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189.天駆ける星に込めた想い

 ヨーホー映画とトリック特技プロの二足の草鞋、本人は「二か所で一所懸命」と意味不明な事を言っていたが、「スプラセプト」終盤の撮影、そして新番組「スプラ・イントレピド」のデザインや脚本、パイロットフィルムの準備、更にヨーホー映画「プロメテの息子」第二段の企画が進む。


 怪獣や宇宙を舞台にした前々作、前作と打って変わり、今度は海底と空中が舞台となる。


 本編は秘密捜査モノで、貴族館、古城、遺跡と言った歴史調の場面から。

 一転して王立学院や元トリック系列の工場、計算機室をロケした未来科学の場面。

 更には王都の大宴会場や会員制クラブといった大人の雰囲気漂う世界。


 そして最後は海と空を舞台に万能戦艦SI号と、それを上回る巨大な超兵器が戦う。


 そんな様々な舞台を背景に主人公達スプラ・イントレピドのメンバーが戦う予定である。

「子供には背伸びした世界を、大人には高級感を、そして両方に秘密捜査の緊張と、活劇と特撮合戦の面白さを楽しんでもらう」

 という狙いが、怪獣ブームの次を希望していたスポンサーの願いに合致した。


 当初現代活劇のスターを広く採用する案もあったが、時間や契約の都合でヨーホー映画のスターが起用され、いかにもヨーホー、という大人しい感じに落ち着いてきた。

 但し、スターさん一同から

「スプラシリーズの特殊部隊の制服は恥ずかしいので、もっと現実的なデザインにして欲しい。オレンジ色は恥ずかしい」

との要望が寄せられたのは、リック社長も「そーだよねー」と言いつつ残念がった。

 洋上で漂流する時オレンジ色は目立つので、極めて実用的なのだが。


******


 主役となる海空両様戦艦、SI号のデザインはキューちゃんとリックが仕上げた。

 最初、ゴテゴテした戦艦っぽいデザインだったが、

「音速を超える以上ゴテゴテさせられないね。もっと飛行機っぽく」

と改めた。


 基本線は、高速な軍艦に巨大な翼を付け、艦尾をロケットにしたものだ。


「垂直な線を少なくして、全部傾斜を付けてスピード感のあるデザインにしよう」

「いいね、これに識別用の、スプラアシビター1みたいなラインを」


 結構異世界の記憶に近いものになった。


 巨大な潜水艦であり飛行艇、そして戦艦にして機送艦。

 艦内工場で小型音速艦載機を数秒で組立、発艦させる。

「組立式より、折り畳み式はどうです?」「イイネ!」


 玩具会社から技師が来て、デザイン画から設計図を起こし、小型模型を作る。

 特美の穴を玩具会社に手伝わせ、ついでに玩具の設計も撮影用ミニチュアに近づけようという一石二鳥の案だ。


「艦載機は小型な感じを出すため、翼を短くしよう、機体のラインはスプラシリーズっぽく赤で」

 折り畳みのギミックも考えられ、プラモデルでは再現される予定だ。


 敵、謎の軍隊は特美班助手たちががんばった。

 設定としては、全面銀と黒の縞模様、そこに青いアクセント、そして敵の組織の名、「Ω(オメガ)」が入る。

 抽象的な形、不可思議な形をベースに、近未来兵器的な細かい装飾を施し、全体のラインに沿って縞模様を入れた検討用模型が上がって来る。


「ウギャー!これだよ!こーゆーの見たかったんだー!ウホホホ!」

「リックきゅんが壊れたー!」

「大丈夫ですよ、いつものリックさんよ」

「全くお父さんは」「ぱぱおもしろーい」


(いつもってのどんなんだよ?!)

 社員一同は驚愕した。


 アイディー夫人も会社内の若手のアイデアや過去の有名な秘密捜査活劇映画を元にシナリオを練り上げる。

「あと3ケ月で放送開始だ!局とシナリオ会議済ませて撮影に入るよ!」


 そして、トリック特技プロと自宅を往復しているデシアス監督とすっかりお腹が大きくなったミーヒャー嬢、二人の子も、もうじき生まれて来る。


******


 ある程度新番組の脚本が仕上がると、リック監督とアイディー夫人は南へ飛んだ。

 キリエリア王立宇宙公社の宇宙港である。


 ロケット打ち上げはやはり人々を興奮させる。仕事そっちのけでキリエリアはじめ各国の人々は職場のテレビ、駅前テレビ、学校でも病院でもテレビの前はかじりつき状態。


 最初の人工衛星で気象情報が確認され、試験的に天気予報が行われたが、全く当てにならなかった。

 それでも災害警報が出され、的中率こそ3割ながらも、そのうちの幾度かは準備が功を奏し、多くの人の命を救う事が出来た。

 その有用性は条約各国も疑うことはなかった。


 その後も雨雲の接近情報を電波と電子計算機で検知する「ドップラー衛星」、命名はリック社長が打ち上げられ、的中率を5割まで上げている。


 例によって1回目は日程変更、2回目は発射直前で異常を検知し中止。


 2回の中止は人々をガッカリさせた。

 しかしロケットに失敗や延期はつきもの、そういう認識が既に広まっていた。

 ちなみに、酒場の主人や店員は喜んだ。


 そして「三度目の正直」のことわざの通り、3回目の打ち上げで衛星軌道入りを確認した。

 ロケット打ち上げが成功する度駅前や学校、病院のテレビの前で人々は快哉を上げ、駅前や酒場では大宴会となるのだった。


******


 しかし、今まで人工衛星の本当の成功は、宇宙公社からの発表、あるいは天気予報の開始といった間接的なものでしかなかった。


 今度は違う。

 地球の裏側と僅か数秒の時間差で電波が届く、つまり会話が出来るのだ。


 いよいよ放送実験開始の日。

 地球の裏側と中継でき、視聴率が高い日曜の夜に設定されたため、「スプラセプト」は1週間お預け、その分新番組の準備の時間が稼げる。


 各国の王城、帝城前には大型の電球式カラー受像機が設置され、祝賀の舞踊、行進、演奏が予定され、祝賀会場が用意されている。

 無論、これら人工衛星放送会場には国王や代理人が参加している。


 カンゲース5世陛下は病気を押して、会場の天幕で待機した。


 放送時間が近づき、アナウンサーが声を発した。


「皆様、キリエリアの皆様。


 私達はこれから直接電波通信が不可能だった北のアモルメ王国、そして言葉を交わすため1週間以上の時間を要した地球の反対側、ボウ帝国と、僅か数分を置いての直接の会話が可能となりました。

 この喜ぶべき初の試みを、皆様にお届けいたします」


 管制室は既に各地と電波中継に成功している。 

 後は各国代表の通信会議が成功すれば、この世界は、今まで以上の「情報」という武器を手に入れる事が出来る。


「こちらアモルメ王国放送公社、アモルメ王国放送公社です」

 会場に臨席していた一同は歓声を上げた。


「こちらキリエリア王立第一放送局です。

 世界時間19時01分、アモルメ王国の放送を受信しました」

 アモルメの電波は、卓上に置かれた時計が19時00分を指していた。

 そしてその更に2分後、今後はアモルメ側から歓声が沸き起こった。


 更にその14分後。

「こちらボウ帝国中央放送局です。アモルメ王国からの放送を受信しました」

 卓上の時計は19時07分を示していた。

 そして沸き起こる歓声と拍手。

 なおボウ帝国は時差で朝だった。


「こちらキリエリア。アモルメ王国とは1分差、ボウ帝国とは7分差で通信の受信が可能となった事を確認しました。


 只今私達は、大陸横断鉄道、高速鉄道、飛行機、ラジオ放送に続いて。

 映像と音声で僅か7分差、地球の反対側と僅か7分で繋げる事を可能としたのであります!


 歓喜を叫ぶアナウンスと共に会場は、学校や駅前、役場、そして食堂や酒場は大歓声に包まれた。


 続いてアモルメ、キリエリア、そしてボウの順に音楽の演奏が行われた、時間を空けて。

 豊かな色彩で飾られた舞踊、行進、演奏が行われ、続いてアモルメ王、キリエリア王、そしてガタイ第三皇子が祝辞を述べた。


 この場にも表れなかったボウ皇帝、明らかに世界から顰蹙を買っている。


 そして予算的、技術的な都合で中継に参加できなかった条約加盟各国、それだけではなく大陸横断鉄道の通過地点や支線を介して大通商圏を成している各国の元首からも受信を確認した、成功を祝う、とのラジオ通信が寄せられた。

 これら好意的な元首の映像は、時間差はあったが映像が中継され、世界にその姿が放送された。


 数多くの元首がテレビの向こうに現れるその時を、世界の人々が目にした。

 それは、この世界の歴史の一大変革期の嚆矢となったのだが、それはこの時の人々はまだ自覚がなかった。


******


 祝賀は続いたが、カンゲース陛下は祝辞が終わると、以後の進行をドンデーン王太子に任せ、王宮へ戻った。


 苦痛が続く国王陛下は病状が進む中、

「世界の慶事であり、平和への架け橋となる。

 顔を出さぬわけにはいかぬ」

 と苦痛を押しての挨拶だったのだ。


 リック社長達も会場を後にして鎮痛の魔法で国王陛下を癒した。


「深く、深く感謝します、陛下」


 リック社長は深く頭を下げた。


 窓の外、星空を眺めて陛下は呟かれた。


「我が国は、また一つ星を増やしたのだなあ。

 人々を幸せにする星を」


 それは幾万の星の中では見出す事も出来ない、小さな星だった。


「人が星を生み出した。こんな偉業が他にあるものか。

 お前のお陰だよ。

 我が友、戦友。

 我が子、リックよ」


 リック社長は言葉に詰まった。


「いい加減娘を娶り、宇宙卿として公爵位についてくれ」

「やです」

 嫌な事はキッパリ断るリック社長であった。


「は!ひどいなあ…

 余もそろそろ限界だ。意識が確かなうちに王位を譲る手続きは済ますぞ。

 ドンデーンはよくやっている」


 テレビの向こうでは、王太子が他国に向け自国をアピールしている。


「譲位がお済になった後は、少しでも宴なり旅なり、お楽しみ下さい。

 俺も、お供…します…」

 リック社長は泣いていた。


 人の命には神から決められた長さがある。

 少し抗えても、長くない。

 でも、その抗ったわずかな時間が、人生の最期の時を豊かなものとしてくれる。

 リックはそう信じた。

 そしてその時は、もう半年と少し、日々近づいていた。

 もし楽しんで頂けたら、またご感想等などお聞かせ頂けたら大変な励みとなりますのでよろしくお願いいたします。


 なお、活動報告・近況ノートにてモデルとなった実在の作品についての解説を行っていますので、ご興味をお持ちの方はご参照下さい。

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