259.ゴドラン続投を望む声
今や4局に増えたキリエリア王都のテレビ放送局。
報道・教育の王立放送、安定のキリエリア2、都会劇のヨーホー、時代活劇のショーウェイ。
当初キリエリア2の独走かと思われたが、ヨーホーが映画譲りの新作ラッシュ、更に遅い時間に過去の劇場映画を放送する事でトップに躍り出た。
これにショーウェイも食らいつき、結果としてテレビ需要が増え、広告主も売り上げ向上に気前が良くなり、労働者の給料も上がった。
三方よし、いや四方、五方よしの結果となった。
中でもヨーホーがテレビ業界トップとなれたのはリック監督の献策をマッツォ社長がいち早く実現し、復帰したセシリア社長がテレビを嫌がる古参の監督陣を説得して回ったからであり、奇跡的な業であった。
その結果、ヨーホー映画系列では失業するものもなく、撮影規模こそ小さくなったものの白亜の殿堂は以前活気に満ちていた。
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しかし、その恩恵に与れなかったものもいた。
多くの劇場主たちである。
入場者激減による劇場再編。
個人経営の赤字劇場は廃業せざるを得なかった。
集客力がありながら設備の劣化で小屋仕舞いを考えていた契約館は、ヨーホー劇場の支援を受けつつ大商店へ建て替えが進められた。
なお、この一連の流れの中、鉄道駅と融合した大商店に劇場を構えていたものは別に建設される大商店へ移転する事となった。
王立公社であるヨーホーの本社が優遇を受け、その上更に公社から一般商会に転身したヨーホー映画系列が鉄道駅という一等地で劇場を構え続ける。
この二重の利益を解消させ、自ら地域開発、地域貢献に努める道を選んだのは、いずれ起こるであろうヨーホーへの批判を避けるためである。
その結果、分社化当時は一番幅を利かせていたヨーホー劇場とヨーホー不動産が統合され、ヨーホー建物管理として再編。
もし早期に劇場たちの窮状を本社に訴えていたら。
遅くとも諸国展示会前に提言があれば救えた劇場は多く、各地の再開発に合わせ、より計画的に劇場再編が出来たかもしれない。
この損失の責任として、報告を怠った二社の役員たちは懲戒免職または降格。
また新社長は整理再開発計画に名乗りを挙げた優秀な若手を起用した。
生き残った独立劇場を再編して、「名画座組合」を組織し、修繕費積み立て、火災保険、劇場主の失業保険等の救済機関を組成した。
「素晴らしい!流石マッツォ社長だ!」
リック監督は喜んだ。
(元はあなたが提案した保険制度や積立金互助制度なんだけどなあ)
反論しても意味がないと悟ったマッツォ社長はリック監督に深く頭を下げる事しかできなかった。
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今年もクラン祭りが開催された。
小屋仕舞いを余儀なくされた劇場主も招待されたが、思うところあるものは現れなかった。
そして子供がムチャクチャ増えた。
関係会社としてトリック特技プロもスタジオを公開する事になり、準備のため撮影が一時中止、特美倉庫も整理された。
今は一時休止中の0番スタジオでは、「全怪獣総攻撃」に登場したゴドラン以下数匹、そして本作には登場しなかったゴレモルにマキナカイエン、更にトリック特技プロから4人のスプラルジェントが中の人入りで簡単な格闘を行った。
大プールでは近未来空想戦記で最も人気が高いグラン・パクス以下大型ミニチュア艦隊が「軍艦行進曲」に合わせ巡行し、時折号砲を発射している。
かつて荒野だった住宅街も、騒音のお詫びとばかりに仮設の客席が設けられ、柵越しではあるが軍艦の行進と、何回か行われる怪獣たちの行進、往年の名画のスターたち本人による主題歌演奏を鑑賞出来た。
この夢のスタジオのお祭りの影で、招待された劇場主たちから、共通した要望がセシリア社長、マッツォ社長に寄せられた。
「ゴドラン、もうやらないんでしょうかなあ」
スタジオ内にせよ、住宅街の見物席にせよ、未だにゴドランが登場すると大喝采であった。
「何だかんだ、賑わうしなあ」
「ゴドラン人形や児童本が売れるのも、小屋としては結構有難かったな」
「『全怪獣総攻撃』の後も、『皇帝のいない帝国』や『諸国展示会』では大ヒットを飛ばしている筈ですが」
「ええ、そりゃ有難かったです。
でも、ゴドランは、妙な熱気があるんですよ。
相手が子供たちだからでしょうかねえ?
映写機の回し甲斐があるっていいますか」
「やっぱり大西洋、未来兵器、そしてゴドラン。
年三回、特撮のスゴイのがないと、やっぱ寂しいよなあ」
酔った劇場主も笑顔から一転、寂しそうな顔をする。
この答えに、両社長は顔を見合わせて、考えた。
ゴドランの咆哮が上がる。子供達の歓声が上がる。
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「全怪獣総攻撃」から2年。そういう声があっても然るべき頃合いであった。
「これはマズイ、色々マズイ」
そう考えたマッツォ社長は翌日、二日酔いを推してセシリア社長とリック監督と面会した。
「うわ!酒臭!」
「リックさんもですよ!」
リック監督も久々のお祭りの打ち上げで出来上がってしまったのだ。
「二人共休んで下さい!」
「あなたに伝えるべき事を伝えたらそうします」
「律儀だなあ」
マッツォ社長は二人に話した。
「先ず、ゴドランというものは単なる空想映画だけじゃありません。
今や、ヨーホーお家芸の特撮の代名詞、ヨーホー映画の象徴の一つになっていたんです」
「大げさだなー」
「リックさん、話を聞きましょう」
「第二に、安易に復活させられない、大仕掛けが必要です。
人気があるから顔出し、では多分観客の失望を買うでしょう。
キメラヒドラの様な名悪役を出すか。
怪獣総動員というのは二度三度使える手ではありません」
「難しいトコですねー」
「第三に、これも難しい命題ですが。
ゴドランという極大魔法の権化を登場させる程の、重大な社会的な問題が今は私達には無い、という事」
リック監督はこの問いには真剣になった。
「ただ単なる人気者という事で、ゴドランを出していいものか。
宇宙人が怪獣を操って来た、それをゴドランがやっつける。
果たしてそれだけでいいのか。
リックさんの知っている異世界では、その辺どうだったのか」
そう問われてリック監督は溜息を吐いた。
「済みませんけどグダグダでしたね」
「グダグダ?」
「製作費は半減。製作期間も数か月、ヒドい時には1ケ月。
ミニチュアセットもほぼ無しで野原で暴れるだけとかもありました」
「何と!」
「それは…色々事情があったのでしょうけどねえ」
「流石にそんな作品では観客も前作より半減したそうです」
リック監督の語る異世界の現実に、二人は呆然とした。
「どうしてそうせざるを得なかったのか、そこが問題ね」
「…そんな失敗したくないものだ」
すっかり具合が悪くなったマッツォ社長にリック監督は答えた。
「今ゴドランを復活させるとしてどんなものがいいのか。
前に安易だからって却下したスプラルジェントと共演させるのがいいのかダメなのか。
インパクトがあって、みんなが見てみたいと思うものは何なのか。
俺も仲間達と話して見ます。
ヨーホー映画でも意見を出して下さい」
「わかった」
社長はトイレへ消えた。
「大丈夫かしら」
「あれも社長報酬のウチですよ」
嘱託の身に過ぎないリック監督は特技部へ向かった。
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「おう!元気そうだなリッちゃん!」
更に酒臭いショーキさんがいたが、元気そうだった。
「その酒の強さ、マッツォさんに分けてやってよ」
「ははは!そりゃムリだ!」
軽口を交わし、本題に入る。
「そういやポンさんが何度かジャイエンのOBと会ったって言ってたなあ」
ジャイエン。
かつて映画界の大商会の一つであり、名物社長の暴れっぷりで身上を潰し、映画不況に抗えず倒産した。
その不況の中、子供達に人気があった怪獣トルドーシリーズは僅かな製作費の中で倒産直前まで奮闘した。
「アッカリダ監督と?」
「他社でも何とか、トルドーを活躍させられないかって。このまま忘れられるのが忍びないってさ」
「ショーキさんはどう思う?」
「そりゃ撮れっていわれたら撮るよ。
ただ、ウチでやる意味があるのかって言われりゃ、どうかなあ。
いっそゴドランと戦わせるにしても、何で子供の味方と戦うのか、解んねえなあ」
「う~ん、安定した世の中を転覆させるため機械怪獣を使って攻撃する謎の軍と、二大怪獣が手を組んで戦うとか」
「それいいかも!」
話しを横で聞いていたのは、若手の特撮助監督。
「君はホントに機械モノが好きだなあ!」
ショーキさんが呆れたように入った相手はポリタニオ・コスモ助監督、ポリちゃん。
「前の『全怪獣』じゃ機械怪獣出せなかったんだし、いいと思うんですけどねえ」
「ホントにやるなら面倒な部分色々任せるから覚悟するんだぞ?」
「ええ、やりますよ!やらせて下さい!」
機械モノ大好きなポリちゃんなのだ。
「ちょっとちょっと、ホントにやるかまだ分かんないよ?」
「ん~。何かやりたそうな顔してないか?リッちゃん」
「へへ、そっかなあ?」
そう言いつつ、本社に回れ右したリック監督。
だがマッツォ社長は帰宅しており「きょうはあなたも帰りなさい」とセシリア社長に言われてしまった。
翌日。
リック社長の提案に、マッツィ社長もセシリア社長も渋い顔をした。
「先ずは先方の要望を確認する必要がありますが…」
「その前にだ、リックさん。
この企画、ウチにとってどう思う?」
「はっきり言って先方次第です。
無論権利関係についてジャイエンの管財人と交渉は必要ですが、向こうは予算を出せません、強気で行きます」
「その交渉、すぐ済むかな?」
「済ませます。向こうにして見りゃ、少しの金でも喉から手が出るほど欲しいでしょう」
立て板に水の勢いで返してくるリック監督。
しかし
「牢屋の中のラッパー氏は兎に角、クビにされたスタッフたちはそれなりの額を要求してくると思うけどねえ」
と、マッツォ社長は懐疑的だ。
「勿論必要なスタッフには給料はキチンと払いますよ?」
「ウチの特技部だけで撮れると思うが、無駄な出費になるんじゃないか?」
「いいえ。ジャイエンのスタッフたちも彼らなりに予算が厳しい中戦って来た、経験を持っている職人です。
出来る事なら給料と引き換えに彼らのやり方を見てみたい」
(リックさんは常に特撮界全体を見ているんだなあ)
「では、一度話して見て下さい」
マッツォ社長は、半ば諦め気味に答えた。
「まあ、出来る事なら、かつてのライバル会社の怪獣とゴドランの、まるで剣術と槍術の異種競技みたいな戦いは見てみたいかもしれませんからねえ」
こうして久々のゴドラン映画の、そしてまさかのトルドー映画の企画が動き出したのだ。
もし楽しんで頂けたら、またご感想等などお聞かせ頂けたら大変な励みとなりますのでよろしくお願いいたします。
なお、活動報告・近況ノートにてモデルとなった実在の作品についての解説を行っていますので、ご興味をお持ちの方はご参照下さい。




