表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/204

21.神殿奉納大試写会?!

 ヨーホー本社の試写会場、関係者限定の試写会。

 エンドマークが消えた場内は、幾度目かの興奮に震えた。

「これは神に捧げるべき作品です!!」

 パクス枢機卿が感激しつつ作品を讃えた。


 神に捧げる。即ち神殿で上映会だ。

 関係者一同もこの出来に自信を持っていたのか、この決定を喝采をもって迎えた。


「これほどの素晴らしい作品であれば、大聖堂で奉納の試写会を行って、王都内の高位貴族全員に見せても…

 いえ、庶民を招いて見せても、見た者は何度も来たがるでしょう。

 最大の宣伝効果ですわ」


 セシリア社長は絶対の自信を得た。


******


「神殿で映画の完成試写」という前代未聞の噂に、前作「キリエリア沖海戦」を知っている他国の神官たちは、キリエリアの神殿に「俺も行っていい?」と打診した。


 結構な人数になったので、いっそ総本山に報告し「数カ国共同で試写と祈祷を行いたい」と打診しては、という話に膨れ上がってしまった。


 総本山から「俺も行っていい?」と更に話が膨らみ、王都レイソンの大神殿に総本山始め諸国の神官たちが集まるというドエラい話になってしまった。


「ドエラい話になったねえ」


 とセシリア社長に呼び出されたリック監督。

「そこで、もう一声なんか特別な事出来ないかしら?」

「何言ってんですか、ここで新しい事やって失敗したら、大陸の神官たちに大ヒンシュク買いますよ?!」

 リック監督は真っ赤になって反論したが。


「失敗したら、って事は。もう何か考えがあるんじゃないかしら?」

「ぐぬぬ」

 流石公爵夫人、何枚も上手である。


「二つ。

 一つは音楽の無い、俳優のセリフと効果音だけのフィルムを上映し、音楽は生演奏。

 もう一つは、立体音響、つまりフィルムに左右二つの音声を記録させ左右から流し、更に重低音だけ強調した音を機械が正面から流す。

 2.1チャンネルとでも言いますか」


「後者は出来るの?」

「え~…まだ実験中ていうか…」

「やりましゅ!」

 一緒に来た英雄チームからアイディーが噛みつつも宣言した。


「こっこっこれがうまく言ったら、リックきゅんがもっとみんなに認められる!

 あたしガンバる!超ガンバる!!」

 興奮したアイディーがリック監督にしがみ付いた!


「お願いね!これが上手く行ったらヨーホー映画の未来に更なる可能性が開けるわ!」

 セシリア社長もしがみ付…こうとして自重した。

「トホホ、機材だけじゃなくて、効果音と音楽の編集もやり直しだよ…」


「私も手伝いますよ」

 途方に暮れるリック監督に、アイラが寄り添った。

「モテモテねえ」「「ホント」」

 セワーシャ、アックスとデシアスがハモった。


******


 リック監督は前世の知識とチートな魔力をフル活用し、何とかステレオ録音技術、再生技術を実現可能なレベルに設計し、アイディーとアイラがこれを機械として完成させた。


 並行して音声の編集はリック監督が鍛えた録音技師達と一緒に挑み、この世界初のステレオ音声映画が完成したのだった。


 リック監督は先ず試写を大聖堂で行った。もう3度くらい試写を見たミゼレ祭司も立ち会い、左右から迫る音に感激し「神の御技だ!」と感動した。


 セシリア社長も僅かな日数で新たな衝撃を生み出したリック監督と英雄チームに心の底から感謝した。


 同時に

「この子達は絶対に逃がさないわよ!!」

 と心に誓ったのであった。


******


 その日。

 王都レイソンは物凄い騒ぎだった。


 何しろ大陸最高の権威であるゼネシス教の総本山から高位神官が、そして各国からも高位神官が集まったのだ。


 王都の神殿は客人の宿舎を確保するのに必死になり、思わぬ客人軍団の来訪に王都の宿泊業は大いに沸いた。

 護衛の兵なども王都に溢れ、商機を逃してなるものかと様々な商店がで店を開き、正にお祭り騒ぎとなった。


 国王の指示で王都騎士団が街中に派遣され治安維持に目を光らせた。


 まさに春の祭りと豊穣の祭り、年末の祭りが一緒に来た以上の騒ぎだ。


 その中心となるのが大神殿での、映画「聖典」の試写である。


「前回も軍を巻き込んでエラい事になったけど、それどころの騒ぎじゃないよこれ」

「それもリックさんのお力ですよ」


 ヨーホー本社から狂宴のるつぼとなった王都を眺めて慌てるリック監督と、事も無げに宥めるアイラ嬢。女は強い。


「いやいやいやいや、ここここんんな騒ぎアタシ知らないからもう!」

 一応神殿関係者である聖女セワーシャは生きた心地がしない様だ。


「さぁて、神殿に向かうか!リック監督様のお出ましだぜ!」

 アックスの号令でヨーホー社御一行は大神殿へ向かった。

 そして、総本山の神官より先に大神殿に迎えられたのだ。


 更に国王一家までもが総本山の高位神官を迎える為列席したのだった!


******


 試写は神事に組み込まれた。

 聖典の朗読の代りに試写が行われる算段となった。


 そして、何度か鑑賞した者はもとより、初めて観た者も、世の始まりの映像に、男女の創造に驚愕した。


 聖典の朗読ではなく、映像による世界の始まりに、全ての観衆が包まれた。

 そして第二のクライマックス、傲慢なる都の崩壊と大預言者の率いる民の旅立ち。

 音楽が、轟音が左右から迫る!特に重い音が聖堂内に響き渡った!


 参列した信徒の中には倒れそうになる者まで出た。


 そして、聖典の文言を古語で歌う合唱と共に、映画は幕を閉じた。


 広大な神殿が沈黙した。

 誰も音を立てなかった。

 中にはすすり泣く音がかすかに聞こえた。


 総本山の大祭司が拍手を上げた。

 皆が一斉に続き、大神殿は拍手喝采に揺れた!

 拍手はいつ止むか解らないくらい続いた。


******


 大祭司の制止に続き説話が行われ、皆が礼拝を続け、閉祭の時に大祭司が例外的に声を上げた。

「聖典の世界を我らの目の前に蘇らせた方々を祝福します。

 この素晴らしい企画を送り出したヨーホー社長セシリア・ザナク公爵夫人」

 社長が立ち上がると、堂内に拍手が沸いた。


「壮大な賛歌を作曲されたユピトル・エクリス師。

 罪を負いつつ人の受難と信仰の歴史を演じた、

 英雄アックス・ショーン。

 聖女セワーシャ・カイガー。

 名優ゲオエテ・アニマ。

 暴れ馬マイト・スオード」


 皆が起立し、拍手を浴びた。

 マイちゃんだけ笑いに包まれ、少しズっこけつつ祝福に応じた。


「この映画に携わった全ての技師と俳優。

 そして魔王との戦争を終わらせ大陸に平和を齎し、今この世に映画で奇跡を示した英雄、リック・トリック監督と、彼を支えた魔導士アイラ・トリック、アイディー・ハットルに神の祝福があらん事を!」

 リック達、そして映画の全スタッフ、キャストが立ち上がり、万雷の拍手を受けて礼拝は終わった。


******


 その後の祝宴は王宮で行われた。


 宴席には製作発表時同様、ミニチュアや作画合成素材が展示され、更には立体音響システムまで展示された。

 この祝宴のためエクリス師は映画の主題を編集したサロン音楽まで用意した。


 英雄チームは戦友でもある国王には緊張しなかったが、流石に総本山の大祭司への挨拶は緊張した。


「貴方達初めの男女は美しく、そして神の愛を失った時の演技も素晴らしかった」

「あれは、リックが故郷に帰ってしまった時を思い出したんです」

「私は討伐隊に選ばれなかったらどうしようと不安だった時を思い出して演技しました」

「ははは!魔王と戦いを終わらせたときよりも緊張した時があったのですね!

 きっと皆様の未来を神は導いて下さいましょう」

「「ははーっ!!」」


 そしてリック達は。

「今まで聖典を描いた演劇は数多くありましたが、あの映像の迫力は素晴らしい。

 あなたはこの後、どんな映画を撮影するのでしょうか?」


 この瞬間、宴席の一同は沈黙し、リックの発言を待った。


「私は、この王都を、名所旧跡を蹂躙するドラゴンの映画を撮影したく準備しています。

 他にも飛行機や鉄道、自走する鉄の車が活躍する未来の物語もです」


 一同が呆気にとられた。

 いやそこは更なる神の奇跡を描く、とかリップサービスしろよとセシリア社長は無念に思った。


「お…私は特殊撮影の面白さ、素晴らしさを、これから平和な世の中を迎える皆さんに楽しんでほしいのです。


 宗教、歴史だけでなく、空想。

 星空を旅する飛行機、空飛ぶ船の物語。

 それらのいくつかは実現し暮らしを豊かにするかも知れない、そんな映像を作り続けたいと思います」


「ははは!素晴らしい!監督の夢と未来を神が祝福するでしょう!」

 心の底からそう思ったか、場を治めるためだったかは知らぬまま、大祭司の言葉に人々は拍手を贈った。


 後年、大祭司は

「あの少年の言葉に、神のお示しになる未来を感じた。

 祝福されたのは我らの方だったのかも知れん」

 そう語った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ