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268.諸国と復興と映画の騒ぎ

 諸国条約の定例会議が開催された。

 最大の議題は北方の大寒波、そしてボウ帝国と東南沿岸部の震災と津波の被害報告。

 内海沿岸部の震災については事前の動きが早く大きな被害を防げたため、収支報告と国庫負担についてのみの説明に終わった。


 無論、これらの動きが無ければ経済的な被害は世界中に及んでいただろう。


「リック殿には頭が上がらぬのう」

 アモルメ王陛下が若干の悔しさを含んで言った。


「彼は善意と誠意で動く、稀有な人材じゃ」

 カチン大臣閣下がその悔しさを押しつぶすかの様に言葉を重ねた。


 次いで、一転して前向きな話題へと移った。


 条約祭典は予定通りアモルメで。

 翌年の諸国展示会は救済措置を含んでボウ帝国で実施と決まった。


 これはボウ帝国にとっても、大陸横断鉄道沿線国にとっても大きな経済効果を生み出す事となる、そう予測された。


 更に、前回の条約祭典の時よりも精度が上がった収支管理システムが、各国の復興債の大幅前倒し完済を予測したのだ。


「無論、突然の天災、異常気象、はたまた戦乱が無ければ、という前提です。

 電算機は計算を間違えません。

 しかし計算させる材料が片手落ちであれば正しい結論など予測できません。

 言われた計算を繰り返すだけなのです」


 特別に英雄として招かれた開発指導者であるブライ君が補足した。


「そういう材料を含めて計算する事はできないのか?」

「そういう材料をどう計算するか、そのシステム、計算方法を考える必要があります。

 今の予算管理システムの数十倍の開発規模が必要と考えます」

「数十倍…」


 諸国展示会の各種予約システムの開発費は、ヨーホー映画の予約システムを下敷きにしながらも5億デナリに膨らんだ。


 ブライ君…いや英雄ブライが諸国の国王陛下や代理人に訴えた。


「各国の王立学院や魔導士協会にもお願いします。

 物事を論理的に解釈出来、それを文章化出来る才能を集めましょう。

 祭典や展示会だけでなく、災害対策の試算にも必ず活躍するでしょう!」


******


 この世界の行政は、実に恐るべき速度で進化していた。

 そもそも各国王家間の血縁だけが頼りで、それでも離反と戦乱、血縁同士での殺し合いを繰り返し、更に魔族だ魔王だと争っていた国々が一堂に会している。


 そして災害支援や国際行事の試算まで行っているのだ。


 中々に腹の探り合いや利害の細かな駆け引きを含んだ議事を終わった一同は、更なる戦いである「晩餐会」に臨んだ。

 これはこれで激しい攻防戦となるのだ。


「我が国にもリック殿やブライ君の様な英雄が生まれていれば…」

「それこそが試練であろう。神はまるであの者達を餌に、我ら諸国の王に資質を問うておる様ではないか」


「ほほほ。リック殿はすごいのじゃ」

「ええ。優しく愛しく、その御子までも愛らしい」


 マキウリア女王陛下とカチン大臣閣下はブレなかった。


(リック、あの女傑に敗けるなよ。

 てゆーかあの二人とっとと誰かと結婚しろよ!)

 リックの心の兄、カンゲース6世陛下は色々複雑な思いであった。


「して、諸国展示会の後の『世界映画祭』であるが」

 映画好きなカチン大臣が切り出した。


 するとマキウリア女王陛下が

「恐らくマギカ・テラ初の宇宙特撮映画を披露出来るかも知れぬ」と打ち上げた。


「キリエリアにてリック殿が世に送り出した宇宙映画よりも、もう一つ未来を詳しく予測した、未来を体験する映画を企画しておる」

 もう鼻高々であった。


「ほほう。その費用、何千万デナリですかな?」

 北方諸国の代表が訪ねると

「色々工面中だが、最低3億デナリ」


 この宣言に、場がざわめいた。


「セプタニマ監督作品の規模ではないか」

「それほどの資金力がマギカ・テラの映画界にあったのか?」


 英雄ブライの親として、震災対策の助言者としてムリヤリ呼び出されていたリック社長も呆然とした。

(いやいやいやいや!無茶過ぎんでしょ!)


「無論、今の予定に過ぎぬ。

 目下映画撮影班はキリエリアの学院と宇宙公社と研究中である。

 しかし最低でもその位かけて、今苦しんでいる各国に未来の夢を見せる意義を、我が国は感じているのじゃ!」


(ああー。ブチ上げたなあ)

(これどうすんです父さん)

(知らないよ、例えウチが自腹切ってもそれじゃ何にもなんないでしょ)

 親子でヒソヒソ話したものの、本気で宇宙の科学映画作った日には5億、いや10億デナリはかかるとリック社長は考えていた。


 元々の予算が7千万デナリ。

 巨額の宇宙映画製作に、キリエリア王立学院と宇宙開発公社は、単なる取材協力だけではなく、マギカ・テラ魔導士協会のロケット開発協力を条件に支援を発表。


 その額、5千万デナリ。

 物価高の今でも映画が2本は撮れる規模の費用だ。

 それでも桁がリック監督の試算とは2つ違う。


 この発表の際、マキウリア女王とキリエリア学院長の事前の仕込み通り、キリエリア王立学院、マギカ・テラ魔導士協会の両代表が

「数百年後には太陽の外側に人の手を伸ばし得る」

とブチ上げた。


 結果、今回の諸国条約で「1799:太陽の外側へ」という宇宙科学映画の企画が注目を浴びる事になった。


 復興作業に一区切りつき、被災地の景気浮揚策も手を打った後でのブチ上げである。目立った反対の声も無い。


「これもリック監督が撮影するのですか?」

「いや、彼の弟子たちの映画である」

「ほう、あの人形特撮のチームですか。

 ではリック監督は?」

「彼は大災害への教訓を纏めた新作、『内海が広がる日』に取り組んでおる」


 今度は訝しがる事が上がった。


「それは被災者の心を逆なでするのではないでしょうか?」

「あのリックじゃ、そのような愚は犯さぬであろう。

 なにせ先頭に立って被災者を救ったのは他ならぬ彼じゃからのう」

 もう自分の事の様にリック社長を持ち上げるマキウリア女王陛下。


「リック監督!」

「どのような構想をお持ちかな?」

「俺は監督じゃありません、タダの嘱託です!」

「では本作の監督は?」

「本編は選考中で、特撮は当然ショーキさん、ショーキ・ネクス監督ですよ!」


「宇宙映画の関与は?」

「俺は何もしませんよ。基本17th世紀プロに任せます!」


 そこからは祭典、展示会、そして映画祭の話題に花が咲いた。


 世界映画祭は映画を単なる娯楽から国交の話題の一つに変えてしまったのだ。


******


 こうしてマギカ・テラの「1799:太陽の外側へ」とヨーホー映画の「内海が広がる時」は「リック監督の弟子同士による壮絶な跡目争い」と面白おかしく宣伝され、嫌が応にも世間の注目されて行くことになる。


 その「内海が広がる時」だが。


 リック社長との出会いより前に、マンガ家氏は学院の地学の基礎を学んで原案を執筆した。

 そしてリック社長の助言によって更に、地学の最新の研究、更に気象学、災害に関する歴史学、更に政治ドラマ部分に説得力を持たせるために帝王学まで学び直した。


 その上で本作の執筆に賛同してくれる同士を募り、「マンガ」や「ファブラ・ピクタ」という子供向けの絵本の延長線上にあるものとは印象の全く異なるものを描き出した。

 それは、最早「読む映画」とでもいうべきものであった。


 崩れる王都、大津波や大火災といった個人で描き切れないスペクタクルな絵も多くの仲間の協力で完成させたのだ。


 この渾身の連載は衝撃を持って迎えられ、大人でも子供の漫画雑誌を買って読む事態となった。

 本作に触発され、学問に立脚したマンガを描きたいと思うものたちが密かに増えて行った。


 この騒ぎの中リック社長はショーキさんを訪ねたが、ショーキさんは既に映画化の企画を纏めていた。


「おうリッちゃん!やっと来たか!」

「そうそう都度都度顔出しちゃ嘱託のくせに親分気分が抜けねえんか!って怒られそうでね」

「水臭い事いうなよ!」


「ショーキさん、来たら来たで文句言うくせに!」

 横からモンさんが揶揄う。

「そういう事は言わんで下さい!」

「「「はっはっは!!!」」」


 特殊技術部は相変わらず陽気な雰囲気であった。


 早速リック監督は撮影構想について設計図やメモの写しを受け取って行った。

「この大建築が内側から崩れ込むのは凄いね」

「建築工房に取材したらね、地盤が弱かったりしっかり骨組みが出来てないとこうなるそうなんだよ」


 異世界の記憶と感覚で絵作りをしていたリック監督に対し、ショーキ監督は理論で絵を思い描いて映像に落とし込む作りだ。

 時に「大西洋 連合艦隊の最期」みたいに理屈抜きの抒情詩的な画も撮るが。


 都心部の崩壊と一転して平民街、住宅街では合成が増える。

 家から逃げ出す人が広場目掛けて走り出し、その後ろで木造の家々が倒れ込む。


「この沿岸部は先の被災地同様、危険地帯の避難経路も防災計画も出来ていないんだったね。

 この映画も似たような地域への教訓になるけど、先手を打って王国へ一言入れておこうか、今度こういうシーン撮りますよ、って」


「おお、怖いねえ!俺達が恨み買うようなことはナシにしてくれよ!」

「一緒に長ぇ草鞋を履こうよぉ」「嫌だよ!」


 などとリック監督が嬉々と古巣で特撮プランの相談に首を突っ込んでいる間に、ヨーホー映画本社では製作が正式に決定した。


******


 後日、特技部一同に、セシリア社長から「内海が広がる時」製作決定が伝えられた。


 本編監督はセプタニマ監督のチーフ助監だった、カルタ・シルバ監督。

 特技監督はショーキさん。

 本作の発案者であり、特撮プランのチェックを行ったリック監督はノンクレジット、公式には無関係だ。


 本作はパニックスぺクタクルとしての見世物であり、同時に災害時の教訓を可能な限り盛り込んでいる。


 マンガ連載では、保守的で災害警報を無視した貴族領と、順守した貴族領の対比、復興や非難よりも他領への侵略を行おうとした貴族領の惨劇をも描いた。


 映画版ではこの辺はどうするかは脚本会議を経ての事となる予定だ。


 製作費1億デナリ。70mm6チャンネル超大作。


 これに、被災しキリエリアから支援を受けた大陸中央各国が協賛金を出し、リック監督の恩に応えた。

 最終的に製作費1億7千万デナリ。


「しまった!出遅れたわ!」

 追って津波被害に遭ったボウ帝国も協賛、計2億の超大作となった。


 当初は国庫から供出される予定だったが皇帝陛下に却下され、カチン大臣、ガタイ第三皇子の私費と現地の寄付で支払われた。


「俺、丸損?

 ま~、ナントカ収まったからいっか。

 い~のかな~?」

「そうですよお兄様。施しは出来るうちにすべきです」

「お前が言うんならそうであろうなあ」

 アバウトなガタイ皇子であった。


 もし楽しんで頂けたら、またご感想等などお聞かせ頂けたら大変な励みとなりますのでよろしくお願いいたします。


 なお、活動報告・近況ノートにてモデルとなった実在の作品についての解説を行っていますので、ご興味をお持ちの方はご参照下さい。

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