260.ゴドラン対トルドー?!
「ようリッちゃん!」
人形特撮「SPX9」をマギカ・テラの現地スタッフに引き継いだポンさんは、自主製作のテレビ映画「エレメンタム」を指揮していた。
「そっちは親分が撮影を離れられていいなあ!」
国際特撮商会は無茶なスケジュールのため大騒ぎだった。
「お噂は予々(かねがね)お伺いしています」
笑顔で挨拶して来たのは、ふくよかなうえに丸顔の好人物。
元ジャイエンの監督、コンスティ・アッカリダ監督だ。
「トルドー第一作の際、俺たちの支援に頼らない決断を下したのは同業者として尊敬します」
とリック監督も挨拶を交わし、本題に入った。
「ヨーホー映像は条件付きでトルドー映画製作に協力します。
先ず、ジャイエン商会の管財人を紹介願います」
「今は元社員が集団で権利を訴えていますが」
「法廷はそれを認めていないと」
アッカリダ監督は頷く。
「まずそこからですよ。
権利元が誰だかわからなきゃ勝手にトルドーを使う事は出来ない。
まず法廷の記録を読んで、元社員たちを組織化してジャイエン作品の著作権管理をきっちりやらせましょう!」
そう言うや、リック監督はアッカリダ監督を連れて法廷へ、そして元社員団体へ。
「兎に角あなた達は組織化して、資本金をかき集めてジャイエンの旧作の権利とプリント、ネガ、音素材、残っている撮影機材を…」
「撮影機材は撮影所を売ってしまったので」
「じゃあ過去作の素材だけでも確保しましょう」
「そんな今言われてもどこへ確保する?」
「ヨーホー映画博物館で」
この一言に、一同は一瞬喜び、そして悩んだ。
嘗てのライバルに栄光の歴史の遺産をゆだねる事になるのだ。
「保管場所の費用は取りません。
あくまで王立学院の芸術学部の教材として活用します。
搬入と、他の保管場所を確保した際の搬出費だけはお願いします。
後、保管中の、利益目的ではない使用、学士への上映、博物館としての無償上映については無償で提供願いますね」
そう聞いて、同意せざるを得なかった。
更にその足で元トリック商会系列の法務財務を担当している役員にジャイエン元社員団を紹介し、出資を即断即決した者を代表者として商会化し、その足で法廷へ「ジャイエン社員互助会」として商会登録を済ませ、合わせてジャイエンの旧作品の権利を訴えた。
法廷の認定には1週間を要する。
「まだ結論は出ていませんが、折角空いた時間もある事ですし、企画を纏めてみませんか?
もしウチがダメでも、誰かが実現してくれるかもしれません」
そうリック監督に励まされ、アッカリダ監督はリック監督のアイデアを元に検討を始めた。
そして纏められた企画は。
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物語は、最初にゴドラン対トルドーの対決。
謎の軍団が放った極大魔法の爆発に怒ったゴドランと、炎上する森の炎を求めて飛んで来たトルドーの戦い。
王国軍の消火活動のため炎を失ったトルドーは去り、ゴドランもそれを追って海へ。
その謎の軍団はかつて猛威を振るった機械怪獣の機密を奪った。
博物館を見学中に軍団を追いかけた少年達も誘拐される。
謎の軍団の向かう先は、大陸中央の秘密ウラン鉱脈。
そこで小型極大魔法から得られる熱を利用した機械怪獣ゴレモル、マキナカイエンが建造され、地下を掘り進み大陸横断鉄道の駅がある都会を狙う。
小型極大魔法を察知したゴドランが怒りを込めて二代鋼鉄怪獣に立ち向かう。
子供達は秘密の暗号を各地に残し、軍は突入部隊を向かわせる。
そして子供達が起こした敵基地の火災が広がり、トルドーがやって来た。
ゴドランとトルドーを攻撃する機械怪獣、内陸部の大都会で、滅亡した古代文明の遺跡で、4大怪獣の決闘が始まった!
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(これは、観たいなあ)
そう内心思うも、先ずは権利確保と製作条件次第。
法廷へ結果を伺いに行くと。
「ヨーホー映画博物館と王立学院芸術部、それに加えてトリック特技プロダクションを保証人として、ジャイエン社員互助会を権利継承者として承認する」
(やっぱりこうなったかあ)
「私達はリックさんの考えには反対しませんよ」
「ど~せね、上手くいくよ、うひひ!」
「この会社は主の物だ。好きにする権利がある」
「ただねえ。ジャイエンって商会、厄介ごとの種みたいな気はするのよね?」
「ま、リックの事だ、何とかするだろ」
この1週間、リック監督は色々調べた。
ラッパー社長は独断で進めていた大作の企画、祭典に向けての剣闘士集団の囲い込みに貴族をパトロンとするための出資等、膨大な借金を抱えていた。
しかし倒産後、管財人が債権整理のために設けた告知時期はとうに過ぎた。
まあ、詐欺や不正に近い密約だったので、訴えれば我が身にも疑惑が及ぶからなのだが。
それでも外道共はその密約をその筋に売り払って返済を迫るだろう。
(そん時ゃ実力排除と、ラッパーの隠し資産情報を横流しするだけだ)
リック社長はジャイエン社員互助会と、万一解散した場合や違約があった場合は過去作品の権利とネガを差し押さえる契約を結び、保証人となった。
「リックさん!」
感極まったアッカリダ監督と、互助会長だが。
「では次に『ゴドラン対トルドー』かっこ仮題の製作条件の交渉ですが」
二人は一気に醒めた。
そしてその足でヨーホー映画本社へ引っ張って行かれた。
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「あれ?マッツォさんとセシリア様しか呼んでない筈だけど?」
何故か系列会社の社長や役員が揃っていた。
「何千万デナリっていう大作が、タダの嘱託の勝手に出来る訳ないだろう?」
先ず役員の一人が怒鳴った。
「じゃあ、トリック特技プロがショーウェイと合作でトルドーの新作を撮ります。
ゴドランの新作はそっちでお願いしますねー?
俺、嘱託なんで」
リック監督は秒で煽り返す。
「ふざけるな!」
「ふざけてんのはお前達だ!何が役員だ!
今まで劇場復興策やゴドラン新作のために何か意見を出したか?
何か頭を使い、手足を動かしたか?
役員報酬に見合う働きをしたか?」
「今リックさんに暴言を吐いた者は退出しろ」
「社長!」
「追って降格処分を下す。早く出ていけ」
「そんな事許されると…」
「早く出て行かないと懲戒免職だ!退職金も無しだ!警備員を呼べ!」
警備員が暴言組を引っ張っていく。
「全く、社内政治で出世した口だけ役員はリックさんの恩を知らない馬鹿ばかりだ!」
(あんたの親父もね)
とリック監督は内心思ったが、本人は親と真逆によくできた人物なので黙っていた。
「醜態をさらして申し訳ありません。
それではトルドーの新作について、契約条件を相談願います」
「宣伝部としては」
「黙れ、先方の説明が先だ!」
「しかし潰れた会社に何の力が…」
「物を作る力はお前などより余程強い!」
マッツォ社長の剣幕に、宣伝部は黙った。
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先ず、アッカリダ監督が企画書と、それを元に起算した見積を提示した。
製作費、ギリギリ低く見積もって6千万デナリ。
ゴドラン、機械怪獣二匹、軍の戦闘機、戦車、大商会等のミニチュアは過去作の流用。
トルドーのヌイグルミは新造。ミニチュアを置く舞台となる内陸部のセット、悪の軍団の秘密基地のセットも新造。
「随分かかるものだなあ」
「それは違いませんか?」
セシリア社長が無分別な意見に反応した。
「数年前に比べてセットの数に合成カットの数など、相当減っているのが解りませんか?
3年前に換算すれば3千万デナリ程度ですよ?
音楽費なんか計上されていません」
「音楽は過去のものを使うしかないかな、と考えます。
両怪獣の過去を振り返る意味でも、それも悪くはないかと思います。
それぞれの音楽を担当された作曲家には申し訳ありませんが…」
「結構ギリギリで考えて下さっているのは理解できますわ。
その程度見積を吟味できない人がこの場にいてもしょうがないでしょう?」
セシリア社長退任後に社内政治で昇格した役員は沈黙した。
「テレビではこの1割近い数字で頑張っている様ですが、映画でこの金額で何とかなるものですか?」
「何とかします!」
(それでも、倒産前のジャイエンとは比べ物にならない予算だ…)
アッカリダ監督は役員にも怯まないリック監督や、暴言を吐く役員に容赦ないマッツォ社長やセシリア社長の厳しさに呆然とし、気を引き締めた。
「そして製作条件ですが…
いま互助会には百万デナリの出資も不可能ですよね?」
「はい…」互助会長が力無く返答する。
「そうなれば、全額ヨーホー映像が負担。
そちらに出来る事と言えば、まず元社員の本作での期間限定の雇用」
「はい!感謝します!」
アッカリダ監督が嬉々として即答した。
「肝心なのはこの映画の今後の権利の分割です。
トルドーの権利を使っている以上、収益のいくらかかはジャイエンのもので、今では互助会のものとなります」
「不要です!」
アッカリダ監督がまたも即答した。
「ちょっとアッカリダ君!」
「元々トリック監督がいなければここまで撮り上げて頂くことも無かった企画です。
私達ジャイエンの仲間も使って頂けるのであれば、それ以上望む方が不義理と言う物です!
私達の取り分は、労働に見合った賃金だけで充分です」
「それは違うと思いますよ」
というのはリック監督。
「あなた達は、これからこの膨大なショーウェイの歴史遺産を守る義務がある。
今は博物館が肩代わりしているけど、いつかジャイエンの遺産を引き継ぐ出資先を探して引き取ってもらい、保護して貰わなければいけない。
そのために過去作の権利を主張し利益を守るのは、あなた達の義務だ」
「しかし…」
「純利益の5%を配分とする。5億稼げば数百万デナリは払えるだろう。
映画は未来へ引き継ぐべき財産だ。
早く保全して欲しい」
マッツォ社長の言葉に、二人は頭を深く下た。
だが、そこにヨーホー宣伝の社長が意見して来た。
「例え悪役怪獣でも、潰れた会社の怪獣に負けるのは我慢がならん!
トルドーが負けてゴドランが敵怪獣を倒す話にしてはどうか?」
「子供にケンカ売る気か!?」
先ずリック監督が怒った。
しかし怒るリック監督を抑えたのはアッカリダ監督だった。
「リックさん、ありがとう。
でもこれは私の仕事です」
笑顔でそう言うや
「この企画は確かにヨーホー映画さんにおんぶに抱っこなのは百も承知です。
しかし、トルドーは子供の味方であり、子供達の夢を担った怪獣の英雄です。
もし子供達が何年も応援して来たトルドーが敗けて死ぬ様を見て、それで喜ぶとお思いであれば、私は相談する相手を間違えたことをお詫び申し上げます」
一同は沈黙した。
(この人も、ショーウェイのトレートさんと同じだ。
やっぱり看板を背負ってるんだ。
あの人だったら絶対吠えてるけど)
リック監督は、改めてアッカリダ監督に敬意を抱いた。
「それが出資を頼む相手に対して言う事か!!」
ヨーホー宣伝の社長が怒鳴るが
「黙れ!」ドン!マッツォ社長が怒った。
「ヨーホーの広告も質が落ちたものだ。
自社の薄っぺらい優位を保つため子供達を敵に回す様な奴を責任ある席には置いておけない。
お前も出ていけ」
「ちょっと本社長!我が社の名誉というものがですな」
「全部リック監督におんぶに抱っこの名誉じゃないか!
そのリックさんが係わった脚本に、誰がケチをつける権利があると思うか?
我が社の名誉を、小さなお客様達の前で汚そうとしたのがお前だ、懲戒免職になりたくなければ早く出ていけ!」
この打ち合わせの中だけでも、早くも3人の社長、役員が罷免された。
「はあ~、申し訳ありません、セシリア様」
「謝る相手が違いますよ。大変な失礼、申し訳ございませんでしたわ」
セシリア社長に頭を下げられたアッカリダ監督は狼狽えた。
「あ…あああ!こ、公爵夫人!畏れ多い!頭を、お上げ下さい!」
「今は監督と新しい映画を作る仲間…仲間と認めて頂けますでしょうか?」
「そそそ!それはもう!」
(頼もしい事この上ないなあ)
こうして、ゴドラン久々の活躍、しかもその相棒にかつて子供達と人気を二分したトルドーとの、夢の共演が実現する事となった。
もし楽しんで頂けたら、またご感想等などお聞かせ頂けたら大変な励みとなりますのでよろしくお願いいたします。
なお、活動報告・近況ノートにてモデルとなった実在の作品についての解説を行っていますので、ご興味をお持ちの方はご参照下さい。




