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265.クリスマスSS 何で贈り物?

 冬が来た。リック社長がキリエリアで特撮を始め、何度目かの冬だ。

 3人の子供も大きくなり、英雄チームの子供達も大きくなった。


 リック社長の齎した鉄道や自動車のお陰で、嘗ての様に冬は家に籠る時期ではななくなった。

 人工衛星から送られる映像で晴れ間に除雪や鉄道の往来が可能になり、都市部では人の往来も途絶える事は無かった。


 そんな時代を迎えても冬至、冬ごもりの祭りは続いている。

 農作業もなく、貯えを楽しみつつ春を待つ。


 子供達にとって冬至祭の御馳走は楽しみだ。

 神殿での命を巡る年越しの礼拝が行われ、子供達には小さな菓子が振舞われる。

 長く退屈な礼拝だが、小さな菓子と暖かい茶を楽しみに、雪の降る寒い中、子供達は頑張った。


******


 そんなある年、リック社長は前世の記憶と今の自分との齟齬に悩んでいた。

「珍しいですわね。

 悩み事をすぐ割り切ってしまうあなたがこんな長く悩むなんて」

 流石アイラ夫人、彼の悩みを見抜いた。


 だが。

「実は…」

 彼はアイラ夫人に語ろうとしてやめた。


 異世界の宗教について無思慮に語ってしまえば。

 それが変に広まって、この世の中をおかしく変えてしまう事を心配したのだ。


(この人の事だから、きっと子供達に施す話かしら?

 もしかしたら神殿に関わる話かもしれないわね)

 察したアイラ夫人も黙して聞かなかった。


 アイラ夫人の飲み込んだ気持ちを感じたアイディー夫人が言葉をたどたどしく繋ぐ。

「もしかして、冬至祭に、世の中の子供達に贈り物、って、考えてるかな?」

 宗教絡みの話を避けて察した振りをするアイディー夫人も流石である。


「はは。流石愛しい俺の奥さんだね!」

 そしてリック社長は前世の記憶にある異教の話は抜きにして語った。


「何で贈り物するのかな?

 むしろ、命の巡りや、命に救いがあるなら。

 俺達が神へ捧げるべきだよね?」


「それなら、小さい子供達の夢のために大人が贈るのも悪くないのではないですか?」

 優しくアイラ夫人が答える。


「これ以上世のお父さんに出費を強いたらウチが焼き討ちされちゃうよ!」

「そうかもね~、はは!」

「およしなさいって、ふふ!」


 夫婦三人で笑い合った。


「実は考えている事があるんだ」

「捨てられたオモチャ、ですか?」

 アイラ夫人はかねてからリック社長が役目を終えた怪獣人形たちを引き取っては修理し、クラン祭りで来場者の子供にプレゼントしていた事を知っていた。


「はあー、流石だね」

「捨てられるおもちゃを回収してさ、修理して、贈り物にする?

 それを、もっと全国的にする?」

「そのとおりなんだよ!」


「大きくやるには人手が要りますよね?」

 アイラ夫人はお隣さんに声をかけた。


******


 先ずミーヒャー夫人がリック邸の計算機に計算システムを簡易に組み込んで試算した。

「王都で実験的に試行しましょう。

 要員として失業中の寡婦、工房を引退した高齢者あたりが最適でしょう。

 無論無給は許されません、トリック玩具の儲けから可能な範囲で支払います」


 次いで先ずアックスが騎士団に命じて捨てられたオモチャを回収した。

 結構丈夫な玩具が捨てられ、ちょっと洗えば再生できた。

「でもなあ、精々2~3百個ってトコだな」

「上出来じゃないのか?もし主の計画の様に、玩具店で下取りを始めればもっと回収できるだろう」


「仮に5千個として、行き渡る先は王国内とゴルゴードの孤児院くらいでしょうか。

 そのあたりが商会の出せる限界と判断します」


「やらない善よりやる偽善だ。

 みんなを付き合わせてすまないけど、協力してもらえるかな?」

「こうして冬を前に我が妻我が子と平和に暮らせるのもお前のお陰だ!」

「主の夢とあらば全力で叶えるのみ!」

「子供達が喜ぶ顔を見たいわね!」

「トリック特技プロが金儲けだけの会社じゃないって世間に知らしめましょう!」


「みなさん、ありがとう!」

「うれしいよ!うれし~よ~!」

 リック社長より前に感謝する二人の夫人だった。


 こうして冬至祭オモチャ再生活動が始まった。


******


 ミーヒャー夫人がトリック玩具に計画を説明した。

 当初新品が売れなくなると心配されたが、

「再生したオモチャは、孤児院でオモチャを買ってもらえない子に寄付します。

 彼らが大人になって稼いだ時、きっと彼らの子供に贈り物をしてくれるでしょう」

そう諭されて、商会は納得した。


 次いでセワーシャ夫人が学校に掛け合って、内職先を求めている寡婦を集めた。


 更に孤児院の監督先である神殿に…

「聖女様の申し出を誰が断るというのでしょー!!

 必要な費用も神殿からー!!」

「そーゆーのいーですから」


「情熱的」というレベルを二つ三つはみ出したミゼレ祭司をいなしつつ、再生オモチャの受け入れが決まった。


 トリック玩具もテレビの宣伝でオモチャの回収、それと引き換えに「宇宙警備隊マーク」を交付して、新品を割引で買える様計算した。


 年末が近づき、トリック特技プロ作品で変身英雄が

「みんな!もし要らなくなったり壊れたオモチャがあれば教えてくれ。

 私達が引き受け、玩具を買えない子供達の下に届けよう!」

と訴える宣伝を放送した。


 この前代未聞の宣伝に世間は驚いた。


「何でまたそんな金にならない事をするかねえ」

「暴力映画って言われるのがイヤで始めた偽善じゃねえか?」

「ウチなんざ毎年高ぇ金払ってオモチャ買わされてるってのによお!」


 そんな不満も食堂で酒場で聞えた。

 急ぎ宣伝に

「この冬至オモチャ再生活動は、神殿が協賛しています」

との一言が加えられた。


「神殿の仕事とあっちゃあ協力しなきゃな」

「あの世に徳を積めるぞ!」

「献金みたいなもんだ!」

 非難は一転して賞賛に変わった。


「あの色欲祭司も使いようよね」

「怖い事いうなあこの聖女様は」

 アラフォーとなっても魔力の高さ故か美貌の衰えない聖女セワーシャに怯えるリック社長であった。


******


 この動きに、例によって泣きながらトレート部長が「ウチも是非!」とやって来て、ペルソネクエスもこの宣伝に加わった。


 更に国際特撮も、あのコワい御仁も賛同してくれたのだ。


 壊れたオモチャが集められ、寡婦や高齢の元工員の手で蘇って行った。


 そして、この宣伝を見て心動かされたものが他にも。


「そろそろみんなもここでの使命を終えたのだろうか…」

 王都から少し離れた伯爵家、ケアリア伯爵領の若き領主、サイト卿。

 既に反乱の輩として隠居させられた父から、かつて捨てられそうになったゴドランやスプラルジェントの人形を前に、それらを手放す事を決意し、引き取りを頼んだのだ。


「皆のお陰で王国の一助となる事が出来た。

 ありがとう、スプラルジェント、スプラセプタ、フォルティステラ…」

 サイト卿の心に、熱いものがこみあげて来た。


 回収業者が来た。しかし彼はこの離れを一瞥すると

「これは引き取れません」

と断った。


「は?何故か?何か壊れているのか?」

「いいえ。まだ彼らにはここで使命があるのです」


 回収業者は脱帽すると。

「え、英雄リックさ…トリック監督?!」

「内乱の時は決起して頂き本当にありがとうございました。

 ヨーホー映画は焼かれてしまいましたが放送局は守り通す事が出来ました。

 伯爵様のお陰です!」


「そそそそそんな!おそおそおそれ多い!」

「ここにいる怪獣や変身英雄達は、まだこの地で伯爵様や多くの子供達に、正義の心を伝える使命を終えていません。

 永遠に終わる事のない、尊い使命を」


 笑顔で答えるリック社長に、若き伯爵は涙を禁じえなかった。


******


 内乱鎮圧に立ち上がった功労者、メッセー・リハクマ女伯爵、ホンイ・ミルハ男爵、センタア・ウツウユリ女男爵も寄付を訴えていた。

 しかしケアリア伯爵同様に、回収業者=実はリック社長に断られた。


 久しぶりに再会した彼ら彼女ら。

「まだ使命が残っていると言われてしまいましたわ」「俺もだよ」「私もよ!」

「この地で、多くの子供達に正義の心を伝える使命と言われたよ」


 一同は、心の師であり、特撮の産みの親であるリック社長の真意について考えた。

「この事業を始める時トリック監督は『やらない善よりやる偽善だ』と言ったそうだ。


 俺達も動こう。

 まず、領内から冬の飢餓、病死の撲滅だ!


 それが成功したら、みんな持っているオモチャを子供達に展示しよう!

 俺達が愛した怪獣や英雄といつでも会える様、無料映画館、安価な本を無料で読める図書館、そしてオモチャを見られる子供博物館を作ろう!」


 この若者たち、リック社長の予想を超えた活躍を再び見せる。

 彼らの熱意は全国に届起き、小屋仕舞いする劇場から過去の特撮映画や名作映画のプリントや各種宣伝材料が寄せられ、彼らの夢を引き継いだ「子供博物館」が実現したのだ。


 この様な取り組み、子供を対象としつつ大人も楽しめる文化施設は注目を集めた。

 後に地方領の児童教育の先進例として高く評価される事になるのだ。


******


 冬至の祭りの夜。


 礼拝を終えた孤児院の子供達が院に帰ると、世話役の教師たちが笑顔で子供達を待っていた。

 数多くの、色とりどりの包みとともに。


「みなさんにお願いがあります。

 みなさんはこれから大きな贈り物を受け取ります」

 子供達は喜び、ざわついだ。


「でも、受け取って終わり、ではありませんよ?

 受けた御恵みを、今度は誰か他の人のために贈らなければいけません」


「はーい!」

 日頃「受けた恩は返せ」と教わっていた子供達は迷わず答えた。


 そして受け取ったものは、怪獣、ロケット、可愛い着せ替え人形、絵本、色鉛筆。

 子供達の笑顔は例えようもなかった。


「ゴドランだー!」

「トニトアビー2だー!」

「わたしはルンタッタちゃんかあ…あれ?この子かわいい?」

「これ、昔の、フォルティステラだ。でもカッコイイじゃん!」

 一部微妙な反応もあったが。


 そんな歓喜の声がキリエリアの各地で沸き起こった、そんな冬至祭だった。


******


 リック邸でも、礼拝が終わった仲間達が集まって宴会を始めていた。


 アックスがリーダーとして宣言する。

「俺達の幸せは、この世界の安定と幸せがあっての事だ。

 だからこれからも何かあったら頑張ろう。

 神から授かった力を、力を持たない人たちのために揮うんだ!」

「「「おう!」」」「「「はい!!!」」」


 しかしリック社長は疑問をぬぐい切れなかった。

「お悩みの様ね?あれだけ素敵な事をして」

 聖女セワーシャが聞く。


「いやね、やっぱりわからないんだ。

 何で冬の祭りに贈り物するんだかね」


 その時、窓に鳥がぶつかった。

 何度もぶつかる。


 アイラ夫人がリックに目配せすると、リック社長は迷わず窓を開けた。

 二羽の鳥が舞い込んで、梁に泊まって糞を垂れた。

「うわ!」

「まあまあ、この寒い中安心して阻喪も出来なかったんだろう」


 アイディー夫人がササっと籠に藁を載せ梁の上に設えると、つがいの鳥はそこで休んだ。


(あ。あの鳥は、ここで卵を産むんだろうなあ)


 何か、何故か。

 納得がいった様なリック社長だった。


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