔王軍も破滅させられる。
しかしそれは短絡的な考えと思い知らされました。
世の中はそれほど単純に出来てはいないのです」
元陸軍、騎士団の士官だった彼は魔王討伐戦後の世界を見て、それまでの自分を見つめ直すため俳優になった。
細面で理知的なイケメンは魔導士役に最適だった。
配役決め、キャスティングの進行は順調だった。
「リックさんが前の作品で皆さんを大切にしたからですよ」
そうアイラ嬢がリックを持ち上げる。
「仕事も出来ればニコニコ進めたいからね」
そう答えるリック監督だったが、彼の理念はその後にも引き継がれる事になるのだった。
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音楽は、ユピトル・エクリス師に断られた。
「巨大な竜にどんな音楽を付けるかなら解ります。
あなたの持ってくる曲想を楽団用に書き直すのであれば、それは私の仕事じゃありませんよ」
「大変失礼な申し出、すみません」
リック監技師は、本作には自分が作曲し、書き出した曲想を管弦楽用に編成し直して欲しいという、音楽家にとって侮辱にも等しい申し出をエクリス師に持ち掛けたのだ。
「でもまあ…本当にあなたは多才ですね。
こんな旋律、思いもよりませんよ」
エリクス師は持ち込まれた楽譜、しかもパート譜に落とし込まれた膨大な楽譜を読み込んでいた。
「これも、貴方の世界の音楽ですか?」
「はい、この映画にはこの音楽以外を当てたくないのです」
「はあ。
そういう事なら門下生を紹介します。
余り奇妙なクセを付けさせたくないのですが。
この大陸以外の音楽を採取して記録したいなんて言う変わり者です、気も合うでしょう」
「感謝します!!」
そうして紹介されたのは、エクリス師の弟子、オスティオ・ナート師。
楽譜を読んだ師は、その重厚で威圧感ある主題をチェンバロで演奏し
「何だこの魂を揺さぶる音楽は!!」
と驚愕した。
「音階が全然違う!和音も崩れている様で整って聞こえる!変拍子も激しい!
リズムはまるで異国の言葉を聞いている様に変幻自在だ!」
「そうでしょうそうでしょう。私の故郷でも相当異色な音楽でしたから」
リック技師は頼んでおきながら無責任な相槌を打った。
「だが素晴らしい!この音楽をこの世界に打ち出しましょう!」
「ま、まあ、映像が出来てから。先ずは基本となるゴドラン、鋼鉄軍、被災者の主題の基本的な編曲をお願いします」
ナート師も相当の変わり者だった様だ。
「エクリス先生は、いい方を紹介して下さった!」
リック技師はこの出会いに終生感謝する事になる。
こうして作品「G映画」のキャスト、スタッフが集まりつつあった。




