266.人形特撮の終わり
その日、マギカ・テラの17th世紀プロからリック邸へ連絡があった。
「長く続けて頂いた人形特撮ですが、『SPX9』で終了する見込みです。
この後、普通に俳優を使った特撮映画を撮影し、その結果を元にテレビ特撮映画の売り込みを行います」
「これ、ど~なっちゃうかな~」
「下手すりゃマギカ・テラの特撮が終わるよ。
まず状況を聞きに行こう」
「私も行きます!
キャピー、ブロムを連れてデシアス様のお家へ行ってね?」
「ごぶうんを!」
「どこでそんな言葉習ったかねえ?」
一同はマギカ・テラへ転移した。
******
「SPX9は失敗作でした」
17th世紀プロを受け継いだエンリケ社長が申し訳なさそうに答える。
「いや、人形劇ながら人の機微が描けていた。
『ケントゥリオ・ルーバー』よりドラマは確実に進歩していた。
がんばったじゃないか!」
だがリック社長の檄も他所にエンリケ社長は続けた。
「マギカ・テラ放送から次回作の打診が無かったんです」
「そんなの自分で引っ張り出さなきゃ!」
「ええ?」
「え?」
商売と言うもの黙っていて注文が空から降ってくるものじゃない、そう言い聞かせるリック社長であった。
しかし。
「その代わりに映画公社から、マギカ・テラで宇宙開発を行う映画の企画が来たんです。
人形劇じゃありません、普通に俳優を使う特撮映画です!」
「なんと!」
彼曰く。
映画公社からの、限りなくリアルな宇宙開発映画を撮影し、その実績を海外テレビ会社に持ち掛けて、実写俳優によるテレビ映画を展開する。
それが今後の彼らの新目標になった、という事だ。
「で、ナンシーさんは何と?」
「いえ、まだ正式な契約が出来ていないので」
「彼女は俺達の恩人だ。
あの人とルーインさんがいなかったらこの会社は無かった。
最初に相談すべきだったと思うよ?」
「…仰る通りです」
社長は不義理を恥じた。
「映画の製作費は?」
「今内示されているのは、5千万デナリ」
「安っ!」
「え?」
「ああ…いや、でもコッチ(マギカ・テラ)でも色々物価が上がって、昔の7千万デナリ程度だよね。
キャスティングは、極力今まで付き合いある方で、俳優兼声優さんを重用すべきかもねえ」
「…はい」
「多くの俳優さんと付き合いがある映画公社なら兎に角、人形特撮スタジオって舐められると厄介だ。
当然向こうは契約外で法外な要求を、それこそ移動や宿は最速最上級の国賓級でって言ってきて、応じなければ撮影を拒否する、その上でギャラは全額を要求するって言って来るだろうし」
「ええ?!」
「そんなものだよ、映画の裏側って」
幸いにしてそんな事を目の当たりにする事が少なく済んだリック監督であった。
******
「任せた会社だから、あまり口を挟むのはどうかと思うけどねえ」
「ふふふ」「うひひ」
リック社長のつぶやきの、二人の夫人の答えは苦笑だった。
「何で?」
「また一緒にやりたいんでしょう?」
「いやいや、それじゃあ彼らの成長の場を奪う事になる」
「うんうん。まだね、みんな、劇場映画はキビシイと思うよ~」
「だろうねえ」
「リックさんはお節介なくらいがちょうどいいんですよ」
「そんなもんかな?」
「そだよ~」
子供を迎えに行くと英雄チームが集まっていた。彼らと相談し、
「言ってやれよ」
「主の言葉は届くだろう」
「ま、程々にね」
「マギカ・テラの俳優さんって誰かしらね!えへへ!」
「妻よ…」
リックは改めてマギカ・テラへ。
******
「考えましたが、やはり劇場映画は我々の夢なんです!」
17th世紀プロの首脳陣が集まっていた。
「トニトアビスの映画が実現しなかったのは、無念なんです」
彼らの中では、やはりテレビより劇場で華を咲かせたい、という思いが強いようだ。
(仕事が安定しているテレビの方が、予算はキツイけど4~50年程度は安心してやってけるんだけどなあ)
と思いつつ、聞き手に徹した。
「優れた特殊技術があれば、未来の世界を体験する事も出来ます。
この映画では、今までのカラフルな、地球から宇宙へひとっ飛びできる万能ロケットではなく、アイディー様が作り上げた様な実現可能なロケットを描きたいんです!」
「ふむふむ」
「そのため私達はキリエリアの王立学院と宇宙公社へ取材を申し込んでいます。
現在考えられる限り実現可能な宇宙開発、月面開発、そして太陽系外周部への挑戦を描きたいんです」
「ほうほう」
「その先に見える、宇宙の神秘、姿をひそめている神の姿を、学問の目を通して描き、感動を観客と共有したいのです!」
(最後いきなり抽象的になったなあ)
と思いつつ突っ込む気持ちを何とか抑えた。
「リックさんであれば。
15年前のあの時で「宇宙迎撃戦」を撮り上げたリックさんであれば、素晴らしいアイデアもあるでしょう、未来の姿も王立学院以上のものが描けるでしょう」
(異世界の知識があるからねえ。
でも、意外とそんな宇宙になんて行けるもんじゃなかったそうだよ?)
目の前で熱く語る一同の夢を壊してはいけないと頑張って沈黙するリック社長。
「でもそれに頼っては、私達の未来はない!」
エンリケ社長は熱弁を振るった。
「マギカ・テラでもここまでやれる!
いや、マギカ・テラならではこれが撮れるんだ!
そういう特撮を実現したいんです!」
(そのためには、今まであまり使ってこなかったオプチカルプリンターが必要だろうねえ)
既に自分ならどうするか、と考えつつ聞き込むリック社長。
「どうやらここへ来たのは、本当に余計なお節介だった様だね」
「そんな事はありません、今の会話で私達は改めて自分達の夢、目標を再確認できました」
「もし助言や助力が必要なら遠慮なく言ってね。
俺が立ち上げた会社だから、絶対見捨てない。
絶対助ける、力になるよ」
「そうならない様に努力しますし。
そう言って貰えて、とてもうれしい!」
「ただ一つだけ。
ナンシーさんにちゃんとお礼しなければね」
******
後日、彼らはナンシー女史へ衣装チームへの指導役等を打診したが、彼女は新作への参加を断った。
「私はやっぱり人形が好きです」
そのため、過去作品の成功への感謝を捧げるパーティーが催される事となった。
無論リック社長たちキリエリアのスタッフも参加した。
ナンシー女史は
「素敵な思い出を有難う、私は人形と暮らします。
でも、これをお別れとは思わないで下さい。
また人形が必要ならいつでも駆け付けます」
スタッフたちは次々と今までの大変で楽しかった時間への感謝を伝えた。
中には人形師同士で結婚した男女までいた。
名人形師キャピーちゃんも
「先生、ありがとうございました!」
とお礼を述べた。
そしてリック社長も
「恐らく次は、人間と共演する人形が必要かも知れません。
異星の人類の被り物を舞台裏で操作し、複雑で繊細な感情を表現する。
そんな仕掛けが必要となった時、是非人形劇の力をお借りしたい!」
と頭を下げた。
「まあ。
人形と人間が友達になれるなら、本当に夢のようです。
リックさん、今まで色々素敵な夢をありがとう」
スタッフ一同は彼女を拍手で讃えた。
そしてリック社長は17th世紀プロの一同に向かって言った。
「俳優は人形と違う。
契約金以外で契約金以上の待遇を求め、満足できなければ傍若無人に振舞うだろう。
その時、人形の方が聞き分けが良かったと思っても、簡単に戻れないからね?」
冗談だと思ったスタッフたちから笑いが漏れた。
「君達は君達が目指す場所よりもっと先へ行くんだ!」
スタッフたちはリック社長にも拍手を贈った。
後日、リック社長の言葉の重さを痛感するとも知らずに。
******
現実的な宇宙映画は「デュプレクス(鏡像)」と題された。
当初、太陽系の外周を目指す物語は、太陽系の途方もない巨大さを前に頓挫し、太陽を挟んだ地球の反対側に、地球と全く同じ惑星が鏡写しで存在する、その惑星調査に向かった主人公がその真実を訴えるべく再び宇宙に出るが失敗、宇宙基地は大爆発を起こし全ては神秘の向う側の話となって終わる、実に難解な物語となった。
マギカ・テラ映画公社初の大予算特撮映画とあって王家も支援を考えたが
「う~む。さっぱりわからん」
との女王マキウリア陛下の一言で企画の練り直しとなった。
「何故太陽の反対側に我らと全く同じ人や生き物がおるのじゃ?」
「それを俺に聞かないで下さいよ!」
アイラ夫人とアイディー夫人がガードする、すぐ向う側から顔を突きつけるマキウリア陛下。
リック社長は当惑した。
「た、多分ですね、あの子たち、宇宙の果てに、神秘的ななんかを、う~」
説明しようとしたアイディー夫人は色々圧倒的なマキウリア陛下にたじろいだ。
「発言をお許しいただけませんでしょうか?」
「おう、英雄ブライ殿!かわいいのう!
よいよい、隣のお姉さん位のつもりで接しておくれ」
(お姉さん?)
「はァ?何じゃァ?」
リック社長の心の突っ込みに唇を尖らせる女王陛下である。
「恐らくこの物語は明確な結論を求めず、宇宙にはそんな不思議さ、神秘性がある、という幻想を観客に抱かせようと思ったのでしょう」
「ふむふむ」
「ただ、私達人間が今到達可能と思われる範囲、太陽系の内惑星に物語を狭めた結果、『鏡像』という形で神秘性を描こうとしたのではないか、そう考えます」
「ほうほう。
流石我がリック殿の誇る英雄英傑快男児じゃな!」
今度は二人の夫人は瞬間的にブライ君をガードした。
「ぬううん。
最初の発想の通り、遠い惑星?で神秘を垣間見る話の方がまだ納得いくのじゃがのう。
どうあっても辿り着けぬものなのか?」
「外道に手を染めれば」
「リックさん!」
「リックきゅ~ん…」
二人の妻はリックを諫めようとするが。
「300年位先。
百万分の一mの精密な金属加工を行う技術を持つ時代。
そして、極大魔法…」
「聞かなかった事にしよう」
マキウリア陛下はリックの言葉を遮った。
「陛下の聡明なご判断に感謝します」
「何かそれに代わるテキトーな理屈が付けばよいのであろう?
彼らが助言を求める様であれば、お主が火をつけた我が国の特撮じゃ。
面倒見てやってくれ。
例の言葉だけはナシでの」
「はい!」
「では土産にワインを持って来たぞ!飲め飲め!
英雄ブライ殿もどうじゃ?」
「有難く…」「「だめー!!」」
「はっはっは!良いではないか近う寄れ!」
マギカ・テラ初の俳優による特撮映画第一作は、この様な女王陛下御乱心の夜にその製作が本決まりとなったのだ。
もし楽しんで頂けたら、またご感想等などお聞かせ頂けたら大変な励みとなりますのでよろしくお願いいたします。
なお、活動報告・近況ノートにてモデルとなった実在の作品についての解説を行っていますので、ご興味をお持ちの方はご参照下さい。




