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258.変身ブームの寵児

 特撮作品、実写変身番組、更にアニメ番組を含めて毎日1~2作品が放送される事になった。

「警備くん」の様な子供層にも人気が出る現代活劇、歴史活劇を含めれば毎日3作品に迫る。


 それに加えて休日午前の放送枠を埋める為、過去のスプラシリーズや少年向け歴史活劇が放送され、子供達は夢の時間が増える、増える。

 しかし学校が終わって家の手伝いや兄弟の世話、更に復習もしなければいけない。


 子供が風邪をひいて腹を下してそのまま死んでしまう不幸。

 それはキリエリアを皮切りに各国から激減した。

 その代わりに子供の悩みが消えた訳ではない。

 特に学校の復習、「宿題」は子供にとって自由な時間を奪う敵であった。


 そんな、10年前とは比べ物にならないほど豊かになった子供達にとって、親から買って貰える玩具は、まさに夢の様な存在だった。


******


 この変身ブームに、トリック玩具ではリック社長が動いていた。


 変身英雄乱立の世の中にあって、30cmの人間の人形を開発した。

 それも股、肩、肘、膝、首が自由に動き、体は透明樹脂製。

 リアルな頭身の、その頭と胴体の内には鍍金した機械が入っている人形を作ったのだ。


 この人形に過去のスプラルジェントやスプラセプト、スプラルジェント二世、そしてTISIやVIMの隊員服等、過去から今までの特撮英雄の「服」を着せて、本物の様なポーズを付けられる玩具を発売する事にした。


 名付けて「変身マキノイド1」。

 金属の様な鍍金の内部機械が透明な体の中で輝くそれは、そのまま眺めてもカッコよく、美しい。


「これは、綺麗ね」

「結構イケメンねー!」

「妻よ…」


 更に、やはり鍍金された樹脂製の武器が腕や足に付け替えできる。

 このマキノイド1の人気が爆発した後年、何と頭に前照灯、手足の先にゴム製の車輪を取り付け自動二輪車に変身できる「マキノイドエクエス」という豪華セットが発売された。

 この自動二輪の部品も透明樹脂と鍍金部品で高級感を出していた。

 着替えてよし、手足の武器を変えて遊んでよし。


 これらは発売前から児童雑誌で紹介され、予約が殺到した。


 しかしリック社長の狙いはこの人形や武器そのものではなかった。

 彼はペルソネクエスを始めとする、各社の変身英雄の「着せ替え」の試作品を作り、売り込んだ。


 ショーウェイは一も二も無く合意し、試作品を撮影にすら使う食い付きようを見せた。


 実はショーウェイは自社で玩具商会を立ち上げる様挑んだが、「本物と似てない」「すぐ壊れる」等の問題が続出して、結局挫折したのだった。

 なのでかつて精巧で写実的な製品を送り出して来たトリック玩具の提案が嬉しくもあり悔しくもあり、しかし商機を逃さぬ様飛びついたのだ。


 無論、リック社長の人柄に対する全面的な信頼もあったのだが。


 これに他社も追随し、まさに人形も「ヘンシーン!」する時代になったのだ。


 こうなると1号、2号程度ならまだしも、スプラルジェントの様に4体、ましてやコワい御仁の作品「スペクトラルス」となると7体ものマキノイドが必要だ。

 いくらなんでもそりゃやりすぎと商品化を躊躇していたら。


 しかしコワい御仁自らやって来て

「この玩具であれば私の英雄を正確に再現できる!」

と商品化を懇願して来たので、コワくなって承知した。


******


 そしてトリック玩具から更なる商品化企画が持ち込まれた。


 先ず、ペルソネクエスの変身ベルト。

「光る!回る!変身ベルト!」と銘打たれた子供用のベルトは、腰のスイッチを入れると音が鳴って虹色の光が回る!

 これも商品化が即決した。


 更にエクエスが駆る自動二輪車プロチャリアも、子供用の足漕ぎ二輪車として開発した。

 ハンドルと側面に繊維強化樹脂製のカバーが付き、ライトが光り速度計が動くだけなのだが、ベルトを着けてプロチャリア足漕ぎ二輪車で走る子供達は、本当にエクエスになった気持ちだっただろう。


 ここでリック社長は満足しなかった。

 これら玩具で得た報酬を原資に、学校と王国騎士団に訴えた。

「学校で、交通教育をしましょう!」


 祭典、諸国展示会以来、王都はじめ地方の大領都では交通量が増えた。

 馬車、電車、自動車は運転者への教育義務が法制化されていた。

 しかし「交通事故」によって重傷を負うものは多かったのだ。

 無論、その中には足漕ぎ二輪車に乗っていた子供もいた。


「自転車を供出します。学校で交通法規を学ばせましょう!

 子供が遊ぶ公園の一部に道路や信号を作って、安全に自転車を運転する習慣を付けさせましょう!」


「お前というヤツは本当に…」

 国王カンゲース6世陛下は、続けるべき言葉も探し出せぬままに、弟分であるリック社長の提言を受け入れた。


「商売人としては働き損ですが、私は尊敬します!」

 この顛末にミーヒャー専務は感動した。

「リックさんは、いつもお金を儲けてはみんなのために使うんですよ」

「だから好きだよ~うひひ」


「…これは。我々も出来る事を考えよう!」

「とりあえず、高い所から飛び降りるマネや、子供同士で本当に殴り合うマネはやめるよう広告うちましょうよ!」


 変身英雄のジャンプやキック、パンチを真似して怪我する子供への注意喚起はすでにやっている。

 しかしそう言われて留まる子供ではない。

 この注意喚起はひたすら繰り返された。


******


 一方、学校で変身英雄を気取った子供が、格下と見做した同級生を集団で殴る事例が起きている。

 奇妙な事に、貴族学校でも、平民の学校でも同じくらい起きている…らしい。


 しかし、これは人が人である以上、遥か昔からくりかえされていた事である。

 たまたま子供向けのテレビ映画で英雄と怪人が殴り合う映像が悪目立ちした結果、この集団暴力犯罪が取り沙汰される事になった。


 そして、世間は子供向けテレビ映画がなくなればこの「いじめ」と呼ばれる騒ぎは消え去ると盲信した。

 弱者を集団で暴行するという生物の本能に向き合わず、新しく出来て来ただけに叩きやすい(と彼らが信じる)子供向けテレビ映画を批判し始めたのだ。


「人間様などと謙遜しても、所詮畜生は畜生だ。

 弱そうな奴を捕まえて叩き潰して楽しむのは生き物の生理だ。

 でも、俺が人間である以上、見過ごせないね」


 リック社長は、弱いものへの暴行犯罪を戒める話をシリーズの中に織り込んだ。

 学校に対しても集団傷害は犯罪であり、騎士団を呼んで捕縛する様注意喚起する様訴えた。


 しかし学校側は事実を隠蔽し、テレビ映画製作者であるリック社長を侮辱する。


「そんな映画を放送するからだ。

 それにこの学校ではそんないじめなど起きていない」

 多くの教師がそう反駁したが。


「いじめ?そんな言葉は知りませんね。存在もしません。


 この学校の中にあるのは、暴行、侮辱、恐喝。

 明確な法律違反、犯罪です。

 子供だろうが大人だろうが騎士団と国法が裁く事件です。


 隠蔽したら、教師も共犯ですよ?」


 リック社長の言葉の前に、すべてが見透かされていると悟った学校側は何も言えず騎士団巡回と悪質な児童への厳重注意を認めるしかなかった。


 こうして学校を少年犯罪の温床にせぬ様施策が打たれた。


******


 交通事故や学校内集団犯罪はさて置く。

 ただリック社長が打った手は、この後の子供を取り巻く環境を手厚く守ったのだったが。


 問題はこの膨大な玩具化。その反応は様々だった。


 子を持つ貴族にとっては全種類買おうとも大した額ではなく、子供の喜ぶ姿に満足した。


 しかし庶民の父親としては「もう勘弁してくれー!」だった。

 全部買おうものなら「酒代我慢して」では済まなくなってしまう。


 子供達は悩みに悩み、選びに選んでほしい物を絞るしかなかった。

 その結果、売れたのは変身ベルト、そして「変身マキノイド1」を1つと幾つかの着せ替えセットだった。


 なんとか庶民の子供達は変身ベルトと簡単で安価な樹脂製ヘルムでエクエスになり切ってごっこ遊びに興じた。


 テレビでは

「高い所から飛び降りるのは危険だ、絶対に真似しないでくれ!」

と注意を重ねた。


******


 多忙な1年も後半に入り、2つの作品は次回作を求められた。


 先ず、先に終わりを迎える「エキスペクラリ」。


 当初は二次元から第二の戦士が来て地球を守る予定であった。

 しかし、鏡面の鎧が売りもののエキスペクラリは、その撮影の難しさから

「別のいい案はないだろうかなあ!」

と、他の手を売りとする様現場が訴えた。


 等身大アクションと巨大英雄の両立はどうかとマッツォ社長。

 やはりライバルの「ペルソネクエス」が気になる様だ。


「じゃあ、地球で平和に暮らす宇宙人の三人が秘密の防衛チームを結成、自動二輪と自動車で敵宇宙人を追跡、先ず等身大の英雄に変身。

 最後に三人が合体して巨大化、巨大化した宇宙人や怪獣と戦う、とか?」

「いいですねえ!それを検討して」


 そしてスプラシリーズは続投。

 4大英雄集結の熱気を引き継ぎ、5人目の英雄が求められ、過去の4人のゲスト出演も頻度を高める方針で進める事となった。


 ちなみに、「ペルソネクエス」は二人のライダーから一度最初の主人公に戻し、二年目に突入する事となった。


 その大人気の一因として、例の変身ベルトと足漕ぎ自転車プロチャリアの人気があったというのだから

「やっぱりお人好しのリックは敵に塩を送るわねえ」

「いやいや、こっちだって儲けさせてもらってるし」

「全くフォルティ・ステラの頃から実に微妙な関係だな!」

「それこそ主あっての縁ではないか!」

「そうだそうだ!はっはっは!」

「「「あははは!」」」


 まさに微妙な、そして微笑ましい関係であった。


 もし楽しんで頂けたら、またご感想等などお聞かせ頂けたら大変な励みとなりますのでよろしくお願いいたします。


 なお、活動報告・近況ノートにてモデルとなった実在の作品についての解説を行っていますので、ご興味をお持ちの方はご参照下さい。

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― 新着の感想 ―
庶民の子が富裕層の子を切実に羨む時代……! さあ偽りの正義に酔いしれた子供の心に芽生えた悪を摘み取れリック!!
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