267.大津波
晴れてアモルメ・キエリア両国の英雄となったブライ君。
いや、成人したのだから英雄ブライと呼ぶべきか。
彼は来るべき北方調査への再挑戦に備え、大陸各地の厳しい気候条件に挑みクルス・ボランテスを飛ばし、走らせていた。
そんな彼から緊急の無電が入った。
「タイリクチユウオウ ダイサンエキホツポウ200km ダイキボヤマクズレ
チジヨウ ジシンハッセイ ケイカイスベシ」
「王国経由で該当地域諸国に警戒を意見しないと!
あと大陸特急停止もだ!」
リック社長の判断は正しかった。
英雄ブライが偶然発見した無人地帯の大地震は大陸中央諸国の山沿いで、そしてその反対側でも大地震を引き起こす起爆剤だったのだ。
間もなく起きた大地震。
都市部や遺跡、そして鉄道、トンネルを突き崩す猛威を振るった。
しかしその猛威の割に、驚くほどに人的被害は少なかった。
キリエリアから出動した飛行機による輸送隊により、食料や仮設住宅が素早く現地に到着し、大陸中央諸国はカンゲース6世陛下と英雄ブライに深く感謝した。
しかし余震は続き、今度は内陸部からかけ離れた内海最東部で津波を起こした。
波の高さ2m。
しかしそれは海沿いの街を消し去るには充分なものだった。
これも事前の避難命令で人的被害は免れた。
テレビ・ラジオの普及も避難に活躍した。
正確な情報、被害状況を目で見る事が出来る事による、余計な恐怖を拭う安心感。
なぜこんな災害が起きたかの(リック社長の起草による)解説による安心感。
更には国王陛下自らのお言葉。
「流言飛語に惑わされぬように。
王国軍は引き続き被災地に支援を続ける。
そして国は総力を挙げて被災者の皆が、一日も早く!
元の生活に戻れる様、全力を尽くす!」
被災地の人々はこの言葉に頭を下げ励まされ、無用なパニックが起きる事もなく、速やかに復旧へ着手する事が出来た。
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天災への対処としてはこれ以上ない偉業を成し得たカンゲース6世陛下であったが。
家を失った人々への支援、沿岸の工場や商会、鉄道や送電設備の復旧は、王国の予算を逼迫した。
その財源は貴族の寄付、債券、そして…
増税に踏み切るべきか否か。
王国諸侯の領内で公聴会が開かれた。
「何故地震被害のなかった我が領が他領のため税を増やさねばならないのか!?」
多くの領主がそう訴えたが。
「誰かが困った時に助ける。
困った人を見捨てない。
それが世の中を守るという事だ!」
かつて内乱を起こした領主に反旗を翻し、新たに領主を引き継いだ若き領主たちが声を上げた。
「領主は領民に尽くすだけではない、国に、友好関係を築いている他国のためにも救いの手を伸ばさねばならないんだ!」
若き領主達の声を聴いた貴族達は、その言葉の後ろに英雄達の姿を感じた。
そして、「魔王軍討伐戦」や「人魔再戦」、そして忌まわしき内乱を思い起こし、それらを短期に鎮めた英雄チーム、そして目の前の彼らの前に従うしかなかった。
復興支援は迅速に行われ、半年後を待たずに大陸横断鉄道も国内のインフラも復旧した。
この一件はこの冬の猛烈な寒波と合わせて自然災害の恐ろしさを大陸各地へ思い知らせた。
そして諸国展示会に続くと期待された経済発展を、激しく阻害したのだ。
瞬間的だが、食料品や生活必需品が異常に値上げし、買い占めが起こり、売り控えも起きた。
無論、諸国条約でこの事態は想定され、早速王命でこれらは禁じられたが、それでも違法な取引は阻止しきれなかった。
なんとか軍や騎士団によって鎮静化されたが、世間には言い知れない不安が広がることになった。
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そんな中、今では王立学院寮から王都近郊の安下宿へと引っ越したファブラ・ピクタ…もといマンガ作家たちの一人がリック社長の下を訪ねた。
彼は一篇の企画書をリック社長へ提出した。
「あなたは他人の企画を盗んだりする人ではありません。
そう信じてお見せします」
その表題は「内海が広がる時」。
かつて人類も、古代竜も生まれる遥か以前、内海を隔てる南北両岸は別の大陸だった。
それが地球の内側を成す、煮えたぎる溶岩の対流の上で姿を変えて、引き寄せられぶつかって一つの大陸になった。
かつて諸国展示会の際、リック社長が描こうと思って神殿に遠慮した結果引っ込めた学説だ。
この物語では、内海の中心線を境に南北が別々の大陸で、それらが何億年の時間をかけてぶつかり、一つの大陸を成したと仮説する。
そして、これからは南北両大陸が内陸部へ沈み込み、繁栄を極める王都以下各地は壊滅的な地震に襲われる、という破滅を描く。
沿岸部の大部分が水没し、人々は別天地へと脱出を図る。
しかし関係が密になった各国は、滅亡する国を受け入れるだろうか?
救いの願いを拒み、敵国の消滅を願うのか?
交通や通信が途絶し各国が疑心暗鬼に陥る姿、国民脱出への協力を呼び掛ける王国首脳陣。
その日その日の幸せしか見えていなかった主人公が、被災地の脱出に命を懸ける姿。
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「やっぱり考える事は同じなんだなあ」
この壮大な企画書をアイディー夫人、アイラ夫人、そしてやって来た英雄チームに回すリック社長。
「これは…まるで歴史書だな」
「いやなんつうか、こんなヒデェ事起きて、ここまで国も世界も冷静でいられるか?」
「何いってんのよ!
この間の大陸中西部震災だって、ブライ君とリックがいなけりゃこのお話しどころじゃなかったわよ?」
「どこで何が何故起きたのか、それが解るだけでも、人は落ち着けますからね」
英雄チームとミーヒャー夫人の理知的な判断に、マンガ作家氏は嬉しかった。
「すごいな。俺が描こうとしている事をここまで理解してくれてる…」
「そ、そりゃね、リックきゅんと一緒にいると、こうなっちゃうんだよね~、ひひ」
「あ!発明少女ルンタッタちゃんだ!」
「ち!チガウー!!もー!もー!」
どうも自分をモデルにしたと思わしきマンガの主人公に思わず赤面したアイディー夫人だった。
「はっ!これはどうも失礼しました!」
それはさておき。
「で?これをマンガとして出版するのは大いに賛成だけど相談とは?」
「二つあります」
「これが流言飛語じゃないというお墨付き、ですか?」
「は、はい!」
これを映画にするとなると、結構大規模な作品になる。
億の単位は必要。最低でも2~3億デナリ。
「大西洋 連合艦隊の最期」規模なら倍。
正直リック監督はこれを一篇の「マンガ」で収まるものとは考えなかった。
しかし濃密な内容はそれどころではなかった、映画の様な迫力だった。
彼はリック社長が地震発生の原因を説明した放送、その後の学院の研究をしっかり学び、それを空想物語としたのだろう。
構想、企画だけでもそれは超大作だった。
しかし発想はいいが、そこに肉付けする情報が、まだ少ない。
(異世界ではこの作品、スゴい作家さんが3年位取材して完成したらしいけど)
なにしろこの世界、近世初頭程度のレベルだ。
地震、地理学、考古学などリック社長の提言で始まったばかりだ。
「着眼点はいい。
さらに社会の手に余る大災害に対して、世界が損益を計算しながら手を結ぶという筋立てもいい」
単に地震とその破壊を描いたのではない。
その後の王国と各国政府の生存策に重きを置いた。
それは「皇帝のいない帝国」にも影響された、政治空想劇ともいうべきものだった。
リック社長は腹を決めた。
「私から王国、軍に対し、これはあくまで思考実験だと。
巨大災害時の心構えを広く世間に注意喚起するものとして説明しましょう」
「ありがとうございます!」
「んで、もう一点だけど…」
「もし!このマンガが成功したら、リック社長の手で映画に出来ないでしょうか?」
「だよねー」
マンガ作家氏は、あくまでもヨーホーによる実写特撮映画とできれば最高だと考えていたのだ。何故か…。
実はこの作品、マンガ家の彼は最初にショーウェイに持ち込んだ。
しかし
「アニメにしても特撮にしても、予算が掛かりすぎる!」
と却下されてしまったのだ。
しかしこの才能を惜しんだトレート部長が会社に断ったうえでリック社長に打診していたのだ。
「リックさん、この作品は世界を変えます!
空想という世界が、人と世の中の現実の在り方を考えさせる時代を拓くんです!」
彼は半泣きで訴えたのだった。
目の前で同じ様に真剣に答えを待つマンガ作家氏に、リック社長は答えた。
「先ずは、この権利を買ってあなたに払います。
それはその後映画化出来なくても返済不要。
映画化して成功した場合は、マンガの反響を参考に配分を決めましょう」
「感謝します!」
こうして爆弾の様な恐るべき才能をリック社長は買った。
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それからリック社長は。
新作を現場に任せ、不在がちになった。
そして王宮に姿を現し、国王陛下の前に通され、報告した。
「ボウ帝国南沿岸が海水に呑まれました!
死者は少数ですが避難民が数万人。
現地の交通網も麻痺しています」
「またか…
この大地は、繋がっているのだなあ」
頻発する異常気象に地震災害、カンゲース6世陛下は頭を抱えた。
(避難が早かったのも、我が弟の働きであろうなあ…)
実際、避難を呼びかけたが誰も信じず、やむなく巨大な快猿王に変身して
「津波から逃げるんだ!命を大切にしない奴は死ぬべきなんだ!」
と沿岸部で踊りまくったからだった。
「このままボウ帝国を放置すると、かの国は困窮し、対峙する異民族との戦いで更に破滅への道を進みます。
西側諸国は高速鉄道と飛行機で、彼の地の安定を支援すべきと奏上します」
リック社長は即断を促した。
「先方は受け入れる準備はあるのか?」
「現地は、今だに皇帝には報告されていない模様です。
ただ現地の有力者や神殿には話は通してあります」
「直ちに諸国条約を招聘!
それを待たずに先遣隊は出動!」
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リック社長の報告を元に、キリエリア飛行機輸送隊が発進。
続々と救援物質を被災地に送った。
その結果、ボウ帝国より先にキリエリアの支援が届いた。
乾燥食、水ろ過機、寝袋、薬など医療用品。
「いんや~、早いねえ」
「我が国の動きが鈍いのです」
遅れて被災地に到着したガタイ皇子とカチン大臣。
軍用の天幕を広げ避難民を収容する。
現地の映像がテレビで放送された。
壊滅した沿岸の街、諸国条約の物資輸送、カチン大臣の現地支援。
高台に多くの人が仮住まいしている様子が西側諸国に伝わった。
ガタイ皇子とカチン大臣が感謝の辞を16mmカメラに向かって述べる。
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キリエリアではカンゲース6世陛下が
「リック殿がいなければ、今でも支援物資は届いていなかった、いやそもそも震災の事実すら、ボウ帝国も知り得ていなかったかもしれぬ。
他国の民とは言え、数万の命を救えたことこそ、喜ぶべき事ではあるが。
しかし、国債やら色々と重荷を背負う事になったなあ…」
そう漏らしていた。
これにザナク財務卿が答えた。
「陛下、ご安心下さい。
国債はあと5年で返済可能です。
それ以降には、救援に賛同した領主への支援も可能となるでしょう」
「それは誠か?!」
「王立学院の、電算機による試算です」
王国や各公社には、祭典や諸国展示会による黒字が債権返済後も貯えられていた。
「ブライ君の、か」
「ええ。流石は英雄の子です」
「我が弟には救われてばかりだ。
せめて恩を返そう」
リック社長が持ち込んだ映画の企画、「内海が広がる時」。
「防災、復旧への見返りだ。
大災害への心得として王立学院への公認を検討させよう」
こうしてヨーホー映画新作特撮は、「内海が広がる時」に内定した。
もし楽しんで頂けたら、またご感想等などお聞かせ頂けたら大変な励みとなりますのでよろしくお願いいたします。
なお、活動報告・近況ノートにてモデルとなった実在の作品についての解説を行っていますので、ご興味をお持ちの方はご参照下さい。




