25.俺はこの世の終わりを見た!
リック少年から凶悪な殺戮魔法、極大魔法の存在を指摘された数日後。
キリエリア王国はそれが既に実在したという事実を知った。
「テラニエ帝国西端の岬が消滅。その1日前に雲にも届く高い…キノコの様な爆炎が昇ったとの証言を付近住民から確認しました」
「帝国の住民達は無事か?」
「脱毛した者が不自然に多かったそうです」
「報告した間諜は?」
「継続して情報収集を命じていますが…」
国王は考えた。使命に命を懸けた間諜から正確な情報を得るべきか…
その時、リック少年の笑顔が脳裏に浮かんだという。
「すぐ帰国させよ!そしてリック君の下へ!」
そしてもうしばらく考え、命じた。
「帝国に対し、岬で大爆発を確認した、被災者を救助したいと申し出よ!」
「畏れながら陛下!
それは極大魔法の存在を我らが知っている事を帝国に漏らすことになりませんか?」
「構わん!」
国王は即答した。
「むしろ公言すべきではなかろうか?
帝国が愚かにも、世界を破滅させんとする魔法を生み出した事を!」
カンゲース国王は言葉をかみしめる様に、臣下に問う様に話した。
「我が国に出来る事は、それを諫め、使わせぬ事!
そして英雄リックが書いた、ドラゴン映画に託した未来の地獄絵図。
凶悪な放射線から一人でも多くの命を救う事ではないか?」
誰もがその時、理解した。
「我が戦友にして恩人たる英雄、リックであれば躊躇うことなく救済を訴えたであろう」
王がそう考えていたことを。
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国王の意向に従うべく外務卿、陸海軍卿は相談した。
外交上の不利を防ぐため友好国に情報を連携しての通告も検討されたが
「放射線障害は放置すれば命を奪う。
外交上、戦略上もっとうまいやり方はあろうが、それよりもっと大事な事があるのだ。
我らが恩人、リック少年の願いは人命救助だ。尊重しよう」
「彼のお人好しは、只の優しさではないからなあ…」
最後に締めた陸軍卿は、魔王軍との戦いに於けるリック少年の活躍を知っていた。
戦いよりも命を救う事によって戦いを終わらせたその功績も。
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爆心付近から引き上げた間諜は王都病院へ。既に脱毛や視力低下、下血といった放射線障害が現れていた。
リック少年が招かれ治療が行われたが、
「放射線は人間の新陳代謝を破壊するんです。
気の長い治療になります。辛い日が続きます。でも、救います!」
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日々人の姿を失わんばかりの患者の姿は「付近で操業した漁夫」として紹介され、その恐るべき病状が印刷によって王国に伝わった。
そして王国は帝国へ、牽制、助言を含んだ支援を訴えた。
だが、帝国はそれを断った。
「ふざけんな!」
激怒したリック少年は夜陰に乗じて被災地付近に侵入、放射線障害に苦しむ付近住民に治療を始めた。
爆心地周囲数kmに立ち行ってしまった被曝者の数、約百人。少ないとみるか、多いと見るか。
しかし、原因不明の体調不良や脱力、更に脱毛、歯ぐきからの出血、斑点に言い知れぬ恐怖を抱いた人達にとってリック少年の治癒はまさに福音だった。
彼は汚染地域への立ち入りを禁じ、放射線によって失われたされた被曝者の新陳代謝をチート魔法で蘇らせ、症状の緩和を行った。
更に無事だった人々にもリック少年は断言した。
「放射性物質は半月後にはこの村を覆います。
そうなれば皆さんもこの人と同じ症状に悩まされ、治療しなければ死にます」
こうして爆心周辺の農民が
「帝国は何も教えてくれなんだ!
ワシらは坊ちゃんを信じるよ!」
と亡命を希望した。総数千人程度。
彼らは被曝者の回復が見られた翌週に、帝国南岸から内海を経て故郷を捨て、王国海軍に救助された。
国王直々に庇護を約束される事になり、亡命者は恐縮した。
何があったのかを延べよ、と促された被曝者は恐る恐る語った。
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被曝した狩人曰く。
帝国の役人に徴発され、周囲に村も無い荒野、岬の高台を案内させられた。
そこに、高貴な服を纏った勇者ツヨイダ・カッターとその従属の聖女や魔導士、そして多くの魔導士と大きな荷物が現れたそうだ。
「転移魔法か。高位魔法を使うとは、結構な規模の実験だったのじゃろうな」
と分析する魔導士協会長。
そこで彼は銀貨を受け取り追い出されたそうだ。
そして、荷物に向けて聖女が魔法を放った。
そのまま暫く何も起きず、しびれを切らした勇者ツヨイダが魔法を放ったそうだ。
慌てた魔導士達は転移魔法で消えた。
彼は既に勇者一行から1kmは離れていたが、遠くからこの慌てた様を見て危機を察し、とっさに崖から海に飛び込んだ。
そして全身が焼ける様な熱を感じて、何とか陸にはい出したそうだ。
「気が付けば、岬が…消えて。
うんにゃ、溶けて消え去ってたんだ!
ゴツゴツした岩が、雪解けの頃の雪みたいに解けてたんだよ!
真っ赤に焼けてなあ!」
リック少年が作った車椅子に座り、火傷を包帯で覆い、すっかり脱毛した狩人が興奮気味に語る。
「俺が飛び込んだ崖の上あたりは獣が黒焦げになって死んどった。
そっから2kmは獣の死骸だらけさ。口や目や尻から血を垂らして死んどった!
岩山もでけぇ木々もふき飛んどった。
あの魔法…魔法か?あれが村や町で使われとったらどうなるよ!」
恐ろしい思い出を、勇気を奮って語ってくれた一介の猟師を、セワーシャが手を取って宥めた。
聞いていた国王以下重鎮も、その惨状を想像した。
リックのドラゴン映画の台本を読んでいた国王達は、そこに描かれた惨状を思い出し戦慄した。
「いんにゃ、俺も死んどった獣みたく死ぬんか、覚悟したよ。
あれは、この世の地獄、お終いだ。
俺はこの世の終わりを見たんだ!」
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この衝撃的な会見は忽ち王国を、周辺国を席捲した。
何しろ直径で最低1km、この大陸の多くの都を一瞬で焼き尽くし、2kmを死体の巷と化し、その爆心地に至っては岩をも溶かす高熱を放つという恐るべき魔法だ。
こんなものがポンポン使われたら、狩人の言った「この世の終わり」がまさに来てしまう。
キリエリア始め数カ国の王がテラニエ帝国に迫った。
事実の公表、責任者の処刑。
しかし、またも帝国はダンマリを決め込んだ。
「最早帝国は同じ人の国とは認められぬ。
一切の協力も援助も行わぬ。
この事件に関わったモノホーリ派も異端と認定されるであろう!」
国王の啖呵も、使者から皇帝に伝わったのかも明らかではない。
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「恐らくだけど、当分は使えないだろうね。あの魔法」
リック少年は、飛行機の模型を作りつつノンビリと答えた。
「核分裂にはウラニウムやプルトニウムみたいな放射性物質が必要だよ。
でも、あの実験は帝国に伝わる『呪いの魔石』と呼ばれた、ウラニウムを使い切ってしまったんだ。
その魔石をもう一度集めて来ないと、あの爆発は再現できない。
してもらっちゃ困るけどね」
リック少年はこの事件について言った。
「多分あのマヌケな勇者が色々ズッコケ続けて、起死回生を狙って極大魔法を造ろうとしたんだろうね。
で、アホ勇者が短気を起こして実験を失敗させた、と。
ある意味、最悪の大成功を起こしたのかもしれないけど。
この世界最初の、核爆発って言う、最悪の大成功を」
その後彼は勇者抹殺を決意した。
しかし、それは愛する婚約者アイラによって押しとどめられた。
「あの時のリックさんは、とても怖かった。
何より、憎しみに飲まれてしまって、リックさんじゃなくなったみたいで、戻って来て欲しかったんです」
とアイラ夫人は語った。
彼女の判断は、短期的には間違っていたのかも知れない。
この後に起きる厄災を許してしまった一因と言えなくもないからである。
しかし、中長期的には正しかった。
何より、人として正しかった。
英雄リックの心を守った事、人としての優しい心を守った事こそ、何より一番正しい判断だったのだ。
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「テラニエ帝国西端岬、極大魔法で消滅!」
「呪われた魔石を異世界の勇者ツヨイダが爆破、被害者数百人!」
「恐るべき放射線、人体を中から腐らせる恐怖!」
活字は躍った。
「王国は帝国に対抗できるのか?」
「もし王国と帝国が極大魔法で戦ったら、生き残れる人なんているのか?」
「他の国に極大魔法が広まったら、世界の破滅だ!」
「戦争しなくても放射線ってのが流れてきたら死ぬのか?」
民衆の不安に、王は映画を通して直接語った。
「極大魔法には『呪われた魔石』という呪具が必要で、それを帝国は使い果たした。
今、その呪具は見つかっていない。その間は大丈夫だ。
そしてキリエリアは大陸各国と協力してテラニエに使用禁止、関係者の処罰を命じている。
民よ、安心して欲しい。
我がキリエリアは無差別に人を焼き殺す悪辣な業を決して許さない!
許さない力がある!人を愛する心もある!
忘れないでほしい。
王も、貴族も、そして魔王軍との戦いを収めた英雄達も、民の心と共に在る!」
そう王座から呼びかける王の前に、アックス、セワーシャ、デシアス、アイディー。
そしてリック、アイラ。
復興事業や映画を通して顔が知られた面子が揃って映った。
この5分の映画は、劇場無料開放の日として、リック監督の二作品を始め過去に人気があった演劇中継映画、最近作られだした映画(演劇中継と区別するため「新映画」と呼ばれた)と共に繰り返し上映され、民心は落ち着いた。
他国でもこの映像に、各国王家が
「我が国はキリエリアの王と英雄に賛同する!」
と宣言するフィルムが追加されて上映され、周辺国の動揺は収まった。
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「リック監督。あなたの言う怪獣…ドラゴンの映画に出資します。
予算の見積もりと広報活動案を提出し、速やかに撮影準備を開始願います。
但し、今後どうなるか、今は先行きがちょっと怪しいわね」
セシリア社長はリック監督に命じた。
「わかりました。準備を進めます。
でも、こんな形ではなく、あくまで荒唐無稽な夢物語として実現したかったですよ」
「それは、この映画を見るでしょう皆も同じですよ」
娯楽映画と啓蒙映画の中間に立つような、世にも荒唐無稽なドラゴン映画の製作が、「ほぼ」決まった。




