256.実写活劇「ペルソネクエス」
リック社長が、トリック特技プロが新境地へ挑戦する最中、この後のテレビ映画の歴史を変える試みが、別の場所でも行われていた。
放送開始間近のショーウェイテレビである。
トレート氏は、製作部門の児童映画担当部長からショーウェイテレビ製作部の、児童部門担当局長兼任となっていた。
数々のアニメを世に送り出し、その待遇は役員並みの出世である。
そして今、マンガ家の若者と一緒に新番組「ペルソネクエス」に闘志を燃やしている。
とはいえ、主役の英雄はカッコイイが、敵は上半身だけ被り物、下半身はほぼタイツ、ベルトは悪の軍団の紋章があしらわれたもの。
無論、そんな敵の怪物、もとい怪人だけでは絵面が実に寂しい。
歴史活劇の様に、敵の手下がゾロゾロ出て来て主人公を取り囲む。
それを主人公がバッタバッタとなぎ倒す。
これは様式美だ。しかもショーウェイお得意の殺陣芝居だ。
歴史活劇と違うのは、主人公が剣を持たず、空中を鮮やかに回転したり、高速度撮影で蹴りの構えで敵怪人を蹴り倒し、更に敵怪人が崖の上から転落して、溶けて煙になって消える、という点である。
しかも大見得を切るには切るが、その前に主人公は自動二輪車で疾走し、突如現れたベルトが開き、内蔵されていた風車が回ってその電力で変身するという説明を介しての登場となる。
その出来に、トレート氏は感動していた。
マンガ作者氏のマンガだが、番組に先行して出版された。
それはトリック玩具ではなく、ショーウェイ系列の出版商会から発売され、これを機に多くのファブラ・ピクタ作家がそっちへ移籍した。
トリック玩具は激怒したが。
「結構あなたたちの作品はショーウェイさんでアニメになったから、自然な流れかも知れないね。
でも戻って来たくなったら、違う作風のものが描きたくなったら、いつでも気軽に言ってね」
リック社長は宴会を開いて彼らを送り出した。
巣立った彼らは改めて自分達の不義理に気づき、泣いて詫びた。
そして発表された「ペルソネクエス」を巻頭にした漫画雑誌は売れた。
テレビと連動した企画は「17th世紀」の後追いだが、それでも簡素化され生き生きとした絵柄は子供達に新たな興奮を与えた。
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この事前の評判の盛り上がりに反して、試写の評判はパっとしなかった。
「実写の迫力と言うが、確かに格闘は良かったけど全体的に地味過ぎないか?」
「パっとしないというか、爽快感がないというか」
「怪人が怖すぎるかも知れないな」
「今の王都の裏で起きている暗闘、人知れず戦う英雄を描きたかったんですけどねえ」
トレート氏は残念がった。
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そして関連業者向けの試写に参加したトリック特技プロ御一行。
「これは…結構がんばるねえ」
「二輪自動車っていうのも格好いいな」
「セレナの使者より洗練されている」
しかし番組が終わると
「う~ん。もうちょっと爽快感が欲しかったかな?」
「改造人間ってアイデアも、科学ってゆ~より、怪奇寄り、だしね~」
「トレートさん、怪奇モノにこだわりがあるのかなー?」
「主人公の方、ちょっとかわいそうすぎですね」
「でも、イケメンだわ、グヘヘ」
「妻よ…」
極一部を除き微妙な反応だった。
だが。
「これ、ヒットするかな~?」
「ああ。多分、化ける」
「「「え~???」」」
リック社長は断言する。
「もっと自動二輪車を生かした、二輪アクションを交えた爽快感ある話になる。
逆に変身はもっと単純になる。
ショーウェイさんだからそれ位やるだろうね。
そうなれば…」
「まさかこれで視聴率60%とか」
「50%は行くだろうし、人気が出れば60%も夢じゃない。
そうなるかどうかは、トレートさんたちの頑張り次第だ」
「そうなったら、『騎士道一直線』の二の舞じゃないか!
大予算かけてる俺たち、カタ無しじゃないか」
「でもね。
すぐ新番組を争う間柄になるよ。
それに3局三つ巴になれば、どんなに頑張っても視聴率が最高で3~40%って事になるかも知れない。
放送局が増えればなおの事だ」
リック監督の言い分に、まさかあの安価な作品が自社の特撮作品を脅かすとは思っていなかった一同は驚いた。
「でもね。俺達は!
それでも特撮映像でしか得られない壮大な映像を送り続けるんだ!
悪いけどトレートさんたちには負けてられないんだ!」
「「「おう!!!」」」
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ついにショーウェイテレビ放送開始!
「コノ!ショーウェーが!」
例によって鶏を〆た様な開局宣言を宣う社長。
この日ばかりは王都のどのテレビも4チャンネルを放送し、平日の日中と言うこともあって70%の視聴率を叩き出した。
どこまで人々がテレビを見ていたかは兎に角。
そして。
嘗ての銀幕の人気俳優と、人気演目を惜しげもなく一家くつろぎの時間にぶつけて来た。
「俺は騎士物語を見るんだ!」
「トニトアビス観たいよー!」
「再放送じゃないか!それに俺が買ったテレビだぞ!」
「うわーん!」
親子の仁義なきチャンネル争いが始まった。
そして子供の時間、いよいよ始まったのは「ペルソネクエス」。
自動二輪車、それも流線形の装甲を付け、赤い線を描いた、「カッコイー!」といいたくなる自動二輪車プロチャリア。
それを走らせるのは、黒いスーツに濃紺のヘルムと甲冑、水色のブーツとグローブ。目とマフラーは赤。
主題歌は往年の人気俳優のアクション映画のノリそのまま。
多数の戦闘員と虫の様な怪人の軍団と、エクエスとの殴り合い。
最後、必殺の
「エクエース!カルチトー!」
空中回転の後のキック!
「ギー!!」
怪人が蹴り飛ばされ、泡と消える。
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リック社長の予感は的中した。
先ず、初回の王都での視聴率に限って言えば50%。
王国全土で放送されている訳ではないので、限定的と言えば限定的だが、もしこれが全国放送網を確保すれば大変な成績だ。
予算に比べれば上出来だ。週末の番組としても遜色ない。
しかし
「もうちょっとなんとかすりゃあなあ」
と思ったリック社長はトレート部長を訪ねる。
だが。
「自分で何とかしたいと思います。
あなたの意見は喉から手が出るほど欲しい!
でもそれに縋っちゃ、先がないんです!」
トレート部長は恐らくリック社長が正解を知っていると理解している。
それでも、自力でなんとかすべきだ、そう耐えていた。
リック社長は黙って退席した。
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そして。
まさかの主人公が怪我で入院!
替わって、当初主役候補だった活劇俳優が王立秘密騎士として準主役となった。
肝心のペルソネクエスは常に変身後の姿で大立ち回りを演じた。
自動二輪同士のアクションも増えていく。
怪人の手下、「戦闘員」が自動二輪で襲い掛かると、愛車プロチャリアでペルソネクエスが駆け付け、敵の自動二輪を蹴散らす!
怪人も泡になって消えるのではなく、崖から蹴り落とされて大爆発!
更に、新しいペルソネクエスが登場した!
ペルソネクエス2号!
「2号って…」「ねえ…」
「お見せしよう!変身!」
自動2輪に乗るでもなく、両腕を振り回し、突如現れたベルトが回転、虹色の光を放ち、ペルソネクエス2号が登場した!
体の側面に、銀色の線が入っている。
「それで2号か…」
「うわ!」「力技だ…」
そして大格闘の末に、
「エクエース!カルチトー(蹴り)!」
「ギー!!」
敵に蹴りを入れ、敵怪人は崖から落ちて大爆発!
「う~ん。これってさ、洗練されてきてないかな~?」
「されてるよねー」
「歴史活劇のノリに遥かに近いな。
変身が鎧を身にまとい、プロチャリアが愛馬、蹴りが必殺の一刀だ」
「ショーウェイの得意分野そのままって訳ねえ」
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結論から言えば、この主役俳優氏の大怪我が「ペルソネクエス」の人気の起爆剤となってしまった。
実は当初、主人公が死んで新主人公、という話にしようという話が持ち上がったのだが。
トレート部長が断固拒否した。
「無敵の英雄こそ子供の憧れです!
簡単に死んでしまったら何の憧れですか!?」
なので主人公は海外の悪の組織を追って旅立ち、新主人公が2号として登場する事になった。
彼は、いや主人公を演じる俳優は
「あくまで同僚である主演が復帰するまでの助っ人」として出演した。
そして、自動二輪車に乗れなかった。
その苦肉の策が、あの変身ポーズだ。
だがこれが子供に刺さった。
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何かが吹っ切れた様に、陽気な主人公と陰鬱さを吹き飛ばした様な作風で「ペルソネクエス」は視聴率が60%に迫ろうとしていた。
再びトレート氏を訪れたリック社長。
「念のためですが、子供達に高い所から飛び降りたり、マフラーを付けて暴れるのはやめましょう、って但し書きしましょう」
「はい!」
今度はリック社長の助言をそのまま受け入れたトレート部長。
その後アクションを伴う子供向け番組には、注意喚起が義務付けられた。
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「へんーしん!とー!」「とー!」
ヨーホーの総本山、クラン撮影所近くの住宅街でも子供達の声が聞こえる。
「考える事はここでも異世界でも同じなんだねえ」
特美の造形物をガタゴトと電車で運びつつ、リック社長はニコニコとエクエスごっこをする子供達を見ていた。
「エキスペクラリ」「帰って来たスプラルジェント」の巨大英雄二作に続き、「ペルソネクエス」。
子供達は夢中になった。
しかし収益の面では、圧倒的に低予算のショーウェイの勝ちだった。
「騎士道一直線」の後続の「警備くん」も人気だ。
トレート氏は他のマンガ作家に変身英雄作品の原作を募っている。
「リックさん、あなた随分強敵を育てちゃいましたねえ」
セシリア社長が苦言を呈する。
しかしリック社長は涼しい顔で答えた。
「数年の差ですよ、俺が黙っていても。
彼らを相手にしないと決断したのはヨーホーでしたしねえ。
でも、今の方が楽しいし、子供たちだってそうでしょう?」
相変わらず、自社の利益そっちのけで、業界全体の発展に目を向けるリック社長。
セシリア社長はため息を吐きながらも、少し笑ってしまった。




