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190.「スプラ・イントレピド」と、王家の悩み

 リック社長は国王陛下の療養と緩和に、激務に悩み苦しむ王太子の治癒に。

 ヨーホー映画では「太平洋の奇跡」仕上げと「プロメテの息子」次回作の企画に。

 自社では「スプラセプト」最終各話のチェック、予算管理の補佐、更に「スプラ・イントレピド」製作第一話の仕上げ、音楽監修にと多忙を極めた。


 出産の近づくミーヒャー夫人のためデシアス監督、セワーシャ夫人には介護を頼み、脚本の監修はアイディー夫人に、予算管理はアイラ夫人に頼んだ。


 何故かテンさん組から助監督や撮影助手、大道具班が軽便鉄道でシュポポとやって来てコンテやデザイン通りに仕上げたり撮影スケジュールを分担したりと手伝ってくれる。


 多忙を極めるリック社長のため、セシリア社長が採算度外視で有志を募って助っ人としてよこしてくれていたのだ。


 思わずリック社長は思った。

「お母さん、ありがとう!」


******


 音楽も局側が手配してくれた。

 最初は「スプラセプト」のカエルム・アスペル師のままでと思った。

 しかし主役のSI号は超音速で空を飛びそのまま海底へ潜り、敵の巨大潜水艦と雷撃戦を展開する。

 もっと尖った、素早い未来兵器だ。


 何故か局側が

「ディーベス・シンセス師なら『スプラ・カピタリウス』で特撮経験もありますし、アニメの『リバイブ・アルテリー』、『未来の騎士』なんかもやってますし、イケるんじゃないですか?」

と推薦したのである。


 ディーベス・シンセス師は少ない楽器編成ながら電子楽器を使い不思議な未来的な空気を醸している。

 何より、図抜けてスピーディーな曲調を生み出す人だ。

 世間での評価は兎に角、『スプラ・カピタリウス』の主題歌はリック社長は大好きだった。

「それだー!!」


 早速シンセス師の内諾を得て、デザイン画、ミニチュアの写真や仕上がっている台本を見てもらい、後はラッシュフィルムが上がったら主題歌を作曲して貰う事とし、主題曲試作の契約料を払った。


******


 遂に撮影開始。先ずは毎回使われるSI号の発進、浮上、飛行シーンだ。

 発進基地は、半円型のドックの巨大な…いや、そこそこの大きさのドックにパースを付け、SI号も強めのパースを付けたミニチュアを作成した。

 更に、時間節約のため脇にある建物は「スプラセプト」、いや「スプラルジェント」でも使用した宇宙開発公社とレイソン電波塔のミニチュアを流用している。


 余りクローズアップされないため印象に残らないが、リック社長の焦りを感じる一同だった。


 地下ドック注水、水深モニターの表示、海底への発進。

 つい先日撮影された「海陸空戦艦」より未来的でスピーディーである。

 向うは近未来とはいえ敗北の軍の古色蒼然さを演出し、こちらは少人数で最大限機械化されたチームなので当然目指す者が違うが、どちらも素晴らしい。


 そして肝入りの浮上、そして飛行シーン。

 本作最大の見せ場である。


 大プール、オープンでの撮影で、5m大のSI号が、クレーンの力で一気に引き上げられる。

 引き揚げられた瞬間、周囲の水から水煙が沸き立つ。


 更に、例の水柱ポンプに空気が送られ、ミニチュアの艦尾ロケット噴射口から凄まじい水柱が吹きあがり、僅かに遅れて主翼前方からも波が飛んで来る。

 プール脇の送風機が水中に舞う水滴を細かく砕く。

 推力が溜った状態でSI号は加速する!


 更にSI号離水の場面、斜め前、そして横から同時に撮影された。


 テストの通り、綺麗な絵が撮れた、筈だ。


 ここで5mのSI号から、艦橋部だけを更に大型に作ったミニチュアに差し替えられ、全体のミニチュアからアップ用の撮影に移る。

 

 先程同様の浮上シーン。洋上で艦橋前部がスライドして垂直飛行機が発進するカット、更には艦尾部だけのアップミニチュアと水柱用ポンプを使った離水エンジン発動シーン。


 ヨーホー映画特技部の協力を得て、これらのシーンは予定通り撮影を終えた。

 艦内の艦載機組立シーンは自社スタジオで撮影されている。

 今後こういう潜水艦や海底基地内のミニチュア場面は増える予定だ。


 ラッシュフィルムの出来は、計算を超えた迫力があった。

 これを編集したものを局内試写し、シンセス師に主題歌の作曲を頼んだところ、それはカッコイイものが出来た。

 異世界の記憶にあるものとは相当違っていたが、それこそ宇宙に飛び出しそうな、かつ力強い大人の合唱曲であった。


 リック社長はアスペル師に

「次は宇宙の話じゃなくて、海と空。

 シンセス師に頼みたい。

 いつかスプラルジェントは帰って来る。その時にまた力をお借りしたい」

と礼を尽くした。

 実際、音楽物語音盤はスプラシリーズ4作ともスゴイ売れ行きを示していた。


 なお、音盤や玩具の好成績を聴く度、

(子供のために働いて身銭切って固い買い物してくれるお父さんお母さん、ありがとう!

 その分教育と医療で大事なお子さんの未来、守りますからね!)

心の中で誓う、律儀なリック社長であった。


******


 撮影を切り上げ、王宮へ赴くリック社長。

 しかし挨拶する相手、ドンデーン王太子は顔色が優れない。

 遺伝の癌は今はまだ兆候も無い。


「思ったより教育、医療への投資が集まらない。

 それどころか、詐欺にあった貴族が領内の教育、医療や鉄道、上下水道の維持に使う税を絞って、最新流行の服や調度品の購入に充てている有様だ」


 リック社長は、そんなヤツ平民に突き落としてしまえ…と思いつつも。

「貴族達の支持あっての王である」

 と反論したカチン姫の、苦悩に満ちた顔が脳裏に浮かぶ。


「加えて、各商会が物価の下落を抑えるために減産している。

 そのため街に齎される食品も生産物も品薄になり、物価が上がっている。

 更に商会が生産を落としているため、働き手の稼ぎが下げられている。


 物価が上がり、実入りが下がる。

 地方では詐欺にあった領主が学校と病院を閉鎖し、飢餓児童も病人も増えている」


 王太子殿下の言葉を聞いて、リック社長は今まで自分がしていた事が否定された虚しさを、ある程度覚悟していたとはいえ、改めて噛み締めた。


「学校と病院を領主から引きはがして、俺が直営とします。

 人の命と未来には代えられません」


 もちろん、王家にはその程度の力はある。

 しかし貴族領にそれを行えば、介入として抗議される。

 無論領主の怠慢と糾弾出来るが、そうなれば内戦となる。


 これらの王家の意向を無視した出資不履行、消極的なサボタージュ(妨害活動)は、内戦の狼煙ともいうべき反逆である。


「せめて、我に父ほどの威厳があれば…」

「威厳、じゃないと思いますよ?」

「何?では、何だ?」


 リック社長の反論に狼狽えるドンデーン王太子。

「貸し借り、じゃないですかね。

 軽い罪は見逃したり、困った時には助けて。

 そうやって地道に信頼を築かれる方だと、俺は思うんですよ。

 俺にだって」


 そもそもリック社長は流民だ。

 魔王軍と言われたテラ・マギカとの和平の功労者ではあるが、それを懐深く迎えてくれた「父」は、カンゲース陛下だ。

 その「父」がいなければ、例え今この地にいたとしても、彼は流民だ。


「先日は、すまなかった」

「え~、何の事か心当たりがないのですが」

「お前を軽々しく『弟』と呼んだことだ。

 俺は、おま…リック殿になにもしていないのだ」


 カンゲース殿下は、己が狭量を恥じた。

 父に倣ってリック社長を「弟」と呼んだが、国王陛下が功労者とは言え流民にそこまで心を開くことは、異常であった。

 もし相手が奸物であったら、敵対国の間諜であったら。


 リック社長の力があれば、自ら今王家を乗っ取る事すら可能だ。

 事実、王家に匹敵する財と影響力を持っている。


 しかし、聞けば王立第二放送局の編成局長と舌戦を繰り広げて次回作の枠を確保したと聞く。

 自分で放送局作らないの?そう聞きたい。

 でもそれを聞いたら。


「俺は特撮をやりたいだけなんで」


 そう彼は答えるだろう。

 そう答える彼、しかしそれを遥かにしのぐ鉄道、産業、技術、教育、衛生。

 それを彼は成し遂げ、無償に近い形でこの国に惜しみなく与えた。


 父もそれにへりくだる事なく、自然に接した。


「我が子になれ!」


 多分そうはならない事を知って、親愛と感謝を表したのだろう。


「いえ、弟と呼ばれて俺は嬉しかったんですよ」

 リック社長の答えを聞いて、王太子は彼に感謝して言った。

「そうだ、そうだよ!お前は、父が絆を結んでくれた、俺の弟だ!」


******


 目の前の、眼をそむけたくなる数字を前に、王太子は決意した。

「いかにしてこの数字と、その裏にある人心を。

 浪費や詐欺と戦わせしめ、堅実かつ形に合わられるのに時間を要する戦いに向かわしめるのか。


 まずは現状分析!

 次いで原因調査!

 そして対策。

 中期として5年、長期として10年。

 無論、王立学院と魔導士協会に協力を仰ぎ、長期気象予報を元に豊作、凶作の予見が可能かどうか。

 都市下水部、工場等に命じ、汚泥処理にかかる費用、影響をどこまで試算できるか。


 父王からの引継ぎを得難き助言として取り組もう!

 それこそが我が一日も早く王位を継ぎ、一日も長く父王に癒しと楽しみの日を捧げる戦い。

 それらはすべてが国の民の長き安らぎ、他国との平和を守ってこその勝利と心得よ!」


「「「応!!!」」」


 この中長期計画は急ピッチで進められた。


 これにリック社長は孤児院を紹介した。

 子供でも読み書き、計算が出来る者は学校の終わった後に計算要員として大人並みの賃金で雇われ、家族の家計を潤しつつ国への奉公も成し遂げた。


 中には書類の改善や定型用紙の印刷を学校で習って進言する子供までいた。

 その恐るべき知能に王宮は教育の力を思い知らされた。


 更に、王立学院から信頼できる者が子供達が整理した数値をMITAC計算機に入力し、人口、消費量、嗜好、他国の生産力、流通限界等を変数として将来の予測を計算させた。

 この辺は、リック社長の口利きあっての動員である。


 結果、思いのほか早く寄せられた結論としては、3年以内は安泰。

 それ以降5年で成長限界が訪れ、キリエリアは減益に向かう。

 現在の開発型成長から、別の成長要因を探し出す必要がある、そう次代の国王に告げたのだ。


 この絶望的に見える数字を前に、ドンデーン王太子は、腹の底で笑った。


「魔王軍と戦うよりは、まだまだマシだよなあ!」


 その通りだった。

 彼にはチートなリック社長を頼らずとも、彼がこの国に、この世界に齎してくれた知恵と勇気がある。


 その時。


(今後もずっと、私達は君達の夢を応援する!

 君達も明日への夢のために努力し、多くの人を幸せにするため学び、自分を鍛えて欲しい!

 どうか、君達の夢を、ずっと大事にしてほしい!)


 王太子殿下の思い出の中から、声がした。


「夢?俺の、夢…」


 思い出の中の声に対して、王太子殿下は即答できなかった。

 もし楽しんで頂けたら、またご感想等などお聞かせ頂けたら大変な励みとなりますのでよろしくお願いいたします。


 なお、活動報告・近況ノートにてモデルとなった実在の作品についての解説を行っていますので、ご興味をお持ちの方はご参照下さい。

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