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202/207

202.内乱平定

 新国王カンゲース6世陛下は生きていた。そして帰って来る。


 ルラギッタン公爵の国王代理僭称、第二王子の新国王僭称、そして重税、経済失速、軍の脱出。


 王城を占拠した反乱貴族達を諫めるべく、戻って来た軍とともに王都を包囲する貴族子弟の軍勢に、人々は騒動の終わりを期待していた。

 その上での帰還宣言。


「国王より王城占拠部隊へ勧告する。

 直ちに王城を退去せよ。

 余は戦乱も、処罰をも望まぬ。

 一刻も早く王国に平和を取り戻し、経済不安を消し去るべく努めんと思う。

 直ちに王城を退去せよ!」


 テレビ・ラジオから国王陛下自らの声で退去勧告が繰り返される。

 国境ではリック社長が線路を復旧させ、早くも英雄チームが路線の警備に当たり破壊工作員を排除している。


 アイラ夫人、ミーヒャー夫人と子供達、そしてセシリア社長は未だマギカ・テラの温泉地に留まっている。


 王都に入った反乱貴族の子女も訴える。

「私達は、私達の心の中にある正義に従う。

 あなたが捨てろと言った、子供のころに火が付いた正義の心に!」


「お父様!貴方は欲に負け国を売ったの!だがそれも終わりです!

 無駄な抵抗を止め、裁きを受けて!」


 既に軍港には海軍が戻ってきており、戦車隊も鉄道で王都に向かっている。

 王城の上には空軍の飛行機部隊が投降を呼びかけるビラを撒いている。


「こりゃあ、勝ち目ないな」

「投降すっか」

「俺達賊軍になっちまったしな」


 剣も鎧も詰め所に戻し、場内の騎士団が続々投降した。

 入れ替わりに貴族子女軍が、空挺隊が城内に行進して来た。


 第一放送局は放送車を派遣し、逃げ延びたヨーホー映画のスタッフたちもカメラとフィルムを自動車に積んで状況を撮影した。


「直ちに投降せよ!国王陛下は処罰を望んではおらぬ!

 大人しく投降せよ!」


 空挺隊は後続部隊に連絡し、王城内にも落下傘が次々と降下する。


「只今レイソン駅にカンゲース6世陛下とマキウリア女王陛下が到着されました。

 王城の制圧を確認次第、ご帰還遊ばされます」

 放送局のアナウンスが王都に響いた。


******


「負けだ。いや、国王の暗殺に失敗した時点で、我らは茶番を繰り返していただけなのだ!」

「誰だ!必ず成功するなどと言ったホラ吹きは!」

 国王の間は狼狽える者、仲間を罵る者などが右往左往して醜悪の一語に尽きた。


「では予定通りテラニエに向かって脱出しましょう」

 モノホーリー派の祭司がオンドゥル2世、いや第二王子に囁く。

「いや。

 所詮、余は兄には勝てなかった。

 もう終わりだ」


 その時、空挺隊が突入した。


「抵抗する者は射殺する!直ちに武器を捨て床に伏せろ!」

「「「ひいい!」」」

「「「お助けを~!!!」」」

 情けないことに抵抗する者は皆無だった。


「父上!」

「お父様、なんとも情けなや!」

 続いて突入した貴族子弟達は、今まで威張って来た親の無様な姿を嘆くばかりであった。


「第二王子殿下を逮捕せよ!」


 兵が突入するが。


「愚か者ども!これを見よ!」

 第二王子に脱出を促していた神官が銀色の箱を指し示した。


「これに発動の魔法を放てば!

 王都は地上から消え失せるぞ!

 そして10年は人の住めぬ呪いの地となるのだ!」


「…極大魔法?!」

「ウラニウムだ!あの箱を開けただけで城は放射線に汚染されるぞ!」

「南方で発見された鉱脈から盗んで来たのね?!」


 貴族子弟、流石特撮作品好きだけあって極大魔法に詳しい。


「始祖モノホーリー様に背いた報いを受けるがよい!はーっはっは!」


 その瞬間!

 国王の間は激しい光に包まれた!


******


 一同が再び目を開くと、目の前に身長10mのスプラルジェントが、銀の箱を掌に載せていた。


「スプラルジェントだ!」

「本当にいたのね!」

「いや…いる訳ないだろ」

「これ~、リック社長の魔法よねえ」


 その姿に興奮するもの、驚くばかりのもの、そして、何か悟りを開いたかのような目をする者。

 色々であった。


「あ~あ」

「趣味に走り過ぎよねえ」

「だが主らしい」

「これ、フィルムに写ればいいのにねえ~」

 駆け付けた英雄チームも、ドッチラケであった。


「賊を捕まえるぞ!」

 腰を抜かしていた異端の祭司も、玉座で固まっていた第二王子も、全員逮捕された。


「ヘヤッ!!」


 スプラルジェントは天井をすり抜け大空へ飛びあがり、遥か上空へ飛び去った。

「あー!スプラルジェントだー!」

「本当だ!」「本物だー!」

 城外へ避難していた子供達が、王城から飛び立つスプラルジェントを見た。


「きっと悪い奴等をやっつけてくれたんだ!」

「凄いぞ!」「本当にいたんだ!」


 子供達が見上げる遥か遠くの先で、閃光と、僅かな轟音が聞えた。


******


 空挺隊はそのまま城内の敵勢力の逮捕を行い、貴族子女と手勢は城外で国王の入城を待機。


 陸軍が整列して、ようやく国王陛下の馬車はレイソン王城へ帰還した。


「直ちに流通を再開する。

 愚かしい増税を撤廃し、超過分は全て農村へ戻す様命じる!」


 こうして1ケ月も続くことも無かった偽王騒動は治まった。

 しかし僅か数週間の経済封鎖、重税聴衆であっても、社会に重大な不安を撒き散らし、悪化しつつあった経済状況に大きな痛手を与えるのに充分だった。


******


 国王は帰還し、王城の秩序、軍や騎士団への統制の回復がテレビ、ラジオを通して宣言された。


 同時に逆賊に与していた新聞社は騎士団の突入を受け逮捕され、新聞は廃刊となった。


 城外に避難していた王国民も我が家へと戻り、三日もすると混乱は一息ついた。

 市場に商品が出回り、その価格は騎士団によって暴利を貪る以前に抑えられ、引き続き高値で売ろうとする商会は直ちに逮捕され、商売敵がその穴を埋め、再び信頼を回復するまで長い時間を要する事になった。


 帰還の日から5日後、国王陛下の勅命による、事態平定宣言の後は表面的には王国は元の暮らしに戻って行った。


******


 リック社長、英雄チームの家族やセシリア社長はじめ一同は王城を狩の住まいとした。


 前国王陛下のための温泉が、今では新国王陛下や捕縛されていた貴族、英雄チームの憩いの場となった。

 一同、みな疲れていた。

 王家や大臣はマギカ・テラの仮王宮で湯治していた様なものだが、日々変化する事態に一喜一憂し、手も足も出せないもどかしさに精神が疲れ果てていた。


 そのため、リック社長は国王陛下や高齢の大臣、女性陣の心身のケアに走り回った。


 国王陛下や大臣は各国への報告や滞った決済の支払い、国内の飢餓予測地域への手当や物価統制に目まぐるしい日々を迎える事になった。

 ある程度は今までのモヤモヤを解消するためには良かったものの、内容の深刻さに精神を病む危険もあり、リック社長は随時ドクターストップをかけていた。


 トリック特技プロは開店休業状態であった。

 情勢不安定の中、子供を始め娯楽の乏しさを解消すべく、納品中の「スプラ・イントレピド」を独断で放送したスブポンテ編成局長から「続編の再開はなる早で!」と要望が来たものの、スタジオや機材を空間収納から吐き出すヒマさえない。


 しかし、なによりかにより、国政の安定あって、社会の安定あっての特撮映画だ。

 リック社長は国王陛下や大臣たちの心身の安定、更には閉鎖された病院の再開に走り回った。


 時々チートを駆使しつつ、反乱鎮圧後半月程度で国の中枢が復旧した。


******


 そろそろ王城を去ろうかという頃に、リック社長はカンゲース6世に呼ばれた。

 一緒に前王の墓前に、己が不始末を報告したいとの事だ。


 事を事前に察知できなかったのは同罪だと、リック社長は同行した。


 必要最低限の護衛の兵の取り巻く中、大神殿の王家陵墓の前に二人は立った。


「いつか余は王を辞する」

「今じゃないですよね」

「少なくとも、お前の開いた学校で学んだ教え子たちが国を支える時代となった時、真の王は彼らに選んでもらいたい」

「民が王を選ぶ、ですか…」


 それはリック社長にとって、一つの選択肢であった。

 理想ではないが、次善の選択肢、民主制。


「この度の事で、王家の血などでは国は治まらぬ。

 骨身に染みて感じた」


 随分と疲れ果てた様な国王陛下だった。

 リック社長は堪らず言った。


「それは違います!

 治める力もあります。

 民が王に感じる、安心感です。信頼です!

 良いお人柄の王であれば、民は王を慕い、国を慕います」


「もうしそうでなければ?」


 明言は避けたが、第二王子の事を言っている様であり、或いは自分を卑下して言っている様だった。


「今回と同じ、民は立ち上がり悪王を排除するでしょう」

「お前がいるうちはよい。

 しかし、そうでなければ、今回だって多くの血が流れても不思議ではなかったのだ、いやそれが普通なのだぞ」


 全くその通りであったので、リック社長は何も言い返さなかった。


「投降した逆賊の子弟たちが言っていた。

 俺達はフォルティ・ステラだ、と。

 まるでお前の教え子みたいじゃないか」

 国王陛下が少し笑った。


 リック社長も苦笑いであった。

「俺だって、異世界の作者たちの記憶から教わったんですよ。

 平和を守れ、誰かのために戦え。

 弱い物を守れ、強い力に怯えるな、その他そりゃもう色々です」


「凄いなその世界は!」


「本当に、自由な言説にあふれています。

 歴史に学んだ成功に失敗、死者への追悼、未来への夢と挫折。

 そんな記憶が頭に流れ込んだ時は、頭が割れそうになって気絶しましたよ、ははは!」


 もう20年近く昔の記憶だった。


「だがな。それが民に伝わり、国を、民を動かしたのだ」


「本当は俺は特撮映画撮りたいだけなんですけどね」


「それでいい。それでいいよ。お前はそれが一番いいんだ。

 これからもずっと好きな事をやってくれ、弟よ」


「そうしますよ、兄さん」


 内乱この方落ち着くことが無かった二人は、この時何か、ようやく落ち着いた様な気がした。

 父が受け入れてくれたのだ、二人はそう思うことにした。

 もし楽しんで頂けたら、またご感想等などお聞かせ頂けたら大変な励みとなりますのでよろしくお願いいたします。


 なお、活動報告・近況ノートにてモデルとなった実在の作品についての解説を行っていますので、ご興味をお持ちの方はご参照下さい。

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― 新着の感想 ―
巨大ヒーローが持ち去って爆発…… 神官が持っていたのはレッドキングの首でしたとさ。 めでたしめでたし!
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